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2008年7月掲載

米国の広帯域サービスの普及現状とその評価
−FCCの評価には強い批判も−

 FCCは6月12日に「米国での広帯域サービスの普及の進展」について、第5次の議会あての報告書を公表した。数値等は2007年6月末現在である。

 この報告書は1996年電気通信法第706条により義務づけられたものであり、今回はその第5回目にあたる。

 米国議会は、1996年に競争を促進することを最大の目標として「電気通信法」を制定したが、あわせて、「すべての米国民が高度な電気通信機能(advanced telecommunications capability)を利用できるよう、その展開を促進する」という遠大な目標を設定し、さらに一歩踏み込んで、「FCCは、米国民が高度な電気通信機能をどの程度利用できているかを定期的に調査し、その普及を阻害している要因を洗い出して、それを除去するための措置をとること」を命じている。

 最近、「広帯域サービスなどの普及が将来の国民経済や雇用の根幹を左右する」との認識が高まってきているが、1996年という早い時期に将来を見据えて、このような具体的措置まで指示した米国議会の識見は、やはり見上げたものだといわねばなるまい。

 同法は、FCCに対して「高度通信の普及が妥当で、かつ、タイムリーになされているかどうかを決定するため、定期的に調査を行うこと」を義務づけている。

 FCCはこれまでの数次の報告書において、「米国では高度通信の普及が順調に行われている」と結論してきたが、今回の報告書においてもFCCは、これまでの報告書と同様、「高度通信の普及が妥当でかつタイムリーになされていると認定するものである」と結論している。

■大幅に改善された報告書−引き金は民主党系の一委員の厳しい批判 

 ただし、今回の報告書は、前回の報告書より大幅に詳細で、さらに最近の広帯域分野での大きな進展や新テクノロジー等を鳥瞰するものとなっている。広帯域サービス普及促進のためFCCがこれまでにとってきた数々の措置についても要約されている。

 こうした大改善の引き金となったのは、FCCの民主党系委員の一人であるCopps委員である。

 彼は、FCCが当初の報告書から、「高速回線」(high speed lines)の定義を、「少なくも一方向で200kbpsを超えるもの」とし、その中でも「双方向ともに200kbpsをこえるもの」を「高度回線」(advanced lines)としてきたことを、「アジアや欧州諸国では50mbpsや100mbpsもどんどん使われだしているのに、200kbpsとは、時代錯誤も甚だしい」と厳しく論断した。また、OECDの調査では、米国の広帯域サービスの普及率が15位と大変遅れていることをとりあげ、「広帯域はいまや、19世紀の鉄道・運河、20世紀の高速道路や電話といった重要なインフラに匹敵する。21世紀の経済活動や雇用等、国の発展の礎となる重要なものだ」と現職のFCC委員でありながら、米国の立ち遅れに対する強い危機感をワシントン・ポストに投稿し、「FCCはこれまで何もしていない。いまや官民一体となってアクションを取るべき時期だ」と高い調子で訴えた。

■広帯域普及状況と新しいテクノロジー

 今回の報告書(2007年6月末現在)が示す「広帯域サービス普及状況」の要点は次のとおりである。

(1) 「広帯域回線」の速度別/テクノロジー別内訳
 前述のように、FCCはこれまで、「高速回線」(high speed lines)を「少なくも一方向で200kbpsを超えるもの」と定義し、その中でも「双方向ともに200kbpsをこえるもの」を「高度回線」(advanced lines)と定め、それ以上の分析をしていなかったが、今回から、
「高速回線」については、

  • 200kbpsを超え2.5mbps未満のもの-----2,790万回線
  • 2.5mbpsから10mbps未満のもの------- 3,770万
  • 10mbpsから25mbps未満のもの-------- 380万
  • 25mbpsから100mbps未満のもの-------- 9.2万
  • 100mbps以上のもの------------------  2.1万

というように、より一層高速なものも細分した。
 また、「高度回線」については、
  2003年12月には1,990万回線であったものが、2007年6月には6,960万回線に増加している。そのうち住宅用は6,110万であるとし、高度サービスの内訳も示している。

  • ケーブル------- 48.8%
  • ADSL----------- 33.6%
  • SDSL----------- 1.5%
  • エンドユーザー構内まで光ファイバ----- 2%
  • その他のテクノロジー-----14.1%

