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2005年9月掲載

FCC、高速インターネット・アクセスでのライバルへの設備開放義務を廃止
---自前設備を持たないDSL事業者の存亡の危機。またもや安易な競争策を圧縮。---

 昨年来、自前設備をもつ既存事業者のライバルへの設備開放義務の廃止に舵を切ってきたFCCが、またもや既存地域事業者に有利な措置を打ち出した。今度はDSL等の高速インターネット・アクセス・サービスでの措置である。

■今回の措置の要点

 今回の措置の要点は次のとおりである。

  1. これまで既存事業者に課されてきた、自前のインターネット・アクセス設備を持たないISP等の新規競争事業者にも設備を共用(share)させる義務を廃止
  2. 現在既に既存事業者から借りた設備に立脚してDSL等のサービスを提供しているISP等には、経過措置として今後1年間に限り現状どおりを保障
  3. 今回の「義務廃止」の背景は、CATV(ケーブル)、無線、衛星、電力線利用など様々なテクノロジーの前進による広帯域サービスでの競争の進展
  4. 政策転換の理由付けは、高速インターネット・アクセス・サービスを規制の重い「電気通信サービス」から規制の軽い「情報サービス」に整理変替えしたことによるが、ユニバーサル・サービス基金への拠出義務は今後も少なくも9か月は存続
  5. 狙いは、既存事業者の広帯域設備投資意欲の振興であり、先頃最高裁の判決で確定した「CATV(ケーブル)事業者はその広帯域設備をライバル事業者に解放して利用させる義務はない」をうけて、電話会社にも同様な立場をつくること

 現在電話会社等から設備を借りてサービスを提供しているISPは、その根拠が1年以内になくなるという大変な変革である。思い切った方針変更に踏み切ったのである。

■最近のFCCの自前設備事業者尊重の新方針

 民主党政権下だった1996年電気通信法制定当時は、とにかく競争促進一辺倒で、とくに市内通信市場では、競争事業者育成だけに目が行っていた。同法は、市内での競争促進のため、自前の設備を持たない新規事業者も容易に市場に参入できる便法として、既存地域事業者に対しその設備を利用させる義務を課した。まるごとの「リセール」だけでなく、たとえば市内サービスをその提供の前提となるいろいろなサービス機能要素(加入者回線、管路、番号案内、市内交換機能等)に細分して必要な要素だけを既存地域事業者から提供をうける「アンバンドリング(UNE)」という方法も設けた。これらの事業者間のリース料金も新算定方式で極端に安い料金を規制で強制した。既存地域事業者側はこれでは採算割れだと悲鳴を上げるほどであった。とくにUNE制度は競争事業者に人気があり、UNE方式での競争事業者の顧客が急増した。

 ブッシュ大統領の共和党政権となってからは、FCCの5名の委員の構成も共和党系委員が多数となり、こうした安易な競争促進策に反省が出てきた。Powell前委員長は、「こうした変則的な競争事業者優先には問題がある。既存事業者はせっかく多額の設備投資をしてもそれをライバル事業者に安い規制料金で利用させる義務がついていたのでは、設備投資意欲がそがれる」とし、舵を逆に既存地域事業者よりにきり始めた。

 彼はさらに、「競争は本来、自前の設備での参入に立脚すべきものである。自前設備主義の利点は、次のように多く、明らかである」とした。

  1. 「リセール」や「アンバンドリング」では新規の設備投資を伴わず、他人の設備を利用する「形ばかりの競争」である。
  2. 自前設備では実際の設備投資が行われ、GDP拡大や雇用開拓の貢献がある。
  3. サイバーテロ対策の面でも、新規事業者の新設備が作られれば、別系統のネットワークもできることとなり、ルートや設備の多様化で効果がある。

 2005年2月15日に公示された市内競争規則(改定UNE規則)の前書きで、FCCはこのような新しい方針を次のように簡潔に説明している。

「前回の3年ごとの規則の見直し手続で、消費者市場むけの広帯域アーキテクチャに関するほとんどのアンバンドリング[訳注:「アンバンドリング」とは、加入者回線とか、交換機能とか、市内サービスを細かい要素ごとに細分し、新規参入競争事業者に必要な機能だけを既存地域事業者からリースする権利を規制面で補償すること。事業者間のリース料金も新算定方式で極めて安く設定されていた。]の要件を廃止してきた。この措置で(既存)事業者の高速サービス機器やサービスへの投資が容易化された。この見直し作業は、消費者むけの次世代回線へのアンバンドリングされたアクセスを制限する効果をもった。」

