トレンド情報-シリーズ[1997年]

[米国インターネットの内側]
[第2回]エレクトロニック・コマースの行方

(1997.7)
  1. なぜ政府発表
  2. 業界の声
  3. 成功と失敗
  4. 混沌
1.なぜ政府発表
 7月1日に、クリントン政権が発表した電子商取引振興策は、各国マスコミに大々的に取り上げられ、その目的を十分に果たしたようだ。インターネットの商取引に税金、関税をかけないという米国の提案は、「もともと、ソフトウェアのダウンロードやインターネット周辺機器などは、免税の対象」(大蔵省*1)であり、「構想の全体像や対象がはっきりしない」(同)ものだった。
 これはちょうど、米国政府のプロパガンダとして成功した、かつての情報スーパーハイウェイ構想を思い出させる。これも目的と手段がはっきりしないまま、世の中のブームをあおり多くの企業の投資を誘発してきた。
 つまり、今回のエレクトロニック・コマースの振興策発表は、米国のハイテク業界にとって、必要なものだった。これは、クリントンの選挙活動中シリコンバレーの企業トップから後押しされ、マイクロソフト、インテルからも要請されていたものだった。あえてはっきりしないエレクトロニック・コマース振興政策を、政府レベルで発表したのは、エレクトロニック・コマースは本当に儲かるのかという米国内の疑念を払拭させる政治的目的に非常に意義のあることだった。

*1 7月3日東京新聞

2.業界の声
 先月、コロンビア大学で行われたエレクトロニック・コマースに関するフォーラムでは、米国のエレクトロニック・コマースに関わる業界関係者の本音が出ていた*2。ここでの参加者は全員、「エレクトロニック・コマースの経済モデルがしっかりしているかについては疑問である」というコメントをしている。
 現在、インターネットの収入源となっている広告についての関心は非常に高いが、NBC News社は、「望みを持っているが、将来はどうなるかまったく展望できない」と指摘している。さらに、インターネットの限界についても議論されたが、人々はようやくインターネットは万能という呪縛から解き放たれ、真面目に議論を始めてきたと言えよう。
このフォーラムでは、プッシュ技術についても議論されたが、パネリストの中にはこのような技術によるサービスに不信を表明するものも少なくなかった。ある参加者は「そういうサービスを使うと私が知りたい情報だけが提供されるので、知っていなければならない情報が入ってこなくなってしまう」とまで述べている。

*2 6月6日TechWire, CMP

3.成功と失敗
 多くの米国調査機関は、エレクトロニック・コマースの未来を信じている。2000年までに電子商取引市場は1,000億ドルまで膨れあがるとも予測されている。しかし、日本だけでなく、米国でも消費者向けのビジネスで成功して利益をあげている企業はいまだ皆無に等しい。1996年の消費者向けのエレクトロニック・コマースの売上は、5〜7億ドルであった。これは、その1年前になされた当時の市場予測の期待を大きく下回るものであった。
 インターネット上の書店として、最も成功しているとされているアマゾン.コムは、NASDAQで先月、IPO(公開価格)の18ドルを上回る29 1/4ドルで上場を果たした。インターネットを利用して実質的な売り上げを上げる数少ない企業として期待は高いが、同社の1996年の売上は1570万ドルに対し、利益は600万ドルの赤字であった。中古車、新車の販売取り次ぎで成功しているとされるオートバイテルも赤字を拡大しており、4月の上場を見送らざるを得なかった。
 ショッピングモールは、最も上手く行かないウェッブ上のビジネスモデルとなった。6月に入り、IBMの運営するショッピング・モール、ワールド・アベニューが閉鎖を発表した。1996年末には草分けだったMCIのモールが、1997年にはAMEXのモールも閉鎖され、タイムワーナーの運営するモールも大きな赤字を出しており、間もなく閉鎖とも見られている。
 企業向けサービスも決して現状では上手く行っていない。企業間ビジネスのディレクトリーサービスのインダストリーネットを運営するNets社は破産宣告し、日本の学者間で評判だった金型部品商社ミスミのインターネット調達は、2年間で実績ゼロと報じられた。
 インタラクティブ・ウィーク誌によると、ウェッブ上のエレクトロニック・コマースで、成功している数少ない例は、デルコンピュータ、投資サービスのEトレードグループ、PCオークションのオンセールとアダルト関連のサイトだが、成功への道は容易ではないと指摘している。

4.混沌
 このような状況をみて、各調査機関は昨年あたりから、エレクトロニック・コマースの成功は、対消費者ではなく、ビジネス間にあると指摘しはじめた。つまり対消費者市場は2000年までに、70億ドル程度だが、ビジネス間の市場は、600億ドル〜1300億以上になるというものだ。
 調査会社のヤンキーグループによると、昨年のエクストラネット関連の受注額は10億ドルだったが、2000年までには約1340億ドルにまで達するとしている。
 企業間のエレクトロニック・コマースが普及していくシナリオは次の2つがある。まず既存のEDIがTCP/IPベースに置き換えられ、イントラネットに結合していく。すでに、多くのEDIサービスは、インターネットベースの技術に対応してきており、インターフェースが共有化されることでEDIの取引先も拡大していくだろうという論理である。もうひとつは、イントラネットと既存のレガシーシステムとの互換性を容易にするソリューションシステムの普及によって、イントラネットを共通基盤とした、エクストラネットの拡大である。このように、企業間でのエレクトロニック・コマースの拡大にとって、相互の利用技術の標準化こそが、普及拡大の最も大きなハードルになっている。
 今月に入り、マイクロソフト、ネットスケープ、オラクルがOBI(Open Buying on the Internet)のサポートを発表した。OBIとはアメックスとフォーチュン500社のラウンドテーブルが、企業間のエレクトロニック・コマースの標準となるフォーマットを定めたものである。
 OBIの大部分は、オンライン購入時におけるオーダーなどのフォーマットや内容を定めたものであるが、セキュリティ、通信フォーマットを含めた情報の流れについてのガイドラインにもなっている。すでに、オープンマーケット、エレコム、アクトラといったベンダーがOBIをサポートしている。
 しかし、現在6億ドルの市場規模と言われているエレクトロニック・コマースの企業間利用の動向と将来性は混沌としている。ただ事実として、米国製造業を中心とした利用が始まりつつある。企業間利用が果たしてどれほど今後拡大するかは、実際の利用ケースがどのような傾向を示していくかを注意深く観察していく必要があるだろう。

(産業システム研究部 吉沢 寛保)
e-mail:yosizawa@icr.co.jp

(入稿:1997.7)

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