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2003年10月掲載

FCC、市内通信での競争で事業者間料金の見直しに着手

−不当に安すぎる事業者間料金は、既存地域事業者設備に安易に依存した参入を招き、本来あるべき競争事業者の自前設備での参入を阻害−
−増分コスト(TELRIC)の弊害を自戒、抜本改定作業をスタート−

 FCCは8月21日に、米国の市内通信での競争の主軸をなしている「UNE」(アンバンドリングされたネットワーク要素)制度について、既存地域事業者の設備投資意欲振興のため、光ファイバはライバル事業者に貸与しないでもよいようにするなどの新たな規則を制定したばかりであるが、さらに9月15日、規則改定予告を発表し、「UNE」と「リセール」の事業者間料金の設定方法を定めている規則の抜本的見直し作業を開始したと発表した。

 FCCの規則制定//改定の作業はわが国に比してきわめて透明で、まず最初に問題点を整理し、FCCの方針と素案の要点を述べたうえで、ひろく業界や専門家、一般の意見/コメントを求める。最終的に規則としてまとめる段階では、誰からどういう意見が出されたかをこまかく述べ、いちいち採択または却下の理由を付け加えている。これらは規則の前文として規則に含められる。初めから終わりまで、一貫して文字どおり「ガラス張り」の中で規則が制定されるわけである。

 FCCは今回の規則改定予告でも、これまでの経緯、浮上した現行規則の問題点を率直に述べるとともに、FCCの市内競争政策のあり方と今後の方向付け等をも明示し、ひろくコメントを求めている。

 この案件は事業者間料金の設定方法というきわめて実務的、事務的な性格のものではあるが、「UNE」と「リセール」が市内通信での競争の根底をなすものであり、事業者の設備投資意欲の喚起など重要な通信政策にもかかわる問題であり、わが国にとっても他山の石として大いに参考とされねばならない意義を秘めている。

■米国の市内通信市場での競争の現状

 まず、FCCが最近発表した2002年12月末現在の資料で、米国での市内競争の現状を見てみよう。

  • 固定交換網の総回線数1億8,800万回線のうち競争事業者の回線数は2,480万で、そのシェアは13.2%
  • 競争事業者の回線のうち、19%は既存地域事業者等の他社のサービスのリセール方式で、55%がUNE方式であり他社の市内回線を利用
  • 残余26%だけは自前の市内回線に立脚

 1996年電気通信法はその主目標の一つである市内通信市場での競争の促進で競争事業者の参入を容易にするため、「リセール」と「(市内サービス諸要素の)アンバンドリング」という便法を設けた。

 「リセール」は、競争事業者が既存地域事業者の市内サービスをまるごと割引(卸売)料金で買い入れ、それを自己のサービスとして顧客に再販売する方法であり、「アンバンドリング」は、市内サービスをいくつかのネットワーク機能要素(UNE:unbundled network elements)に細分し、競争事業者が自身では賄なえない要素だけを既存地域事業者から割引料金で買い入れ、それと自身でまかなう要素とを組合せて顧客に市内サービスを提供する方法である。1996年電気通信法は、競争事業者による「リセール」と「UNE」の要請を既存地域事業者は拒否できないとし、相互接続と同様に既存地域事業者の責務とし、義務づけた。また、UNEについては、「新規参入者の参入を阻害する(impair)ことのないよう、FCCはUNE実施のための規則を制定すべし」と命じた。これら二つの便宜的方法により、新規参入事業者はすべてを自己の設備で賄う必要がなく、多額の設備投資なしに簡単に市内市場に参入が可能となったわけである。

■FCCが定めた現行規則の概要
−最新テクノロジー利用でこれから建設すると仮定した設備のコストを採用−

 FCCは1996年電気通信法の規定に従い、さっそく1996年中に「UNE事業者間料金」と「リセール卸売料金」の設定方法等をも含めた「市内競争規則」を制定した。

 市内サービスの料金(対顧客)は州内マターであるので各州の公益事業委員会が規制しているが、競争事業者が既存地域事業者から「リセール」または「UNE」で買入れる事業者間料金についても事業者間の協議で話合いがつかない場合などには、州委員会が調停することとなっている。しかし、初めての制度のため州当局が戸惑うおそれがあったことと、全国的にあまりにバラバラにならないよう、FCCは1996年にこの規則で各州に対しガイドライン的な基準を設けた。

