トレンド情報-シリーズ[1997年]
[InfoCom Law Report]

[第2回] 放送が双方向化する!
(1997.11)

 データ放送というこれまでの「放送」とはちょっと違う双方向のデータ配信サービスが放送局によって次々と始まっている。
  1. 放送であって「放送」とはちょっと違うデータ放送
  2. 2種類の双方向サービス
  3. やっと出た双方向テレビ!--結構地味、でも、やっぱりすごい

1.放送であって「放送」とはちょっと違うデータ放送
 データ放送は、音声、その他の音響、文字、図解そのほかの影像または信号を放送波で一斉配信するサービスである。データ放送と言っても、利用する電波によってその利用形態も異なるが、ここでは、画像を中心としたサービスを紹介しよう。データ放送では、いわゆる「放送」と違い伝送されたデータが画面にそのまま映し出されるのではなく、送られてきたデータは受像機やモデムに内蔵されたメモリーに一旦蓄積される。このデータは、自動的に更新されて行くし、利用者がどの情報を欲しいかをあらかじめ設定しておくこともできる。利用者は、利用したいときに、データ放送のメニューをクリックすることで、蓄積されたファイルを開いて内容を見れば良い。また、希望すれば、電話線などの通信回線を利用して放送局やそのほかの情報源にアクセスできる。端末として、テレビ受像機を含むパソコン、ファミコン、専用端末などの固定端末のほか、カーナビやPDAなどの移動体端末など多種多様な端末が利用できる。

 実は、データ放送は、すでに10年前から文字放送や衛星放送の電波を利用して始められていた。このときは、視聴覚障害者向けの情報を送ったり、ゲームソフトを送ったり、かなり小さな範囲の人々が対象であったのだけれど、今度、テレビ端末を利用するデータ放送がより、身近なものなりそうだ(でも、しばらくはニッチな市場だと思います)。テレビ端末を利用した画像を中心とするデータ放送は、昨年のテレビ東京の「ITビジョン」を皮切りに次々と立ち上がっている。テレビ朝日が97年6月、TBSが10月に本格サービスを開始。通信衛星を利用した「パーフェクPC」も10月に実験を開始している。米国でも、インテルを中心として開発された「インターキャスト」方式を利用したサービスが昨年のアトランタ・オリンピックからすでにサービスを開始している。また、マイクロソフトがデータ放送の普及を押し進める力となると見られている。「Windows98」では、地上波、衛星、CATVのデータ放送受信機能「TV Viewer」が標準装備されるようになる。

 データ放送は、端末までのデータ配信サービスであるのだけれど、サービスとした見たときデータ放送は、双方向サービスなのである。利用者までの下り回線はもちろん放送波。上り回線には電話線・ISDNなどをアクセス回線とした通信サービスをしばしば利用しているのだ。これらのは、利用者の端末で接しているが、利用者はデータ放送の画面上のボタンをクリックするだけで、モデムが自動的に電話を放送局のサーバーやインターネット・アクセス・プロバイダーにダイヤルしてくれており、回線はいわゆる「シームレス」に接続されている。

2. 2種類の双方向サービス
 データ放送自体は1対多の一方向の放送であるが、通信ネットワークと組み合わせて利用することで視聴者は、双方向のサービスを楽しむことができる。「双方向」と言っても、各人のなかでイメージが異なると思われる。データ放送サービスでも、インターアクションの範囲によって2種類がある。

  • 蓄積された情報の範囲内での疑似双方向サービス
     従来の放送番組は、放送局が提供する番組を提供する順番にそって、見たいものがあれば、利用者が自分のスケジュールを合わせて、端末の前にすわって見るしかなかった(もちろん、ビデオ録画もできますが)。情報が一方的に流され、今、紹介されている魚について、もっと知りたいとか、この俳優さん前はどんなドラマに出てたのだろうという個々の情報のニーズには、答えきれなかった。データ放送は、 「このなかからお好きなものをどうぞ」という形でメニューで提供されている 。 また、WWWのようにお互いの情報単位ごとにリンクがされているデータが蓄積されており、「もっと、お知りになりたければ、ここちをご覧下さい」という形になっている。利用者は、もっと知りたければ、リンク先を覗いて更に情報を得ることができるし、別に関心がなければそのまま通過すれば良い。つまり、双方向にメモリーに蓄積されている情報量の範囲内であるが、利用者は、自分の意志に基づいて情報を選択しながら進む、インターネットをナビゲートしている時のような双方向サービスをうけることができる。蓄積するデータが多ければ多いほど、双方向サービスの範囲が広くなるし、データが利用者が関心事を前もって的確に蓄積させておけば、利用者にとって、双方向サービスの範囲が広いように感じる。でも、これは、お互いに関連がある情報の単位(ファイル)を端末に蓄積させているというだけであり、見かけ上の双方向サービス--疑似双方向サービスなのである。

