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2003年12月掲載 |
海外ニュース、今年の回顧
今年もはや12月。この一年間の海外電気通信市場での主なうごきをいくつかのテーマに絞って振り返ってみよう。
1. 電気通信業界の景気、ようやく明るい兆しも2000年を境に電気通信業界はブームによる過大投資、強引な企業買収、また欧州では次世代携帯電話免許オークションの狂乱等を主因とする未曾有の不況に突入して、多くの新規事業者が経営破たん、AT&T/BT/DT/FTやベル系地域電話会社等の大手事業者でも財務が著しく悪化し、人員削減等の過酷なリストラが次から次へと続いた。それがやがて事業者の設備投資の大幅削減から機器発注の激減となり、ルーセント・テクノロジーズやノーテル等の大手機器メーカーも大変な苦境に立たされた。 2003年に入っても、当初はこの暗い流れが続いていたが、後半になって最近ようやく明るいニュースも聞かれるようになった。
不況脱出のための要員削減などはまだ続いているものの、リストラ効果も出始めて業績の立ち直りの兆しが出始めており、とくに後半になって明るいニュースが多くなってきた。しかし慎重な見方も多い。 2. FCCの市内競争政策の見直し「市内市場での競争促進」は1996年電気通信法制定以降FCCが最重要政策として推進してきた。しかし、実施に必要な具体的な規則はFCCが二度にわたり制定したが、その都度裁判所により不備をしてきされ差し戻されている。1996年電気通信法制定から既に7年も経過して、いまだにUNEの実行のための規則がない状態が続いており、FCCはこれを早急に定めねばならない立場に追い込まれていた。 紆余曲折のすえFCCはようやく今年新規則を定めた。
FCCは今年2月20日、長い論議と紛糾のすえ、市内通信での競争の基本となる改定規則の「枠組」を発表した。これは市内競争の増進のための便法の一つで最重要な「アンバンドリング(細分)された市内通信機能要素(UNEムUnbundled Network Elementsム参考参照)」に関するものである。しかし、政策面でも重要な問題であるだけに委員の間でも鋭く意見が対立し、ほとんどの委員が「一部分賛成/一部分反対」という稀な事態となり、結局は5名の委員の3対2の多数決で採択された。しかもその時点では骨子に相当する「枠組」のみが決められただけで、正式の規則本文は先延ばしされ、委員相互でまだ議論が続いていた。 半年も経ち、ようやく8月21日に正式な規則(「1996年電気通信法第251条の既存地域事業者のアンバンドリング義務、等」)が発表されたわけである。 しかし委員長は2月の場合と同様に、別に反対声明を出すという異常な状況は変わっていない。委員長は「新規則は誤った政策への踏出しであり、将来に禍根を残す」とまで厳しい批判を出している。 どの市内通信要素のライバル事業者への販売を義務づけるかの判定、また、その事業者間料金をどうするか等について、州当局に大幅に権限を委譲したこともあり、今後の実施段階で州ごとにバラバラの事態が出現し、それが訴訟合戦に移行し、州ごとに51もの裁判所の審理に長い時間がかかるなど、今後大きく混乱することも予想される。判決もバラバラになって、最終的には最高裁に持ち込まれ、最終決着までには相当の日時がかかる可能性がある。 今回の新規則で重要なもう一つの側面は、光フアィバやパケット交換等のライバル事業者への販売の義務づけは廃止するなど、裁判所によって無効とされた従前二回の規則が圧倒的に新規参入事業者に有利であった姿勢を大きく変換して、既存地域事業者の新規高度通信インフラへの設備投資インセンティブに配意している点である。この背景には、広帯域高度通信の普及促進という大目標のため、既存地域事業者による新規設備投資意欲の喚起の必要があるという事情がある。 財務力があり高度通信普及の要となるべき既存地域事業者は、光ファイバ等の広帯域設備にもライバル参入事業者による安値での「リセール」や「アンバンドリング」要請に応ずる義務を課されたのでは、設備投資の意欲がそがれると反対していた。とくに近時、インターネットの急速な普及やxDSL等の新テクノロジーの進展で、高度通信は重要な時期にさしかかっており、この問題の早期解決が迫られていた。 今回の新規則制定でFCCは、従来の「とにかく競争振興」「新規参入事業者助成偏重」という競争一辺倒の姿勢から、他の政策目標にも配意して、「既存地域事業者のインセンティブにも目配り」という一層広い次元へ一歩踏出したともいえ、その意味でも大きなニュースであろう。 (参考)1996年電気通信法の枠組 1996年電気通信法はその主目標の一つである市内通信市場での競争の促進で競争事業者の参入を容易にするため、「リセール」と「(市内サービス諸要素の)アンバンドリング」という便法を設けた。 3. FCC、電話番号ポータビリティを実施。固定電話と携帯電話の間のポータビリティも義務づけるなど市内通信での競争激化へ。顧客が事業者を変えるときでも従来から使っている電話番号を持ち出せるようにするのが「電話番号ポータビリティ」であり、これを既存地域事業者に義務づけるかどうかの問題である。 電話番号はとくに企業顧客の場合、多くの取引先にも周知しており、事業者を変えることで電話番号の変更が必要となるなら再度の周知等多額の負担もかかる等の事情から思いとどまるケースが多いため、競争促進の切札としてポータビリティ制度の実施が検討されてきた。 FCCはこのほど11月24日から、100の大都市地域でポータビリティを義務づける規則を実施した。しかも『固定電話』から『携帯電話』への移動の場合であってもポータビリティを既存地域事業者に義務づけるというものであり、そのインパクトが注目されている。
