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2008年2月掲載

米国のローカル通信市場では競争事業者の退潮が鮮明。
−FCCの競争政策の変更が響く−

 FCCが定期的に発表しているローカル通信での競争状況が昨年12月31日に発表され、2006年末現在のデータがあきらかとなった。
 携帯電話の加入者数は2006年中に13%増加して2億2,960万となったのに対して、固定電話のアクセス回線数は2006年中に4.5%減少して1億6,750万回線となった。

 固定回線のうち競争事業者が提供するものは2,870万回線で、シェアは17%で、1年前より1%減少した。競争事業者の回線数は、固定電話全体の減少率4.5%を大きく上回り、2006年中に9.2%も減少した。内訳では、UNE(詳細は後述)の比率減少が大きく、競争事業者の自前設備は増加している。

 ここ数年の比較は次表のとおり。

ローカル通信での競争事業者のシェアの推移

 この問題については、本欄で先にも触れたが、一部重複するが、背景を見てみたい。

■FCCのローカル通信政策の変更が主因

 競争事業者の回線数の大きな減少は、FCCのローカル通信での競争政策の変化の現われである。

 1996年電気通信法制定以降、当初は「とにかく競争事業者助成最優先」できたFCCは、共和党政権になってから、「UNE」や「リセール」といった競争方式は既存事業者の設備を利用した「形ばかりの競争」であり、「競争事業者の自前設備による競争参入」でこそ、代替インフラも充実してテロ対策にもなるうえ、真の雇用増、GNP増にも繋がるとの理由から、その競争政策を大きく転換した。こうした方針を提唱、強力に主導したのは当時、久方ぶりで登場した共和党系で委員長となったPowell委員長だった。同委員長は2003年2月の声明で、次のように力説している。

「私はかねてから自前の設備による競争の尊重に傾いている。競争事業者が既存地域事業者のインフラ等に依存している限り、斬新なサービスの誕生の見込みはなく、インフラへの投資の増加も起こらない。通信機器メーカーの受注も増えず、雇用も増えない。経済成長にも貢献がない。国防やテロ対策の点でも代替インフラができず、不安である。」

■1996年電気通信法のローカル通信競争促進策とその弊害

 1996年電気通信法は、ローカル通信での競争促進のため、1.リセール、2.UNE(Unbundled Network Elements:細分化されたネットワーク要素:アンバンドリング)という二つの便法を設けた。

 「リセール」は、競争事業者が既存地域事業者の市内サービスをまるごと割引料金で買い入れ、それを自己のサービスとして顧客に再販売する方法であり、「UNE:アンバンドリング」は、市内サービスをいくつかの機能要素(UNE:unbundled network elements)に細分し、競争事業者が自身では賄なえない要素だけを既存地域事業者から割引料金で買い入れ、それと自身でまかなう要素とを組合わせて顧客に市内サービスを提供する方法である。

 すなわち、「UNE制度」とは、市内通信を、加入者回線、交換機能、ダクト、電柱等のいくつかの細かいネットワーク要素(network elements)に細分(unbundle)し、既存事業者は新規参入をはかる競争事業者の要請するUNEを、義務として規制当局が定める格安の事業者間料金で利用させなければならないとする制度である。

 1996年電気通信法は、競争事業者による「リセール」と「UNE」の要請を既存地域事業者は拒否できないとして、「相互接続」と同様に既存地域事業者の基本的な責務とし、義務づけた。米国の連邦議会は、UNEについては「新規参入者の参入を阻害する(impair)ことのないよう、FCCはUNE実施のための規則を制定すべし」と命じた。これら二つの便宜的方法により、新規参入事業者はすべてを自己の設備で賄う必要がなく、多額の設備投資なしに簡単に迅速な市内市場参入が可能となったわけである。