(2) さまざまな広帯域テクノロジーの鳥瞰図
第4次報告書以降の最近の様々な広帯域テクノロジーを概観している。

1.ケーブル

  • PacketCableやその他のVoIP標準を用いたthe Data Over Cable Service Interface Specification (DOCSIS)プラットフォーム
  • DOCSIS 3.0 specifications
  • Next Generation Network Architecture (NGNA)
    ケーブル事業者がそのケーブルネットワークでVoIPサービスをサポートするために PacketCable 1.0 and 1.5 architectureを導入しつつある。
    間もなくケーブル・システムでのIPビデオが実現

2.銅線

  • DSL接続数 2,330万
  • asymmetric DSL 2+ (ADSL2+)---25mbpsまでの提供が可能
  • very high-speed asymmetrical DSL (VDSL2)---100mbpsが可能
  • IPTVやHDTVでさえ銅線ネットワークで可能になりつつある。

3.光ファイバ

  • VerizonのFiOS FTTHネットワークは下りで30mbpsまで、上りでは5mbps まで(一部の場所では、下りで50mbpsまで、上りでは10mbps )の速度を提供しており、現在では680万もの世帯やビジネスでの申込に応じられるまでになっている。
  • ・fiber-to-the-curb (FTTC) および fiber-to-the-node (FTTN)

4.免許不要の無線テクノロジー

  • Wi-Fi----2007年8月現在、415の市や郡がWi-Fi を展開、計画または運営中
  • WiMAX----事業者の利用目的は主として次の二つの分野でみられる。
    1. 携帯電話のバックアップ・サービスとしてT1専用線やポイント・ツゥ・ポイントの光ファイバ・リンクの代替
    2. Wi-Fiメッシュの大都会等での重畳用
  • Wireless Personal Area Network---3.4-10.6 GHz帯を用い、コンピュータ周辺機器やマルチメディア機器がインターネットに接続する場合にケーブルを不要とする。

5.免許を要する無線テクノロジー

  • 1xEV-DO (EV-DO) および EV-DO Revision A (Rev A) network
  • Broadband Radio Service (BRS)およびEducational Broadband Service (EBS)
  • Orthogonal Frequency Division Multiplexing (OFDM)
    2007年6月現在、高速回線(high-speed lines)を用いてインターネットにアクセスできる移動無線機器は3,530万台が利用されている。FCCの推定では、2007年半ばに、全米人口の82%に相当する233百万人の人々が住む地域で、事業者はすでに移動広帯域ネットワークを展開済み。 

6.電力線利用の広帯域テクノロジー --- broadband over power line (BPL)

  • Access BPLとIn-House BPL(HomePlug)

7.衛星テクノロジー
「高速サービス」回線(high-speed lines:少なくとも一方向だけでも200kbpsを超えるもの)のうちで衛星方式が占める割合は約0.7%にしかすぎない。しかしながら、衛星テクノロジーは進化しつつあり、最近打ち上げられたKa-Band 衛星は、カバー面および速度面(両方向)での改善が見込まれている。また、飛行機、船舶自動車等の移動物体への last-mile 接続の改善も見込まれている。

■「広帯域サービスを全米国民に」−最近のFCCの努力

 こうした広帯域サービスの普及のためにFCCがとった諸政策、措置も、報告書に列挙されている。

  • 2004年10月、FTTC(fiber to the curb)についてもFTTH(fiber to the home) と同様に、(既存事業者が競争事業者にUNE(unbundled network element)方式で競争事業者に設備を利用させる)「アンバンドリング(unbundling)[UNE制度]の義務」から免除
  • 自前設備による有線広帯域およびインターネット・アクセス・サービスは、(規制の重い「電気通信サービス」ではなく)「情報サービス」であると認定して、ケーブル・モデム・サービスと同様な(軽い)規制に軽減
  • 2007年3月、事業者の広帯域ネットワーク展開のインセンティブの一つとして、ビデオ番組伝送事業への新規事業者の新規参入を促進するため、地方政府等の参入規制でFCCの基準を超える、より厳しい部分を「あらかじめ包括的に無効化」(preempt)
  • ケーブル事業者のTime Warnerは電気通信事業に進出し、卸売電気通信事業者として、UNE制度を利用し、ベル系地域電話会社(Verizon)の設備を借りて小売電気通信事業者にサービス提供をしていたが、Verizonが「小売事業者なら別として、UNE卸売事業者であるTime Warnerへの設備貸与を拒否した」のを違法とした。
  • 2004年および2006年に、Access BPLシステム(電力線利用の広帯域サービス)に関する規則を採択。
  • 衛星方式の広帯域テクノロジーの促進
    Earth Station on Vessels (ESV)の利用のため、5925-6425 MHz/3700-4200 MHz (C-band)および 14.0-14.5 GHz/11.7-12.2GHz (Ku-band)の周波数帯でのインターネット・アクセス等の電気通信サービスに関し免許やサービス・ルールを採択
  • 地方の医療機関助成プログラムの拡大
    地方の医療機関が近代的な電気通信サービスへのアクセスが可能となるよう料金割引を行なっているが、助成額の増加ができるよう規則等を改定。移動通信でのtelemedicineリンク用に衛星サービスを利用できるようにした。
  • 2006年9月、2006 Pilot Program Orderを出して、医療機関むけの全国カバーの広帯域ネットワークの建設の促進。都市部および地方の公的および非営利民間の医療機関、研究所等を結ぶ構想。建設コストの85%までの資金を助成。
  • 障害者の広帯域アクセスの勧奨
    相互接続されるVoIPサービス事業者に対し、1934年通信法第225条および第255条の障害者によるアクセス要件を拡大。メーカーには対応機器の開発を要請。
  • 広帯域に関するその他の啓蒙活動等
    2005年に、消費者に広帯域サービスについて情報等の提供の大がかりなキヤンペーンを実施。インディアン助成対策。