 FCCは、UNEの料金を「全要素長期増分コスト」「TELRIC」(Total Element Long Run Incremental Cost)に基づき算定することとした。これは「前向きのコスト算定方法」(forward-looking cost methodology)であり、すなわち、現存の設備が過去に実際に建設されたときのhistoricalなコストではなく、今日最新のテクノロジーを用いて効率的な設備を建設し運営するものと仮定した場合のコストであるとした。

 これに対しては、既存地域事業者とくにVerizon等のベル系地域電話会社から、「TELRIC方式は、最新テクノロジー利用の設備の建設コストなどという非現実的な効率の仮定に強く依存しており欠陥がある。こうした非現実的な仮定のため、既存地域事業者の『実際の』コストを大幅に下回った(事業者間)料金となるので違法である」との主張がなされ、FCCを相手取り数件の訴訟が提起された。

 しかし、最高裁は、州当局がTELRICを料金決定手続で用いることは「許される」(permissive) 方法であると認定した。最高裁はまた、「前向きのコスト」方式をFCCが採択したこと、そして既存地域事業者が提唱した別の方式を却下したことは、法令の妥当な解釈であると認定し、支持した。

■「とにかく市内市場に競争を持込むこと」を最優先

 今回の改訂予告の序説(Introduction)では、TELRIC方式を採択した経緯が率直に語られているので、ここに引用する。

「1996年の当初規則制定の頃は、まだ市内市場での競争もこれからの時期であったため、われわれはとにかく市内交換市場への競争事業者の参入を促進することの必要性に最大の力点を置いていた。UNE料金が競争参入と投資誘引に役立つように決定されるためである。」

 すなわち、とにかく事業者間料金を安くしなければ参入する競争事業者が出てこないという懸念から、定着していたhistoricalコストを避け、まだ学会でも論議中で確固たる結論にも至っていない、実績もないTELRICという算定方式を選択したのである。

■7年間の経過で露呈した問題点

 このようにFCCは方向付けだけは行ったが、なにぶん新しいコスト算定方式であり、経験もなく、具体的な算定手続については十分なガイドラインを提示できなかった。したがって、制定後7年間を経過するうちに様々な問題点があぶり出されてきた。

  1. TELRIC方式が「最新のテクノロジーによる設備」という仮想の設備に立脚している点

 TELRICは前述のように、対象となる既存地域事業者の設備のコストは過去の実績に根ざしたコストではなく、今日、「最新のテクノロジーで運用も効率的な設備を作ったと仮定した場合」のコストに基づいている。「なにが最新のテクノロジーか」については、当然、様々な論議が出ざるを得ない。改定予告は次のように言っている。

「ある批判では、TELRIC方式が非現実的な効率の仮定に強く依存しているから欠陥があると主張されている。彼らはこうした非現実的な仮定のため、既存地域事業者の『実際の』コストを大幅に下回った(事業者間)料金となり、それが既存地域事業者のみならず競争事業者の新規則設備への投資意欲をも湿らせていると主張している。」

「州と当事者たる事業者たちが遭遇しているいろいろな困難の一部は、TELRIC設定のあまりにも仮定的な性格に由来している。われわれの規則が極めて抽象的であるため、現行規則の「もっとも効率的なテクノロジー」という基準を州当局が適用するに際しては、広範な裁量の余地がある。このためTELRIC審理は、その中から多種多様な料金が飛び出してくるブラック・ボックスと化す可能性がある。もっと具体的なガイダンスなしでは、ネットワーク・モデリングを不明確なものとし、実際のUNE料金がどのように導き出されるのかの理解が難しい。UNE料金の予測がつかないようでは、われわれが目指した『事業者に(設備投資するか、それとも既存地域事業者の設備を利用するのかの事業的な意思決定の指針となるという)適格なシグナルを与えることも難しくなってしまう。」