「今回の規則では、FCCはさらに、自前設備に立脚した競争からもたらされるイノベーションと投資を助長するため、次のステップをとった。第251条に基づくFCCのアンバンドリングに関する権能を一層焦点を絞って、この規則は、競争事業者がその特定のネットワーク要素なしでは本当に(genuinely)参入が阻害される (impared)場合、かつ、アンバンドリングが永続可能な自前設備に立脚した競争を阻害しない場合に限り、(既存地域事業者に)アンバンドリング義務を課すこととしている。」

「本規則は、アンバンドリング義務をより一層絞った形で課している。すなわち、アンバンドリングを要請する(競争)事業者は、まず自身の自前設備に投資を行い、その自前設備とあわせてUNEsを用いていく場合に限定した」

 今回の措置もそれと同じ流れに沿ったもので、これまで既存事業者に課されてきた、自前のインターネット・アクセス設備を持たないISP等の新規競争事業者にも設備を共用(share)させる義務を廃止したのである。

■FCCの新サービス非規制の方針

 FCCは、コンピュータ関係やインターネットなど市場に新規に登場してまだ日も浅いサービスについては、できるだけ規制を回避して、自然な発展にまかせることを基本姿勢としてきており、そのため「電気通信サービス」(Telecommunications service)とは別の「情報サービス」(Information service)というカテゴリーを設けて電気通信サービスの重い厳しい規制を避けている。

 しかし、最近VoIP等のように、インターネットと電話が結びつき一体化するとともに、こうした境目も曖昧となってきており、電話会社からはサービスの態様自体はほとんど変わらないのに、インターネット電話ならアクセス・チャージやユニバーサル・サービス基金への負担もないというのは不公平で、競争にならないとの苦情がでている。FCCはこれまで、ケース・バイ・ケースで事業者ごと、特定のサービスごとに裁定してしのいできたが、昨年ついに重い腰をあげて、VoIP等の規制のグランド・ルールの策定作業を開始した。

■今回の高速インターネット・アクセス関係の措置

 8月5日のFCCプレス・レリーズは、次のように述べている。

なぜ方針変更が必要か

  • FCCは本日、自前設備を持つ有線の広帯域インターネット・アクセス・サービス事業者に課されていた(ライバル)事業者との設備共用義務を廃止することにより、消費者により良い広帯域サービスが一層提供されるような政策を採択した。

  • 今回の改正は、有線の広帯域インターネット・アクセス事業者が効率的で革新的なサービスを消費者ニーズに応えて迅速に提供できるようにするとともに、他のプラットフォームを用いる広帯域サービスと真正面から競争できるようにするものである。このFCCの措置は、インターネットを通信に利用する面での市場やテクノロジーでの変化に対応し、インターネット・サービスが多様なパイプライン、すなわち、ケーブル、無線、衛星、電力線ネットワーク等で提供されるという現状に即応しようとするものである。

  • 今回の規則は、通常DSLテクノロジーで提供されている有線広帯域インターネット・アクセス・サービスを、現在では市場のリーダーとなっているケーブル・モデム・サービスと規制面で平等の扱いに改めるものである。これは、最近の最高裁による「ケーブル・モデム・サービスを軽微な規制に留めているFCCの扱い」を支持する決定とも一貫している。いくつもの広帯域プラットフォームを規制面で同様な取扱いとすることは、広帯域ネットワークへの設備投資を計画している潜在的な事業者に、規制面で歪められない市場の実情に即した意思決定に資するものである。

根拠付け

 こうした方針変更の根拠づけとしては、FCCは、次のように説明している。

  • 具体的にはFCCは、有線広帯域インターネット・アクセス・サービスは一種の電気通信部分(telecommunications component)と機能的に一体化された「情報サービス」(information services)であると認定した。これまでは、FCCは、自前設備を持つ事業者に対し、その有線広帯域伝送部分(wireline broadband transmission component)を彼らのインターネット・サービスからは切り離し、独立したサービスとして電気通信事業者ベースで(on a common-carrier basis)提供するよう義務づけ、したがって、この(伝送)部分を「電気通信サービス」(telecommunications service)の一種であるとしてきた。本日FCCは、この伝送部分の(競争事業者との)共用義務を廃止した。

