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海外情報
2003年8月掲載

どうなる欧米のIT景気?
曙光は見え出したものの

 2000年を境に、それまで景気の牽引車と囃されてきた欧米のIT産業は、底知れないスパイラルで落ち込み、軒並み巨額の赤字決算、要員削減、等が続き、群小の新興企業のみならず大手の企業までが何社も経営破たんで倒産、会社更生手続に移行した。

 米国では、まず事業者でWorldCom、Global Crossingなど、一時は経営学の手本とまではやされた企業まで更生手続を申請した。長距離通信事業者の名門であるAT&TやSprintまでが、一時行詰りを懸念された。比較的財務基盤のしっかりしていたベル系地域電話会社ですら、大規模な要員削減などのドラスティックなリストラを余儀なくされた。一部の企業は粉飾決算等の不正会計が引き金になったが、光ファイバ等の過剰設備等の構造的な問題が根底にあるとされている

 米国のメーカーでも、事業者の財務建て直しのアオリで設備投資が極端に切られ、また、携帯電話の需要の飽和も重なり、受注額が急減し、Nortel、Corning、モトローラーなどだけでなく、通信機器の元AT&T系の名門ルーセント・テクノロジーズまでが流動性で行詰り、光製造部門を日本企業に売却するはめになった。インターネットやパソコン関連のメーカーも程度の差はあれ、業績が大幅に落ち込んだ。

 欧州のメーカーも、Alcatel、Ericsson、Nortelなどが軒並み苦境に落ち込んでいる。

 欧州では、BT、DT、FTの英独仏三国の第一位の通信事業者が、そろって大変な経営危機に落ち込み、三社とも経営幹部が追われるように去った。欧州では次世代携帯電話免許の高騰が直接の引き金になったが、根底には野放図な野心的海外進出の破綻で負債が急増し、財務が破綻した事情がある。

 Yahooにも「リストラ」の特別ページが設けられ、毎日あらたに倒産、更生手続移行、要員削減等のニュースが整理され、日増しにそのリストが長くなる日々が続いた。

 欧米ともにこの1-2年、大変な痛みを伴うリストラで、現在でも負債の削減、分社化、資産の売却等が必死に行われている。

 しかしながら、このところ多少流れが変わった感じがあり、相変わらずの暗いニュースにまじり、明るいニュースもポツポツではあるが出はじめてきた。最近の推移を振り返ってみよう。

