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2005年4月掲載

アクセス・チャージ制度の抜本的改革に励むFCC

 FCCは2001年から創設後20年あまりを経過したアクセス・チャージ制度の抜本的な改革に努めているが、このほどその中間報告ともいえるものを発表した。着手以来、募集したコメントや提言のなかから主要なものを要約し、それにFCCとしての基本的な方針をも提起し、さらに関係者からのコメントを求めている。最終決着までにはなお時間が必要だが、今後の方向を示唆するものとして重要であろう。

■わが国でも論議

 わが国でも昨年、長距離通信事業者や携帯電話事業者等のいろいろな事業者がNTTの地域回線を利用する場合の「事業者間の接続料金」や「施設設置負担金」制度の改定を巡り、総務省の情報通信審議会を舞台に厳しい論議を呼び、10月19日に答申が出された。この「事業者間料金」は、いわゆるアクセス・チャージであり、他の事業者の呼を処理することに必要なNTTのコストをトラヒックで割った形になっている。それが携帯電話の急激な増加や定額制通信の普及でNTTの固定網のトラヒックが減少したため、いわば自動的に接続料金が上昇に転じたため、国内の他の事業者や米国など海外からも算定方法の見直しが求められていたのである。

 答申は結局、NTTのコストのうち「トラヒックに無関係な固定的部分」まで「通話度数」に帰納して回収することは不適切だとし、この部分を段階的に接続料算定の原価から除外して月額の基本料金として回収すべきだとした。

 しかし、事業者間の接続料金の問題は、本来、当面の糊塗策として技術的に算式をいじるだけで済む問題ではなく、まずその本来のあるべき姿に立ち返り、さらにユニバーサル・サービスとの関連なども勘案し、通信政策全体としてもっと広い視野から総合的に考えていくべきものであろう。

 その意味で、今回のFCCのアクセス・チャージ改革の中間報告を機に、アクセス・チャージの先進国である米国でのアクセス・チャージ創設の経緯とその問題点、今後のかいかくの方向などを整理してみたい。

■米国でのアクセス・チャージ制度の発端

 米国では1984年の「AT&T分割」以前には、利用者の大半は、長距離サービスはAT&Tの長距離通信事業部、市内/地域サービスはAT&Tの子会社の24の電話運営会社(operating companies)から購入していた。両者あわせた「ベル・システム」という大企業グループ内で、高止まりしていた長距離通信料金から生じた利益で、同一グループ内の市内通信の赤字を補填するというベル・システム内部での不透明な内部相互補助(cross subsidization)が行われていたのである。

 分割により地域通信担当のベル系地域電話会社7社がそれまでの親会社だったAT&Tから切離され、両者は一転してむしろライバル関係となった。そのため従前の内部補助に代えて、外部からも明確にわかる形でコストの分担の流れを明確にしなければならなくなったのである。そこで登場したのが「アクセス・チャージ制度」である。

 今回のFCCの「中間報告」(第二次規則制定の予告: Further Notice of Proposed Rulemaking on Intercarrier Compensation [2005/2/10採択、 2005/3/3 公布])は、この間の事情を次のように述べている。

  • 現在の事業者間の相互接続のアレンジは、規制上の区分に基づく様々なタイプの事業者と様々なタイプのサービスごとに異なる事業者間の補償制度であり、非常に込み入っている。連邦と州のアクセス・チャージに関する規定は、長距離通信事業者(IXCs)および商用移動無線(CMRS)事業者が長距離通信を発信および終端する市内交換事業者(LECs)に対して行う支払いについて規定している。また、1934年通信法第251(b)(5)条に基づき設けられている相互補償(reciprocal compensation)規定は、アクセス・チャージには服さない呼の伝送と終端に関する電気通信事業者間の補償について規定している。
  • 1984年のAT&T分割以前には、ほとんどの電話加入者がその市内サービスをベル系地域電話会社から、また、長距離通信サービスをAT&Tの長距離通信事業部から取得していた。この両者はともにAT&Tが所有と運営を行っていた。分割に備えてFCCは1983年にタリフに基づく正式なアクセス・チャージ制度を設けた。この制度では、複数の事業者が共用する回線(common line)に関するコストを、加入者に課す月額の定額課金(monthly flat-rated subscriber line charge ;SLC)と長距離通信事業者(IXCs)に課す分単位の事業者間共用回線課金(per-minute carrier common line charge ;CCL)に二分割した。CCLは最終的には長距離通信料金としてエンドユーザーから回収される。SLCは住宅加入者については3.50ドルを最高額として定め、残余の共用回線からのコストはCCL課金で回収した。交換に関するコストは、CCL課金で回収された。FCCはこれらのアクセス・チャージはかかるサービスの提供に要する平均のembedded costに立脚して算定するよう義務づけた。

