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2003年2月掲載

米国の競争政策、大幅な見直しの胎動
−既存事業者から借りた設備での競争参入を制限か−

 1996年電気通信法の施行から7年。競争の増進を主眼とした同法だが、その後のインターネットの飛躍的発展、広帯域高度通信のビルドアップなど、市場の展開やテクノロジーの進展で、法律制定時には予想もできなかった環境が出現しつつある。情報通信産業では7年はもう立派な一昔なのでる。

 独立行政委員会として議会の政策目標の具体的化にあたるFCCも、こうした新しい環境と古い規制枠組のマッチングに苦心してはじめている。FCCはインターネット等の新しいサービスは生まれたばかりであり、当面はできるだけ規制せず自由に発展させようというスタンスから、「電気通信サービス」とは異なる「情報サービス」であるとし、なるべく規制を最小限にとどめることとしてきたが、両者にまたがるインターネット電話が市民権を獲得しはじめるにつれ、従来の電話サービスは厳しい規制下に置いたまま、一方で利用面ではきわめて類似したインターネット電話サービスは野放しとはいかなくなりつつある。

■議会が「競争」政策でFCC委員全員から意見聴取

 米国議会上院は1月14日、5名のFCC委員全員を招き「競争の進展状況と問題点」についてヒヤリングを行った。質疑の対象分野はテレビ網や新聞等のメディアの所有集中、等も採り上げられたが、とりわけ「市内電話サービスでの競争および広帯域サービスのあり方」が中心となった。

 とくに「市内電話での競争」については、UNE(Unbundled Network Element:訳注;「アンバンドリング」といわれ、市内電話サービスを「加入者回線」「市内交換機能」「ダクト」「屋内配線」等の細かな要素に細分し、競争事業者がその必要とする要素だけを既存地域事業者から買い入れ、競争参入できるようにする手法)やリセールといった暫定的な競争促進のための施策が1996年電気通信法で導入されたにもかかわらず、FCCが制定したUNE施行規則が裁判所により二度にわたって批判され、無効/再審議/差し戻しの判断がなされ、いまだに宙に浮いている。とりわけベル系地域電話会社等の既存地域事業者が大幅な割引価額でAT&Tや新興市内事業者等の競争事業者に市内サービス諸要素や設備を卸売しなければならない責務を負わされている点が大きな論議を呼んでいる。既存地域事業者側は、「携帯電話やインターネット電話というライバルが既に伸びてきており、コスト割れの低料金でライバル参入者にUNEを提供するのは筋が通らない」と反対している。

 広帯域サービスについても、既存地域事業者が折角多額の投資で設備を建設しても、その設備の一部を競争事業者にも割引料金で利用させねばならない義務があったのでは、広帯域設備建設のインセンティブがそがれ、高度サービスの全国普及の遅れにつながるとする既存地域事業者側の反論があり、さらに最近、広帯域事業に進出が目覚しいCATV事業者にはこうした義務がないこととの不公平も採り上げられている。

■FCCの「当面糊塗」の対処も限界

 米国ではCATVの普及が著しいが、もちろんCATVなどは通信の基本法である1934年通信法-制定当時にはなかったサービスであり、途中の改正でCATVサービス関係の条項を大幅に追加して、対処してきた。FCCも「情報サービス」、「支配的事業者と非支配的事業者」などの新しい概念を次々に生み出して、市場での新しい進展にその都度なんとかケース・バイ・ケースで対処してきたものの、もはやこうした当面の継ぎはぎパッチワークの対処では乗り切れない段階に差し掛かっているといえよう。

 FCCは今後6か月以内に山積みされた課題の精力的な審議を集中し、各担当部局が新しい規則案の勧告をFCCの全体会議に出すと明言しており、今回のヒヤリングでその具体的な方向性が示されると期待されていたが、Powell委員長はじめ各委員は現状説明と「競争の一層の助長に努力する」との基本線を繰り返すばかりで、どのような方法で達成するかの具体的な内容については明確な答弁を避けた。しかし委員長は「競争は自前設備で」「広帯域サービスでは既存事業者にインフラ開放は義務づけない」という方向を示唆し、これまでの行過ぎた競争増進政策からの転換をにおわせた点が注目される。

 以下、Powell委員長の上院での説明の要点を追ってみよう。

FCC委員長の上院での1月14日の証言の骨子

  • 今後の6か月でFCCは、デジタル時代への移行に備え次の諸課題についての規則制定手続を完了するべく取り組んでいる。
    1. 電話事業での競争
    2. 広帯域サービスの展開
    3. メディアでの所有(集中排除)
    4. 21世紀にふさわしい電波政策
  • われわれの政策の基本は、「公益」の確保であり、とくに消費者の利益の保護と消費者が新しい情報通信のメリットを享受できるようにし、あわせて投資を促進することで雇用を増大し経済成長に貢献することである。
  • 1996年電気通信法施行以来7年間で、一部かならずしも十分ではない分野もあるものの、おおむね法の意図した成果が達成されつつある。例えば、市内電話業界では総アクセス回線数1億8,900万のうち競争事業者の回線が2,160万に達している。とりわけ携帯電話業界は大きな成果をあげており、6社の全国的事業者(2社はベル系地域電話会社系、1社は長距離通信事業者系、3社は独立系)と数多くの中小事業者が熾烈な料金戦争を展開し、消費者はその恩恵を蒙っている。消費者のうち650万は固定電話をもたず携帯電話だけに依存している
  • 広帯域サービスでも、ADSL等の急速な普及で2002年6月末現在1,620万の顧客が高速インターネット接続されている。
  • しかしFCCはさらに1996年電気通信法の目標を実現するために取り組み、次のような規則制定等の課題をいくつか抱えている。

