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2006年6月掲載

「全米各地で盛んな自治体の住民向けネットワーク構想」と
「通信会社のテレビ事業への進出に追い風」

 今回は、米国での二つの動きを見てみたい。

I. 都市部での住民用ネットワーク構想、花盛り

 米国の各地で市など自治体当局等が住民のために建設/運営するWi-Fiや光ファイバ等のネットワークの構想が相次いでいる。

 急速に技術革新が進んでいる通信分野で、自宅やオフイスを離れても市の全域でWi-Fi等の利用ができるようにするプロジェクトは、首長のハイテクへの取組みをアッピールしてナウイ都市のイメージの訴求にうってつけであり、また、過疎地での産業誘致の武器としての取り組みもある。

 通信機器メーカーやインターネット関連新興企業の需要開拓の取組みとも相性が良く、各地で雨後の竹の子のように次から次に打出されている。

 一方で、Googleがサンフランシスコ等で無料のWi-Hiネットワークを建設し、広告収入で賄う構想も出されている。

相次ぐプロジェクト

 最近の新聞報道を拾ってみよう。

  1. Oregon州Portland市 Rocky Mountain News(2006/2/10)
     数億ドルで全域に市の自前のスーパー高速ネットワークの建設を計画。これに対してこの地域のベル系地域電話会社であるQwestは市当局を訪問し、住民が欲しがっている高速サービスはすべて同社が賄えると、中止の説得に努めている。しかし、かっての(新興長距離通信事業者Qwestに買収される以前のベル系地域電話会社)US West時代のサービス品質の劣悪さを顧客は忘れておらず、最近でも高速インターネット・サービスが受けられないとの苦情が後を絶たない。QwestはDSLサービスはDenver地区の80%で利用できるというに留まっている。当局側は、市のプロジェクトを継続するか、あるいは他のパートナーを求める考えを変えていない。
     電話会社やケーブル会社が大規模な投資に努力を傾注しているなかで、最小のベル系地域電話会社Qwestは設備投資や支出をコントロールしながらライバルを追い払う苦しい道をとらざるを得ない。

  2. Rhode Island州  Reuter (2006/4/28)
     ロードアイランド州は、その全域を無線ネットワークでカバーし、近隣のボストンの企業を同州に誘致することを狙っているが、顧客が関心をもつという保証はない。

  3. Seattle市  Seattle Post-Intelligencer (2006/5/23)
     Seattle市長は、住民向けの高速光ファイバ・ネットワークの建設計画で民間からパートナーを募るべきだと提案した。各都市が自前のネットワークの建設に乗り出しているのに遅れないよう光ファイバまたは無線によるネットワークの建設が必要だとしている。

  4. San Francisco市 CNET (2006/5/5) (4
     サンフランシスコでWi-Fiネットワークを計画しているGoogleは、同地の起伏の多い地理的条件が大きな技術的困難を招いているが、広告により無料化するという同社の構想自体がうまく機能するかどうかという問題もある。

  5. NEW York市の地下鉄駅での携帯電話 ニューヨーク・タイムズ(2006/1/19)(5
     地下鉄の事業者であるMetropolitan Transportation Authorityは、携帯電話事業者大手4社から468駅のうち277駅構内での携帯電話利用のためのビッドを受付けた。
     このプロジェクトは、地下鉄側は一文も支出なしで、入札の落札者が携帯電話ネットワークの設計、建設、運営、保守を一手に引き受け、他の事業者の携帯電話の顧客にもサービスを提供する計画である。
     入札は、(1) Cingular Wireless, Verizon Wireless, Sprint Nextel および T-Mobileの大手の連合体のほか、(2) Dianet Communications、Nab Construction Corporation、Transit Technologies、(3) American Tower Corporation等が応札している。
    各入札者は機器メーカー等との連携も複雑で、「地上での携帯電話業界の激しい競争が地下に移った」といわれている。

II. 通信会社のテレビ事業への進出に追い風

 米国では、「通信と放送の融合」(convergence)のひとつの姿として、ケーブル・テレビ会社の通信事業への進出と、通信会社のケーブル(CATV)事業への進出が熾烈な競争を呼んでいる。

