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2005年3月掲載 |
FCCの最近の活動と直面する課題
米国の連邦レベルでの電気通信/放送に関する規制機関であるFCCのPowell委員長は、「大胆でアグレッシブな一つの課題(注:昨年12月に制定された「UNE市内競争に関する第四回目の規則」であろう)を完了したところであり、私としては他の機会を追求したいし、また、誰か別の方にこの委員会の手綱をもってもらう時期であろう」という声明を出し、この三月に退任することとなった。
同氏は電気通信関係の弁護士だが、民主党のクリントン大統領の時代に始めてFCC委員に任命され、共和党のブッシュ大統領の就任とともに、委員から委員長に昇格してこの4年間FCCの舵取りをしてきたが、この間にFCCを取り巻く環境は大きく変化した。 ■通信市場の環境の激変とFCCのスタンスの変化1990年代後半に、グローバル事業者としての生き残りのためには規模の拡大以外にはないとの「信仰」から吹き荒れた通信事業者の合併/買収ブームも、2000年を境にいわゆるITバブルの崩壊以来、一転して未曾有の通信不況で事業者の倒産、行詰り等が相次いだ。WorldComなど国防通信の一翼を担っていた大手事業者の相次ぐ経営破たんで、Powell委員長は「これまでFCCがやったことのない通信事業者の経営安定への緊急措置などのまったく新しい仕事に初めて取り組んだ」と述懐している。 テクノロジーの急速な進展とインターネットのインパクトで、業界の環境もまったくと言えるほど変容しつつある。1996年電気通信法では、ベル系地域電話会社の長距離通信事業は、例外として市内網をライバル事業者に完全に解放したと認定された場合を除き、原則禁止とされているのに、いまやすべての州でベル系地域電話会社の長距離通信事業への進出が認められている。1996年電気通信法の原則と例外がもはや逆になっているのである。 不況でどの事業者もリストラ等の足場固めに専心し、ここ2--3年は全く沈静化していた合併/買収も、
など、このところ大型の案件が相次いで登場し、FCCと独禁局の審査待ちとなっている。しかし、大方の予測では、これらの案件はいずれもが承認されるであろうと見られている。Powellの二代前で1996年電気通信法制定時のFCC委員長だったHundt氏は、「私の時代にはこのような超大型合併/買収は間違いなく政府の青信号はえられず、考えられもしなかった」と言っている。それほど時代が変わったのである。 こうした環境の革命的な変容につれ、FCCも「規制の緩和/削減/撤廃」、「競争参入事業者偏重から既存事業者のインセンティブにも配意」等、通信政策面でもFCCのスタンスは目に見える形で流れを変えてきた。しかし、FCCの抱える課題はきわめて多岐にわたり、FCCの重要性がかってないほど高まっている。FCCのこの4年間の主な動きと、その抱える課題について見てみよう ■通信政策を左右するFCCFCCは行政機関であり、5名の委員の任免も大統領が指名し議会(上院)が承認することとなってはいるが、大統領に対してではなく、議会に対して直接責任を負う「独立委員会」である。建前としては、議会が示す通信政策に従って事業者等の管理運営を行ういわゆるwatchdogとされている。議会では両院に商務委員会があり、さらにその中に電気通信小委員会が常設されており、ここに長年在任する専門知識/経験豊かな議員が活発に法案の起草や通信政策に携わっている。1996年電気通信法策定の段階では、「1984年のAT&T分割以降、その同意審決の解釈と称して長年にわたり裁判所(Greene判事)が実質的には通信政策を決めてきたが、通信政策を決めるのは本来議会であるべきだ。この法案で議会が主導権を取り戻すのだ。FCCは議会の定めた通信政策に従って日常の管理/監督を行うに過ぎない。」という勇ましい主張が関係議員によってなされた。 しかし、議会が通信政策のすべてわたって目を配るのは不可能で、実際には「法律施行のための規則の制定」の過程や、事業免許、合併/買収の認可等を通じて、FCCが通信政策の相当の部分を定めているというべきであろう。 ■多い裁判所による干渉もちろん、行政裁判が盛んな米国では、事業者がFCCの規則や処分を不服として裁判所に提訴するケースが大変多く、裁判所の関与も日本では考えられないほど多い。 