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2006年9月掲載

時代の進展とともに脱皮進化するFCC

 米国の電気通信規制機関であるFCCでは、最近、見るべき方策が続いている。

例えば、8月だけを見ても、

  1. 軍や政府機関に割当てられている電波のうち、あまり有効には利用されていない部分を積極的に回収して、3Gなどの携帯電話の高度化のための周波数としてオークションにかけ、200億ドルもの歳入を国庫にもたらそうとしている。
  2. 電気通信規制のすべてを一から洗い直し、時代に合わなくなった規則や競争の進展で不要となった規則等を廃止したり、改定したりする作業に入った。
  3. 広帯域サービスの本格的な普及促進のため、電波干渉の懸念などの課題の残る電力線利用の広帯域サービス規則を改定し、実用化に踏み切った

■FCCのUターン?

もうすこし遡れば、

  1. ベル系地域電話会社による長距離通信会社の2件の巨大買収を認可した。(2005年10月末)。AT&TはSBCに、MCIはVerizonにと、長距離通信会社の大手2社がそろって地域通信会社大手のベル系地域電話会社に相次いで飲み込まれ、これまで通信業界で永年続いてきた「長距離通信会社」と「地域会社」間の激しい競争は消滅した。
    ブッシュ共和党政権になってからは、FCCも司法省独禁局も大型であっても合併には好意的で、民主党政権だった1996年電気通信法制定当時とはまったく様変わりしている。「1984年のベル・システムの分割以前への逆戻りだ」との見方すらある。
  2. 市内電話サービスで競争の進展した地区での「UNE制度」 (既存地域事業者の設備を競争事業者の要請で大幅に安価な事業者間料金で利用させる) の義務免除および一段重い「支配的事業者の規制」の廃止(「規制の差控え」;forbearance: 2005年9月、Omaha地区でベル系地域電話会社のQwest社)
  3. 市内電話での競争で、競争事業者は自前設備に立脚した参入を原則とし、少なくとも「交換機能」だけは競争事業者自身が行わねばならないこととした。これまで回線だけでなく市内サービスをまるごとUNE制度で安価な規制料金で既存地域事業者に提供を受けるUNE-P制度は今後認めないこととした。
     (2004年12月、第4次市内通信競争[UNE]規則)
  4. 広帯域サービスの全米への普及促進のため、FTTH等の光ファイバ網については、既存地域事業者の設備を競争事業者に利用させる義務を廃止し、既存地域事業者の投資インセンティブを刺激した。(2003年2月)

 5. から7. は、1996年電気通信法制定以来の「競争事業者偏重」の方針を大きく既存地域事業者のインセンティブにも配意という方向に180度変更したもので、「FCCのUターン」(Fransmanエジンバラ大学経済学部教授)ともいうべき画期的な政策変更である。

■FCCが政府に一定の距離を保つのも一因

 このような時代の進展に即して政策を逆流させるようなFCCの柔軟な姿勢は、一つには行政機関の中でも特異な立場にあるFCCの立場にも由来する。

 FCCは、5名の委員は大統領の指名に従い上院が承認する建前ではあるが、独立の行政委員会として議会に報告する責任を負うこともあって、大統領の指揮命令下にあるその他の純粋な政府省庁とは、明確に一線を画している。5名の委員のうち3名は政権党、2名は野党と定められており、1996年電気通信法制定当時は民主党が、最近では共和党が委員の多数を占めている。

■1996年電気通信法の具体的な指示

 もう一つの背景として挙げられるのは、1996年電気通信法の目配りの良さである。「何々はしてはいけない」という禁止規定が中心のわが国の通信法制とは異なり、「競争促進」、「高度通信の全米への早期の普及促進」等の誰にも納得のできる政策ゴールを明示するだけでなく、FCCに恒常的なウオッチを義務づけ、こうした政策目標の達成の障壁を洗い出させ、それを議会に定期的に報告する義務を課し、障壁を乗越える施策の導入をも指示している。

 FCCはこれを受け、「市内通信での競争状況」や「高度通信の普及状況」については6か月ごとに議会に報告書を提出している。禁止ではなく、前向きの改革に重点を置いているのである。

(1) 二年毎の全規制の抜本的見直し

 1996年電気通信法は、「規制の緩和、廃止」についても積極的な責務をFCCに課し、二年ごとに一回、すべての規制を洗い直し、時代に即さなくなったものや、競争の進展により不要となったと考えられる規制の廃止や改定も義務づけた。すなわち、1996年電気通信法で改正された1934年通信法に新たに第11条を設けている。

