ホーム > トピックス2005 > |
2005年12月掲載 |
海外通信この一年間の動き
はや12月。恒例により海外通信業界のこの一年間の動きを振り返ってみよう。
やはり一番に目立つのは、米国での超大型の二件の買収合併劇である。SBCによる長距離通信第一位の名門AT&Tの買収、Verizonによる同じく長距離通信第二位のMCIの買収と、ベル系地域電話会社の大手2社が競うように長距離通信大手を傘下に収めた。まさに1996年電気通信法制定当時の常識では、許されるはずがなく、いや、考えられさえもしなかったような超大型の、しかも地域通信と長距離通信の合併が実現したわけである。常識が180度ひっくり返ったといても良い。米国ではそれほど、この10年間で市場環境も規制当局の考え方もが大きく変わったのである。 主なニュースや出来事等は別表に月別に整理してあるが、まず、大きな事項と流れを要約してみる。 1. 米国、欧州ともに合併ブーム再来かSBCによるAT&Tの買収と、VerizonによるMCIの買収は、10月末にFCCと司法省独禁局の審査が終わり認可された。前者は11月にすべての手続を完了し、既に新AT&Tとして発足した。後者は一部の州当局の免許譲渡認可が残り未完了であるが、年内か遅くも1月には完了する見通しである。1990年代後半に吹き荒れた買収/合併旋風は、2000年頃のテレコム不況でまったく鳴りを潜めていたが、超巨大な二件の合併が実現した。 SBCは買収後に社名をAT&Tに変更したが、実質はSBCによるAT&Tの吸収合併であり、新AT&Tの役員18名のうち旧AT&T出身者は僅かに3名のみ。名門AT&Tはついに元子会社に呑みこまれた。まさに一つの時代の終焉といえよう。 欧州でもスペインのTelefonicaがBTの携帯電話部門だったO2を買収する。仏テレコム(FT)も英国のC&Wの買収を計画しているとの報道もある。無謀ともいわれた超積極的な国際進出のトガメと3G携帯電話免許の採算度外視の競り合いによる免許料の高騰で、負債が急増し財務に深い傷を負った英、仏、独の大手事業者は、折からの通信大不況も重なって、軒並み経営が行詰っていたが、業績の回復もあり、このところ再び提携、再編の動きが目立つようになってきた。
2. 米国では大手電話会社とCATV会社が四重プレーで激突へ米国ではこれまで競争といえば、ベル系地域電話会社を中心とした地域電話会社と、AT&TやMCIなどの長距離通信会社の間の戦いであった。1996年電気通信法制定までに毎年のように両者の対立で何年間も法案が流されてきた。しかし、ベル系地域電話会社が、例外として認められていた長距離通信事業への進出を州単位に順次果たし全州で認可を取得して、激しい料金値下げ競争で体力を喪失していた長距離通信会社を前述のように買収する構図が実現した。長距離通信会社は完敗して、ベル系地域電話会社の軍門に下ったのである。 旧AT&Tは一時、長距離通信のみでなく地域通信事業へも進出を目指し、all-distance companyを標榜したが、挫折した。合併で誕生する超巨大新2社は、地域通信、長距離通信、国際通信、携帯電話、xDSLのすべてのサービスを提供するだけでなく、テレビ事業への進出を目論んでいる。 代わってベル系地域電話会社のライバルとして登場してきたのが、ケーブル(CATV)会社である。米国ではケーブル加入者がわが国とは比べようもないほど多く、そのケーブルはほとんどの家庭の前まで張り巡らされている。ケーブル事業も通信事業同様に1934年通信法で規制されているが、そのフランチャイズ免許はほとんどが一地域1社のみというのが現状であり、いわば地域独占状態となっている。電話料金がインターネット電話などの出現やライバルの携帯電話の普及で、長距離通信のみでなく市内料金までが値下がり傾向で、最近のパッケージ・プランの多様化でさらに値下がりのプレッシャーのもとにあるのに対し、ケーブル料金は値上がりの傾向にあり、議会や規制当局は第二、第三のケーブル事業者の参入促進に躍起となっている。 普及が飽和状態に近づいたケーブル会社は、こうした豊かな財務を背景に、新天地を求めてVoIPテクノロジーを武器に電話市場への進出を図り始めている。一方、電話会社のほうも固定電話および携帯電話の普及が飽和し、電力線利用通信からの競争もあり、売上高が横ばいとなっており、また、そのフアィバ・ツゥ・ザ・ホーム等の光ファイバの大きな容量の活用の必要性からも、テレビ事業への進出を熱心に図っている。 