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2005年6月掲載

米国で論議高まるインターネット電話の規制方針

−FCC、IP関係サービスの規制免除申請を却下。申請の手続面での不備を理由。目下作業中の基本方針策定へのフリーハンドを確保か。
−FCC新委員長もこの問題の重要性は認める。待たれるインターネット関係サービスの包括的なグラウンド・ルールの早期策定。

 FCCは4月末に、ベル系地域電話会社のSBCがFCCに申請していた「IP関係サービスについては1934年通信法第二編が定める電気通信事業者に対する規制のような重い規制を『差し控える』(forbear)ように」という申請を却下した。しかしこれはIPサービスをこれまでの電気通信サービス同様に厳しく規制するというわけではなく、単に申請の手続面での瑕疵を理由としている。

 Martin新委員長も同時に声明を出し、「手続上の問題で申請は却下するものの、この問題の重要性は認める。私もかねがね提唱してきたように、高度通信の早期の米国全土への普及促進のためには、ここで提起されたインターネット・プラットフォーム等の広帯域設備への投資は不可欠である。伝統的な規制の廃止が新しいパケット方式のネットワークの展開を促進することは間違いない。」としている。

 FCCは、後述のように、かねてから「インターネット関連サービスには重い規制は避ける」という基本的な姿勢をとってきており、昨年からインターネット関連サービスの規制のあり方について包括的なグランド・ルール作りを開始している。今回、一見、従来からとは逆に見える措置をとったのは、1934年通信法による「差し控え」の規定で、FCCは申請を1年以内(FCCが必要とする場合、さらに90日間の延伸は可能)に却下しないかぎり、自動的に申請を受諾したものと看做されることとされており、とりあえず「手続面の不備」を理由として申請を一応却下して時間を稼いだものと見られる。

 今回は、米国で論議が高まっているインターネット電話等の新しいサービスの規制のあり方を巡る沿革や最近の動き、また、競争の進展や市場での変化に応じて規制を最小限に削減していくことを法律で義務づけている米国の先進的な通信政策を眺めてみよう。

■SBCの申請とその狙い

 2004年2月5日、SBCは「IP プラットフォーム・サービス」に対する第二編の電気通信事業者に関する規制を差し控えるよう求める申請を提出した。「IP プラットフォーム・サービス」とは、SBCの定義によれば、「顧客がIP プラットフォームを用いてIPフォーマットで通信を送受できるサービス、及び、かかるサービスの提供に用いられるIPプラットフォーム」としている。FCCは従前から「インターネットにより可能となるサービス」という意味で、(internet enabled services)といっているが、これとほぼ同意義と解してよかろう。つまり、インターネット関連サービスについては伝統的な電話サービスに対する重い規制の適用除外を求めたのである。

 SBCの申請の狙いは、同社が今年後半に展開を狙っているフアィバ・ツゥ・ザ・ホームのIPネットワークなどの新しい設備の建設の経営的判断に先立ち、先行きの規制が不透明で、従来の電話サービスと同様な厳しい規制をかけられるなら投資に二の足を踏むこととなるので、インターネット関連サービスは規制しない旨の確約を早急にとりつけたいということのようである。 FCCはSBCの意図を次のように見ている。
「SBCはその補足説明で新規に構築されるフアィバ・ツゥ・ザ・ノード(FTTN)およびフアィバ・ツゥ・ザ・ホーム(FTTH)のIPネットワークをカバーすることを意図しているとしている。SBCは、これらの新しい光ファイバ設備と従来からのATMネットワークとを区別しており、その申請は、前者に関してのみの第二編(の規制)からの差し控えを求めているもので、後者については求めないとしている。」

 FCCも重い腰をあげて昨年からインターネット・サービスに関する規制の基本方針の策定に乗り出しているが、後述のように容易ではなく、いまだに作業中であり、これに業を煮やしたベル系地域電話会社等が「とりあえず」の形でも、非規制の方針を明確にしてほしいと要望したものであろう。

■1934年通信法の規制

 SBCが求めた「規制の差し控え」は、1996年電気通信法により大幅に改正された1934年通信法によって定められているもので、電気通信事業者は誰であっても不要や有害と思われる規制の適用の差し控えをFCCに申請できることとされている。

