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2006年2月掲載 |
FCCの2005年の成果と2006年の課題
FCCは1月20日、公開の会議を開催したが、その席上、各内部部局が「2005年の活動成果と2006年の課題」についてプレゼンテーションを行った。
2005年には、「SBCによるAT&Tの買収」と「VerizonによるMCIの買収」という超大型二大合併の認可をはじめとして、ハリケーン被害への対応など、FCCとしても様々な活動があったが、FCCの規制面では、異業種間の競争の進展を評価してベル系地域電話会社Qwestの「既存地域事業者としての義務の大幅軽減」や、広帯域サービスの普及促進のため「既存地域事業者の投資インセンティブの尊重」への舵きりなど、競争政策の流れが大きく変わる措置もとられた。 まず、その概要を見てみよう。 ■FCC各局のプレゼンテーションの骨子有線競争局(WCB) [固定網通信の規制] (戦略的ゴールと対応)
(2006年以降でのチヤレンジ)
無線通信局(WTB) [携帯電話や無線サービスの規制、周波数管理] (成果)
(2006年の課題への取り組み)
消費者及び政府関係局 [消費者保護、苦情処理、他の政府機関との調整]
テクノロジー局 [技術開発政策、技術管理]
国際局 [他国との交渉、ITU等の国際機関との対応]
■注目される点冒頭に述べたように、ここ数年のFCCの活動見ていると、いくつかの潮の流れの変化が浮かび上がる。その背景を探ってみよう。 (1) 競争の概念の変化 「競争」の中身の変化、「自前設備による参入」への回帰 1996年電気通信法制定以降、「市内通信での競争の促進」の旗のもと、FCCはいわば闇雲に「競争参入事業者の保護育成」一辺倒で次々に施策を行ってきた。既存地域事業者の設備を法外に安い規制料金で競争事業者に貸与させるUNE(市内通信設備のアンバンドリング)はその象徴的な制度であった。競争事業者が自前の設備はまったく無しの徒手空拳で参入し、市内交換機能まで既存地域事業者に依頼するUNEPという型まで盛行し、競争事業者の加入者回線のシェアは20%近くまで急増した。 これでは製造業界のOEMのようなもので、名前だけは新規参入事業者のサービス加入者のように見えるが、中身は既存事業者の市内サービスそのものであり、競争事業者は「利鞘稼ぎ」とも言えよう。FCCの前の委員長だった共和党系のPowellは、こうした弊害を指摘し、「形ばかりの競争では、新規の設備投資もなく、雇用も生まれない。自前設備による競争ではじめて、新たなインフラもでき、テロ対応の面でも余裕ができる。GNPの拡大にも貢献できる。」と声高に主張してきた。 最近は、「自前設備での競争」への傾斜がFCCのコンセンサスとなっており、UNEで既存地域事業者が競争事業者へ貸与を義務づけられるケースをどんどん限定し、絞り込んでいる。とくに広帯域通信等と関連する光ファイバ設備については、全面的に義務の対象から明確に除外した。2004年12月に採択され、2005年2月に公示された第四度目の市内競争規則の前書きでFCCは、この間の事情を次のように述べている。 「前回の3年ごとの規則の見直し手続で、消費者市場むけの広帯域アーキテクチャに関するほとんどのアンバンドリング要件を廃止してきた。この措置で(既存)事業者の高速サービス機器やサービスへの投資が容易化された。この見直し作業は、消費者むけの次世代回線へのアンバンドリングされたアクセスを制限する効果をもった。」 異業種間の競争の評価と競争進展に応じた規制の廃止 FCCは、2005年9月、Omaha地区で、異業種のCATV大手Cox社が多額の電気通信サービス用の設備投資を行い自前の設備を拡充し、電気通信事業に乗り出し、既に10万を超える顧客を獲得した事実を踏まえ、1996年電気通信法が既存地域事業者に課しているアンバンドリング義務の一部について、この地域での既存地域事業者であるQwest社(ベル系地域電話会社の1社)の要請を認め、適用を差控えるとの決定を行った。同時に「支配的事業者」としての重い負担からも解放した。勿論、競争が着実に根付いたOmaha地区に限定したもので、Qwestの要請の一部についてのみの救済ではあるが、委員長自身がその声明で「アンバンドリング制度という重要な義務からの最初の解放であり、支配的事業者という伝統的な規制からも最初の解放例であって、実に画期的だ」と述懐している。 FCCは従来は、「競争」といえば通信事業者間の競争だけに注目してきた。端的には、ベル系地域電話会社をはじめとする「地域通信事業者」とAT&TやMCI等の「長距離通信事業者」の間の競争である。 ところが2005年には、「SBCによるAT&Tの買収」と「VerizonによるMCIの買収」という二大合併が認可され、双方ともに手続が完了した。従来の長距離通信事業者の最大手二社が消滅したのである。 OmahaでのFCCの措置は、こうした新しい段階での競争の捕らえ方を、通信業界内部だけでの視野から「CATV事業者と通信事業者の競争」に次元を拡げたのである。 また、「競争の進展した地域では、規制を廃止する」という、いわば当たり前の原則を実行に移した点も注目される。 FCCは、Omahaでの措置の命令の序文で、 「本日、FCCは、自前設備に立脚した競争のレベルが進展し、市場力自体が消費者の利便を護れるようになり、従って規制が不要となった地域では、申請どおりこれらの諸義務の多くの適用除外を認定するものである。