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2001年7月掲載

マイクロソフトは電話会社を空洞化するか
−電話通信のOSへの取り込みを策すマイクロソフトの野望−

 6月12日のニューヨーク・タイムズは次ぎのように報じた。

「マイクロソフトは、10月25日発売予定の新OSに高度な電話機能を搭載する。将来は通常の電話では不可能な便利な機能も付加していくとしている。
 パソコンを「賢い」電話機としても利用することはかねてから論議されてきたが、インターネット電話はその通話品質も悪く、通信の遅れ等も欠点とされてきた。しかし、マイクロソフトの新しいソフトは、より質の良い音声ばかりか、これまでの電話にはないパワフルな機能をも提供しようとしている。
 一部のハイテク・エグゼクティブたちは、電話会社がマイクロソフトの次の標的となろうとしているのかと考え始めている。
 マイクロソフトは10月25日発売予定の新OS(基本ソフト)である「Windows XP」に高度電話機能とダイレクトリー機能をもたせようとしている。マイクロソフトが既に提供しているオンライン・ビデオ会議やインターネット音声おしゃべり(チャット)を一層洗練し、これらをPassportというより進んだシステムと一体化して、電話本来の機能すら変革してしまうことまで考えている。」

■マイクロソフトの当面の計画

 「Windows XP」の詳細についてはまだ正式には発表されておらず、ニューヨーク・タイムズが伝える「高度電話機能とダイレクトリー機能」についてもどのようなものかはまだ不明である。
 しかし、OSに次々とブラウザー等の周辺ソフトを統合、一体化してきたマイクロソフトが、いずれは通信機能をも組込むことは識者が早くから予測してきたことである。
 マイクロソフトが近く発売する新しいOSの「Windows XP」に電話機能を組込むことは、マイクロソフトが既にそのOSに無料でブラウザー等の機能を付加してNetscapes等のライバルの事業基盤を掘り崩したのと同様に、電気通信産業に甚大なインパクトをもたらす恐れがある。電話コールがマイクロソフトOSの無料の一機能となってしまえば、電気通信事業者の屋台骨が根本的に揺さぶられることとなろう。

■マイクロソフトの目指すもの

 現在ではまだインターネット電話は、一部その通話品質が通常の電話サービスより劣るといわれ、回線によっては通信の遅れもあり、それが在来の電話会社にとって一つの安心材料となっている。遠い将来はともかく、近未来では経営面でそう慌てて騒ぐには及ぶまいというスタンスをとるものが多い。
 しかし将来は、まちがいなくインターネット電話が今日の一般電話よりも高度な品質をもつようになるばかりでなく、通信をする以前に相手方がデスクトップ・コンピュータに座っているかどうかも分かるようにしたり,不在の場合には会社、自宅、携帯電話等に追跡するなどの、これまでの電話サービスにはなかった高度機能ももつようになろう。ゲイツ会長が好むアイディアは、レストランをダイアルすれば、そこのメニューがポップアップしてくる機能であるとされている。
 そのような良質で付加価値のついたサービスが提供されるようになり、しかもOSの一部として組込まれる事態となれば、電話会社にとって容易ならざるライバルとなりうることは自明であろう。電話会社の顧客として残るのは、パソコンを操作できない実年、熟年層の家庭だけという極端な事態もまったく夢ではくなるかもしれない。
 また、インターネット電話は、マイクロソフトが最近、伝統的な電気通信事業者の向こうをはってスタートし始めているボイスメールなど遠く及ばない、新たな収入源をマイクロソフトに産み出す可能性がある。 マイクロソフトが新たな収益基盤としても通信事業に強い関心をもっていることは、これまでの買収、提携の足跡からも周知の事実であろう。マイクロソフトの高度戦略担当の上席副社長は、「われわれがネットワーク・キャリアとなることは、まずあるまい。しかし、新しい電話立脚のサービスから新たな収入源を見出すべく努力はしている。それは加入ベースのサービスとなるかもしれない。」といっているという。
 これが実現されれば、総体の通信量が増加することでパイが大きくなる余地はあるにせよ、既存の電気通信事業者から収益を大きく簒奪することとなるのではないか。

■独禁法訴訟の行方

 マイクロソフトは周知のように米国で現在独禁法訴訟で係争中である。一審では、政府側勝訴のマイクロソフトの独禁法違反判決が出され、基本ソフト事業部門とブラウザー等のその他の事業部門への二分割の命令が出されているが、二審で審理中である。
 通信機能までOSに一体化するのは、こうした最近のマイクロソフト不利の情勢にさらに油を注ぎマイナスとなるのではないかという見方も出ている。しかし、ゲーツ会長は「いろいろなソフトを一体化することは利用者の利便の向上につながる。これがどうして独禁法違反となるのか理解に苦しむ。」とし、依然強気を崩さない。
 折から、政府が民主党から共和党に代わり、独禁法には消極的な政権になり、近く和解に移行するのではないかとの観測も出されている。
 マイクロソフトの通信事業への進出については、元FCC委員長のハント氏は、「丁度、地震の予測と同じことで、統計的にはそれが起ることは間違いないが、ただ、それが何時起こるかが論争になるだけだ。」といっている。日本でのインターネットは、米国のパソコン中心に対し、携帯電話中心で事情が違うなどの差異はあるにせよ、マイクロソフトの動きに対し、通信事業者も本腰をいれた対処を早急に立ち上げる時機にきているのではないだろうか。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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