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海外情報
2003年12月掲載

海外ニュース、今年の回顧

 今年もはや12月。この一年間の海外電気通信市場での主なうごきをいくつかのテーマに絞って振り返ってみよう。

1. 電気通信業界の景気、ようやく明るい兆しも

 2000年を境に電気通信業界はブームによる過大投資、強引な企業買収、また欧州では次世代携帯電話免許オークションの狂乱等を主因とする未曾有の不況に突入して、多くの新規事業者が経営破たん、AT&T/BT/DT/FTやベル系地域電話会社等の大手事業者でも財務が著しく悪化し、人員削減等の過酷なリストラが次から次へと続いた。それがやがて事業者の設備投資の大幅削減から機器発注の激減となり、ルーセント・テクノロジーズやノーテル等の大手機器メーカーも大変な苦境に立たされた。

 2003年に入っても、当初はこの暗い流れが続いていたが、後半になって最近ようやく明るいニュースも聞かれるようになった。

(2月)
  • 電気通信業界回復開始の見通しインテルCEO、業界の景気回復はまだ先との観測
  • 仏テレコム、7,500名の削減を発表
  • Cisco、直近四半期は黒字
  • Sprintも黒字
  • 高速インターネットの新興事業者Covad、破綻から不死鳥のように立ち直る

(3月)

  • 仏政府、90億ユーロをフランス・テレコム(FT)に注入

(4月)

  • Verizon、ワシントン地区で665人のレイオフへ
  • AT&T、予想を上回る利益を計上、株価23%も値上がり
  • ノーテル、13四半期ぶりに予想外の利益計上、株価上昇
  • XO Communications 、前Global CrossingのCOOをトップに迎え、再建をはかる
  • Time Warner Telecom、第一四半期の赤字は前年同期を下回る
  • Nokia、インフラ部門で1,800名の削減へ
  • エリクソン、7,000人も削減へ

(5月)

  • BT系の携帯電話会社mm02、評価損で赤字
  • 欧州委員会、ドイツ・テレコムの不公正競争で罰金を課す
  • Telia-Soneraさらに1,200名のレイオフへ

(6月)

  • AT&T Wireless、さらに1,000名の削減へ
  • Ericsson、IBMとの取引の後1,000名削減へ

(7月)

  • Verizon、巨額の一時的損失を計上
  • 携帯電話事業者、番号ポータビリティで課金
  • AT&T Wireless、さらに1,000名の削減を計画
  • ルーセント・テクノロジーズ、13四半期連続の赤字。トップは先行きを楽観
  • FTの利益大幅に回復
  • エリクソン、損失が減少、年内に黒字復帰を声明
  • ノキアの利益、急減

(8月)

  • .Ciscoの売上高は横ばい、しかし明るい将来見通し

(10月)

  • AT&TとSBC、第三四半期業績はともに投資家の落胆を招く

(11月)

  • Sprint、さらに2,000名をレイオフ。落ち込む長距離通信への対応策
  • ノーテルCEO、電気通信機器への発注の急回復に疑念表明
  • Verizonの任意早期退職に21,600人が応募

 不況脱出のための要員削減などはまだ続いているものの、リストラ効果も出始めて業績の立ち直りの兆しが出始めており、とくに後半になって明るいニュースが多くなってきた。しかし慎重な見方も多い。

2. FCCの市内競争政策の見直し

「市内市場での競争促進」は1996年電気通信法制定以降FCCが最重要政策として推進してきた。しかし、実施に必要な具体的な規則はFCCが二度にわたり制定したが、その都度裁判所により不備をしてきされ差し戻されている。1996年電気通信法制定から既に7年も経過して、いまだにUNEの実行のための規則がない状態が続いており、FCCはこれを早急に定めねばならない立場に追い込まれていた。

 紆余曲折のすえFCCはようやく今年新規則を定めた。

(2月)
  • FCC、既存地域事業者のアンバンドリング義務に関する新規則の枠組を採択

(8月)

  • FCC、ようやく新市内競争規則(新アンバンドリング規則)を正式に制定

 FCCは今年2月20日、長い論議と紛糾のすえ、市内通信での競争の基本となる改定規則の「枠組」を発表した。これは市内競争の増進のための便法の一つで最重要な「アンバンドリング(細分)された市内通信機能要素(UNEムUnbundled Network Elementsム参考参照)」に関するものである。しかし、政策面でも重要な問題であるだけに委員の間でも鋭く意見が対立し、ほとんどの委員が「一部分賛成/一部分反対」という稀な事態となり、結局は5名の委員の3対2の多数決で採択された。しかもその時点では骨子に相当する「枠組」のみが決められただけで、正式の規則本文は先延ばしされ、委員相互でまだ議論が続いていた。

 半年も経ち、ようやく8月21日に正式な規則(「1996年電気通信法第251条の既存地域事業者のアンバンドリング義務、等」)が発表されたわけである。

 しかし委員長は2月の場合と同様に、別に反対声明を出すという異常な状況は変わっていない。委員長は「新規則は誤った政策への踏出しであり、将来に禍根を残す」とまで厳しい批判を出している。