■FCCは、「米国での広帯域の展開は妥当でタイムリーに行なわれていると認定

 FCCは、今回の報告書の末尾で、
「FCCは、高度電気通信機能の全米国国民に対する普及は、妥当でタイムリーに進行しつつあると認定するものである。これらのデータは業界が広帯域の展開のために大幅な設備投資を行っていることを反映している。事業者の広帯域設備への投資は続いている。さらに新しい広帯域依存のサービスやアプリケーションが市場に出現しつつあるのにつれて、広帯域への加入も着実に増加しつつある。この増加がさらなる広帯域の普及をプッシュしている。」
としている。

■広帯域サービス普及の国際比較

 はじめにも触れたように、国際的に見て米国の広帯域普及が遅れているとの見方が、今回の報告書改善のキッカケになったわけであるが、この点についてFCCは、OECDの調査を引用している。

「広帯域サービスの利用状況の国際比較では、OECDの半年ごとの比較がもっとも多く引用されているが、米国は100人あたりの広帯域加入者は22.1で、OECD加盟30カ国のうち15位にとどまっている。」

 しかし、FCCは続いて次のように述べ、OECDの調査を批判し、「米国は必ずしも国際的に遅れているわけではない」と言わんばかりに反論している。すなわち、

  • 「しかしながら、広帯域加入者の絶対数では66,213,257と最大であり、しかも上位12加盟国の合計数よりも多い。OECDの全広帯域数の30%を占めている。
  • 国際比較では、地理的な差異とか人口の分布状況も見る必要がある。同じ人口の二つの国でも、人口が都市に集中している国と、ルーラル地域にもまんべんなく分布している国とでは、後者のほうが広帯域の展開コストが高くつく。OECD調査で6位にランクしているIcelandでは人口の80%近くが首都Reykjavikに集中しているのである。
  • 米国ではmulti-platform competitionが出現している点である。ほとんどの家庭は、DSLとケーブル・モデムの二つのサービスを選択できる。さらに無線広帯域、FTTP(fiber-to-the-premises)、電力線広帯域も各地で展開されている。米国では光ファイバによる広帯域加入者が140万以上あるが、OECD加盟国の多く(30国中27か国)では、まだDSLが主要な広帯域テクノロジーとなっている。
  • さらにOECD調査では、Wi-Fiホットスポットや3Gモバイル・テクノロジーなどの家庭以外の広帯域に注意を払っていない。米国では58,000ものホットスポットがあるという報告もあるが、第2位の英国ではまだ17,000にとどまっている。
  • OECD調査はper capitaでカウントしている点も問題である。そのためOECD加盟国のすべての家庭とビジネス企業が広帯域を備えたとした場合でも、米国は20位のランキングとなってしまう。」

■FCCの楽観的な見方に、なお厳しい批判も

 冒頭に引用したFCCのCopps委員は、今回の報告書の審議においても、多少の前進は評価したものの、「米国の立ち遅れを糊塗し、『広帯域サービスは妥当で順調に普及しつつある』などと従前どおり繰り返しているのは論外だ。米国の料金の高さや、郵便番号区域ごとの大まかな普及状況把握、低所得層や障害者への普及、等なんら問題は解決していない」と痛烈に批判し、反対の態度を崩していない。

寄稿 木村 寛治
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