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2006年10月掲載

FCCの重点方策
−FCCの最近の取組みを委員長が議会で説明−

 わが国でも10月から携帯電話の番号をそのままで事業者を変えられる「番号ポータビリティ制度」が始まった。また僻地の赤字サービスのコストを全事業者からの拠出金の形でNTT東西に補填する「ユニバーサル・サービス制度」も近く動き出す。

 こうした様々な施策やメカニズムは、一見新しいものに見えるが、米国のFCCが数年も前に打出し、既に着実に根を下ろしたもののコピーである。ユニバーサル・サービスにしても、最近は携帯電話やIP電話などの台頭で従来型の固定方式の電話を僻地等で継続する必要性そのものに疑問も出されており、2年程度の時限措置とするという。わが国ではユニバーサル・サービスという制度は作ったものの、NTT東西の収支全体が赤字になったときという厳格すぎる発動条件で有名無実化していた。このほどようやく米国並みに平均のコストを上回る地域についての補填を認める条件緩和が行われるという。これまで放置した点で、むしろわが国での実現は遅きに失しタイミングを逃したといえよう。

 米国ではこのほど任期の更新を控えて、Martin FCC委員長が9月12日に議会上院の商務委員会で、「最近のFCCの活動状況と方針」について説明を行ったので、その全文を訳出し、補足してみたい。

■主役は、「規制」ではなく「市場/競争」

  • 私は幸いにも、FCCで5年以上にわたり働いており、2005年3月からは委員長として努めている。この仕事は易しいものではなく、時には卑屈な経験を余儀なくされたこともあるものの、それは同時に大きな名誉でもあった。米国民のために第二期も奉仕することが認められればそれは名誉なことである。

  • 5年前にこの場で述べたように、FCCは独立の行政機関でふり、議会が創ったものであるので、われわれの最優先な任務は議会の意思の実行である。再任されれば、引き続き議会のアドバイスとガイダンスを求めていく。

  • 通信業界は、かってないような変革の只中にある。テクノロジーは前進し、ビジネス・モデルは融合しつつあり(converging)、サービスはデジタル化して、これらがこれまでにはなかった事業機会と大きなチャレンジを生み出しつつある。テレビ番組がインターネット上で売られ、携帯電話等に流されている。このような早いペースのテクノロジー環境で、規制はそれについていくべく必死になっている。

  • 私が再任された暁には、私は引き続き、規制ではなく活気のある競争的な市場こそが公益の最大の保護者であるとの信念に基づいて意思決定を行ってゆきたい。競争こそが価格や料金を引き下げ、事業者をサービスの改善と新商品の創造に駆り立てるのである。

■しかし、「政府/ 規制」にも出番が

  • しかしながら政府にも果たさねばならない重要な任務がある。FCCは、投資と競争が促進されるような規制環境の創出を目指し、事業者たちが平等な立場で競争できるようなルール作りに活動の重点を絞っていかねばならない。例えば、電話会社による高速インターネット・アクセスは、ケーブル会社が提供する同様なサービスと同様に扱われねばならない

  • 政府はさらに、広い視野の社会面での目標の達成が必要な場合に、機能しなければならない。私は事業面での規制の除去に賛成ではあるが、市場機能だけでは対処しきれない問題も存在することを認めざるをえない。例えば、障害を持つ人々であっても他の国民と同様に通信へのアクセスができるように政府は確保しなければならない。地方僻地の人々も学校や図書館を通じて最新のテクノロジーに低廉な料金でアクセスできねばならない。また、公安当局の必要とする通信ニーズも満たされねばならないのである。
[筆者の補足]
「都市部と地方との格差是正」:
米国ではユニバーサル・サービス制度が1996年電気通信法施行以降早くから確立され、実際に巨額の補填がなされている。
米国の連邦のユニバーサル・サービスは、
  1. 全国平均よりもコストの高い人口希薄な僻地等の赤字の補填
  2. 都市部でも低所得地域の補填
  3. 医療機関の通信システムへの助成
  4. 学校および図書館へのインターネット等の導入費用および通信料金の助成(e-program)

の四つがあり、所要資金は、全通信事業者の売上高に応じて定率で拠出金を算定し、ユニバーサル・サービス基金への振込みを義務づけ、基金から補填している。とくに(4)は、すべての教室と図書館にインターネットが利用できるようシステム設置費用とその後の通信料金の一部を補填するというもので、僻地等の地域や低所得層でもインターネットの恩恵にあずかれるようにして「デジタル・デバイドを解消するという高邁で意欲的な施策であり、いわゆるユニバーサル・サービスの枠を超えるとの論議もあったが、最大の金額となっている。

■FCCがこれまでにとってきた重要な施策

  • 私の委員長としてのこれまでの任期の間でも、FCCは、消費者の保護とこれらの社会的な諸目標の確保を図りつつ、規制の削減と新テクノロジーの展開の促進のため、数々の重要なステップをとってきている。

