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海外情報
2006年12月掲載

広帯域サービス展開の遅れに米国で危機感
−FCCの一委員が異例の批判的政策提言
−電話会社の合併による競争の減退も一因として指摘
−AT&T/Bell Southの合併審査にも影響か

 電気通信のトップ先進国として誰もが疑わない米国で、高速インターネット・アクセス等の広帯域サービスの普及が海外諸国に比して著しく遅れていることに警鐘を鳴らす波紋か投じられた。

 11月8日の有力紙ワシントン・ポストに、FCCの民主党系のMichael J. Copps委員が寄稿して、「米国での広帯域サービスの普及の遅れは米国経済にも重大な悪影響をもたらす」とし、「料金の値下げや競争促進のためにFCCは戦略を追及すべきだ」としている。

 FCCの現職幹部が有力紙に寄稿し、自分の組織の問題点をあからさまに指摘したという異例の行動だが、FCCや司法省独禁局がここ数年次々に承認してきたベル系地域電話会社の大型合併を「競争減退の一因」と決め付け、「FCCは直ちに行動を起こすべきだ」と提言している。

 FCCでは、合併で米国最大の通信会社にのし上がったAT&Tがさらに兄弟会社のBell Southをも買収する審査が最終段階を迎えており、折から先頃の中間選挙で野党の民主党が大勝利して上院・下院の双方で多数党となった事情もあり、この審査にも影響する可能性もある。

■海外諸国に比して高度通信サービス展開の遅れている米国

 通信、放送等の管理を管轄するFCCは5名の委員で構成される独立委員会であり、行政機関ではあるが議会に報告する。委員は大統領が指名するが、上院の承認が必要である。一つの政党は3名までしか委員を出せず、現在は政権党の共和党計がMartin委員長を含め3名、民主党2名の構成となっている。Copps委員は民主党系であり、少数派である。

 Copps委員によれば、

「ITUの調査でも、米国の広帯域サービスの普及率は世界で15位であり、料金等の他の要因をも考慮した場合には21位で、Estoniaの次にくる。アジアや欧州では25-100Mbpsなのに、米国ではその1/20の速度のサービスに対し2倍の高い料金を支払っている。」

という。

■普及の遅れた原因は競争の欠如

 同委員は、

「なぜ米国はこのようにはるかに遅れてしまったのだろうか? 原因は競争の欠如にある。
米国の消費者は、広帯域で「ケーブル会社と電気通信会社の複占」に直面している。それでさえベストのケースで、多くの家庭はたった一社の広帯域事業者しかなく、1/10の家庭は広帯域事業者がまったくないという状態である。
ビジネス顧客にとっても、同様に悪い環境であり、電気通信分野での合併騒ぎの結果、多くのオフイス・ビルではサービス提供がわずか一事業者となってしまっている。その結果80億ドルもの過剰な料金が取り立てられている。われわれの(整備され料金の安価な良い)広帯域インフラこそが企業が米国内で事業を展開することの理由となるべきであり、企業が海外に逃げ出す理由となってはならないのである。」

と競争の欠如を最大の原因として指摘している。

■広帯域政策の失敗のインパクト

 米国では、1996年電気通信法が先見の明で、「すべての米国民に高度通信が低廉な料金で利用できるようにすべし」と明確な政策目標を掲げ、そのための措置の具体化をFCCの責務として明記し、さらに、そのフォローアップとして、毎年議会に進展状況と普及阻害要因の除去の状況を報告することまで義務づけた。

 同委員は、広帯域政策の失敗のインパクトとして、次のように述べている。

「われわれの広帯域の失敗が生産性の頭打ち阻害要因となっている。ダイヤル・アップに留まっていて、どうして地方の小さな町がデジタル経済に対応していけるであろうか? デジタル・クラスルームが実現できるであろうか? インターネットには、大都市に住まない人々にもライフ・チェンジの機会をもたらす力があるが、それもそれが利用でき、かつ安価で利用できてこそである。ある専門家の試算によれば、広帯域がひろく普及すれば、米国経済は5,000億ドル増え、120万もの新たな仕事が創造されるとしている。
われわれの子孫たちがわれわれの失敗を償うこととなる。Albert Einsteinは「複利」(compound interest)こそが宇宙でもっとも強力な力を持っているといったといわれているが、インフラへの投資こそ国がこの恐るべき複利という波及効果(multiplier)をコントロールできる方法なのである。フアィバ・ツゥ・ザ・ホームの加入者が昨年80%も伸びたのは、米国ではなく日本なのである。」

