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2003年6月掲載

多様なサービスの「かけ放題パッケージ一体提供」に
生残りをかける米国の通信事業者

 このところ米国の通信事業者間では、高利用の住宅顧客の囲い込み競争が熾烈化している。その武器となっているのが市内/長距離/国際/インターネット・アクセス等の多様なサービスの「かけ放題パッケージ一体提供」である。つまり定額で市内通信から長距離/国際通信、さらには携帯電話やインターネット・アクセスまでを一体として顧客に提供するサービスが人気を集め、予想以上の伸びを見せている。SprintやVerizonの広報担当も「まったくわれわれの予想をはるかに上回る人気だ」としている。

■市内地域事業者と長距離通信事業者の双方が互いに相手方の市場を侵食

 こうした新しい動きの背景にあるのは、ベル系地域電話会社などの市内地域事業者とAT&T/MCI/Sprintなどの長距離通信事業者の双方が相手方の伝統的な市場にも積極的に進出し、激烈な競争が展開されつつあることである。

まず長距離事業者が市内サービスに攻勢
 数年前までは、長距離通信事業者側からの市内サービスへの進出が目立った。長距離通信事業者が、自前の市内設備を建設したり、または、1996年電気通信法が設けた「市内通信での競争促進策」である「リセール」や「UNE」(Unbundled Network Element:市内交換サービスを要素別に細分し、その必要とする要素だけを既存地域事業者から卸値で買入れ、自前の要素と組合せて市内交換サービスを顧客に提供)という便法を利用して、市内サービスにも進出した。そして長距離通信サービスと組合せた新プランを顧客に販売し、成功してきた。

最近は市内事業者が長距離通信へ逆襲
 これに対して、市内事業者側はその最大手のベル系地域電話会社が、AT&T分割以降1996年までは、不公正競争防止の観点から、LATA(Local Transport and Access Area:全米を約500のエリアに区分。おおむね日本の県に相当)を超える長距離通信サービスの提供を禁止され、市内サービスとLATA内の近距離市外通信サービスのみに限定されていた。それが1996年電気通信法により、自己の市内網をライバル参入事業者にも十分に開放したと州当局およびFCCが州単位で認定し、FCCが独禁局とも協議のうえ認可した場合には、自己の営業区域発信の長距離通信サービスも提供できることとなった。ただし、内部相互補助を防止するため、認可から3年間は会計分離子会社を通じて長距離通信サービスを提供しなければならないという条件を付されている。

 1996年電気通信法施行後しばらくは、市内網の開放が不十分としてFCCに申請を却下されるベル系地域電話会社が相次いでいたが、ここ2-3年で相次いで認可が進み、既に41州とワシントンDCで認可されている。

 ベル系地域電話会社等の市内事業者は、既に確保している加入者に長距離通信サービスをも勧奨しやすく、顧客もいわゆるワンストップ・ショッピングの便利さに傾きやすい。長距離事業者が自前の市内交換設備を建設するには時間と資金がかかり、リセールやUNEの便法を市内事業者と協定するのも容易ではない。こうした背景から、2002年現在のFCCの調査では、長距離通信市場でのベル系地域電話会社の子会社のシェアは、既に15%を超えてきている。このためAT&Tのシェアは37%を割っており、MCIのそれは16%弱、スプリントのそれは8%弱、その他の零細な長距離通信事業者のシェアは24%となっている。一方、長距離事業者の市内市場でのシェアは、ある民間シンクタンクの調査では9%程度に留まっている。

■様々なサービスのパッケージ化が急進展

 このように長距離事業者が市内通信に、また、市内事業者が長距離通信に進出し始め、多様なサービスの「組合せ一体提供」が可能となるにつれ、折からの経済不況でどの事業者も売上高が伸び悩んだり減少したりの昨今、パイの奪い合いが熾烈となり、いろいろな分野の事業者が入り乱れ、各種サービスのパッケージ化や料金値下げ等で事業者間の競争が熾烈化しつつある。とりわけ高額の通信料金を支払っている利用度の高い住宅顧客が狙われている。料金戦略と並んで、市内/長距離通信の一体提供のパッケージ化などの商品戦略が勝負どころとなってきている。