■市内電話での競争

  • 市内電話での競争については、FCCはUNE(Unbundled Network Element)の実行のため二度にわたり規則を制定したが、その都度裁判所により差し戻されている。
  • 一度目は、1996年電気通信法制定直後に、「市内電話サービスのすべての要素」について、競争事業者が欲する要素を大幅割引の事業者間料金で提供する既存地域事業者の義務を内容とした規則を制定した。(委員長の証言:「たしかにこの規則は参入事業者側に大幅に加担しすぎたといえる。」) しかし、最高裁は、「法は『すべての要素』とはいっておらず、『それなしでは競争事業者の参入が妨げられる(impair)(重要な)要素だけを提供せよ』としているはずで、FCCはそのように限定した規則を制定すべきであった」としてこのFCC規則は無効とされ再度制定を命じられた。
  • FCCはこの判決を帯して、二度目は、微修正した規則を定めたが、依然として「市内電話サービスのすべての要素」をその対象とし、ほとんどすべての市場で競争事業者のアクセスを認め、地域ごとの差異を織り込まなかった。しかし、これもワシントンDC控訴裁判所により、「(たとえば、ある地域では携帯電話や衛星電話等の別の代替サービスが普及しているなど)別の代替サービスの提供状況を考慮すべきであったし、コストの地域による差異も配慮されていない」として無効とされた。
  • 1996年電気通信法制定から既に7年も経過して、いまだにUNEの実行のための規則がない状態であり、FCCはこれを早急に定めねばならない。また、その後に、全国的な統一したUNEの評価基準(UNEが十分に競争事業者に提供されているかどうか、またその対価はどうか、など)の設定という仕事もある。

■広帯域サービス

  • 広帯域については、1996年電気通信法の命ずる「早急な全国への普及」のため、まず必要なインフラ整備のための投資の環境作りが課題である。さらにここでもアンバンドリングの義務を既存地域事業者に課すかどうか、また、加入者回線の高周波部分のアンバンドリング義務(line sharing)をどうするかにも取り組む。
  • 広帯域インターネット・アクセスの規制上の区分・位置づけの課題もある。2002年2月からFCCは電話回線を利用したこの種のサービスについての検討を開始した。CATVを利用したインターネット・アクセス(cable modem)サービスについては、FCCは1934年通信法の「ケーブル・サービス」ではなく、「情報サービス」であると認定した。(訳注:したがってケーブル事業者は1934年通信法上の種々の責務を負わない。) 。情報サービスの提供を規制するあり方についてFCCはひろくコメントを求めているが、(電話回線利用とケーブル利用の)両者のサービスは類似しており、統一的に処理される必要がある。さらにCATV免許権をもつ地方政府(市町村)とFCCのcable modemサービス規制の管轄権問題もある。
  • 最後に、2001年12月、FCCは既存地域事業者の広帯域電気通信サービスの規制(いわゆるDom/Non-Dom手続)について、現行の要件等の規制を変更する必要があるかどうかについてもコメントを求めている。
  • これからの半年はFCCにとって「市内での競争」と「広帯域サービスの普及促進」の面で大変忙しい6か月となろう。今後のデジタル時代への移行の土台づくりの意味で大変重要な時期である。

■委員長の示唆する方向転換/安易な競争参入手法を見直す示唆

委員長は証言の中で、
  1. FCCの裁判所が無効としたかってのUNE規則は、「あまりに参入事業者に肩入れしすぎたものであった」と認めている。
  2. さらに、「競争参入は、UNEやリセールのように既存地域事業者の設備に依存するのではなく、新規事業者自前の設備に立脚した参入が議会の望む本来の競争である。UNEやリセールは便法に過ぎない。自前設備での参入でこそ初めて設備投資も生まれ、メーカーにも発注の恩恵が及び、経済成長にもなる。インフラも多元的になり、国防セキュリティにも貢献できる」とする。
  3. 「広帯域サービスでは、その事業者が多額の投資で建設したインフラにISP等が電話でのUNEのように安易にアクセスできるようにするのはいかがなものか。これでは大手既存地域事業者がインフラを作ろうというインセンティブがそがれる」としている。

 議会でもこうした意見を述べる議員もあり、大きな議論を呼んでいる。1996年電気通信法施行7年にして、安易な競争参入や競争助成について有力な政策立案筋にも見直しの意見が台頭してきた。今後6か月でFCCが以上のような競争の重要な根幹をなす諸点についてどのような規則を具体化するか注目に値しよう。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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