■事実直視を避けるFCCの姿勢を痛撃

 Copps委員は、さらにFCCが米国の遅れを率直には公表せず、事実を曖昧にしようとしていると厳しく批判している。

「FCCの報告書は、われわれが世界の他の国々に遅れかかっているという事実を曖昧にするようにデザインされているように見える。FCCは未だに広帯域サービスを200kbpsと定義しており、ある郵便番号区域で広帯域へのアクセスができるならそれだけで誰もが実際にアクセスしているものと推定し、料金についてのデータを集めようともしていない。」

 FCCは前述の1996年電気通信法の指示をうけ、毎年、「高度通信等の普及状況報告書」を議会に提出している。FCCは、自前の設備を有する広帯域事業者は年に二回、FCCに対し高速接続数を報告させている。其の場合の「定義」は次のようになっている。

  1. 「高速回線」(high-speed lines)とは、少なくとも一方向で200kbpsを超える速度でのサービスを提供するもの [次の「高度通信」をも含む。]
  2. 双方向ともに200kbpsを超えるものは「高度回線」(advanced service lines)

 FCCの2006年7月26日の「米国でのインターネットへの高速接続に関する報告書」では、2005年12月31日現在の数値に基づき、以下のように「高度通信は順調に普及しつつある」と総括している。

  • 高速回線は、2005年12月31日に終わる一年間に3,790万回線から5,020万回線へ33%増加した
  • 全国カバーについては、2005年12月31日現在、高速回線は、既存電話交換地域事業者がローカル電話サービスを提供している世帯の78%で利用可能であり、高速ケーブル・モデム・サービスもケーブル事業者がケーブルテレビ・サービスを提供している世帯の93%で利用が可能となっている。
  • 少なくとも1社の高速接続が利用できる郵便番号区域は99%に達している。これらの地域には全米人口の99%が居住している。利用されているテクノロジーは、衛星(88%の郵便番号)、ADSL(82%同)、ケーブル・モデム(57%同)である。ADSLおよび/またはケーブル・モデム利用の接続は郵便番号地域の87%で存在している。

 同委員は、FCCは高速通信の定義を200bpsと意識的に低く甘く設定し、米国での広帯域通信の普及は順調だとしている姿勢そのものを鋭く批判しているのである。

■どのような施策を開始すべきか

 同委員は、まず、「われわれの現在の諸政策が機能していないことは明白である。」と認識した上で、次のように、FCCは直ちに遅れを取り戻すための施策に取り掛かるべきだと提言している。

「FCCは料金を下げ競争を増進する作業を開始する必要がある。(1996年電気通信法が命じている)すべての米国民に高度通信が低廉な料金で利用できるようにすべしとの指示に添えるようスタートすべきであり、必要な周波数も利用できるようにし、電波をもっと効率的に利用できる「smart radio」の免許を付与し、(電話とCATVに継ぐ)無線や電力線利用の広帯域等の「第三のパイプ」の利用を促進するべきである。同時に議会に対し、FCCが長期的な解決策を実施できる権限を付与するよう勧告すべきである。
われわれには米国のための広帯域戦略が必要である。他の国々は国を挙げての広帯域戦略を策定している。米国でも2007年までにユニバーサルな広帯域アクセスを実現するキャンペーンはあるものの、そこに到達するための戦略はない。あと2か月しか残っていないというのに、まだまだ大声なら届く距離にさえ至っていない。
広帯域危機の解決のためには、過去の鉄道や電話システムの建設当時のように、官民合わせてのイニシャチブが必要である。広帯域の必要性に焦点を合わせたわれわれのユニバーサル・サービス・システムのオーバーホールとあわせ、米国のリーダーシップ的な地位の奪還をめざすべきである。」
寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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