 つまり、これまでは、高速インターネット・アクセス・サービスは、広帯域伝送部分とインターネット・サービスという二つの構成要素(compornent)から成り立つとし、前者は独立して切離せる「電気通信サービス」だと認定し、これをライバル事業者にも解放提供するよう義務付けてきた。しかし、今回、高速インターネット・アクセス・サービスは、「電気通信部分と切離せず一体化した『情報サービス』である」と認定し直したというわけである。「情報サービス」である以上、「電気通信サービス」のようにはライバル事業者にも利用させる義務はないという論理である。

既存のISPの利用契約は今後一年間は存続

 しかし、今回の措置のインパクトの大きさから、次のように経過措置を設け、ISPの既存の契約が直ちに破棄されることよる利用者への影響を軽減することとした。

  • 円滑な移行の確保のため、今回の規則は、自前設備の有線広帯域インターネット・アクセス・サービス事業者に対し、今後一年間にかぎり、既得権ベースで、非系列のISP(インターネット・サービス接続事業者)に対しては、既に現在提供している有線広帯域インターネット・アクセスの伝送を継続提供することを義務づけている。
ユニバーサル・サービス基金への拠出義務も9か月は存続

 高速インターネット・アクセス・サービスを「電気通信サービス」とは異なる「情報サービス」へ整理替えする以上、これまで同サービスの売上高に比例して課されてきたユニバーサル・サービス基金への拠出金の義務も消滅するのが本筋だが、それでは基金の財務基盤が危うくなるとして、FCCが新ルールを作るまでか、または、9か月間は、従来どおり拠出を継続することとした。

・さらにこの規則は、自前設備の事業者がユニバーサル・サービス制度に基づき行っている拠出金を継続することも義務づけた。この拠出は、本規則の発効期日から、FCCが拠出に関する新規則を制定するまでか270日間かのいずれか早い期間にわたり、DSL伝送に関する現行の報告水準に基づき算定するものとする。FCCがこの270日間に新拠出規則を制定できなかった場合には、270日間を延長するなり拠出額計算のベースを拡大するなり、必要な措置をとる所存である。

従来どおりのライバル事業者への提供継続も任意ベースで容認

 ライバル事業者への設備解放義務は廃止するが、自前設備をもつ既存事業者が自発的に自己の判断でライバルに提供することを禁止するものではないとしている。

  • 今回の規則は、有線事業者に対し、有線広帯域インターネット・アクセス・サービスの伝送部分を、系列または非系列のISPに電気通信事業者ベースあるいは非電気通信事業者ベースまたは両者の混合ベースで提供する弾力性を認めている。一部の僻地既存地域事業者は広帯域インターネット・アクセス伝送を電気通信事業者ベースで提供するという選択を行うことを申出ている。

■苦しい論理構成

 以上が今回のFCCの方針転換の概要であるが、その狙い、方向は納得できるものの、その根拠付けには無理があるといわねばなるまい。それは、高速インターネット・アクセス・サービスを「電気通信サービス」から「情報サービス」に移し変え、「したがってライバル事業者への貸与義務はない」とした点である。「情報サービス」であれば本来、ユニバーサル・サービス基金への拠出義務はないにもかかわらず、9か月という暫定措置とはいえ、これまでどおり義務は残した。電話会社をケーブル事業者と同じ競争条件に改めるという政策目標から、電気通信サービスであるがライバルへの開放義務は免除することにしたといえば済むことではなかったのか。昨年の市内競争規則(UNE規則)の改定時に、光ファイバ等の広帯域設備については、既存地域事業者の設備投資意欲振興のため、ライバル事業者への設備解放義務を廃止しているが、インターネット・アクセスについてもこのように「電気通信サービス」のままでも政策面の必要で開放義務を廃止することができたはずである。

■消費者団体は懸念を表明

 Consumer Union等の消費者団体は、「これでは既存事業者の立場が強くなりすぎ、自前設備のないISPは多数市場から退場を余儀なくされるか、電話会社からリース料金の値上げを強制されることとなる。ひいては消費者料金も値上げの圧力にさらされる」と懸念を表明している。

 いずれにしてもFCCが取り組んでいるVoIPをも含めたネット・サービス全体の規制のあり方に関する基本ルールの策定が待たれる。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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