  • 上り回線を使った双方向サービス
     もう一つは双方向のサービスの範囲は、もっと広い。本当の双方向サービスである。利用者の端末は、通信の回線を利用し、自由に外部の情報源に接することができる。データ放送で提供された情報以上の情報が欲しい場合には、ひとつの方法として利用者が自由にWWWを検索することが考えられる。また、データ放送を提供している放送局や、そのほかのコンテントプロバイダーに追加情報の提供の要求を送ることもできる。その場合、多くの事業者は、利用者が商品の注文という形で上り回線を利用してもらおうと考えている。注文されたものがデジタルデータの場合は、情報提供者は、通信の経路を通じて個別に商品を伝送することもできるし、またデータ放送を通じて追加情報を利用者に向けて一斉配信の形で伝送することも可能である。もちろん、デジタルデータ以外の場合は、放送でも通信でもない伝送路(宅配など)を利用する。このほかにも、人気投票など利用者の反応を即時に集計し、テレビ番組に反映させて行くことも考えられる。

3.やっと出た双方向テレビ!--結構地味、でも、やっぱりすごい
 94年ごろ、米国の電話会社やCATV会社が中心となり、「ビデオ・オン・デマンド」と唱えながら双方向サービスの提供に向けて全力で走った。タイムワーナーがフロリダ州のオーランドで「フルネットワーク」というサービス実験をはじめたときは、日本をはじめ世界各地から、見学者が詰めかけた。この業界の端っこで、このニュースを聞いた私も「歴史的だ」と息をはずませたこと思い出すと、このデータ放送の始まりは何かちょっと地味である。目前にせまった放送のデジタル化を控えて、細々始まったという印象を受ける。みんな、なんかしょぼしょぼ消えてしまった「フルネットワーク」や、電話会社がにぎにぎしく設立した「テレTV」や、巨大コンテンツ企業ディズニーも一枚噛んだ「アメリキャスト」も、縮小の憂き目にあったのが記憶にあるからだろうか。何かと華やかなデジタル衛星放送サービスの開始や、デジタル化の喧噪の陰に隠れているようなところがある。でも、やっぱりすごいなと思うのは、これまでの経験から学んだことちゃんと生かしていること、また、既存のものを組み合わせることでうまくサービスを構成している点である。
 データ放送サービスの実現の技術的なカギとなっているのは、端末にメモリー能力を持たせたこと、異業種のサービスである電話線などの通信サービスをうまく利用していることである。

 端末に、メモリー機能を持たせることは、さほど難しいことではないと思われる。(筆者は技術的には、しろうとではあるが)しかし、これだけで、これまでテレビの前で情報の受け手であった人々は、情報をメニューのなかから選び、必要なものだけ選択的に接する情報の選択者により近くなった。言い換えれば、擬似的ではあるが双方向サービスを可能にした。また、電話などの通信サービスの利用は、情報の送り手と受け手の数が、データ放送の部分はl対nなのに対し、利用者から発信する場合は、1対1である点に気づいた点、また、上り方向の情報は、単発的で、容量的には非常に小さい点を認識した柔軟な対応であると感じる。データ放送のシステム構成は、かなり現実的な解となっていると言えそうだ。

 現在の地上波データ放送は、従来のアナログ波を利用している。しかし、この技術はデジタル化後も利用可能であり、今は、各放送局は、デジタル化後に備え、実験段階として準備を進めていると言える。まだ、肝心なコンテンツの開発は手探り状態とは言えるが、この数カ月でかなり形が見えてくるはずだ思われる。このコーナーでは、今後もデータ放送がどう展開するかについてはご紹介する予定であるのでお楽しみに。

(マーケティング調査部 西岡 洋子)
e-mail:nisioka@icr.co.jp

(入稿:1997.10)

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