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2008年9月掲載

災害対策で大忙しのFCC

 8月のFCCは夏休みシーズンにも関わらず、大車輪の大忙しが続いている。

 大きなテーマは二つ。ひとつは、来年2月に迫った「テレビのデジタル化」である。アナログ・テレビで用いていた周波数はすでに先頃のオークションでそのほとんどを電気通信事業者やケーブル事業者に売却して、膨大な国庫収入をもたらした。円滑な移行をめざして5名の委員が手分けして全国の主要都市で啓蒙(reach-out)行事を次々に開催している。

 二つ目が「災害対策」である。今回は、これを巡るFCCの8月中の奮闘を見てみよう。国情は大きく違うとしても、わが国でも折から9月1日の防災の日もあり、参考になれば幸甚である。

 8月中にFCCは次の三件の災害対策アクションを打ち出した。すなわち、

  1. ハリケーンGustav対策
  2. 商用移動通信緊急警報システムの実施規則を制定
  3. IP方式の緊急通報サービスの普及促進のため規則制定手続を開始

である。

1. ハリケーン対策

 この原稿を書いている9月1日には、ハリケーンGustavがカリブ海でJamaicaに大きな被害をもたらしながら西進し、方角を次第に北西に変えつつあり、米国中南部のLouisiana州を狙い始めた。勢力段階は、5段階評価の3程度ながら、次第に発達しつつある。3年前にハリケーンKatrinaが同地方のNew Orleansに壊滅的な被害をもたらし、通信施設も甚大な被害を受けた。この際のBush政権の対応の遅れで大変な批判をうけ、FCCも災害状況の把握の遅れや回復の遅延で同様厳しい非難にさらされた。

 これに懲りてか、政府は大統領自身が事前に同地方に飛んで総指揮をとるほか、バス、鉄道で百万人、マイカー等での自主避難も合わせると200万人を避難させつつある。

 FCCのホームページ(9月1日)の最上段には、Hurricane Emergency Informationのボタンを設け、それをクリックすると、天気予報、緊急事態のコンタクトのリンク、前回のハリケーンKatrinaの事後の反省委員会の報告書等が現れる。

 FCCも見違えるような事前の備えを打ち出している。FCCは、24時間オープンのFCC Operation Centerを設置するとともに、8月29日に次のような公示を出した。

「通信事業者は、緊急時にどのようにFCCにコンタクトすべきかの再確認」(2008.8.29.)

 Gulf沿岸で発達しつつあるハリケーンの差し迫った脅威のため、FCCは通信事業者に対し、「緊急時の特別暫定措置の認可」(emergency Special Temporary Authorizations (STAs))の取得に関する以下の情報について、再確認するよう求める。

 週末や時間外に、緊急時STAsが必要な事業者、または、事後の災害復旧措置についてFCCに相談する必要がある事業者は、24時間オープンのFCC Operation Center((202) 418-1122)を呼ぶことができる。

 さらにFCCは、すべての事業者がFCCの「災害情報報告システム」(Disaster Information Reporting System (DIRS))に参加するよう勧める。DIRSは任意ベースの ウェッブ方式のシステムであり、無線、有線、放送、ケーブル事業者等を含む通信企業(communications companies)が、緊急時に通信インフラの状況や現状認識情報(situational awareness information)を報告するのに用いることができるものである。このシステムはまた、通信事業者の緊急時コンタクト情報をも収集するものであり、FCCの災害復旧努力をも促進するものである。

2. 商用移動通信緊急警報システムの実施規則を制定

 旧ソ連との冷戦もあり、もともと米国では非常事態に対する対処に腐心してきたが、さらに2001年の911事件や2005年のハリケーンKatrina以降、米国では災害に関する関心が高まっており、こうした事態に国民に緊急警告を伝達するための様々な措置がとられてきた。特別法の制定とそれに伴うFCCの規則により次々に整備された。