 改正された1934年通信法の編別構成は次のようになっている。

第1編  総則 (第1条---第11条)
第2編  電気通信事業者 (Common Carriers) (第201条---第276条)
第3編  無線に関する諸規定  (301---399)
第4編  手続および失効上の諸規定
第5編  違反、罰金
第6編  ケーブル通信(CATV等)
第7編  雑則

 第2編の「電気通信事業者」(common carrier)とは、「有線または無線を用いて州際または国際通信においてcommon carrierとして賃貸に携わる者、もしくは、州際または国際でのエネルギーの無線による伝送に携わる者」と定義されている。[第3条(10)]
すなわち、固定電話と携帯電話のいずれも含めて、FCCの所管である州際/国際通信に関し、厳しい規制が課されている。

 なお、「規制の差し控え」(forbear)とは1996年電気通信法により改正された1934年通信法第10条に次のように定められている。[要約]

1934年通信法第10条  「電気通信サービスの提供における競争」

(a)項 「規制の柔軟性」
FCCは、以下のように認定した場合には、規制や本法の諸規定の電気通信事業者や電気通信サービスに対する適用を差し控えねばならない。

  1. 特定の電気通信事業者や電気通信サービスについて、料金やサービスが公正、低廉、非差別的に提供されており、規制や規定の履行が必要ない場合
  2. かかる規制や規定の履行が消費者保護のためにも必要がない場合
    かつ、
  3. かかる規制や規定の適用の差し控えが公益に適う場合

(b)項 「競争の進展状況の勘案」
FCCは、前項(3)号に基づき決定を行う場合には、その差し控えが競争の進展をもたらすこととなるかどうかを勘案しなければならない。

(c)項 「差し控えの申請」
電気通信事業者は、誰であっても、FCCに対しその本条による規制の差し控えを申請することができる。FCCが申請を、要件に適わないとする理由で一年以内に却下しない場合には、申請が認められたものと看做す。FCCはこの期限を90日間は延伸できる。
(d)項 「制限」  [省略]

(e)項 「FCCによる差し控え後の州当局による執行」
州当局は、FCCが本条(a)項により規制を差し控える旨の決定を行った本法の規定を、その後も継続して適用することはできない。

 1996年電気通信法制定当時には、競争の推進がメインテーマとなり、様々な競争促進策が1934年通信法に織り込まれた。同法に新たに追加された第11条「規制の改革」は、1998年を最初として偶数年度ごと(二年ごと)に、FCCはすべての規制について、なおその存続が必要かどうかを洗い直し、不要または時代の進展にそぐわなくなったと判定された規制は直ちに廃止するよう指示されている。同法制定の過程では、「1996年電気通信法がこれほど競争を徹底的に推進する以上、すべてのサービスが競争となり独占は皆無となるのだから、市場に任せればよく規制も不要となり、FCCのような規制機関も不要となる」という極論が真剣に討議されたほどである。結局、FCCの廃止というドラスティックな措置に代わるものとして設けられたのが第10条および第11条である。

 SBCが要請したのは、FCCによるインターネット関係サービスの包括的な規制方針の策定が遅れているので、その補完として、インターネット・サービスについては、この「規制の差し控え」の規定を適用し、FCCは従来からの「インターネット関連は規制を軽く」という方針をさらに一歩前進させて欲しいとするものであった。それが認められれば事業者のインターネット関連の設備投資が低規制を背景に促進されると考えたからである。

■インターネット通信に関するFCCの方針

 FCCは、早い時期から、インターネットはできるかぎり規制を差し控え、自由なのびのびとした成長を尊重するという方針を一貫して採ってきている。生まれたばかりの若い技術や事業分野では、規制により人為的にその発展をゆがめることを恐れてのことである。もっとも、そうした結果、IP電話は規制されず、サービス面では大差のない通常の固定電話は重い規制が課されたままという矛盾も露呈しつつある。

 FCCは早くからインターネット以前でも、コンピュータ関係サービスは「情報サービス」として規制の重い「通信サービス」と峻別し、規制をできるだけ差し控える(forbear)方針を貫いてきた。しかし、FCCは、インターネット電話サービスについては、Pulver社のサービスなど個別のサービスについて「これは情報サービスだから規制しない」等、ケース・バイ・ケースに認定してきただけで、一般原則的な包括的ルールは定められずに今日に至っている。