 どの市内通信要素のライバル事業者への販売を義務づけるかの判定、また、その事業者間料金をどうするか等について、州当局に大幅に権限を委譲したこともあり、今後の実施段階で州ごとにバラバラの事態が出現し、それが訴訟合戦に移行し、州ごとに51もの裁判所の審理に長い時間がかかるなど、今後大きく混乱することも予想される。判決もバラバラになって、最終的には最高裁に持ち込まれ、最終決着までには相当の日時がかかる可能性がある。

 今回の新規則で重要なもう一つの側面は、光フアィバやパケット交換等のライバル事業者への販売の義務づけは廃止するなど、裁判所によって無効とされた従前二回の規則が圧倒的に新規参入事業者に有利であった姿勢を大きく変換して、既存地域事業者の新規高度通信インフラへの設備投資インセンティブに配意している点である。この背景には、広帯域高度通信の普及促進という大目標のため、既存地域事業者による新規設備投資意欲の喚起の必要があるという事情がある。

 財務力があり高度通信普及の要となるべき既存地域事業者は、光ファイバ等の広帯域設備にもライバル参入事業者による安値での「リセール」や「アンバンドリング」要請に応ずる義務を課されたのでは、設備投資の意欲がそがれると反対していた。とくに近時、インターネットの急速な普及やxDSL等の新テクノロジーの進展で、高度通信は重要な時期にさしかかっており、この問題の早期解決が迫られていた。

 今回の新規則制定でFCCは、従来の「とにかく競争振興」「新規参入事業者助成偏重」という競争一辺倒の姿勢から、他の政策目標にも配意して、「既存地域事業者のインセンティブにも目配り」という一層広い次元へ一歩踏出したともいえ、その意味でも大きなニュースであろう。

(参考)1996年電気通信法の枠組

 1996年電気通信法はその主目標の一つである市内通信市場での競争の促進で競争事業者の参入を容易にするため、「リセール」と「(市内サービス諸要素の)アンバンドリング」という便法を設けた。
 「リセール」は、競争事業者が既存地域事業者の市内サービスをまるごと割引料金で買い入れ、それを自己のサービスとして顧客に再販売する方法であり、「アンバンドリング」は、市内サービスをいくつかの機能要素(UNE:unbundled network elements)に細分し、競争事業者が自身ではまかなえない要素だけを既存地域事業者から割引料金で買い入れ、それと自身でまかなう要素とを組合わせて顧客に市内サービスを提供する方法である。1996年電気通信法は、競争事業者による「リセール」と「UNE」の要請を既存地域事業者は拒否できないとし、相互接続と同様に既存地域事業者の責務とし、義務づけた。また、UNEについては、「新規参入者の参入を阻害する(impair)ことのないよう、FCCはUNE実施のための規則を制定すべし」と命じた。これら二つの便宜的方法により、新規参入事業者はすべてを自己の設備で賄う必要がなく、多額の設備投資なしに簡単に市内市場に参入が可能となったわけである。

3. FCC、電話番号ポータビリティを実施。固定電話と携帯電話の間のポータビリティも義務づけるなど市内通信での競争激化へ。

 顧客が事業者を変えるときでも従来から使っている電話番号を持ち出せるようにするのが「電話番号ポータビリティ」であり、これを既存地域事業者に義務づけるかどうかの問題である。

 電話番号はとくに企業顧客の場合、多くの取引先にも周知しており、事業者を変えることで電話番号の変更が必要となるなら再度の周知等多額の負担もかかる等の事情から思いとどまるケースが多いため、競争促進の切札としてポータビリティ制度の実施が検討されてきた。

 FCCはこのほど11月24日から、100の大都市地域でポータビリティを義務づける規則を実施した。しかも『固定電話』から『携帯電話』への移動の場合であってもポータビリティを既存地域事業者に義務づけるというものであり、そのインパクトが注目されている。

(6月)
  • Verizon Wireless等の大手事業者、多大の設備改良費用を理由に携帯電話での電話番号ポータビリティ制度に反対

(10月)

  • FCC、携帯電話での番号ポータビリティの細則を決定

(11月)

  • FCC、100大都市で固定電話と携帯電話の間の電話番号ポータビリティをも含め実施

 これにより「固定電話」または「携帯電話」という各業界内部でのポータビリティに限らず、業界の垣根を越えた電話番号の持ち出しが実現するわけで、固定電話から携帯電話への顧客の移動や、両業界内での事業者の変更が続々出現するものと予測されており、米国の市内通信での競争は本格的な山場を迎える。各事業者は顧客の流失防止のため、サービスの向上、料金の値下げ、革新的な新サービスの開発等の一層の企業努力が求められよう。

