ホーム > トピックス2008 >
海外情報
2008年4月掲載

遅れている米国の広帯域サービスの普及状況と促進政策

 FCCは3月19日、高速/高度回線の普及状況の定期報告を公表した。

 米国では、1996年電気通信法が「すべての米国民に高度通信が低廉な料金で利用できるようにすべし」と明確な政策目標を掲げた。そのための措置の具体化をFCCの責務として明記し、さらに、そのフォローアップとして、毎年議会にサービスの進展状況と普及阻害要因の除去の状況を報告することまで義務づけた。

 FCCはこれに従い、定期的に「高度通信等の普及状況報告書」を議会に提出している。FCCは、自前の設備を有する広帯域事業者は年に二回、FCCに対し高速接続数を報告させているが、その場合の「定義」は次のようになっている。

  1. 高速回線」(high-speed lines)とは、少なくとも一方向で200kbpsを超える速度でのサービスを提供するもの [次の「高度通信」をも含む。]
  2. 双方向ともに200kbpsを超えるものは「高度回線」(advanced service lines)

     しかし、通信大国米国の広帯域サービスの普及は、意外と国際的に見て遅れており、米国の有識者や議会では危機感をもってその改善を図るべしとの意見が表明され、FCCもようやく事態の正確な把握や普及促進のアクションをとり始めた。

    普及状況

     今回発表されたのは、2007年6月末現在の数値であり、その要点はFCCのプレスレリーズによれば、以下のとおりである。

    1) 高速回線

    • 2007年前半中に、( 高度回線をも含めた片方向だけでも200kbpsを超える) 高速回線は、8,280万回線から1億90万回線へ22%増加した。2007年6月30日に終わる12か月間では、高速回線は、6,530万から1億90万回線へ55%の増加であった。
    • 2007年6月30日現在の1億90万の高速回線のうち約6,590万は住宅のエンドユーザー向けである。ケーブル・モデムはこれらの回線のうち50.6%を占め、37.5%はADSL、0.2%はSDSL(symmetric DSL)または従来型の有線接続であり、1.7%が利用者の宅内までの光ファイバ接続、5.8%がその他のテクノロジー、すなわち衛星、陸上固定または移動無線(免許制または非免許制)および電力線利用であった。
    • 高速ADSL回線は、2007年前半中に210万回線増加し、光接続は40万回線、ケーブルモデム・サービスは240万の増加であった。2007年6月30日に終わる12か月間では、ADSL490万回線、光接続は70万、高速モデムサービスは520万の増加であった。

    2) 高度回線

    • 双方向ともに200kbpsを超える「高度回線」は、2007年前半で5,980万から6,960万回線に16%増加した。2006年後半には5,110万から5,980万へ17%の増加であった。
      2007年6月30日に終わる12か月間では、高度回線は5,110万から6,960万へ1,850万回線すなわち36%の増加であった。
    • 2007年6月30日現在の高度回線6,960万回線のうち59.8%は早い方向が2.5mbps より高速であり、40.2%は2.5mbpsより低速な回線であった。
    • 6,960万のうち約6,110万は住宅エンドユーザーむけである。ケーブル・モデムはこれらの回線のうち53.9%を占め、34.1%はADSL、0.2%はSDSL(symmetric DSL)または従来型の有線接続で、1.9%が利用者の宅内までの光ファイバ接続、10.0%がその他のテクノロジー、すなわち衛星/陸上固定または移動無線(免許制または非免許制)/電力線利用であった。

    3) 地理的な状況

    • 2007年6月30日現在、全米平均として、高速DSL接続は、既存地域電話事業者が地域電話サービスを提供している家庭の82%が利用可能であるとFCCは推定しており、高速ケーブル・モデム・サービスは、ケーブル・システムがCATVサービスを提供している家庭の96%で利用が可能である。
    • 米国の郵便番号の地域の99%が最低1社のこれらの事業者によりカバーされている。総人口の99%がこれらの地域に居住している。

     FCCは、この報告でも3)での分析に基づき、これまでのFCCの「広帯域普及促進」政策は、順当に推移してきたと自己評価している。

    ■一方では米国の広帯域サービス展開の遅れに強い批判

     しかしながら、こうしたFCCの自己賛美の姿勢に対しては、強力な批判が出されている。

     FCCの5名の現職委員の一人である民主党系のMichael J. Copps委員は、2006年11月8日、有力紙ワシントン・ポストに寄稿して、「米国での広帯域サービスの普及の遅れは米国経済にも重大な悪影響をもたらす」とし、「料金の値下げや競争促進のためにFCCは早急に戦略を追及すべきだ」としている。