これにより「固定電話」または「携帯電話」という各業界内部でのポータビリティに限らず、業界の垣根を越えた電話番号の持ち出しが実現するわけで、固定電話から携帯電話への顧客の移動や、両業界内での事業者の変更が続々出現するものと予測されており、米国の市内通信での競争は本格的な山場を迎える。各事業者は顧客の流失防止のため、サービスの向上、料金の値下げ、革新的な新サービスの開発等の一層の企業努力が求められよう。 こうした大規模なポータビリティ制度の実現のため、事業者は10億ドルを超える設備投資を行ったとされる。また、今後もポータビリティのための余分な年経費も相当な額にのぼるといわれる。その費用の一部を回収するため一部の携帯電話事業者は既に毎月の請求書に数ドル程度の付加料金を新設している。 米国の固定網での市内通信での競争は、1996年電気通信法が新設した「リセール」や「UNE」(市内サービスを構成する各機能の細分とその新規事業者への販売の義務付け)という二つの便宜的方法によるものが大部分で、「新規事業者の自前設備に依存した本来の競争参入」は極めて少ない。Powell委員長は、「これでサービスの悪い固定網事業者から移動通信への逃亡も現実のものとなり、本来望ましい自前設備による市内電話市場での競争の進展に資することとなろう」と大きな期待を寄せている。 4. ベル系地域電話会社、ほとんどの州で長距離通信事業へ進出認可を取得1984年の「AT&T分割」で、AT&Tから切離されたベル系地域電話会社は長距離通信事業を禁止され、LATA(-ほぼ日本の県程度に相当)内の短距離市外通信か市内通信事業だけに制限された。しかし既に電話の普及がサチュレートした米国では加入者数の増加はあまり期待できず、ベル系地域電話会社は成長のため売上高増進の新天地として長距離通信事業への進出を求めていた。 1996年電気通信法はこの点に着目して、ベル系地域電話会社の長距離通信禁止の原則を緩和し、「その市内/地域通信市場をライバルに十分に開放したと認定されたベル系地域電話会社には、長距離通信事業への進出を例外的に認める」というメカニズムをこしらえた。 このメカニズムは、まず各州単位に各州の公益事業委員会が1996年電気通信法の例示する14項目のチェックリストに基づき、ベル系地域電話会社の市場開放状況をつぶさに審査し、十分と認定した場合に、FCCに長距離通信進出認可申請を出すことを認め、FCCは司法省独禁局の意見をも十分に斟酌した上で、認可を付与する仕組みである。すなわち、長距離通信への進出をニンジンの餌として、ベル系地域電話会社の市内市場を開放させるインセンティブとしたわけである。 ただ、ベル系地域電話会社がその市内市場を競争事業者に十分に解放したかどうかに関する州当局やFCCの審査はこれまで相当に厳しく、FCCはこれまで5件の申請を「市内開放不充分」として却下してきた。最初の認可はVerizonがニューヨーク州でやっと1999年12月に与えられた。「FCCの審査が厳しすぎ、折角1996年電気通信法が認めたベル系地域電話会社の長距離通信への進出が一向に進まない」との批判が高まったこともある。
最近はようやく認可も進み、既に47州とワシントンDCで認可が付与され、ベル系地域電話会社による長距離通信事業への進出が本格化している。長距離通信市場での競争がさらに過酷なものとなりつつある。 また、都市部以外では採算性の観点から競争事業者がなかなか進出せず、高速インターネット等の高度/高速通信のためのインフラ整備でベル系地域電話会社等の既存地域事業者に依存せざるをえず、議会では音声以外のデータ通信では即刻1996年電気通信法の制限を撤廃すべきだとの意見が強く、そのための法案も審議されている。 5. FCCが発表した各種統計資料FCCは1996年電気通信法が定めた義務もあり、毎年各種の調査/統計報告書を公表している。今年の主なものは次のとおりである。「市内電話市場での競争状況」は要点を付記した。
参考)FCCが発表した2002年12月末現在の市内通信での競争状況
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寄稿 木村 寛治 編集室宛>nl@icr.co.jp |
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