 当初はアナログ・テレビとラジオだけであった公衆への伝達手段も、テクノロジーの進展につれ、ケーブル・テレビ、衛星放送、デジタル・テレビも対象となったが、近時の携帯電話の大幅な普及に伴いその重要性が高まるなかで、携帯電話事業者にも緊急警報伝達の責務を負わせるところまできた。もっとも、技術面での困難な問題もあり、携帯電話事業者にはこの伝達に参加するかどうかはまだ自主的に選択権が与えられている

第三次報告と命令(2008/8/7)

I. まえがき

1. この「商用移動通信警報システム第三次報告および命令」(Commercial Mobile Alert System Third Report and Order (CMAS Third Report and Order))は、「商用移動通信警報システム」(Commercial Mobile Alert System (CMAS))の創設に関するFCCの次のステップであり、商用移動通信サービス事業者(Commercial Mobile Service (CMS) providers)が任意で公衆に対し緊急事態に関する警報を提供することを認めるものである。FCCがこの措置を採るのは、「警告、警報および対応のためのネットワーク法」(Warning, Alert and Response Network (メWARNモ) Act)の第602条(b)項に基づくものであり、同項はFCCに対して、いかなるCMS事業者であってもそれが加入者に対し緊急警報を伝送することを認めるような規則を制定するよう義務づけている。同項はまた、緊急警報を全くまたは一部を伝送しないことを選択したCMS事業者に対して、CMS機器の販売の際に警報を伝送しないことを明確に顧客に伝える義務を課している。さらに、警報を伝送しない選択を行ったCMS事業者は既に持っている顧客に対してもその選択を通知しなければならないこととしている。

2. 本件第三次報告および命令においてFCCは、WARN法第602条(b)項の実施のための規則を制定しているが、その主要点は次のとおりである。FCCは;

  • 警報伝達に参加しないまたは一部のみ参加するCMS事業者が、新規および既存の顧客に対して行う通知の要件の採択
  • CMS事業者が警報伝達への参加を選択した場合およびかかる選択を撤回した場合の手続の採択
  • 顧客が警報システムに参加しない選択をおこなった場合に関する規則の採択
  • 参加したCMS事業者が警報の伝達に必要な機器の開発と保守に要したコストを回収することを容認

3. IP方式の緊急通報サービスの普及促進のため規則制定手続を開始

 警察消防等への緊急通報である911サービスおよびその改良版であるE911サービスは、IP電話については技術的に難点もあり、必ずしもすべてで提供されていないが、これでは問題があるとして、今年7月にNET法(後述)が制定され、FCCは今後90日間以内にその実施規則を急遽制定しなければならないこととされた

 FCCはこれをうけて、急ぎ実施規則の制定に乗り出した。

FCCの規則制定の予告
採択: (2008/8/22) 公示: (2008/8/25)

I.まえがき

1. 警察消防等への緊急通報である911サービスは、我が国での様々な危機に対応する能力にとって必要不可欠なものである。2008年7月23日に大統領署名で発効したThe New and Emerging Technologies (NET) 911 Improvement Act of 2008 (NET 911 法)は、IPに立脚した911およびE911(改良版)サービスの迅速な普及と、全国IP立脚緊急ネットワークへの移行の促進、さらに障害者による911およびE911へのアクセスの改良によって、国民の安全を増進・促進することをその目的としている。今回の規則制定の予告の公示 は、この新立法の実施に向けてのFCCの第一歩となるものである。

2. NET911法は、我が国の911システムの様々な側面に触れている。本件公示でFCCは、911法での一つの具体的な責務である次の点に焦点を絞っている。すなわち、FCCは、2008年10月21日までに、同法のいくつかの主要条項、とりわけ、IP方式の音声サービスの提供事業者が911およびE911サービスの提供のために必要とする様々な機能(capabilities)へのアクセスを得られるように確保しなければならない。FCCは、議会の定めた期限までに、これらの規則を制定する所存である。そのために本公示を行うが、そうした事情からコメントの提出期限等が繰り上げられている。

[以下 省略]

寄稿 木村 寛治
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