こうした事情から、最近は電話会社とケーブル会社がお互いの市場に相互に進出する動きが目立つ。いずれもが、電話、携帯電話、インターネット、ビデオの四種類のサービスの提供、いわゆるquadruple playを目指して激突しつつある。 従来のケーブル・フランチャイズ免許は、1934年通信法により、市町などの地方政府が付与することとなっており、電話会社は、たとえばVerizonの場合、10,000を超える市町にフランチャイズ申請をしなければならないという。これでは大変煩雑で、時間もかかってしまうため、VerizonやSBC等は、フランチャイズ手続の簡素化を要請しており、連邦議会でも簡素化の法案が上程されそうになっている。FCCもひろくコメントを求めて簡素化の方向で動き出している。また、テキサス州議会は、フランチャイズ免許を州単位一本で付与する法律を制定した。 もっとも電話会社のテレビ事業進出にはいろいろな困難があり、SBCはそのテレビ事業をLight-speedと名付けているが、その導入はその商標名のようには早くいってはいない。
3. FCCの動きまず、Powell委員長が退任し、後任に同じく共和党系のMartin委員が昇格した。方針では、前委員長の「競争事業者優先の行き過ぎの是正と既存地域事業者のインセンティブへの配慮」等の方向を承継しており、あまり変化はない模様である。具体的な例としては、
今後の大きな課題は、
4. その他の米国政府関係の動き
5. インターネット・ネットワークへの全面移行の推進
6. 欧州関係等欧州の事業者は、1990年代後半の海外進出の失敗や3G携帯電話免許の競り合いによる巨額負債等で生じた痛手からまだ完全には快復していないが、スペインのTelefonicaの積極的な活動が目立つ。欧州全体としても買収/合併の動きが胎動し、エクゼクティブの間でも論議が始まっている。 BT
FT
DT
Telefonica
Telstra
7. 10年一昔。激変する環境、逆転する常識米国では、1996年電気通信法制定以降のこの10年間で、通信業界での常識がまるで180度逆転したといっても言い過ぎではあるまい。 1996年電気通信法により大改定された1934年通信法は、ベル系地域電話会社に関する特別規定でベル系地域電話会社の業務に大幅な制約を課していた。すなわち、
こうした法制のもとでは、今回のようなベル系地域電話会社が長距離通信会社を買収するなどはもってのほかである。現に1996年電気通信法制定当時のFCC委員長だったHundt氏は、SBCがAT&T買収の方針を打ち出した1年前に「われわれの頃には、こうした買収計画などは考えもつかなかった」と評していた。 これら2件の巨大合併を認可したFCCと司法省独禁局は、ともに、「電話業界では、携帯電話の急速な普及、ケーブル会社からの競争、インターネット・テクノロジーによるVoIP等の進展があり、状況が大きく変わっている。たしかに合併で競争が減少するというマイナス面はあるが、地域通信と長距離通信が有機的に一体化して、革新的なサービスの開発が期待されるうえに、合併のシーナジー効果で大幅なコスト削減が期待でき、それが消費者やビジネスの利便に繋がるとの展望もある。こうしたプラス面がマイナス面を上回る」という論拠で、承認したのである。 わが国では、未だに県内通信と県外通信の区分が現存しているが、米国では市内も長距離通信も一体化して「かけ放題」の定額サービスが普遍化しつつある。NTTグループが、子会社相互間のサービスの重複を整理してシーナジー効果を快復しようとしただけで、独占への回帰だと批判が出ているが、米国の動向を見た場合には、それこそ周回遅れの井の中の蛙の見方といわざるを得ない。 1990年代後半に、21世紀には3ないし4の巨大なグローバル事業者だけが生き残れるとして、規模を追求する合併フィーバーが吹き荒れたが、米国での超巨大通信会社の誕生を目の当たりにして、わが国の近未来の通信事業に不安を抱くのは果たして杞憂と言い切れるのだろうか。
|
||||||||||||||||||||||||
寄稿 木村 寛治 編集室宛>nl@icr.co.jp |
▲このページのトップへ
|
InfoComニューズレター |
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。 InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。 |