 ケーブル会社の電話顧客数は、第一四半期に350万程度に達し、ただでさえ固定電話の飽和で売上高の停滞に危機感をもつ電話会社の対抗意識をかきたてている。

 ことにVerizonやAT&T等の大手のベル系地域電話会社が光ファイバ・ネットワークを武器にテレビ市場進出に意欲をみせ、いわゆる「トリプル・プレイ」(固定電話、携帯電話、高速インターネット・アクセス)にテレビも加えた四つのサービスの一括提供の「カドラップル・プレイ」を狙って顧客の囲い込みに力を入れている。

 こうした背景の中、電話会社のテレビ事業への進出を後押しする連邦議会、州当局やFCCからの追い風も目立っている。

 2月10日に公表されたFCCの報告書「ビデオ番組の配信市場における競争状況に関する第12回の評価」については、先に2006年2月の本欄で取り上げているが、以下、その要旨を反復したうえで、最近の進展を新聞等の資料で見てみたい。

巨大な米国のCATV事業

 米国のケーブル(CATV)事業はわが国とは比べものにならないほど大きく、最近は多少減少傾向にはあるが、それでも加入者数は約7千万に達し、ほとんどのオフイスや家庭の前までケーブル設備がひかれ、いつでも開通できる体制が整っている。わが国は5百万程度で一桁少ない。

 FCCは広義のテレビ事業のうち、地上波によるいわゆるテレビ局以外の事業者を、複数チャンネル・ビデオ番組配信事業者(multichannel video programming distributors (メMVPDsモ))と定義している。前記のFCCの報告書によれば、次のとおりである。

  • 2005年6月現在、全米のテレビ世帯は109.6百万で、2004年6月の数字108.4百万と対比される。そのうち94.2百万世帯がMVPDにも加入しており、これは2004年6月の数字92.2百万と対比される。
  • ケーブルがMVPD加入者数のシェアの最大を占めているが、これは引き続き減少しつつある。2005年6月現在、MVPD加入者の69.4%がビデオ番組をフランチャイズ制のケーブル事業者から受取っている。これは2004年6月の数字71.6%と対比される。
  • 直接放送衛星事業者(direct broadcast satellite (メDBSモ) providers)DBS加入者は2005年6月現在、MVPDの全加入者の27.7%を占める。これは2004年6月の数字25.1%と対比される。10%以上の増加である。

 すなわち、ケーブル事業者とDBS事業者がMVPD業界の97.1%を占めている。

電話会社のテレビ事業への進出とその隘路

 しかし最近、電話事業者(地域電話交換事業者)が意欲的にこの市場に進出しつつある。

 前出のFCCの報告書でも、以下のように大きく取り上げられている。

既存地域電話交換事業者(ILECs)がビデオ・サービスの提供計画を発表している。大手のLECsはビデオ・サービスの展開計画を加速しつつある。Verizonは既に多くの地方政府からフランチャイズ免許を取得しており、一部の地域ではFiOSというブランド名で複数チャンネルのビデオ・サービスの提供を開始している。SBCも、Project LightspeedというIP方式の広帯域ネットワークの展開を計画しており、Qwestやその他の小規模の既存地域事業者も既存の電話回線を用いてVDSLやADSLのテクノロジー利用でのMVPDサービスを提供したり、提供を計画したりしつつある。

 このようにFCCも電話会社のテレビ事業への参入に大きな期待を寄せているが、その背景には、通信業界では激烈な競争から料金が長距離通信のみならず市内料金も大幅に低減しているのに対して、CATV料金は事実上の地域独占から依然値上がり傾向にあり、FCCもDBS(直接衛星放送)など競争の促進に腐心している。 また、電話会社側の事情としても、近時、CATV事業者による通信事業への進出への対抗と、電気通信事業者の売上高飽和の打開策のためもあり、VerizonやAT&T(旧SBC)など大手の電気通信事業者がテレビ事業への進出に注力しはじめた。

 また、ケーブル事業者のネットワークが旧方式で、コストも高く、双方向通信化の面でも改造等が必要でハンデが大きいのに対し、電話会社側は、主としてインターネット・プロトコルのテレビ(IPTV)のテクノロジーにより低コストで新サービスにも柔軟に対応できるとされる。

 しかし、電話会社側にも次のような隘路が指摘されている。

  1. 従来型のCATVでは、1934年通信法の規定により、郡市町などの地方政府からテレビ・フランチャイズと称する事業免許を取得しなければならず、電話会社は全国では3万を超える免許を取得しなければならない。
  2. 電話会社のテレビ事業が、十分なコンテンツを手当てできるのかという懸念