 こうした大規模なポータビリティ制度の実現のため、事業者は10億ドルを超える設備投資を行ったとされる。また、今後もポータビリティのための余分な年経費も相当な額にのぼるといわれる。その費用の一部を回収するため一部の携帯電話事業者は既に毎月の請求書に数ドル程度の付加料金を新設している。

 米国の固定網での市内通信での競争は、1996年電気通信法が新設した「リセール」や「UNE」(市内サービスを構成する各機能の細分とその新規事業者への販売の義務付け)という二つの便宜的方法によるものが大部分で、「新規事業者の自前設備に依存した本来の競争参入」は極めて少ない。Powell委員長は、「これでサービスの悪い固定網事業者から移動通信への逃亡も現実のものとなり、本来望ましい自前設備による市内電話市場での競争の進展に資することとなろう」と大きな期待を寄せている。

4. ベル系地域電話会社、ほとんどの州で長距離通信事業へ進出認可を取得

1984年の「AT&T分割」で、AT&Tから切離されたベル系地域電話会社は長距離通信事業を禁止され、LATA(-ほぼ日本の県程度に相当)内の短距離市外通信か市内通信事業だけに制限された。しかし既に電話の普及がサチュレートした米国では加入者数の増加はあまり期待できず、ベル系地域電話会社は成長のため売上高増進の新天地として長距離通信事業への進出を求めていた。

 1996年電気通信法はこの点に着目して、ベル系地域電話会社の長距離通信禁止の原則を緩和し、「その市内/地域通信市場をライバルに十分に開放したと認定されたベル系地域電話会社には、長距離通信事業への進出を例外的に認める」というメカニズムをこしらえた。

 このメカニズムは、まず各州単位に各州の公益事業委員会が1996年電気通信法の例示する14項目のチェックリストに基づき、ベル系地域電話会社の市場開放状況をつぶさに審査し、十分と認定した場合に、FCCに長距離通信進出認可申請を出すことを認め、FCCは司法省独禁局の意見をも十分に斟酌した上で、認可を付与する仕組みである。すなわち、長距離通信への進出をニンジンの餌として、ベル系地域電話会社の市内市場を開放させるインセンティブとしたわけである。

 ただ、ベル系地域電話会社がその市内市場を競争事業者に十分に解放したかどうかに関する州当局やFCCの審査はこれまで相当に厳しく、FCCはこれまで5件の申請を「市内開放不充分」として却下してきた。最初の認可はVerizonがニューヨーク州でやっと1999年12月に与えられた。「FCCの審査が厳しすぎ、折角1996年電気通信法が認めたベル系地域電話会社の長距離通信への進出が一向に進まない」との批判が高まったこともある。

(4月)
  • FCC、Qwestに3州、SBCに1州での長距離通信事業を認可

(6月)

  • FCC、Qwestにミネソタ州での長距離通信事業を認可

(9月)

  • SBCにミシガン州で44州目の長距離通信事業認可

(10月)

  • FCC、SBCにさらに4州で長距離通信事業を認可。あと3州を残すのみ。ベル系地域電話会社の長距離通信事業への進出ほぼ完了。

 最近はようやく認可も進み、既に47州とワシントンDCで認可が付与され、ベル系地域電話会社による長距離通信事業への進出が本格化している。長距離通信市場での競争がさらに過酷なものとなりつつある。

 また、都市部以外では採算性の観点から競争事業者がなかなか進出せず、高速インターネット等の高度/高速通信のためのインフラ整備でベル系地域電話会社等の既存地域事業者に依存せざるをえず、議会では音声以外のデータ通信では即刻1996年電気通信法の制限を撤廃すべきだとの意見が強く、そのための法案も審議されている。

5. FCCが発表した各種統計資料

 FCCは1996年電気通信法が定めた義務もあり、毎年各種の調査/統計報告書を公表している。今年の主なものは次のとおりである。「市内電話市場での競争状況」は要点を付記した。

(6月)
  • FCC、2002年下半期の高速インターネット・アクセスの普及状況を発表
  • FCC、市内電話市場での競争状況を発表
  • FCC、携帯電話市場での競争状況の報告書を公表

(7月)

  • FCC、CATV料金の推移に関する報告書を発表

(10月)

  • FCCのスタッフ、OECD諸国での広帯域インターネット・アクセスの現状に関するレポートを発表

参考)FCCが発表した2002年12月末現在の市内通信での競争状況
−−UNE方式は競争事業者の参入の最重要な武器−−

  • 固定交換網の総回線数 1億8,800万回線のうち競争事業者の回線数は2,480万でシェアは13.2%(1年前には10.3%だった)
  • ケーブル利用の電話(cable telephony)回線数は、2002年下半期中に260万から300万へ15%の増加。300万回線は交換アクセス回線総数の2%を占める。
  • 競争事業者の回線の19%は他社のサービスのリセール方式(1999年12月末の43%から減少)、55%はUNE方式であり他社の市内回線を利用(1999年12月末の24%から増加)残余26%は自前の市内回線に立脚。
寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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