 つまり、米国では最初から「トラヒックに応じては変動しないコスト」と「トラヒックに応じて変動するコスト」に二分し、前者はエンドユーザーに回線ごとに「月額定額料金」(monthly flat-rated subscriber line charge ;SLC)として課し、後者は、最終的には長距離通信料金としてエンドユーザーから回収されるものの、長距離通信事業者が地域通信事業者に分単位で支払う「分単位の事業者間共用回線課金」(per-minute carrier common line charge ;CCL)によることとしたのである。SLCは、住宅用と事務用では差があるが住宅用の場合、月額3.50ドルを最高額とし、経過措置として当初は1.5ドルからスタートし、数年かけて3.5ドルになるようにした。

■現行の事業者間補償制度は「時代遅れ」とし抜本改革へ

 FCCはかねてから長距離通信料金が不当に高すぎて、利用者の長距離通信利用が不当に抑制されているとしており、競争進展とテクノロジーの進歩により長距離通信料金が急激かつ大幅に低落した事情もあり、「分あたりのCCL料金」は低減させる方針を貫いてきた。しかし、通信市場での環境の激変により現行のアクセス・チャージ制度は実情にそぐわなくなり「時代遅れ」(outmoded)となったとし、2001年に「アクセス・チャージ」とそれ以外の市内事業者間での「事業者間相互補償」(reciprocal compensation)の双方を包括した広義の「事業者間補償制度」の抜本的な改革手続を開始した。FCCの今回の「中間報告」は「なぜ抜本的な改革が必要か」について、次の三点を指摘している。

  1. 市内通信と長距離通信とか、固定電話と携帯電話とか、伝統的な規制上の区分ごとにアクセス・チャージ制度も別々となっているが、市場ではこれらの様々なサービスを組合せたパッケージ・サービスが多くなってきており、区分が曖昧になってきていること
  2. コスト回収で回線ごとの月額定額料金もあるが、依然、「分単位」のアクセス・チャージの比重が大きいこと
  3. 最近は多様な通信が出現しているのに、アクセス・チャージ現体制では「発信側のネットワークが(すべての補償を)支払う」原則となっていること

具体的には以下のように述べている。

  • これまでの経過で明らかになった事実は、現行の事業者間補償の体制の根底をなす三つの原則は、アクセス・チャージと相互補償ルールの当初の採択以降の市場 での大幅な進展に照らし再検討がなされねばならないということであった。
  • 第一は、現体制が諸サービス間での事業的または技術的な区分とは結びつかない司法的および規制的な区分に立脚していることである。この手続の当初にFCCが確認したことだが、本質的には同様なサービス機能に対して、様々なタイプの事業者が様々な異なる料金を支払うということから規制面での恣意が引き起こされている。FCCの現在の区分では、ネットワークの似たような利用であっても事業者は異なる取扱いを義務づけられている。こうした差異のある取扱いは、通常何の事業的又は技術的な根拠もないにもかかわらずである。こうした人為的な区分が電気通信市場を歪め、健全な競争を阻害する結果となっている。さらに、(市内サービスと長距離通信サービス等を組合せ) 一括したサービスや革新的な新サービスが利用できるようになって、現行ルールの基礎をなしている伝統的で規制的な区分同士の境界面も曖昧になりつつあるのである。
  • 第二には、われわれの現行の補償体制は、平均的なコストの回収を分単位ベースに依存している。平均コストに立脚した料金設定のもとでは、あるネットワークは加入者をひきつける魅力のある設備に投資し、そのコストの一部を競争関係にあるいくつかのネットワークから選択する加入者から回収する。競争が進展するにつれ、事業者間料金を通してコストを競争相手に付け替えることができれば、それは競争のプロセスを著しく歪める結果をもたらす。さらに、電気通信インフラの進歩で事業者コストの発生の態様が影響されれば、分あたりの料金設定の利用に疑問が生ずる。
  • 第三には、現体制の下では、発信者側の事業者が、それが市内事業者、長距離通信事業者、さらには携帯電話事業者のいずれであるかは問わずに、着信側の事業者が呼を終端することに対して補償する形になっている。したがって、通常は現体制では「発信側のネットワークが(補償を)支払う」(calling-party-network-pays)こととなっている。消費者でさえが自己の電気通信サービスをマネッジする能力を持ち始めた今日、発信側が唯一のコスト発生要因であり、ある呼のコストのすべてについて支払う責任があるという前提が崩れ始めている。こうした最近の進展が、FCCに対して、新しい一元的な事業者間補償体制へ向けての前進を義務づけているのである。

 FCCは、現行のアクセス・チャージ制度がテクノロジーの進歩や市場での変化にそぐわなくなっており、これをそのまま放置すれば、事業者の投資にも間違ったインセンティブを生じさせたり、競争を歪めることとなるのを恐れているのである。

