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2008年3月掲載

きわめて透明で公正なFCCの規則制定手続
−「万機公論に決する」の見本−

今回は、「FCCでの規則制定の手続」を見てみよう。

 FCCは「1996年電気通信法」や「1934年通信法」の規定をうけ、また、議会に報告する行政委員会として議会の指示に従い、その精神を帯して実施や具体化のための数々の「規則」を制定している。

 その制定手続の概要は通常、おおむね次のようである。

(1)まず早い段階から規則制定の予定を予告(Notice of Proposed Rulemaking)

  • 必要に応じて、FCCの「仮の結論」(Tentative Conclusion)をも提示する

(2)利害関係者や各方面から広くコメントを求める(Comments)

  • コメント提出期限は通常1か月程度とされ、場合によっては「再コメント」(Reply Comments)の手続がとられる。これは、集まったコメントを公示し、さらに「コメントに対するコメント」を求めるものである。

(3)最終的に制定される「規則」(OrderまたはRule)では、

  1. まず、「要旨」を序文(Introduction)として記述し、
  2. 次いで「背景」(Background)で沿革、問題点等を紹介し、
  3. 「論議」(Discussion)で、寄せられたコメントの主要なものの要旨を紹介し、それらの各々について採択か棄却かを理由を添えて述べ、
  4. 「結論」(Conclusion)が出され、最後に、
  5. 「 命令」(Ordering Clause)で、旧規則の改正や新規則を記述する。

 利害関係者の多い案件では、100件を超えるコメントが寄せられるので、3)の部分が長大となり、100頁を超えるようなケースもある。

 以下では、まず(1)および(2)の例として、今年1月に出された「高コスト地域のユニバーサル・サービス助成制度の変革」を例にとって述べてみたい。

■「ユニバーサル・サービス助成制度の変革」の背景

 まず、この件の背景を説明したい。

 FCCの所管するユニバーサル・サービス制度による助成には、次の4種類がある。

  1. 高コスト地域(僻地等、平均コスト以上にコストのかかる地域での通信)
  2. 低所得地域(都会でも低所得者が大半を占める地域
  3. 学校、図書館等にインターネット等の高度通信を導入する助成
  4. 地方の医療機関(病院等の充実から外れた地域でのtelemedicine等)

 民主党政権当時は、ゴア副大統領の「デジタル・デバイド」の回避と称するイニシャチブで、3.の教育関係が巨額に上り、通信料金に跳ね返って「これが果たしてユニバーサル・サービスの対象となりうるのか」との論議を呼んだこともあるが、ほとんどの学校にパソコンやインターネットが導入され一段落した。

 ウォールストリート・ジャーナルによれば、FCCのユニバーサル・サービス制度での助成総額は、2002年には52億ドルだったものが、2007年には約70億ドルに急増したとしている。想像以上の巨額が動かされている。

 1.の「高コスト地域に対する助成」については、従来は一人で僻地等の赤字サービスを提供してきた農村電話会社等が助成を得るだけであった。しかし最近は、競争事業者が都会だけではなく、僻地にも進出し始めた。ところが、 現在の規則では、競争参入事業者もあらたに「既存事業者と同額の助成」を受領することとなっている。このため3.に代わって1.の助成が急増し、問題化しつつある。FCCがその対策に乗り出したのである。

 FCCは、新規参入事業者は僻地等でも新しいテクノロジーを利用して、既存事業者よりも安いコストでサービス提供ができると考えている。また、僻地でのサービス参入を希望する競争事業者に「いくらいくらのコストでサービスを提供する」というビッドを出させて、最低のオファーをした事業者に任せる「リバース・オークション」方式を採用したい意向である。

 いずれにしても今回の「規則制定の予告」でまずひろくコメントを求めることに着手したわけである。FCCは「仮の結論」を提示し、それに対するコメントも募っている。

1)「規則制定の予告」と2)「コメント募集」の例

FCC告示 三件  [序文のみ]
(いずれも: 採択2008/1/9 公示2008/1/29)

(1) 高コスト地域において競争参入事業者がユニバーサル・サービス助成制度により受領する助成額に関する規則に対するコメントの募集 (Identical Support)

 本件の規則制定の予告においてFCCは、高コスト地域において競争参入事業者がユニバーサル・サービス助成制度により受領する助成額に関する規則に対するコメントを募集するものである。以下「背景」(省略)で詳述するごとく、FCCは、現行のFCC規則(メequal support ruleモといわれているもの)は、廃止されるべきものと仮に結論する。この現行規則は、受給資格のある「競争的ローカル交換事業者」(ETCs)も「既存のローカル交換事業者」(ILECs)が受領している「一回線あたりの高コスト地域のユニバーサル・サービス助成金」と同額(identical)の助成金を交付されるとしているものである。FCCはこうした仮の結論に対するコメントを求めるものである。FCCはまた、「競争的ETCs」に対しては、彼ら自身のユニバーサル・サービス提供に要するコストに立脚した助成金が支給されるべきであるとも仮に結論し、これに対するコメントをも募集する。併せて、このようなコストを算定する方法についてもコメントを求める。また、しかるべき報告の義務、また助成を既存事業者の水準を上限として設定するべきかどうかについてもコメントを募る。

(2) 逆オークション方式に関するコメントの募集 (Reverse Auctions)