広帯域サービスの展開促進

  • 私は、広帯域の普及を仕事の最優先順位においた。広帯域テクノロジーは経済成長のドライバーの主要なものの一つである。急速に増大する情報をますます増大する速度で共有することで、生産性が増加し、州際通商が促進され、イノベーションの進展が助長される。しかしながら、最も重要なことは、広帯域はわれわれの生活のあらゆる側面に影響を与える可能性があるということである。それはわれわれがお互いにどのようにコミュニケーションするか、どのようにどこで仕事をするか、子供たちをどのように教育するか、またわれわれがトリプル・プレーのように娯楽に興ずるかといったことを変革しつつあるのである。

  • 私が委員長の間にFCCは、広帯域の普及促進するような規制環境を創造することを熱心にやってきた。われわれは、電気通信事業者による広帯域ネットワークへの投資意欲を削ぐ料金等のコントロールのような過去の伝統的な規制を排除し、代わって、様々な広帯域プラットフォームの規制面での平等な立場の創出に努めてきた。
[筆者の補足]
既存地域事業者の広帯域設備への投資のインセンティブ
 1996年電気通信法は、競争促進と並び、高速大容量通信などの高度通信サービスの早期全国普及もその政策目標の重要な柱として掲げているが、財務力があり全国への高度通信普及の要となるべき既存地域事業者は、折角多額の建設資金を投じて光ファイバ等の広帯域設備を建設しても、それを規制で定められた格安料金でライバル参入事業者による「リセール」や「アンバンドリング」要請に応ずる義務を課されたのでは、設備投資の意欲がそがれると反対していた。その後とくに近時、インターネットの急速な普及やxDSL等の新テクノロジーの進展で、高度通信は重要な時期にさしかかっており、この問題の早期解決が迫られていた。「競争促進」と「高度インフラの拡充」という1996年電気通信法の二大目標は実は二兎を追うもので、本来互いに相反する性格のものだったのである。

 FCCはこの2003年2月の第3次市内競争規則で、「光ファイバの加入者回線は、UNE制度から外し、既存地域事業者は競争事業者からの貸出し要請に応じないでもよい」という画期的な方針に転換した。とくに僻地など需要の少ない地域まで光ファイバ等の広帯域インフラを早急に整備普及するには、事実上既存地域事業者に依存せざるをえなかったのである。

 もっとも、Martin委員長は、かって共和党系の一委員だった当時に、民主党系の委員と提携して多数派を形成し、安易な競争促進策に賛成して、当時のPowell委員長を少数派という苦境に追い込んだこともある。かっての安易な競争一本槍のFCCを、「既存地域事業者のインセンティブ重視」に向けての軌道修正を提唱し、「競争事業者の自前設備による市場参入が本筋」という今日のFCCの基本方針を打ち立てたのはPowell前委員長だった。

  • こうしたFCCの政策がもたらしたいくつかの成功例が現れ始めている。最近のPew Internet and American Life Projectによる調査によれば、2005年3月から2006年3月の間に、広帯域を利用する米国民の数は40%(6,000万から8,400万へ)増加している。この増加率は一年前の数字に比して2倍に達している。さらに重要なことに、広帯域の採用が地理的な違いを超えて普及し始めているのである。

携帯電話での競争で普及が促進

  • 携帯電話サービス(wireless services)も引き続きドラマチックに増加しつつある。競争は激烈で、人口の90%が居住している地域では、最低でも4社の携帯電話会社が競争している。そのうえ単に音声だけに留まらず、データ通信にも利用されている。Wi-Fi, Wi-Maxテクノロジーも活用され始めている。
[筆者の補足]
米国の携帯電話の普及の現状
 9月26日にFCCが発表した「携帯電話業界での競争状況」によれば、 2005年には、米国の携帯電話(mobile telephones)加入者数は、1億8,470万から2億1,300万に増加し、年末での普及率も約71%となった。

公安の維持確保と緊急事態への備え

  • FCCとしては、単に規制の削減だけでなく、法律執行部門(警察等)や公安、その他の公益も確保されるよう配意している。

  • 委員長に就任後、私はまず、公安と緊急事態への備えをもう一つの優先課題と認定した。すべての国民にとってハリケーン・カトリーナと9.11.事件の記憶がまだ鮮明であるが、FCCの最も重要な目標の一つはベーシックな公衆の安全の確保である。われわれは、公衆がいつ緊急事態がやってくるのかを知り、援助をどの救援機関に求めるべきかを認識できるのに必要なツールを与えられているかを確認しなければならない。そして第一次救援関が支障なく通信できるようにしなければならない。FCCは公安が通信でのテクノロジーの進歩とペースを保っていけるよう様々な措置をとってきた。

  • 例えば、FCCは昨年、緊急警報システムに関する規則を、より一層広い分野のテクノロジー、すなわち、デジタル放送、ケーブルテレビ、デジタル・オーディオ放送、衛星ラジオ、直接放送衛星(DBS)サービス等をも包含するように改正している。