  1. 算定されたコストと料金に大きなバラツキ 作業に当局も事業者も大変な人手

1 の事情もあり、当初規則の制定後このガイドラインにそって各州当局が実際に制定したUNEの料金は当然のことながら大きくバラつき混乱した。改定予告は次のように述べている。

 「1996年以降、すべての州が少なくとも一回はこの規則に基づくコスト算定手続を行っている。TELRIC方式下での州当局の料金設定審理は大変複雑で、2-3年の長期にわたることがしばしばである。州当局は通常、最低でも二つの対立するコスト・モデルの提示をうけ、これらのモデルについてそれぞれの専門家たちから数百に及ぶ資料の提出がある。こうした審理は大変複雑で、州当局は市内電話ネットワークの建設のための『前向きのコスト』の算定に関する詳細な意思決定を幾十回となく行わねばならない。州委員会と当事者たる各事業者のこのための(人的)資源の流失は途方もなく大きなものとなりうる。」

「また、さらにわれわれが着目するのは、特定の一社の事業者についてみても州ごとに、またあるいは、同一州内であっても案件ごとに、大きく差異のある料金が算定されているという事実である。FCCとして懸念しているのは、これらの差異が実際のコストの差異に基づくというより、問題の複雑性、FCC規則の具体性を欠く極めて抽象的な性質、またこれらの規則の適用方法に関する不確実性等に由来しているのではないかという点である。」

  1. 政策本来の目標である「自前設備での競争参入」を阻害している懸念
 さらにより大きな問題点は、1996年電気通信法が目指した「市内市場での本来あるべき競争」である「競争事業者の自前の設備での参入」という重要目標がFCCの当初規則で阻害されているという懸念である。今回の改訂予告では次のように述べられている。
「FCCが(当初1996年の現行規則制定に際し)『前向きのコスト算定方法の狙いは事業計画上の妥当な判断資料を提供するように』とした真の狙い(シグナル)は次のとおりである。すなわち、UNE料金が『前向きのコスト』より高く設定された場合には、参入方法として既存地域事業者から設備をリースするほうがよいケースであっても、競争事業者の自前設備の建設による参入を助長することとなろう。また、逆に、UNE料金が『前向きのコスト』より安く設定された場合には、参入方法として自前設備を建設するほうがよいケースであっても、競争事業者は既存地域事業者の設備に依存するほうに傾くであろうからである。さらに、既存地域事業者にとっても、『前向きのコスト』に立脚したUNE料金のもとでも既存地域事業者がそのコストを回収することは可能なのだから、既存地域事業者の投資意欲を阻害することはないであろうとFCCは考えた。」

「『前向きのコスト』を本来あるべき値より少なめに決めることで、TELRICの実際の適用がわれわれが意図した料金決定の重要シグナルを歪めるような事態となっているのであれば、1996年電気通信法の中核をなす意図の一つである「自前の設備による競争の推進」という目標が阻害されてしまうことになる。われわれのUNE料金の設定規則は、公正、低廉かつ差別のない料金をもたらすものでなければならず、事業者による設備への投資意欲をそぐものであってはならないのである。」

 先のFCCの市内競争現状資料でも、「リセール」の比率は減少し、「UNE」の比率が急増しつつある。

 UNEは本来、アンバンドリング(細分)されたネットワーク要素を既存地域事業者から買入れて、自前の要素と組合せ、市内サービスとして顧客に販売する仕組みであるにもかかわらず、実際には全要素を一まとめにして買入れるUNE-P(UNEプラットフォーム)といわれる形も多く行われている。例えば既存地域事業者の「加入者回線」という要素だけをUNEとして買入れるのではなく、「交換機能」等まで丸ごとセットにして買入れる形である。これは「リセール」と見分けがつかないが、実際にはUNE-Pの事業者間料金はリセールの場合の卸売料金よりも大幅に安いのが普通であるといわれている。

 FCCのPowell委員長は、「UNE-P」は不当に安い事業者間料金となっており、これは廃止すべきだと声明で述べている。委員長はさらに「交換機能」はUNEから排除すべきだとまで提唱している。「これらがあったのでは、競争事業者は自前の設備の建設という参入の本道を避け、安易に既存地域事業者の設備に依存することとなりがちだから」というのが委員長の論旨である。