 先の2. で述べたFCCの規制や規則のすべてについて、その妥当性を定期的に洗い直す作業は、これに基づくのである。

(2) 規制の差控え(forbearance)

 1996年電気通信法はまた、1934年通信法に新たに第10条を設けて、競争が進展し、かつ、特定の事業者が公正なサービスの提供を行なっていると認められる場合には、法律の規定やFCCの規則にかかわらず、その適用を差控える権限と義務をFCCに課している。

 先の5. は、この条項に基づくもので、Omaha地区では、通信事業者ではない異業種のCATV大手事業者Cox社が電気通信事業に進出をはかり多額の設備投資を行い、既に10万を超える電話顧客を獲得しており、競争が明確に根付いたと認定して、かってのベル系地域電話会社(Mountain Bell社)を買収したQwest社が既存地域事業者として課されてきた重い義務(競争事業者の要請に従い、その必要とする設備を利用させる義務)の一部から開放したのである。あわせて、Qwestに課されてきた支配的事業者としての一段重い規制(料金改定時の事前届出義務等)からも免除した。

■FCC自身も常に時代の流れに目配り

 以上のような諸活動のほかにも、FCCは自発的にさまざまな前向きの努力を続けている。例えば、

  1. いわゆる「トリプル・プレー」時代を迎え、通信会社とケーブル会社との競争が進展しつつあり、FCCは、さらに衛星会社や電力線利用広帯域テクノロジーでの電力会社が新たな競争相手となるように助成するなど、これまでの業界の垣根を超えた競争の促進の図式を描いている。通信業界の中だけの「コップの中だけの競争」はもう古いと認識しているのである。
  2. FCCはインターネットの規制のあり方の検討も開始している。(2004年2月)
    FCCは、インターネットのような新しいサービスについては、自由なのびのびとした成長を尊重するという方針を一貫して採ってきており、インターネットについては、コンピュータ関係と同様に「情報サービス」として区分し、規制の重い「通信サービス」と峻別し、規制をできるだけ差し控える(forbear)方針を貫いてきた。しかし、最近は、両者の境界があいまい化し、例えば、IP電話は規制されず、サービス面では大差のない通常の固定電話は重い規制が課されたままという矛盾も露呈しつつある。FCCはこれまで個別認定で問題をその都度解決してきたが、VoIP等が急激な普及で従来型の電話サービスに取って代わろうかという事態となり、もはやケース・バイ・ケースの認定という形では追いつかず、FCCもついに2004年2月に「インターネット・サービスの規制のあり方」について抜本的なグランド・ルールの策定作業に入ると発表した。既に2年あまりが経過しており、近々に新ルールが発表されよう。

 このようにFCCはこの4年間、実に多彩な活動をしてきた。しかも明確なビジョンと目標を持ち、自らの組織・機構も市場の変容にあわせて積極的にリストラを行っている。

■1996年電気通信法改定の動き

 1996年電気通信法制定から10年が経過し、その後の市場やテクノロジーの変遷もあって、時代にそぐわなくなってきている。

 一例を挙げれば、同法は、ベル系地域電話会社に特別重い規制を課し、長距離通信事業への進出を原則禁止として、市内網をライバル参入者に十分に解放したと州当局とFCCが特別認定した場合に限り、その州発信の長距離通信事業に進出できるとしている。ベル系地域電話会社は数年前までに全米で順次州ごとに特別認可の取得を完了している。例外が原則になってしまったわけである。それどころか、先述のように、長距離通信事業者の最大手2社(AT&T、MCI)がベル系地域電話会社(SBC、Verizon)に吸収合併され、第三位のSprint も携帯電話会社に変身し、もはや長距離通信事業者といえるものはなくなった。

 また、ベル系地域電話会社とケーブル会社の競争の時代となり、いわゆるイコール・フッティングの規制が求められ始めたが、1996年電気通信法により一部改定された1934年通信法の「通信事業者」と「ケーブル事業者」の異なる規制では対処しえない事態となっている。

 こうした事情を背景に、1996年電気通信法や1934年通信法を全面的にオーバーホールする動きが胎動している。もっとも当面は、通信事業者によるテレビ事業への参入の容易化のため、1934年通信法が課している市町単位のフランチャイズ免許取得の義務を緩和して、州単位一本でとか、全米一本でとかの免許に改めることがまず取り上げられている。連邦レベルでも議会で法案が審議されており、近くなんらかの成果が実ることとなろう。

 ただ、会期の制約もあり、フランチャイズ免許以外の点についての総括的な見直しは、まだ先のこととなりそうである。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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