 この規則制定の予告においてFCCは、ルーラル地方で高コストな地域においてサービスを提供する事業者でユニバーサル・サービス助成の受給資格のある電気通信事業者(ETCs)に対する高コストユニバーサル・サービス助成金の額の決定のために、リバース・オークション(一種の競争入札)方式を採用することのメリットに関するコメントを募るものである。以下 (省略)で詳述するごとく、リバース・オークションでは、通常、助成はオークションの対象となる地域でサービスを提供する場合の最低のビッドで決定される。FCCは、リバース・オークション方式のほうが、現行の高コスト助成配布メカニズムよりもいくつかの潜在的な利点をもっており、FCCは高コスト助成のためのオークション・メカニズムを開発すべきであると仮に結論する。われわれは、FCCがこうしたオークション・メカニズムを実行に移す以前に、オークション・デザインなどに関する具体的な問題点に関してコメントを求めるものである。

(3) 高コスト地域におけるユニバーサル・サービス助成制度の改革に関する連邦/州合同委員会の提案に関するコメントの募集 (Joint Board):

 この規則制定の予告においてFCCは、高コスト・ユニバーサル・サービス制度の改革の方法に関してコメントを求める。具体的には、ユニバーサル・サービスに関する連邦/州合同委員会の勧告についてのコメントを求めるものである。FCCはまた、以下の二つの告示をも本件告示に取り込んでいる。すなわち、2008年1月29日に公示された (1)「高コスト地域において競争参入事業者がユニバーサル・サービス助成制度により受領する助成額に関する規則に対するコメントを求める規則制定予告」および(2)「逆オークション方式に関するコメントを募集する規則制定予告」である。
 しかしながら、これら二つの規則制定予告の一体化は、これら規則制定に関するFCC委員たちの立場や意見をなんら変更したり影響を与えるものではないことをここで明確に留保しておく。

3の『規則』の構成

3) 「論議」(Discussion)、4)「結論」(Conclusion)および5) 命令(Ordering Clause)

提出された「コメント」は、すべて新規則の「付帯資料」に「コメント提出者一覧」として収録され、さらにその主要なものは、新規則の本文の「論議」(Discussion)中に要旨が引用され、いちいちFCCの見解が付されて、「採択」または「棄却」が明示される。したがって通常はこの部分が新規則の頁数のほとんどを占めることとなる。

 以上の「論議」を読んでいくと、おのずから「結論」が自然に提示され、その線にのっとって新規則がOrderとして示される。

 例として、2006年12月に出された「AT&TによるBell Southの合併に関する命令」を以下引用しておく。「論議」ついての例を引用するのは、その背景の説明等とともに長大となるので、ここでは4)「結論」(Conclusion)および5) 命令(Ordering Clause)のみの引用に留めた。

「AT&TによるBell Southの合併に関する命令」(2006年12月)

VIII. 結論
(パラグラフ番号:223) われわれは、今回申請された取引(合併)によって、いくつかの重要な公益がもたらされるであろうと認定した。また、一つの例外を除き、今回の合併は関係する諸市場で反競争的な効果はもたらさないであろうと認定した。上記で論議したように、一部のサービス(特別アクセス・サービス、小売の企業むけサービス、〔消費者むけの〕マスマーケット・サービスおよびインターネット・バックボーン・サービス等)については、市場での集中が増加するであろうことも認めるものである。しかしながら、われわれは、こうした集中の増加が反競争的な影響をもたらしそうであるとは認定しない。今回の合併の結果として、31のビルでは競争事業者の数が(現在のAT&TとBell Southの)2社から1社に減少し、しかも他の事業者の参入の見込みがないことも承知している。しかし、AT&Tが自発的に提示している約束で、これらのビルに関連する光ファイバを10年契約のIRU方式で他の事業者に譲渡するとしており、FCCはこれを合併承認の明確な条件とすることで受け入れることとした。

(224) FCCは、今回の合併から生ずるであろう利益が、それがもたらすであろう弊害を総体として上回るものと認定する。増進される公益とは、広帯域インフラの普及促進、ビデオ番組での競争の増加、国家安全、災害復旧、政府関係へのサービス、(現在はBell SouthとAT&Tのパートナーシップである携帯電話会社の)Cingularの所有の一元化、垂直統合に伴う効率アップ、規模の経済および範囲の経済、コスト節減等である。
(225)したがって、FCCとしては、利害得失のバランスを見て、この取引により公益面でのプラス面が増進されると見込まれ、1934年通信法第214条および第310条の規定による公益の検証について、AT&TおよびBell Southの合併申請を承認するに足りるものと結論する。

IX. 命令条項
(226) 従って、申請を審査した結果、1934年通信法第4条(i)および(j)項、第214条、第309条ならびに第310条(d)項に従い、免許等のBell SouthからAT&Tへの譲渡の申請は、以下の諸条件に従うことで、ここに認可されたものと命令する。
(227) なお、本件認可の付帯的条件として、AT&TおよびBell Southは、本件命令の付帯資料Fに定められた諸条件を遵守しなければならないことも命令する。 
(228) さらに、1934年通信法第4条(i)および(j)項、第309条ならびに第310条(d)項に従い、Access Point社、Center for Democracy、Clearwire 社、COMPTEL社、Concerned Mayors Alliance、Consumer Federation、Earthlink社およびTime Warner Telecom社から提出されていた『「免許等のBell SouthからAT&Tへの譲渡の申請」を棄却すべし』との要請は、ここに述べた諸理由により、拒否されるものとする。
(229)  [省略]
(230)  [省略]

[付帯資料]
A---コメント提出者一覧
B---譲渡(Transfer of Control)の対象となる免許等
C,D,E---諸データ
F---諸条件

■広く意見を織り込んだ透明性の高いFCCの規則制定手続

 以上、FCCの規則制定手続を見てきたが、「コメント」がきわめて重要な要素となっていることが分かろう。案件の直接の当事者のみならず広く各方面から意見を募り、それをFCCの考えに織り込んで柔軟に結論を出す方式であるので、その規則制定手続はきわめて透明性が高く、結論の公正さも担保される。文字通り「万機公論に決す」である。

寄稿 木村 寛治
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