 とくにベル系地域電話会社は、市内通信/長距離通信/携帯電話サービス/インターネット等を網羅したservice discounted packagesとかbundlesといわれている一体化サービスでシェアを伸ばしつつある。最新三ヶ月間の財務報告でVerizonは、「総体の電気通信収入は3%減少したが、こうしたbundled plansのおかげで本来はもっと大きな減収になるのを食い止めている」と述べている。

 長距離通信事業者も負けてはいない。以下、ロイターの報道(2003/5/16)を中心に具体的な動きを見てみよう。

各社が続々とパッケージ・サービスを販売へ
 アナリストによれば、Sprintは近く、定額制で無制限に利用できる市内/長距離/携帯電話の使い放題サービスを発表する予定である。同社は携帯電話部門のSprint PCSショップで市内電話サービスも販売を開始し、市内通信を提供する州を一段と増やすことを狙っているという。
 近くMCIに社名変更を計画している第二位の長距離通信事業者WorldComも、その市内および長距離を一体化したサービスであるNeighborhood by MCIに高速インターネット・アクセス・サービスを付加することを計画しているという。

AT&Tも追従
 AT&Tも、その保有する4,000万の住宅顧客に対し、携帯電話、高速インターネット・アクセス、オンライン・コンテントなどのサービスをも販売するため、他の事業者からのリセールや提携のパートナーシップを熱心に追求しているという。
 AT&Tは、長距離通信と市内通信を一体化しているのはまだ僅か11市場に留まっており、本年内に22州への拡大を策している。それにしてもこうした一体化サービスでAT&Tが得る収入増は大きなものではなく、このところ続いている固定長距離通信売上高の縮減を埋めきれるものではないが、通信量の多い消費者顧客を繋ぎとめられると考えている。

 ロイターとAP(いずれも2003/5/27)によれば、現にAT&Tはこのほど、2001年に分離独立したばかりのAT&T Wirelessと協定し、その携帯電話サービスを自己の長距離通信サービスとパッケージ化してリセールで顧客に提供すると発表した。この夏にいくつかの市場でこの二種類のサービスを融合したコーリング・プランの提供を開始する。具体的な市場の選定や料金についてはこれから検討するとしているが、これはライバルである長距離通信事業者やベル系地域電話会社が様々なサービスを一体化して提供しているのに対抗する目的からである。今回の協定はAT&Tが目指す同様な協定のハシリとなるものであろう。
 AT&Tは今後さらに他の携帯電話事業者との提携も目指し、さらには通信のみならず娯楽、電子商取引などの様々なサービスを組み合わせていく計画である。Comcast等のケーブル事業者やWalt DisneyやSony等のコンテンツ事業者との提携も視野に入れている。 DSL事業者のCovad Communications Groupとも提携をはかり、高速インターネット事業にも意欲を見せている。

 あるアナリストは「顧客は設備が誰の所有かについては関心がなく、提供されるサービス・ミックスが彼らの期待に適っているかどうかだけに関心をもつ」としている。

AT&Tは一旦は断念したAll-distance Companyのビジョンへ回帰
 こうしたAT&Tの戦略は、同社がかって標榜した「市内/長距離/国際のすべての通信サービスを提供するAll-distance Company」を断念し売却したばかりの携帯電話部門(AT&T Wireless)やCATV部門(AT&T Broadband)をもう一度集め戻す方向である。
1990年代にAT&Tは初の部外から迎えたアームストロング会長のもと、ベル系地域電話会社には依存しないで自前の設備に立脚した市内通信事業にも全国的規模で乗出す壮大な方針を決め、その手段として当時最大手だったCATV事業者のTCIを10兆円をも投じて買収し、CATVインフラを用いて市内電話サービスを行うこととした。しかし、このインフラが片方向の伝送しかできない古い同軸ケーブル主体であり、その双方化の技術開発で手間取って目算に狂いが生じ、また、折からの不況でウオール街の収益偏重のプレッシャーにも耐え切れず、CATV部門のみならず携帯電話部門まで切出しを余儀なくされていた。