  • さらに米国民が救助が必要な場合には、それが与えられねばならない。これはすなわち、新テクノロジーは緊急援助機関のオペレーターと通信ができねばならないことを意味している。

  • 新しい通信テクノロジーか次々に利用されはじめている以上、FCCは(警察、FBI等の)法律執行部門が従前どおりこれらにアクセスできるよう措置してきている。

  • 最後になるが、無線通信は連邦、州、地方の第一次救援関にとって必要不可欠なものである。FCCはこれまでの数年間に公安当局がそのニーズを満たすために十分な周波数にアクセスできるよう配意してきた。
[筆者の補足]
警察/FBI等の通信傍受の確保
 米国では、従来から犯罪捜査当局等による通信傍受がわが国より大規模に行われており、とくに9.11.以降はテロ対策で一層強化されている。
 近時、暗号テクノロジーの進歩やパケット通信の進展で、従来の音声電話のように簡単には通信傍受ができなくなり、当局側の強い要請から「法律執行部門当局の通信傍受の援助法(CALEA)」が制定され、通信事業者に設備の改善を義務づけている。

障害者へのサービスの改良

  • ・障害のある人々にとって通信へのアクセスができることは、社会への参画の重要な手段である。1990年障害者法(the Americans with Disabilities Act in 1990)の成立とともに、FCCは聴覚および言語障害が今日の通信革命への参画の妨げとはならないよう確保するよう命じられた。

  • FCCは、これまでに様々な措置を知ってきている。例えば、障害者による911緊急通信へのアクセス対策開発プロジェクトの開始、ビデオ・リレー・サービスの拡充、スペイン語のビデオ・リレー・サービスのための連邦助成、消費者の事業者選択拡充に役立つ事業者への連邦政府資格認定証などがある。

ユニバーサル・サービスの維持

  • 米国とFCCには、通信の利用機会に関して僻地であっても都市部と同様なレベルを維持するという長い伝統がある。1996年電気通信法では、議会がFCCに対して、米国全域にわたり「都市部と常識的に比較できる同等の」サービスへのアクセスを確保する責務を課した。具体的には、議会はFCCに対して、「ユニバーサル・サービスを確保、拡充するような具体的で十分な」ユニバーサル・サービス基金制度を創設するよう求めた。

  • テクノロジーの変化とユニバーサル・サービスからの助成をうける事業者数の増加のため、基金の安定性の必要が高まっている。ここ数年間にFCCは、そのためのいくつかのステップをとってきた。その結果、(各事業者の売上高に対して課される)ユニバーサル・サービス基金拠出比率は11%以上であったものが9%に低減された。FCCはさらに、テクノロジーの如何に無関係で、より一層効率的な配付が可能となるような拠出制度の樹立を目指している。制度の改革に努めているところである。

FCC自身のマネージメント

  • 昨年の委員長就任以来、私の任期の最初の14か月は、(委員が1名欠員で)共和党計系と民主党系の委員がそれぞれ2名ずつという体制であった。(5名であれば多数派の共和党系の案件処理が容易であるが。)
    ・しかしわれわれは、超党派的な運営で大変複雑かつ論議の多い難しい案件を処理してきた。一名の欠員が補充された今後もこれまで同様、協調的な運営で数々の課題に取り組んでいく所存である。

  • 例えば、FCCは貴重な国民の財産である周波数を管理する責務を負っている。電波をできる限り有効に活用して革新的な無線サービスが広く国民に利用されるように、市場指向の運営を目指してきた。現在90MHzの帯域幅を高度無線サービス(advanced wireless services)用としてオークション中であり、今日現在で138.5億ドルの国庫収入をもたらしている。免許面では1,122のうち既に105のオークション参画者に1,082免許を落札させている。参画者の半分以上(57)は小規模事業者である。ルーラル地域のサービス展開を狙う事業者のニーズに適うよう免許の対象区域も小さくしている。
[筆者の補足]
FCCの高度無線サービス (Advanced Wireless Services)免許のオークションは、8月9日に開始され、161ラウンドを経て、9月18日に終了した。1,122の免許がオークションの対象とされ、そのうち1,087免許が104のオークション参加者により獲得された。落札総額は139億ドル。AWS免許は、多種多様な革新的な無線サービスやテクノロジーの提供のために用いられることとなり、第三世代(3G)の無線ネットワーク上での音声、データ、ビデオ等の無線広帯域サービスに利用される。
  • ハリケーン関係では、Katrina, Rita, および Wilmaと続いたが、FCCは政府、産業および消費者のニーズに対応すべく迅速にかつ手厚く対応した。スタッフも不眠不休で努力した。災害地域で無線や放送のサービスに必要な100を越える臨時の無線免許を付与した。要請に対して4時間以内に対応した。事後、今回の教訓を将来にむけて活かす措置も講じつつある。
寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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