 UNE制度は、これだけでも新規参入する競争事業者にとって魅力がある仕組みだったが、さらに、その場合の事業者間料金の設定を州の公益事業委員会が行うこととされ、その基準としてFCCが示したのは、「全要素長期増分コスト」(TELRIC)という算定方法であった。これは、既存事業者の実際のコストに基づくのではなく、最新のテクノロジーで最新の効率的なオペレーションを行なったと想定した場合のコストであり、FCCが低コストとなるよう目的意識をもって開発したモデルであった。この方法の採用には経済学者の間でも異論が多く、裁判沙汰にもなったが、FCCは強行した。

 その結果、事業者間料金の水準は、「リセール」では通常の顧客料金の5-10%引きだったのに対し、「UNE」では同40-50%引きとなり、当時アクセスチャージの軽減に悩む長距離通信事業者を主体とした競争事業者は圧倒的に利幅の大きいUNE制度に殺到した。

 さらに問題となったのは、本来はUNE制度は、競争事業者がある程度自前の設備を建設し、加入者回線だけとか、足りない一部の要素を補完的に既存事業者から借り入れて顧客にサービスを提供するケースを想定したものであったにもかかわらず、FCCが競争実績作りに走った結果、UNE-P(UNE-Platform)といわれる方式が増え、回線のみならず交換機能までも一体とした「リセール」と大差のない「ローカル・サービス」全体を規制下の格安の事業者間料金で既存事業者に提供を義務付ける事態がひろく生じた。

■自前設備による競争参入こそ本来のあるべき姿

 また、1996年電気通信法のもう一つの主要目標である「広帯域等の高度サービスの全国への早急な普及の達成」のためには、既存地域事業者の広帯域設備への投資が必要だという事情も浮かび上がってきた。つまり、既存地域事業者は、折角多額の建設資金を投じて光ファイバ等の広帯域設備を建設しても、それを規制で定められた格安料金でライバル参入事業者からの「リセール」や「アンバンドリング」要請に応ずる義務を課されたのでは、まさに「敵に塩を送る」類であり、設備投資の意欲がそがれるからである。

 こうしてFCCでも「自前の設備をもった競争事業者の参入こそが本道である」との流れになってきた。

 FCCのUターンは、その後も、2004年12月15日に、第4次の市内競争規則(UNE)の採択で、次のようにより一層明確に示されている。

  1. 既存地域事業者からの設備貸与(アンバンドリング)がないと競争事業者の市場参入が「阻害 (Impair) されるかどうか」の認定を厳しくして、既存地域事業者の貸出し義務を絞り込む。
  2. アンバンドリングの要素のうち住宅顧客のための「交換機能」は今後は削除し、既存地域事業者の義務としては強制しない。
    (訳注:前述のUNE-Pはできなくなり、現在残っているものは1年以内に他のアレンジに移行しなければならないこととなった。)
  3. 競争事業者は自前設備による競争参入を本筋とする。

■小判鮫商法に反省

 FCCが政策を大きくUターンしたのは、既存事業者の設備に依存し、さらに規制当局が設定する安い事業者間料金に守られて、OEMのように「形ばかりの競争」で安易に手数料を稼ぐような「他人の褌で相撲をとる」「小判鮫商法」を指弾したものであろう。

 既存事業者がローカル通信や広帯域設備を建設するには、一部は利子のつく外部資金によるものであり、また、テクノロジー革新で陳腐化がますます早まる趨勢の中で、設備を保有するというリスクを覚悟してのことである。

 最近は、広帯域設備の競争事業者への再販解放で同様な問題が各国で様々な論議を呼んでいる。オーストラリアのTelstraやドイツのDTなどは、国やEUの競争事業者への解放方針に対し、「大手事業者の広帯域インフラへの投資意欲を減殺するもので、広帯域サービスの普及促進の妨げになる」と反対している。

 競争事業者への既存事業者設備の解放を義務づけるのであれば、最低条件として「公正な事業者間料金」の決定が行われねばならないであろう。

寄稿 木村 寛治
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