トレンド情報-シリーズ[1997年]

[米国インターネットの内側]
[第4回]出口を探すコンテンツ・ビジネス(1)

(1997.11)
1.コンテンツ不足の大海
 海外での株式市場の混乱とともに、日本ではパソコン・バブル崩壊が報じられた。大型量販店での売れ行きは史上初の2 ケタダウンを記録し、秋葉原のパソコン専門店では倒産するとこまで出始めてきた。昨年まで、パソコンは家電化し、テレビ、冷蔵庫なみに家庭に普及するとまで言われていた。日本の有力シンクタンクの中には、家庭におけるパソコンの普及率を2000年に50〜90%と予測し、販売台数は伸びつづけると述べるところまであった。

   一昨年からのウィンドウズ95ブーム、インターネットブームの反動があったとは言え、家庭での普及率が20%に達しない段階で、多くの予測とは裏腹にその勢いは早くも失速してしまった。パソコン失速の原因は、もちろん消費税引き上げ、ウィンドウズ98に備えた買い控えもあげられるが、インターネットの日本語によるコンテンツ不足を指摘する声も上がっている。
 昨年来、インターネットブームにのって、日本のパソコンメーカは販売手段にインターネットが使えることをうたい文句にして、広告に金を投じていた。事実、ユーザ側の意識もパソコン購入の目的は、かつての「ワープロ」「ゲーム」から、いつの間にか「インターネット」にとって代わられていた。
 だが、家電販売店の店員からは、「ウィンドウズ95は初心者にとって未だ難しすぎる」という声や、「インターネットは魅力的な情報が不足している」という声も聞かれていた。多くの新規ユーザがウィンドウズ95やインターネットの魅力に引かれてパソコンを購入していった。しかし、フタを開けてみると、インターネットで魅力的な情報の多くは英語ばかりで、海外ショッピングをしてみても、英語を読むだけでうんざりしたといった初心者が少なくなかった。
無論、ここ2年のうちに企業や大学で、インターネットは欠かすことの出来ない重要なものになった。だが、個人ユーザにとってのインターネットの魅力とは、あくまでもそのコンテンツの魅力という意味と同じになる。

 ここに興味深いデータがある。インターネットユーザがホームページにアクセスする目的に関するものだが、アドバタイジングエージ誌が行った調査によるとアメリカのユーザは、「ニュースや趣味に関する情報収集」が9割を占め、「調べもの」や「ネットサーフィン」といった回答がそれに続くが、日経リサーチ社が5月に行った日本における同じ調査では、「懸賞・プレゼント」という回答が8割以上を占め、第1位である。
 これは日本の個人ユーザの多くが、企業の提供するプレゼント・懸賞につられてインターネットを利用しているという一面を浮き彫りにしている。もちろん、これは企業側にも責任がある。コンテンツの充実を急ぐよりも、プレゼントでユーザをつることに走ったからだ。事実、懸賞付きのインターネット広告が、クリック率を上げるための手法として使われた。しかし、これではインターネットがユーザにとって利用価値のあるものとして長続きするはずがない。

   企業側にもいい訳はある。個人の趣味やニュースなどに関する情報を充実させたいが、いかんせん、インターネット上の情報はタダが常識になってしまっている。これでは、採算があわないし、情報の有料化したとしても、現在採算がとれている情報提供者などほとんど皆無に等しいのが実態である。
 出版業界には日米を問わず、インターネットなどの電子メディアが本当に普及してしまうと、新聞や雑誌が売れなくなってしまうのではという危機感がある。タダが常識となっているインターネット上のコンテンツを広告でも有料化でもなんでもいいが、なんとかビジネスとして軌道に乗せたいと、最も強い危機意識を持っているのがマスメディアである。
 しかし、実は、これはそれほど心配する必要もない。ここしばらくに限って言えば、電子メディアの普及によって、従来の紙による新聞・雑誌が消滅することもなければ、その売上が劇的に低下することも当分考えられないからである。
 すでに日本でも携帯端末を利用した有料の電子ニュースサービスがいくつか提供された。結果的には、有料の電子ニュースのほとんどが売れなかった。実際に手にして使ってみればその理由は簡単である。どうみても紙の新聞・雑誌の方が読みやすいく、使いやすいからである。今までと同じ情報を電子に換えたからといって、それが売れる理由はどこにもない。

2.広告収入はあてにならない
 すでにこのシリーズで何度か指摘しているように、インターネット上にコンテンツを提供しているアメリカのコンテンツビジネスの中で、有料情報や広告で利益を上げているところはいまだ皆無に等しい。
 例えば、CNet.com、Shareware.com、News.com、Search.com、Gamecenter.com、TV.comなど多くのホームページを運営するCnet社の売り上げの場合、第2四半期の662万ドルから第3四半期の686万ドルへと、今年に入りその広告収入の伸びは停滞してきている。アクセス数の伸びは、第3四半期に入り、かつての30%台から10%台へ低下し、利益では615万ドルの赤字を計上し、売上高にほぼ匹敵する規模になっている。

 アメリカのインターネット広告は登場して1〜2年たったが、市場全体としては、一体どれほどの市場規模になったのか。1996年は3億ドル市場だったと言われているが、この3億ドルという数字は、アメリカの広告市場全体(約2500億ドル)の0.2%にも満たない規模である。一方、日本のインターネット広告市場は、1996年で約15億円だったと言われているが、これも日本の広告市場全体(5兆7700億円)と比較すれば、お話にならないほど小さな規模だということがわかる。これは加入数が20万人ほどのアナログCS放送の広告市場(28億円)よりも小さい。

 今年、アメリカのインターネット広告市場は、昨年の2倍に当たる約6億ドルに拡大すると見込まれている。しかし、その売上の多くはヒット数の高い一部のサイトに独占され、多くのコンテンツ提供者は広告による収入だけでは頼れないと見ている。また、広告主も「時間」を買うテレビ広告やパッケージの形として「存在」する紙の新聞・雑誌の広告に比べ、その両方を欠いたインターネット広告の効果には、いまだ懐疑的であることが多い。
 インターネット広告は、初期段階の単純なバナー広告から、ユーザの属性にあわせたターゲット広告、ホームページのスポンサーとなるスポンサー広告などへと進化を始めている。最新マーケティング理論を文字どおり形にしたこれらの手法が、インタラクティブメディアの特性を活用した画期的なアイデアであることは誰の目にも明らかだ。おそらく、このような新しい技術は積極的に導入されつづけるだろう。なぜなら、当分の間、広告はあくまでも数少ない収入源でありつづけることが、その推進力として機能するからだ。
 だが、いまのところ最新のマーケティング理論は、インターネット広告の「時間」と「存在」の問題をどれだけ克服しているかという、実践上の回答を見つける段階には至っていないのが現状だ。
 ワン・ツー・ワンマーケティング広告を実践するハイパーネットとインターネット・フリーウェイを運営するアスキーが、サービスの撤退を発表したばかりだが、今年7月にはすでにアメリカ西海岸の広告収入によるインターネットアクセスサービス、サイバー・フリーウェイが閉鎖していた。

(産業システム研究部 吉沢 寛保)
e-mail:yosizawa@icr.co.jp

(入稿:1997.11)

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