■無制限利用の定額料金制に今後の活路

 パッケージ化とならんで各事業者が注目しているのは、定額料金での「かけ放題サービス・プラン」である。

ニューヨーク・タイムズ(2003/5/23)によれば、2002年4月にMCIがNeighborhood Planで、また、これに続いてAT&T, また、ベル系地域電話会社のBellSouth、 Qwest、 SBC および Verizonも、いくつかの州で定額の月額料金で市内と全国のかけ放題サービスの提供を開始している。

 こうした無制限サービスの料金は月額50-60ドル程度で、FCCの調査に基づく典型的な家庭の一ヶ月の「市内および長距離通信料金」である48ドルを僅かに上回るだけである。顧客の反応はMCIもVerizonも「予想をはるかに超えた成功だ」としている。

 テクノロジーの進歩と光フアィバの潤沢な全国敷設に伴い、通話コスト面では距離の長短は問題ではなくなり、通話料金の主要な決定要因は他の事業者の設備をも利用するかどうか、すなわち、他の事業者設備へのアクセス料金いかんにかかってきている。顧客の利用習慣も、CATV料金のような定額制料金に慣れてきており、利用無制限サービスに対する抵抗がなくなってきつつある。携帯電話サービスでも無制限利用の料金プランが増えてきている。従前のような通話距離と通話時間で料金を課す方法にとらわれず、フレキシブルにいろいろなサービスを提供するプランに人気が集まりだしている。

 こうした新しい展開は、携帯電話、インターネットやメールにシェアを奪われ続けている固定電話事業者にとって久々の明るいニュースである。

 ニューヨーク・タイムズによれば、ベル系地域電話会社および長距離通信事業者の双方ともが「一体化組合せプラン」(bundled plans)の伸びに注目し、その市場シェア確保の手段と見ている。電話会社としては、こうした「一体化組合せサービス」はまだ提供が始まったばかりで、果たしてこれらの利用者が永続的に定着するのか、それともいずれは他のサービスや他の事業者に乗換えていってしまうのかについては、まだ即断はできないものの、電話会社の料金担当は、こうした新しいサービスの利用者はあまり浮気せず、定着するものとみている。さらにこうした利用者は電話のパッケージのみならず、携帯電話、DSL、さらにはこれから登場する新しいサービスをも合わせて注文してくる可能性が高いと見ている。Verizonの戦略担当は、「組合せプランの顧客の料金額が彼の以前のスタンダード・プラン当時の支払額より少なくなり、当面、当社としては減収となっても、そんなことは気にしていない。いずれ将来はわれわれはこうした顧客からもっと多額の利用を確保できると確信している」としている。

 こような「組合せ/定額料金戦略」は、米国では電話会社の巨大なライバルとなりうるCATV事業者が電話サービスやDSL等のインターネット接続サービスをも組合せたサービスの提供を開始しているので、とりわけ重要である。

■今後の予測
「巨大な百貨店的グローバル通信事業者だけが生き残る」との神話が実現か

 1990年代中ごろには、「市内/長距離/国際のすべての通信を扱える一握りの百貨店的な大規模通信事業者だけが将来グローバル市場で生きる」という見方が通説となり、例の買収/合併フィーバーにつながった。しかしこうした合併ブームは通信不況で2000年を境にまったく沈静化してしまった。

 最近の「一体化サービス」指向の新しい傾向は、こうした神話が再び生き返る前兆なのであろうか。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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