 1934年通信法の制定当時には、もちろんコンピュータもなく、CATVもインターネットもなかった。新しいテクノロジーやサービスの出現に応じて、1934年通信法もFCCもその都度、次々に対応してきた(第6編:CATV関係規定の大幅追加等)が、テクノロジーやサービスさらには事業者自体までが融合/一体化の傾向にあり、「通信サービス」と「情報サービス」の境界もあいまいとなってきた。先にも触れたIP電話も良い例で、インターネット関係のサービスだとしてFCCは規制を差し控えているものの、電話事業者側からは「われわれが重い規制に服しているのに、ISP(インターネット・サービス事業者)等の提供するIP電話は、サービス面では差がないにもかかわらず、規制フリーだというのでは、公正を欠く」との苦情が絶えない。

 極言すれば、FCCはこれまでこうした問題を当面糊塗して、抜本的な解決を先延ばししてきたとも言えよう。テクノロジーの進展の早い産業分野であり、多種多様なサービスが出現しているだけに解決は難しいが、インターネットも十分に市民権を確立した今日、こうした問題の抜本的な解決がFCCの重要な課題として浮かび上がってきていた。

 そこでFCCも重い腰をあげ、2004年2月にインターネット・サービスの規制の一般的なルール作りの作業を開始した。インターネット・サービスの規制をどうするか、その中でもいくつかのグループに分けて差異のある取扱いをすべきか、等々について広くコメントを求めることから着手した。FCCはその規則制定予告で次のように述べている。

 FCCは本日、インターネット利用の音声サービスで消費者に一層の選択肢を付与できるようにするための主要な手続を開始した。これはまた、通信市場に対し規制の明確性を提供するものであり、インターネット利用のサービスを一層促進することを狙ったものである。

 本日採択された規則制定の予告は、インターネットの諸サービスは引き続き最少の規制に服すべきである
という方針を再確認するだけでなく、同時に、通信がインターネット利用サービス(internet enabled services)へと移行するのに対応して、公安、警察への緊急通信、法律執行部門によるアクセス等の重要な社会的諸目標の実現のためのメカニズムも変革が必要であることをも認識してのことである。

 インターネット利用の通信サービスは、100年以上にもわたり米国が利用してきた公衆交換電気通信網(PSTN)利用のサービスとは異なるものである。これらの新しいサービスは、低通信コスト、より一層革新的なサービスと機能、より一層大きな経済生産性と成長、等をもたらすだけでなく、国防面でも望ましい代替ネットワークの拡充や消費者の選択肢の向上にも資する。

 インターネット・サービスに関する規制の妥当な取扱いのあり方に関するコメントの募集に加えて、本日の規制制定予告は、多様なサービスをカバーする広範囲の諸問題を下問し、インターネット・サービスと在来型の電話サービスとの差異の具体的な適用、さらにインターネット・サービスにもいくつかの区分の適用を提起している。具体的にいえば、例えば、E911(訳注:高度化版の警察消防への緊急通話)、障害者によるアクセス、アクセス・チャージ、ユニバーサル・サービス等が様々なタイプのインターネット・サービスにも拡大適用されるべきかどうかについても下問している。さらに、制定予告はインターネット・サービスの各タイプごとの法的および規制面での枠組や各カテゴリーごとの司法面での考慮点についても下問している。
(2004/2/12  FCCプレス・レリーズ)

 引用したFCCのプレス・レリーズでも、「インターネットの諸サービスは引き続き最少の規制に服すべきである」としており、こうした基本的な姿勢が大幅に変更されることはあるまい。

 今回のSBCの「規制差し控え」申請に対するFCCの決定は、FCCがインターネット・サービスに関する基本的なルールを策定するまでは、事前になし崩しにその枠組を小出しにすることを避けたものと解するべきものであり、インターネット関係についてはできる限り従来からの規制回避の方針は変えないとの表明であろう。FCCによるインターネット・サービスの規制に関する包括的なグランド・ルールの策定が待たれている。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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