本件の命令により、FCCは、自前設備による競争が熾烈な場所では、喜んで規制当局としての地位から引き下がり、市場力に任せることを明確にするものである。」 と高らかに謳っている。 (2) 既存地域事業者のインセンティブへの配慮 競争促進を第一とした1996年電気通信法の制定以来、「既存地域事業者」(incumbent local exchange carrier)は、「電気通信事業者」(telecommunications carrier)としての普遍的な義務である「相互接続」等の義務に加え、前述のアンバンドリング制度( UNE)で新規競争事業者に設備を貸与する義務を負わされてきた。 また、各地域で最大手の事業者は「支配的事業者」(dominant carrier)と位置づけられ、料金等のタリフの届出、料金改定やサービス中止の予告などに関し、さらに別個の重い規制にも服させられてきた。 ところが前にも触れたように、2005年9月FCCは、Omaha地区で1996年電気通信法が既存地域事業者に課しているアンバンドリング義務の一部について、適用を差控えるとの決定を行った。同時に「支配的事業者」としての重い負担からも解放した。 こうした既存地域事業者に有利な措置の背景には、FCCが目指す「高度通信の普及の促進」という大政策目標のため、既存地域事業者の光ファイバ等の広帯域設備への投資にインセンティブを与えねばならないという事情がある。 競争参入のある都市部は別として、地方や僻地では競争事業者も出現せず、既存地域事業者に広帯域設備の建設を期待せざるを得ない。また、都市部でも、競争事業者はこれまではUNE制度で安易に既存地域事業者の設備を規制下の安価な事業者間料金で借り上げて進出してきた。既存地域事業者が折角多額の設備投資をして広帯域設備を建設しても、それをライバルにコスト割れの料金で貸し出す義務が付いたのでは、投資をためらわざるを得ない。 FCCが2004年2月に公示した市内競争規則で、光ファイバ設備やパケット通信設備についてアンバンドリングの義務から外したのは、こうした事情からである。 (3) 国防、テロに対する配慮 2005年には、「SBCによるAT&Tの買収」と「VerizonによるMCIの買収」という超大型二大合併の認可があったが、それまでベル系地域電話会社と長距離通信会社は、永年の宿命的なライバルであった。1996年電気通信法制定までにも両陣営の利害が厳しく対立し、何度も法案が流れてきた。 1996年電気通信法施行後も両者の競争は熾烈を極めた。1996年法で原則的には長距離通信事業を禁じられたベル系地域電話会社は、その例外規定(市内網をライバル競争事業者に十分に解放したと州当局とFCCが認定した場合にのみ、州単位に長距離通信事業への進出が認められる)で順次認可を取得し、近年全州で進出を果たし、市内通信と長距離通信をパッケージ化して長距離通信会社の顧客を奪ってきた。一方、長距離通信会社側も、市内事業者に対する巨額のアクセス・チャージの支払の免脱のネライもあり、UNE制度等を最大限に活用して、市内通信市場に進出を図ってきた。 二大合併は、長距離通信会社の最大手二社がベル系地域電話会社に吸収されたわけであるから、当然、競争が減退するはずであり、これまでの常識では、承認されるような案件ではない。しかし、FCCも司法省独禁局も、「マイナスよりもプラスのほうが大きい」といわば強弁して、合併を承認した。 その背景には、まず、長距離通信二社が財務、経営面で行詰り、買い手を捜していたという事情があった。長距離通信事業者同士の激しい料金戦争で体力が消耗していたうえに、AT&TはCATV投資などの経営戦略の失敗、MCIは買収を行なったWorldComの不正会計事件で破綻寸前であった。 わが国には欠落している国防という観点や最近のテロへの対応の必要から、米国では通信事業者は免許で通信傍受等の「国防、犯罪捜査当局への最大限の協力」が義務づけられている。さらに「犯罪捜査当局に対する通信事業者の協力法」(CALEA)という特別法も制定され、近時犯罪者側がインターネット通信やパケット通信、暗号通信等を利用し始め、当局の通信傍受が困難になりつつあるのを改善する義務を課す具体的な動きまで出ている。 AT&TもMCIもともに、国防総省から大きな契約をもらい、サービスを提供しており、政府としても通信事業者を破綻させるわけにはいかない。数年前にMCIが倒産寸前に追い込まれた際には、国防総省が他の政府機関に「MCIとの契約を解除してこれ以上同社を窮地に追い込まないよう」協力を訴えたほどである。当時のPowell FCC委員長もさっそくニューヨークに飛び、金融機関にMCI救済を請願した。 今回の二大合併の承認に際しても、FCCのプレス・レリーズは次のように述べている。 FCCプレス・レリーズ (2005/10/31) FCCの有線競争局の「競争の促進」の項目の具体的な中身は、(1)二大合併、(2)Omahaでの既存地域事業者義務の免除が挙げられているだけで、従来のような競争事業者育成の措置は皆無である。むしろ「競争の促進」というタイトルとは逆の印象を与える。それほどFCCの姿勢が変わってきている証左といえよう。 |
寄稿 木村 寛治 編集室宛>nl@icr.co.jp |
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