例えば、1996年電気通信法が市内通信の競争の促進策として編み出したUNE制度、すなわち、「アンバンドリング(細分)された(既存地域事業者の) 市内ネットワークの諸要素(Unbundled Network Elements)の規制された格安事業者間料金での(競争参入事業者への)リース義務」の具体化実施のためのFCC規則(UNE規則)は、既に三回も裁判所による「一部無効/FCCへの差戻し」で法制定以来9年間も経過してなお正式には制定されていない。FCCはやっと昨年12月に四回目の規則を制定したが、一部の事業者が不満で、これまた近いうちに裁判所で争われそうな事態となっている。 ■Powell委員長の「安易な競争政策に対する批判」と業績Powell委員長は、最近退任したPowell国務長官の息子であり、共和党系のFCC委員である。マスメディアの所有集中に同情的だとして放送の分野では議会から批判されたが、通信政策の面では一貫して規制の削減と廃止のスタンスを崩さなかったと評価されている。すなわち、「安易なUNEなどの便法で、既存地域事業者の設備を規制された格安料金でリースし、自社の名前で顧客に転売して、いわば利鞘を稼ぐだけの形ばかりの競争事業者」を批判し、「通信市場での競争は、自前設備による競争参入こそ新規の設備投資や雇用を産むもので、競争参入の本筋である」との信念で、既存地域事業者にリースを義務づけるケースを大幅に絞込み、ことにフアィバ・ツゥ・ザ・ホームなどの広帯域回線についてはリースを認めないなど、既存地域事業者の設備投資意欲にも配意する方針を貫いた。 2003年2月に第三回目のUNE規則が採択された際には、Powell委員長は、異例なことながら、「この規則案が自前設備に立脚した競争の進展を逆に阻害する」、また、「州当局に審査権限を余りに多く委譲しすぎている」との二点から反対に回り、少数意見を発表するなど、気骨のある委員長であった。 また、アフリカ系の血を引く父が苦学力行した環境で育った背景もあり、ヒスパニックや米国インディアン等の少数民族の支援にも尽力した。 ■Powell委員長の任期中の政策面でのハイライトFCCは委員長の退任声明に添付して、この4年間のFCCの主な動きをカテゴリー別に集約した資料を発表しているので、まず、その主なものを拾ってみよう。全文は「別添資料」として本稿末尾に添付してあるが、具体的に規則制定やアクションの要旨と年月を添えてあり、大変参考となる。
このようにFCCはこの4年間、実に多彩な活動をしてきた。しかも明確なビジョンと目標を持ち、自らの組織・機構も市場の変容にあわせて積極的にリストラを行っている。 ■FCCの今後の課題「かってはテレビとラジオの免許を交付するなどだけの地味な役所であったFCCは、今日ではテクノロジー革新とともにその職責とインパクトが増大している」(ニューヨーク・タイムズ)。 FCCは、市場の変容やテクノロジーの進展に応じて柔軟に通信政策を策定、実行し、自らも変容してきているが、まだ多くの課題を抱えている。当面の課題だけでも、次のように目白押しである。
さらに、急速な市場環境の変化で1996年電気通信法そのものも実態にそぐわなくなりつつあり、その見直しと改正が議題に上りつつある。
「別添資料」 FCCプレス・レリーズ 「委員長任期中の政策面でのハイライト」 (2005年1月21日)Powell委員長のビジョンは、当初から一貫して、「米国市民がもっとパワーを持てるような、また、彼らの生活を豊かにし、よりいっそう多くの選択肢がもたらされるような革新的なテクノロジーを振興するように法令を正しくセットすること」であった。このビジョンは様々な形をとっている。 I.広帯域および高度テクノロジー Powell委員長のリーダーシップのもと、FCCはCATVおよびDSL利用の広帯域通信を促進した。また、この重要なテクノロジーへの、いつでもどこでもの、ユニバーサルなアクセスに向けて大きな可能性をもたらす広帯域プラットフォームにも尽力した。 1. ケーブル(CATV)および光ファイバ利用の広帯域 (1) ケーブル・モデム・サービスのフルスケールでの展開のリスクを除去
(2) 光ファイバの家庭までの引込みの促進のための強力なインセンティブの設定
2. 電波利用の広帯域
3. 電力線利用の広帯域 第三の家庭向け広帯域パイプ。電力線利用の規制面での障壁の最少化(2004/10) 4. インターネット利用の音声通信(Voice over the Internet) 有用な消費者むけサービスの規制をクリーニング