■依然続くBad News

 ニュースの大部分は相変わらず暗いニュースである。

会社名 ニュース ソース月日
フランス・テレコム 欧州史上最大の企業再生となるの150億ユーロの新株発行で、仏政府が手を差し伸べた。仏政府は680億ユーロもの過大負債に喘ぐの56%の持分を保有しており、今回新たに約90億ユーロを引き受ける。 残余の60億ユーロは、1億ユーロの手数料を稼ぐこととなる投資銀行(複数)の引受け。 ガーディアン(2003/3/25)
Verizon(東海岸のベル系地域電話会社) 米国最大の地域電話会社であるVerizonは7月までにWashington DC, Maryland, Virginia および West Virginiaのいわゆるポトマック地域で665人の希望退職またはレイオフを行うと従業員に通知。同社は、この地域で30,700人を雇用。従業員あてのメールで「この地域で昨年は272千の顧客、つまり2.8%を失った。今後しばらくこの傾向が続くであろう。ライバルの他の地域電話会社や携帯電話会社に蚕食されている。情勢は厳しい。」と述べている。 ワシントン・ポスト(2003/4/16)
XO Communications 米国の63の市場でデータ、インターネット・サービス、さらにはベル系地域電話会社に果敢に挑戦して長距離/市内の音声通信を事業所むけに提供しているXOは、50億ドルの負債の利払いに窮し再建手続に移行しているが、このほど前Global CrossingのCOOだったGrivner氏をCEOに迎え、徹底したコスト削減とセールスを展開することとなった。 ワシントン・ポスト(2003/4/29)
mm02(BT系の携帯電話会社) BTからスピンアウトされた携帯電話会社mm02の2003年3月期会計年度の決算は、102億ポンド(167億ドル)の赤字となった。その大半は欧州各国での免許の評価損から発生。英国、ドイツ、アイルランドの免許とオランダでの事業売却である。英国では次世代携帯電話免許取得額の約半分、ドイツでは免許取得額の約60%に評価替え、およびその他の調整で、97億ポンドを損失として計上。
同社の売上高はこの年度に48.7億ポンドで、アナリストの予想を多少上回った。設備投資を17%削減したためもあり、負債の削減は進み、5.49億ポンドまで減少している。 海外事業で市場シェアの低い国からは撤退する戦略で、10%のシェアしかないドイツからの撤退を計画。
ニューヨーク・タイムズ(2003/5/21)
Nokia(フィンランドの携帯電話メーカー) 世界のトップの携帯電話メーカーのNokiaは、インフラ部門で1,800名の削減を行うと発表した。
そのうち1,100名はフィンランド国内で主として開発部門において削減。同社が3G次世代携帯電話の本格的展開が今年、さらには明年にもあまり期待できないと見ている証拠。
AFP(2003/4/10)
Ericsson(スエーデンの通信機器メーカー。携帯電話に傾斜) エリクソンは7,000人もの削減に向かう。その半数はスエーデン国内での減員。同社は最近、「コスト・カッター」の名の高いCarl-Henric Svanbergを鍵メーカーのトップからCEOにスカウトし、その時点から大幅な人員削減が予想されていた。同社の本年第1四半期は43億クロノール(5億2,000万ドル)の赤字で、一年前の同期の赤字3億6,400万クロノールを上回っている。赤字は8四半期連続している。
同社は、携帯電話機器のうちとくに局用伝送交換機器の比重が重く、かっての好況時期にはこれが業績を伸ばす一因ともなったが、最近の携帯電話事業者の投資沈滞でこれが裏目に出て同業他社よりも大きな打撃を受けている。
ニューヨーク・タイムズ(2003/4/29)
Telia-Sonera(スエーデンとフィンランドの合併メーカー) スエーデンのTeliaとフィンランドのSoneraが昨年合併し誕生したTelia-Soneraは、先月フィンランドで6,500名のうち400名のレイオフを発表したが、今回はスエーデンで12,000名のうち1,200名を削減すると発表した。年末までに1,500名の削減を目指しているという。同社は世界中で29,000人を雇用。 AP(2003/5/26)
AT&T Wireless ウォールストリート・ジャーナルの報じたところでは、AT&T Wireless Services Inc.が経費削減の一環として従業員の3%に相当する約1,000名の削減を行うという。
売上高では第二位の同社は、昨年も2,000名の削減をおこなっている。
ロイター(2003/7/2)
Ericsson 世界最大の携帯電話ネットワーク機器メーカーのEricssonは、ITの開発とサービスをIBMにアウトソーシングした後に約1,000名が削減されようと発表した。
赤字の同社はこの4月に、3月末61,000名の要員を2004年までに47,000名のレベルにするため、7,000名を削減すると発表している。
ロイター(2003/6/24)
Verizon Verizonはこの四半期に約30億ドルの一時的損失を計上すると発表した。 その約半分の16億ドルは、電話帳事業での売上高計上基準の変更に伴うもの。Qwestの出版事業部門での利益水増しのための売上高前倒しの不正疑惑で、SBC、Bell South等がその出版事業部での会計基準を変更している。
また9億ドルは、メキシコ第三位の携帯電話会社での39.4%の持分の評価損である。
ワシントン・ポスト(2003/7/2
ルーセント・テクノロジーズ 元ベル・システムの製造部門の名門Western Electricの後身であるルーセント・テクノロジーズは、電話会社の発注が依然回復しないまま、この四半期の決算は13期連続の赤字となった。同社は先週、「今会計年度内に黒字転換」としてきた旗を先頃降ろし、10月から始まる来期へのずれ込みを表明。 6月30日に終わった会計年度第三四半期の損失は2.95億ドル、売上高は昨年より33%減少して19.6億ドル。 ロイター(2003/7/23)
Kodak社の重役から転進したPatricia Russo CEOは、「売上高が一時的にスピード・バンプ(自動車の速度を落とさせるための路上のデコボコ)で減速しただけで、各部門ともリストラが着実に進み成果が出てきつつあり、2004年には黒字転換ができる。売上高が目標を大きく下回った理由は二つある。第一は、われわれの控えめの予想をさらに携帯電話会社の実際の発注が下回ったこと、第二には、ある国での大規模工事が時期的に先延ばしされ、その関係の受注も繰り延べられた。しかし、最近Sprint PCSから三年間で10億ドルの契約を獲得したなど、先行きは明るい。」と強気の会見。しかし、具体的な黒字転換の時期や、今後の四半期の売上高予測等については説明ができず、アナリストたちには、同社の製品ライン戦略に問題があり、経営的にもCEOの指導力に疑念を持たざるをえないとの見方が広がる。 ニューヨーク・タイムズ(2003/7/24)
Nokia 携帯電話機器メーカーのノキアの利益は、6月末までの3カ月間で前年同期に比し、28%も減少し、6.24億ユーロとなった。
同社は世界的な景気不振とドル安をその要因としてあげており、次期もハンドセットおよびネットワーク機器ともに売上高は横ばいないし減少と予測。
BBC(2003/7/17)

