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2005年10月掲載

ハリケーン対応:すばやく動いたFCC

 8月29日に米国南部を襲った超強力大型ハリケーンKatrinaでは、Louisiana, Mississippi, および Alabamaの南部3州で甚大な被害を生じ、米国政府の対応の遅れに非難が高まった。通信設備も大被害をうけたが、規制当局のFCCは迅速に多様な対策を打ち出している。もちろんわが国では規制が異なる部分もあるものの、参考となる施策も多々あるので、整理してみたい。

■矢継ぎ早に様々な弾力的な措置

 まず、8月末からのFCCの主な措置を日付順に列挙してみる。

  1. 8月31日  放送事業者やCATV事業者に緊急アンテナ建設を認めるほか、放送の暫定的中断、昼間のみの放送局が夜間も被害状況等の放送が行えるよう等の弾力的運用の許可[メデイア局]

  2. 8月31日  被災通信設備復旧等の相談、 アドバイスを提供する旨公示[エンジニアリングおよびテクノロジー局]

  3. 9月1日  地上局、衛星局等の弾力的臨時措置の申請手順 [国際通信局]

  4. 9月1日 電話番号付与規則および電話番号ポータビリティ規則にかかわらず、11月までの暫定措置として、種々の制限を撤廃し、3州での被災者が他の地域に一時避難する等の事態への対応に必要なかぎり、電話番号を本来のrate centerなどの規定以外の地域にでも持ち出せる。また、本来の事業者に代わってサービス提供を行う別の事業者についても弾力的に認める。[FCC]

  5. 9月2日   Labor dayの休日期間もFCCは休業せず平常どおり執務

  6. 9月4日  事業者が、顧客の要請により電話を休止とし、料金を請求せず、顧客が立直ってから同一電話番号で復活することができるようにするため、以前住宅顧客に割当てられていた電話番号を他者に割当てるまで90日間を超えない期間は事業者による保留を認める規則の適用を一時差し止める。

  7. 9月5日  被害にあってサービス提供ができなくなった事業者から別の事業者に一時、顧客を移管することができるよう、事業者変更規則を修正する。
    また、顧客があらかじめ選定、登録した事業者を顧客に無断で変更するslammingという行為は禁止されているが、災害でやむなく事業者を緊急に変更する必要がある場合には、FCCの定めている「事業者変更手続」にかかわらず弾力的に変更を認める。

  8. 9月7日  インターネット等のネットワークを利用して携帯電話料金を支払っていた顧客等がネットワークの障害のため料金を期日までに支払えない恐れがあるが、郵便や固定電話も被害により正常なオペレーションができない地域も多く、携帯電話だけが唯一の家族間の連絡手段でもあることに鑑み、料金不払いを理由に携帯電話を通話停止することは認めない。各事業者はこの指示の遵守状況をFCCに報告すること。[無線通信局および消費者/政府対応局]

  9. 9月7日  公安機関、企業、携帯電話事業者等の多様な無線通信利用者が被災地域で罹災し、設備復旧に尽力中であり、場合によっては周波数の融通や共同利用も必要な事態であるため、こうした協議を促進するため、関係窓口を一覧表にして公示。[無線通信局]

  10. 9月9日  10日(土)および11(日)の週末もFCCは休業せず平常どおり執務

  11. 9月23日 24 (土)および25 (日)の週末もFCCは休業せず平常どおり執務

■顧客および事業者の救済/復旧資金としてFCCの自己管理の資金2億ドルを拠出

 上記の諸措置は、いわば制度上の様々な制約を緊急措置として弾力的に緩和したものであるが、FCCはさらに自己の所管するユニバーサル・サービス基金から2億ドル(約235億円)もの資金を手当てし、拠出するという実質的な措置まで打ち出した。

 また、災害等への対応の強化のため、“Blue Ribbon”パネルを設置し、今回の被害を調査分析し、今後の備えやネットワークの信頼性の増強等の改善策を諮問する。

 さらに、新たに内部部局として「公衆安全/本土セキュリティ局」(Public Safety/Homeland Security Bureau)を新設した。そのプレス・レリーズは次のとおり。

FCCプレス・レリーズ  (2005/9/15)

