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2003年4月掲載

IT不況脱出はいつか?

  深刻な不況が続く情報通信分野では、年が改まってからNokiaが増収を発表するなど、多少の明るいニュースも出はじめているが、長いトンネルから抜け出る見通しは果たしてどうなのであろうか。

■ダボス会議でもIT首脳は肩をすぼめ

  政治、経済界のトップが集うダボス会議(World Economic Forum)でも、1990年代には肩で風を切っていた情報通信業界のトップたち WorldComの Bernie Ebbers, Deutsche Telekomの Ron Summer 、そしてFrance Telecom'のMichel Bonなどは、今年は全員が業績不振の責任をとっていなくなった。「われわれはいまや生き残り者のメンタリティの心境だ」とは、聴衆もまばらな会場でのAT&Tの会長兼CEOのDormanの言である。

■電気通信業界回復開始の見通しも……しかし

  米国の事業者団体である電気通信産業連盟(Telecommunications Industry Association)は、2月末、電気通信事業での設備投資は今年の第二四半期にも不況から反転し、今後3年間は年率9%もの高い成長を続けるとの見通しを発表した。

 一部のアナリストには、携帯電話や広帯域部門などたしかに成長の見込める分野もあるとする者もあるが、9%成長とは希望的観測に過ぎるとする。

 ベル系地域電話会社最大手SBC のWilliam Daley社長は、先頃のFCCの新競争規則が、相変わらず競争事業者による既存地域事業者ネットワークへの割引料金によるアクセスを保障していることを不満とし、「これではわれわれの広帯域インフラ等への積極的な投資意欲がそがれる」と強調している。

 しかしシンクタンクのPrecursor Groupは、これを「あまりに楽観的過ぎる」としている。その理由としては、経済全般の不況、イラクでの戦争の懸念、FCCによる競争事業者に対する割引料金での設備貸与義務の既存地域事業者への強制の継続、等を挙げている。
たしかにTIAは、昨年も大変強気の見込みを発表し、外れた前科はある。

 Yankee Groupも今年一杯は急激な投資の回復は見込めず、2003年は投資額は横這いと見ている。

 TIA側は、新たなデータに基づいた予測ではないと認めながらも、アナリストたちはベル系地域電話会社等の設備投資削減だけに気を取られすぎていると反論している。

■最近の企業業績ニユース

 ここでこの半年ほどの主な業績関係のニュースを整理してみよう。

2002/7
・Verizon、第二四半期は損失計上、通年も弱気の業績見込み
・Bell Southの第二四半期利益、67%ダウン
・格付2社、CorningをJunkランクに格下げ
・Qualcomm(携帯電話CDMAテクノロジーの開発企業)、1,400万ドルの赤字計上
・FT、放送部門を売却
・Ericssonの苦境続く
・ Nokiaの利益、46%アップ

2002/8
・FCC委員長、電気通信業界の景気回復のための六つの重要措置を提案、三分野での立法措置を要請
・Qwest、第二四半期大幅赤字
・DT( 独テレコム)、前半期で38億ドルもの巨額赤字。新CEO、国内専心へ方針転換
・ KPN(オランダ)、第二四半期に巨額赤字

2002/9
・FCC、電気通信業界の景気回復措置を論議する公開会議を企画(2002/9)
・AT&Tのトップ陣営、総移動
・ FT(フランス・テレコム)のトップ交代
・CiscoのCEO、業績低迷の責任で年収1ドルに報酬削減
・SBC、さらに11,000人を削減へ
・SBCの設備投資25-38%削減へ
・Qwest、売上高を10億ドル減修正
・Alcatel、10,000名の人員削減へ

2002/10
・ Qwest、第三四半期の赤字214百万ドルに拡大
・ Comcast、AT&T広帯域部門との合併を控え、対策に懸命
・ AT&Tワイヤレス、第三四半期赤字に。ただし売上高は16%増加
・ Bell South、半数の従業員が1週間の無給休暇で会社に貢献
・ Lucent Technolgies、さらに1万名の削減発表。破産の懸念も。株価引き上げのため株式併合を目指す。
・Corning、売上高45%減。要員削減さらに2,200上積み

2002/12
・仏政府、FTの救済に資金注入へ

2003/1
・ルーセント・テクノロジーズ、11四半期連続の赤字
・北欧の新合併企業TeliaSonera、赤字を計上
・ インテルCEO, 業界の景気回復はまだ先との観測
・ 仏テレコム、7,500名の削減を発表
・Cisco、直近四半期は黒字
・ Sprintも黒字

■携帯電話以外は急速な回復は望み薄

  以上の最近の業績から、事業者、メーカーともに事態はまだまだ深刻で、赤字が続いている。わずかに黒字などの明るい曙光が見えているのは、携帯電話関係(Nokia、Sprint)とインターネット関係(Cisco)ぐらいであろう。

 事業者では、これまで比較的健全な財務と見られていたベル系地域電話会社までがSBC、Qwestに見られるように設備投資削減のみならず人員削減などの徹底したリストラに踏み切っている。欧州でもBT、FT、DTが軒並み大幅赤字、トップ交代、海外事業撤退、等のドラスティックなリストラの最中である。それどころか、事業者やメーカーに業界の先行きの情報を提供しているシンクタンクのProbe Researchは3月中旬、近々のうちにベル系地域電話会社4社のうちの1社が破綻する恐れを指摘し、その余波は甚大なものとなるとの予測を発表した。

 携帯電話と並んで業界回復の新たな牽引車として期待されている広帯域高度通信については、先頃のFCCの規則改定で、光フアイバについては既存地域事業者の競争事業者への設備貸与義務が撤廃されたものの、その他については依然競争事業者へのインフラ貸与義務が維持されており、しかも州当局の関与度合いが増大したため全国一律のメカニズムではなく、州ごとにバラバラの事態が予測され、さらにFCC新規則自体の適法性を争う行政裁判に訴える方針がベル系地域電話会社により表明されているので、先行き不透明の状態が今後しばらく続こう。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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