最近の進展

 最近の進展は次のとおりで、Verizonのテレビ事業が予想以上に好調な出足となっているほか、電話会社の免許取得手続の簡素化が、連邦、州などのいろいろなレベルで具体化するなど、追い風が鮮明になりつつある。

1. Verizonのケーブルテレビジョン市場への進出、進展
 ワシントン・ポスト (2006/1/4)

  • Verizonのテレビ事業への進出が具体化している。
  • Maryland 州のHoward County Councilは、全会一致でVerizonにケーブルテレビジョンのフランチャイズを付与することを決定した。同社が人口密度の高い米国東部に光ファイバ・ネットワークを敷設するには今後3年間が必要と見られているが、今回のフランチャイズ獲得は大きな前進である。同社はVirginiaなど他の6州でも同様な認可を取得している。
  • Verizonのテレビ事業は、顧客に電話、インターネット、テレビの各サービスを一つのパッケージとして提供するという野心的な戦略に基づく。2004年に同社は全国の光ファイバ・ネットワークに10億ドルを投じており、昨年はその建設を加速している。そのネットワーク容量は昨年に300万の住宅およびビジネス顧客の要望に応じられるまでになり、今年もさらに300万の需要に応じられるよう設備の拡充を図るとしている。
  • 同社はMaryland 州ですでに250名の社員を雇用し、光ファイバ敷設工事のため1,400の業者と契約した。この地方をほぼ独占してきたケーブル事業者のComcastは、当局に対し、Verizonはケーブル事業者よりも良い条件になっており、同社にも従来のケーブル事業者と同様な厳しい条件を付与すべきであると要望している。電話事業者とケーブル事業者では伝統的に別の規制が課されるが、州の立法当局はできるかぎり同様な条件にしたいと努力している。Verizonの加入者数が3万に達したら、その郡に営業所を設置することなどの条件を課す検討がなされている。

2. Verizon、Texasでのテレビ市場の立ち上げ3か月間で20%の顧客を獲得
 ロイター (2006/1/5)

  • VerizonのSeidenberg CEOは、Las Vegasでの会議で、Texas州Kellerでのテレビ事業は、立ち上げから僅か3か月で市場の20%を獲得したと明らかにした。
  • 同社は既にTexas以外でもFlorida, Virginiaでもサービスを開始しているが、今月遅くにNew York, California, Massachusettsでも開始するとしている。

3 .Verizon、New York州および Massachusetts州でもテレビ事業をスタート
 ウォールストリート・ジャーナル  (2006/1/24)

  • Verizonは、Mass.のWoburnおよび New Yorkの Long Island のMassapequa Park でFiosテレビ・サービスを開始した。

4 . AT&T、San Antonioでインターネット・テレビ・サービスを開始
  ウォールストリート・ジャーナル (2006/1/5)

  • AT&TはSan Antonioでインターネット方式のビデオ・サービスを立ち上げた。

5. Verizon、光ファイバ・ネットワークの拡充にコミット
 ウォールストリート・ジャーナル (2006/3/8)

  • 電話会社のテレビ事業への進出は光ファイバ・ネットワークの拡充やコンテンツの手当て、フランチャイズ免許の取得等の困難が指摘されており、Verizonの進出構想で同社の株価も下がっているにもかかわらず、CEO のIvan Seidenbergは、積極投資をコミットし続けている。

6. Verizon、テレビ・サービスで集合住宅をターゲットに
 Internet Week (2006/3/20)

  • Verizonは、そのテレビ・サービスFiOSのターゲットとして、アパートやコンドミニアム等の集合住宅を狙い始めた。

7. VerizonのFIOSサービス、テキサス州で予想以上の成功
 ワシントン・ポスト/ロイター (2006/3/21)

  • VerizonのCEOの Ivan Seidenbergは、ラスベガスのTelecomNext tradeshowでの講演で、「FiOSは、Kellerで6か月で市場の30%を取得した。われわれのもっとも楽天的な予測さえ上回る好調ぶりであり、今年末までに 600万 の家庭の申込みに対応できるよう光ファイバを拡充する。この10年間では1,800-2,000万の家庭カバーを計画する」としている。

8. 下院で、電話会社のテレビ事業への進出容易化法案
 ロサンゼルスタイムズ、Broadcasting & Cable等 (2006/3/27-28)