 FCCのMartin 委員長は本日、ハリケーンの被害者と企業に2億ドル余りの緊急助成を行うと発表した。

4つのプログラムを通じて、211百万ドルを、ユニバーサル・サービス基金から、ハリケーンで被害を受けた消費者、学校、図書館、医療機関等に支出することとなろう。

  • FCCの「低所得対策プログラム」を通じて、被災地で電話サービスから切離されている人々に、携帯電話ハンドセットと300分無料通話のパッケージを提供。
    災害の復旧で消費者を再びネットワークに接続するコストをも助成。(51百万ドル)
  • 「僻地医療機関助成プログラム」を通じて、赤十字等の公的および非営利の医療機関で被災者に医療サービスを提供している機関に、テレメディスン(遠隔診断)に用いられる高度サービスについて助成(50%のデイスカウント) (28百万ドル)
  • 「教育図書館高度通信導入助成プログラム(E-rate)」を通じ、被災地域の機関は再度、助成申請が可能(132百万ドル)
  • 「(僻地等の)高コスト地域プログラム」を通じ、Bell Southが被災したワイヤ・センタ等の設備の再建を助成

並行して、専門家による“Blue Ribbon”パネルを設置し、今回の被害を調査分析し、今後の備えやネットワークの信頼性の増強等の改善策を諮問する。

 さらに新たにPublic Safety/Homeland Security Bureauを新設し、他の機関との連携の強化をはかる。同局は以下の職責をもつ。

  • 911等の緊急通信
  • 緊急時の優先通信
  • 国民への警報
  • 政府機能の持続確保
  • 災害対応マネージメント
  • 通信インフラ保護
  • ネットワーク信頼性とインターオペラビリティ
  • ネットワーク・セキュリティ

■FCCのユニバーサル・サービス制度

 FCCは、行政機関あり、その5名の委員も大統領が指名し、議会の承認をうることとされているが、いわゆる独立委員会であるので、大統領の指揮から外れ、議会に直属する。

 さらに、その運営費用のほとんどを、認可手数料等の規制手数料(Regulatory Fees)で賄っている。先頃議会に提出された2006年度の予算要求書でも、FCCの歳出権限として総額は$304,057,000を要請しているが、そのうち$299,234,000は規制手数料(Regulatory Fees)で賄うこととしており、残余の$4,823,000だけを一般会計の歳出として計画している。[(2005/4/26) Martin委員長の下院歳出委員会での2006年度FCC予算見積に関する証言]

 こうした事情もあり、一般の省庁よりは運営の自主度が高い。

 また、米国ではユニバーサル・サービス制度が確立され、赤字地域での事業運営等には多額の助成がユニバーサル・サービス基金を経由して支給されている。

 FCCのユニバーサル・サービス制度は、

  1. 学校および図書館関係(すべての効率学校の教室にインターネットを設置、等)
  2. 僻地高コスト地域関係(加入者密度の低い地域の事業者に助成)
  3. 低所得地域関係(都市部でも低所得者が集中しているような地域に助成)
  4. 医療機関関係(とくに僻地の医療機関の遠隔診断システム等)

に区分されているが、本来的なユニバーサル・サービスである2. と3. に加え、1996年から学校や図書館、医療機関等が低廉なコストで高度通信の恩恵に浴せるよう二つの助成対象を加えた。

 基金の必要額は毎四半期算定し、全電気通信事業者に売上高に応じて一定比率で拠出させている。

 とくに学校関係は、当時のゴア副大統領の政策で、貧困者の子息と裕福な子弟でのインターネット等の最新テクノロジーへのアクセスの差、すなわち、いわゆるデジタル・デバイドの解消を目指し、全米の学校の全教室にインターネットを設置すべく、設置費用の補助と設置後の通信料金の割引助成が重要視された。

 学校関係の助成費用は4項目中でも最大で、1997年以降で総額110億ドルの巨額に上り、そのため全通信事業者に課されるユニバーサル・サービス基金への拠出金も巨額に達し、議会でもその是非が論議されたこともある。とくに件数が多いため、不正受給、重複受給、詐欺等も多発し、また、実務を受託しているthe Universal Service Administrative Company (USAC)の管理の甘さと非能率も指摘されている

 FCCは、こうした巨額のユニバーサル・サービス制度をコントロールしており、そうした財務力を背景に、今回のような迅速な助成が行えるわけである。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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