■明るいGood Newsもチラホラ

 一方、明るいニュースも少しは聞かれるようになった。

会社名 ニュース ソース月日
AT&T AT&Tはこの四半期、予想を上回る利益を計上し、株価も今年初めて23%も上昇した。
本年の第一四半期の純利益は571百万ドルで、前年同期は一時損失計上もあり975百万ドルの損失であった。売上高は、住宅顧客の売上高が17.8%も減少し、事業所関係の売上高も1.4%減少したため、全体でも5.9%減収となり、90億ドルにとどまった。  AT&Tは、年間通しての予測は、おおむねかねてからの予想の水準(売上高が2002年に比し10.4%減少)か、多少それを上回るかとしている。

部外の証券アナリストも「売上高は減少の傾向から抜け出ていないものの、状況は安定化の方向に向かっているといえよう」としている。

ロイター(2003/4/23)
Nortel(カナダの大手通信機器メーカー) ノーテルは第1四半期に13期ぶりに黒字計上し、株価も2%ほどだが上昇した。売上高が予測を上回ったことと、撤退した事業の効果が1億9,000万ドルあったことが貢献。 大方のアナリストが第1四半期は赤字と予想していた。同社は第2四半期には黒字と予測していたので、一四半期早く利益を計上できたこととなる。第1四半期の売上高は24億ドルで、昨年の第4四半期の25億ドルより落ち込み、さらに昨年の第1四半期は29億ドルの売上高だった。今年第1四半期の利益は5,400万ドルで、昨年同期は8億4,100万ドルの損失。 株価は3.77カナダドルに2%程度上昇したが、2000年7月には124.5カナダドルもしていた。もっとも昨年10月の底値の67カナダセントよりは大幅に値を戻したことになる。 しかし、今後の予測は慎重で、電話会社の注文の減少で売上高が落ち込んでいる事実に懸念は払拭されていない。Frank Dunnも、「私はまだ注意深く事業運営を続けていく。今後なお3-5か月は電話会社の投資抑制が続くものと見ている。」としている。通信事業者が過剰設備に悩む傾向が続くうえ、同社の主要市場のひとつである中国がSARS騒動で安定しないことも響く。< ロイター(2003/4/24)
Time Warner Telecom AOL Time Warnerが一部を所有しているTime Warner Telecomは、事業所むけにデータおよび電話サービスを提供しているが、今年の第一四半期の赤字は3,330万ドルと、一年前の4,310万ドルより縮小した。今期の売上高は2%減少して1億6,500万ドルだった。 ロイター(2003/4/28)
フランス・テレコム FT(フランス・テレコム)の2003年前半の事業利益が、前年同期の32億ユーロから46億ユーロに46%も急増した。売上高は225億ユーロから228.5億ユーロに1.7%増加している。
同社は、58.8%を国が保有し、難局から脱するために政府の援護で資本増強を行ったばかりであるが、リストラが成功したと財務責任者は述べ、今後、着実に改善されるとしている。
AFP(2003/7/29)
Ericsson  エリクソンは、9期続いている損失が予想以上に縮減し、年末までに黒字に戻ると公言している。6月末までの3カ月間で、損失はリストラ経費計上にもかかわらず税引き前で3.28億ドルにとどまった。同社は携帯電話ハンドセット事業をソニーにまかせ、ネットワーク機器に資源集中し、数千名の要員削減を行ったなどが貢献していると見るアナリストもいるが、同社の売上高が前年同期より28%も落ち込んでおり、また、同社自身も携帯電話事業者の発注見込みの伸びに不安を表明していることもあり、先行きはまだ楽観を許さないとの見方も根強い。 BBC(2003/7/18)

■しばらくはマダラ模様か

 以上見たように、ここにきて若干の明るい曙光が仄見えてきたといえる。

 ことに米国では、最近の四半期のGNPが実質ベースで2.4%もの予想を上回る成長をとげ、イラク軍需特需の底上げもあるにせよ、設備投資も7%近く伸び、失業率も0.2ポイント改善し、個人消費も堅調になってきたなどの明るい背景もある。

 通信事業者でもAT&Tやフランス・テレコム(FT)の回復は力強いニュースであり、ドイツ・テレコム(DT)もRicke新CEOのもと、海外放漫進出の負の遺産の清算が進んでいるという。

 しかし、米国の過剰設備問題はそのままであり、固定通信の先細り、携帯電話の飽和、等、まだまだ構造的な根深い問題の解消には至ってはいない。

 ことにメーカーは、通信事業者の回復ののち発注が回復するので、余計立ち直りに時間がかかろう。しばらくは一進一退のマダラ模様の静かな回復局面が続くと見るべきであろう。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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