■今回の見直しの目的と今後の方向

 改定予告は次のように述べ、「自前の設備による競争の推進」という本来の目標の再確認を謳っている。

「今日、競争が各方面で広く根付いてきた以上、われわれの料金算定方法が当初われわれが意図したように機能してきたかどうか、とりわけ効率的な設備投資の増進に役立ってきたかどうかを検討するために今回の手続を開始したのである。『前向きのコスト』を本来あるべき値より少なめに決めることで、TELRICの実際の適用がわれわれが意図した料金決定の重要シグナルを歪めるような事態となっているのであれば、1996年電気通信法の中核をなす意図の一つである『自前の設備による競争の推進』という目標が阻害されてしまうことになる。」

「この規則制定予告は、われわれの仮の結論および現行の『UNE料金決定体制』の修正に関するコメントをひろく募っている。すなわち、『前向きのコスト』方式の維持温存とその競争増進という目的を追求するとともに、その体制をより透明なものにし、理論的にも強固なものにしようとするものである。すなわち具体的に言えば、『TELRIC方式の料金をより簡潔なものとしたい』と提案しているのである。また同時に、現在の適用にあたり論議が高まり対立している事態、すなわち、この料金は自前の設備に基づく競争が広く実現している市場の実情を反映すべきであるという意見と、もう一方では逆に単一の支配的事業者1社しかいない市場の実情を反映すべきであるとする意見との対立を解決することで、料金設定のシグナルの正確性を高めることも狙っている。FCCは、UNE料金を、純粋に仮想ネットワークの思索的な属性によるのではなく、現存するネットワークの実社会の属性に基づいたコスト調査の上に基礎を置かせるにはどういうアアプローチがいいかについてのコメントも求めている。」

 Powell委員長は「自前の設備による競争事業者の参入」を強力に主張しており、そのメリットについては、次のように明瞭だと述べている。すなわち、

  • 「自前設備に立脚した競争」は、競争事業者が既存地域事業者とは区別できる差別化されたサービスの提供が可能となる
  • 「自前設備に立脚した競争」では、競争事業者がより一層ネットワークを多く所有するので、そのコストもコントロールでき、消費者に対しより低廉なサービスの提供ができる
  • 「自前設備に立脚した競争事業者」は、既存地域事業者に依存する度合いが少なくなるので、議会が目指す規制の削減につながる
  • 「自前設備に立脚した競争事業者」は、不可欠である代替予備のネットワークを建設することとなり、テロ攻撃等に対する対応にも対応できることとなる。

■リセール料金についても見直し

 以上はUNE料金に関するものであるが、FCCは今回の手続でリセールの事業者間料金(卸売料金)についても抜本的な見直しを計画している。

 1996年電気通信法により改正された1934年通信法第251条(c)項(4)号は、既存地域事業者に対し、「自身が事業者以外の顧客に小売サービスとして提供している電気通信サービスはいかなるものであっても卸売料金でリセールとして(競争事業者に)提供しなければならない」と規定している。第252条(d)項(3)号は、「リセール・サービスの卸売料金は、州当局が、既存地域事業者の小売料金に基づき、それから販売、料金請求等の不要となる部分を差し引いて、設定しなければならない」と定めている。FCCのリセール料金規則は第8連邦巡回控訴裁判所により無効とされている。

■他山の石

 FCCは、今回の改訂予告を次のように締めくくっている。わが国では、州制度がないとか、リセールがないとか、国情や環境は違うものの、わが国の事業者間料金論議でも参考となるものが多いのではないだろうか。

 「FCCの今回の手続の目的は、州当局が「UNE料金」と「リセール割引」を法の規定に従ってもっと簡便に設定できるようにし、州による審理から生まれる諸結果がより見通せ、一貫したものとなるようにすることにある。これまで7年間に培われてきた経験の宝を踏まえ、UNE料金とリセール割引に関する多様な問題について大部の資料を集めることを希望している。」

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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