  • 米下院の商務委員会のJoe L. Barton委員長は、電話会社のテレビ事業への進出容易化をはかるため、(各市町ごとではなく)全国一本のフランチャイズ免許でよしとする法案の草案を公表した。この提案は、ケーブル会社もライバルがこの方式で市場に進出した場合、および現行のフランチャイズ免許が期限切れとなった場合には、同様に全国フランチャイズ免許方式で免許を取得できるとしている。
     電気通信小委員会が今週中にこの法案を採決することはないであろう。(Multichannel News (2006/3/13)

9. 上院でもビデオ免許の申請を地方政府は30日以内に審査期限をきる法案
  ワシントン・ポスト (2006/5/2)

  • 上院の商務委員会のTed Stevens委員長は、テレコム法案の草案の導入を発表した。ケーブル事業のフランチャイズ免許、ネットワークの中立性、デジタルテレビへの移行、ユニバーサル・サービス等が対象とされ、公聴会や討議の土台となる。
    この法案は、ケーブル事業者やテレコム事業者の全国ビデオ・フランチャイズには触れてはいないが、ローカルのビデオ・サービス提供の申請については、地方政府が30日以内に審査するよう期限をきる内容となっている。市などがこの期限内に措置しない場合には、フィー(免許手数料)や条件についての厳しいガイドラインに沿って自動的に免許が付与されることとなる。

10. Indiana州でも州一本の免許法が成立
 TV Week (2006/3/15)

  • インディアナ州知事は、州全体を一本としたケーブル・フランチャイズ法に署名、発効させた。これはケーブル事業者にも適用され、事業者は申請から15日以内に免許または却下の結果を得ることができるとしている。

11. Verizon、IPテレビでも同軸ケーブルを利用してコストをカット
 CNET (2006/3/10)

  • Verizonは、FiOSの建設コストの削減のため、顧客の家庭に既存の同軸ケーブルをも利用し始めた。高速のインターネット、IP電話、さらにIP方式のテレビ・サービスに利用する。

12. テレビのフランチャイズ免許制度の簡素化、各方面で進展
  Broadcasting & Cable (5/23), Telephony Online (5/23)

  1. ニュージャージー州議会、州全域のフランチャイズ法案を可決
  2. サウス・カロライナ州知事、地方政府にフランチャイズ申請を65日以内の措置を求める法案に署名
  3. コネチカット州の規制当局、IPTVはフランチャイズ規制に服さないと裁定 Multichannel News (5/9)
    コネチカット州の規制当局は、IPTVは単なるデータ通信の一種であり、ケーブルのフランチャイズの要件には服さないという暫定裁定を出した。これが6月7日の会合で最終決定されれば、AT&Tに対しConnecticut Department of Public Utility のコントロールを免除することとなろう。

電話会社に追い風の背景

 現行の1934年通信法では、ケーブル事業は開始に先立ち地方政府(local government)である当該市町(community)から「フランチャイズ免許」を取得することが義務づけられており、1998年10月現在では 32,000 ものコミュニティからフランチャイズ免許が交付されている。電話会社がケーブル事業に進出するためにも同様数多くの市町に免許を申請するとすれば、煩雑で時間もかかることとなる。

 電話会社は、州政府や連邦政府に働きかけ、「州一本や全国単位で簡便にテレビ事業の免許を得られるようにして欲しい」と強く働きかけており、これをうけて、前述のように、各地の州や連邦レベルで、州単位や全国一本で簡便に免許を付与する方向が有力となりつつある。

 昨年後半、テキサス州では州単位一本で電話会社のテレビ事業免許を交付する法律が成立し、Verizonはこれによりまずテキサス州のコミュニティで商用サービスを開始した。テキサス以外の州、例えばカリフォルニアでも同様な立法措置の動きがある。連邦議会でも上下両院で全国ベースでの免許手続の簡素化法案が導入された。しかし、中間選挙の年であり、今年中に成立する見込みは薄いと観測されている [ワシントン・ポスト (2006/2/1)]。

 こうした電話会社に追い風となる動きは、1996年電気通信法施行後、ケーブル・サービスの料金値上げ規制が撤廃され、事実上ほとんど地域独占となっているケーブル事業者が料金を大幅に値上げしてきた事情への反発が背景となっている。

 このように、各方面で様々な動きが顕在化し、電話会社のテレビ事業は、時期は別として近い将来、米国で着実に定着していくと見るべきであろう。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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