■今後のあるべき姿に関する主要な提案を紹介、それに対するコメントを募る

 FCCは今回の中間報告で、これまでにFCCに寄せられた様々な提案のうち主要なものを次のように要約して提示し、それに対する更なるコメントを募っている。

各方面からのアクセス・チャージ改革の主要な提案
提案者 提案の概要

Intercarrier Compensation Forum (ICF). :
9社のいろいろな事業者のグループ

今後6年間をかけて、分あたりの料金の大半をゼロまで削減する構想

Expanded Portland Group (EPG).:
地方の中小事業者からなるグループ

二段階に分けて最終的には、「分単位料金」を「容量(capacity)に立脚した料金」に置き換えていく提案

Alliance for Rational Intercarrier Compensation (ARIC). : 高コスト地域でサービス提供を行っている群小地方事業者を代表する団体

そのFair Affordable Comprehensive Telecom Solution (FACTs) plan は、分あたり料金を事業者のembedded costsの水準で統合一元化するプラン

Cost-Based Intercarrier Compensation Coalition (CBICC): 競争交換事業者を代表する団体

各々の地域ごとにすべてのタイプのトラヒックについてコストに立脚した終端料金(termination rates)を設けるプラン

Home Telephone Company and PBT Telecom (Home/PBT).地方の市内交換事業者の団体

現行の体制を「接続に立脚した事業者間チャージ」(connection-based intercarrier charges)で置き換えるプラン

Western Wireless: 14州でユニバーサル・サービス助成金を取得している携帯電話事業者

4年間をかけて、事業者間のチャージを、bill-and-keep (事業者間で請求は行うが実際の支払は行わないでお互い精算する方式)に置き換え

NASUCA  (the National Association of State Utility Consumer Advocates)

5年間をかけて、一部の事業者間料金のレベルを削減する。

 以上、最近のFCCによるアクセス・チャージ等の改革の動きについて紹介したが、事業者間の切実な問題であるだけに意見の集約も難航が予測され、最終的な新体制がいつ出来上がるかは予測が難しい。

■わが国でもアクセス・チャージ制度とユニバーサル・サービス制度の抜本的改革を

 わが国でもアクセス・チャージ制度の根本的見直しが動き出してはいるが、冒頭に述べたように当面の措置である平成17年以降のアクセス・チャージの算定方法の情報通信審議会での論議が厳しい意見対立となった事情を見ても、早い時期にすんなりと固まるとは考えられない。

 米国の経緯でもわかるように、アクセス・チャージは通信市場に競争が導入されたために生み出された事業者間の決済方式であり、ユニバーサル・サービスの維持とも密接に関連する制度である。米国では、1996年電気通信法成立当時のHundt FCC委員長が「競争導入は、公平なアクセス・チャージ制度とユニバーサル・サービス制度と三位一体である」と明言したが、まさにその通りである。

2002年に米国の地域事業者が受領したアクセス・チャージ実績は、

  1. 基本料とは別に加入者から毎月定額で受領したもの 12,758百万ドル
  2. 長距離通信事業者/携帯電話事業者から受領したもの 13,955百万ドル

と、日本にはない1.が2.とほぼ同額にも達している。

 ユニバーサル・サービス制度も確立しており、いわゆるデジタル・デバイドの防止策の一環として学校や図書館にインターネット等の新しい高度通信を導入する意欲的な政策に基づくものまで手厚く助成が行われているが、それらを除外した、いわば「古典的な」ユニバーサル・サービスだけについて見ても2003年の実績では、

  1. 高コスト地域の赤字補填  3,273百万ドル
  2. 低所得地域の赤字補填    713百万ドル

が地域電話会社に支払われている。

 こうした手厚いアクセス・チャージ制度やユニバーサル・サービス制度が既に実際に機能していることもあって、ベル系地域電話会社等の地域事業者の経営基盤は充実しており、それだからこそベル系地域電話会社であるSBCやVerizonが長距離通信会社であるAT&TやMCIの買収に乗り出せているのである。

 わが国では、アクセス・チャージは2.相当するものだけで、ユニバーサル・サービス助成は実際には一度も支払われていない。こうした中で、トラヒックの減少で「分単位のアクセス・チャージ」が高くなるのを押え込むために、「直収電話」といわれるNTT以外の競争事業者も月額の基本料金をとる動きが顕在化しているというのに、NTTの基本料の値上げか、企業努力で吸収せよという暴論が提起されていた。

 アクセス・チャージは本来、長距離通信事業者や携帯電話事業者等の他の事業者が既存地域事業者の設備等を利用して呼を発信/終端する場合に、両者が公平にコストを分担することで両者がともに事業を発展させられるようにするためのものである。アクセス・チャージを不当に安く設定して既存地域事業者に過大な負担を強いるようなことがあれば、既存地域事業者の設備投資意欲がそがれ、競争も歪められることとなる。まず、アクセス・チャージ制度とユニバーサル・サービス制度を完全な形に見直すのが先決であろう。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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