     同委員によれば、

    「ITUの調査でも、米国の広帯域サービスの普及率は世界で15位であり、料金等の他の要因をも考慮した場合には21位で、Estoniaの次にくる。アジアや欧州では25-100Mbpsなのに、米国ではその1/20の速度のサービスに対し2倍の高い料金を支払っている。」

    という。

     Copps委員は、さらにFCCが有効な普及策をとらず、その上、米国の遅れを率直には公表せず、事実を曖昧にしようとしているとし、事実を直視しようとしないFCCを次のように厳しく批判した。

    「FCCの報告書は、われわれが世界の他の国々に遅れかかっているという事実を曖昧にするようにデザインされているように見える。FCCは未だに広帯域サービスを200kbpsと定義しており、ある郵便番号区域で一人でも広帯域へのアクセスができるならそれだけで誰もが実際にアクセスしているものと推定し、料金についてのデータを集めようともしていない。」

     たしかに技術進歩が早いこの世界で、いまどき「200kbpsを超えれば高速通信」とみるのは、的を射ていない。

    ■FCC委員長も改善案を提案

     このような厳しい批判を受けて、FCCのMartin委員長も、2007年12月13日に議会上院で以下のような改善私案を明らかにした。

    • 「私がFCCの委員長に就任して以来、広帯域の普及促進にいろいろな措置をとってきた。FCCは、インフラへの投資を鈍らせる規制面での障壁を除去した。DSL、BPL[電力線インターネット]、無線広帯域を「情報サービス」として区分し、(「電気通信サービス」のような)旧態依然の重い規制から外した。(ケーブル免許の)フランチャイズ付与の手続を簡素化し集合住宅での(ケーブル引き込み等の)排他的な契約を禁止して、新規参入を促進し、ビデオ市場での競争も促進した。
    • しかし、まだ課題が残っている。更なる措置の前提となる広帯域サービスの現状に関する十分な情報の収集もその一つである。この秋に私は同僚の委員に対し、いくつかの試案を提示した。すなわち、
    • ZIPについては、「すくなくとも1名の広帯域利用者」というのではなく、「実際に何人の利用者がいるのか調査」
    • 「高速回線」の定義を「200kbps以上」から「1.5mbpsから3.0mbpsまで」に改定し、テクノロジーの変化を調べる
    • 情報収集を以下のティアー別とする
      • 第一段階   200kから768kまで
      • ベーシック  768kから1.5mbps
      • 高速     1.5mbpsから3.0mbps
      • 特別高速(Robust)   3.0mbpsから6.0mbps
      • プレミアム  6.0mbps以上
    • 広帯域サービスの利用可能状況の詳細な全国地図作成プログラムの始動
    • 無線広帯域に関する詳細なデータの収集
    • 国勢調査局の調査に広帯域を一項目加えることを私が提案した。

    ■FCCがやっと3月に打ち出した改善策

     FCCもこうした事態を認め、まず、現状の正確な認識のため、速度別の広帯域サービスの現状や料金について詳細できめ細かいデータを集めるため、2008年3月19日、次のような命令を採択した。規則制定の予告も発出し、収集方法、改善策、政策立案等に関しひろくコメントを求めることとなった。

    • 本日FCCが採択した命令により、広帯域サービス事業者から6か月ごとに収集している広帯域サービス加入状況の正確性と質が改善されることとなろう。改善点の主な点は、広帯域情報について、詳細な加入情報をローカル・レベルで集めるとともに、その速度別の詳細な情報が収集できるようになることである。具体的には今回の命令により、次が期待できる。
    • 市場における上り(アップロード)と下り(ダウンロード )の速度に関する情報に関する情報をより一層正確にとらえるため、速度段階別の区分を増やす
    • 広帯域事業者に対し、( 従来の州単位よりも細分された) 国勢調査の地域区分ごとに、速度段階およびテクノロジー別にも区分した広帯域加入者数を報告するよう義務づける
    • 無線移動広帯域サービスの普及状況に関してFCCが収集する情報の正確性を高める。
    • 「規則制定の予告」により、広帯域サービスの料金および利用可能状況に関するコメントを募る。
     コメントを集め、正式に新しい規則が制定されるまでにはまだ日がかかるが、遅まきながらFCCも動き出したことになる。
    寄稿 木村 寛治
    ▲このページのトップへ
    InfoComニューズレター
    Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
    InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。