II.携帯電話の革命的な改革 米国の携帯電話の数は1億7000万に達し、固定電話に代わる主要な電話としての地位を得つつある。委員長は率先して、周波数管理を従来の規制のモデルから市場のモデルへとシフトさせるよう努め、電波を一層革新的/競争的に利用できるようにした。 電波利用の新しいモデルを創造 消費者志向のアプローチ
III.消費者の選択肢の拡大 委員長のリーダーシップのもとでFCCは、新しい通信方式の選択肢を反映しつつ、消費者の選択肢を拡大するため、消費者保護をアップデート化した。
IV. 自前設備による電話事業での競争 委員長は、経済的なインセンティブを合理的に導入する措置を主導し、真の競争のポテンシャルを解き放った。こうした競争は、設備への投資に立脚しており、サービス商品の多様化、より一層のイノベーション、そして低料金/低価格につながる。 競争構造の創造 伝統的な電話サービスのバリューの向上
V.公安および米本土セキュリティ
VI. デジタル時代にふさわしいメディア政策 [省略] VII. FCCのリストラ 最近のドラマチックな世情の変化に伴い、FCC自身も変身を迫られている。最新のテクノロジー、経済動向、業界分析、法令とともに変わってゆかねばならない。新聞報道等には出ないものの、FCCの内部マネージメントこそ最も重要である。
[FCCプレス・レリーズの付属資料]Powell委員長在任中の業界の進展 ワシントン・ポスト(2005/1/22) 「Powell FCC委員長辞任へ」FCCのPowell委員長は辞任する意向を表明した。彼の任期は、メディアと電気通信の環境がどんどん変わる中でしばしば難題に遭遇した時期であり、電波上での下品な番組を巡る論争でも彩られた。 かってはテレビとラジオの免許を交付するなどだけの地味な役所であったFCCは、今日ではテクノロジー革新とともにその職責とインパクトが増大している。彼はFCCをおおむね規制緩和の道筋に沿って舵きりをしてきた。それがインターネット電話や次世代携帯電話等の新しい機器やサービスを促進するからという基本理念からであった。 この4年間はデジタル化の面で注目すべき変化の期間であった。大手ケーブル事業者のComcastが消費者むけの電話事業に参入する反面、AT&Tが撤退を開始し、電話サービスもインターネットに依存し始め、デジタルTVなども出現した。 Powellは評価が分かれる存在であった。一部からは大企業の味方だとみなされる反面、一部ではビジョンをもった男だと評価された。彼は昨日のインタービューで、「私は、テクノロジーは法人よりも消費者に力をあたえるものだとのビジョンをもっている。FCCは課題をほぼ達成したと考えている。」と述べた。 辞任するPowell国務長官の子息で41歳の彼は、3月に辞任するつもりだとしている。まだ次の就職先は決まっていないとのことである。彼は陸軍にはいったが訓練中に大怪我をして退役し、電気通信Lawyerとなった。1997年にClinton大統領によりFCC委員に任じられた。2000年にブッシュが大統領となり、委員長に昇格した。 後任については、共和党系のFCC委員でありながら政策面で時々Powellと衝突したMartinが可能性がある。彼の妻はCheney副大統領の顧問であり、夫妻ともに政府に友人が多い。 Powellと近かったFCC委員のAbernathyの任期は昨年6月に切れたが延伸された。今年には退任したいと洩らしているという。民主党系のCoppsの任期は5月までだが、本人は次期も希望している。12月に再任されたばかりの民主党系委員のAdelsteinだけが安泰である。 Powellの任期中に最も記憶に残るのは、CBS放送で、2004年のSuper Bowlの中継中に歌手JanetJacksonの胸が短時間露出したことから始まった下品な番組論争であろう。この他には、デジタルTVへの移行問題、インターネットの高度機能の展開、電話業界のラディカルな変容などにかかわった。メディアの所有集中の制限の緩和も試みた。彼の退任を惜しむ者(J. McCain共和党上院議員)がいる反面、退任を歓迎する者もいる。 CingularによるAT&T Wirelessの買収等を認可したが、EchoStarによるDirecTVの買収は消費者を害するとしてブロックした。 |
寄稿 木村 寛治 編集室宛>nl@icr.co.jp |
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