トレンド情報-シリーズ[1997年]

[メガコンペティションは今?]
[第5回]キャリアーとISPのインターネット戦略

(1997.9)

インターネットが実用段階に入るとビジネス向けが中核となる。キャリアーは買収/構築のいずれにせよインターネットに対応せざるを得ず、ISPは淘汰の時期を迎える。政策・規制の調整も必要である。
インターネットの中核はビジネス向け
 "Architechts of the Web"(邦訳『インターネット激動の1000日』)巻頭 のJ・ニール・ワイントラウトの解説によれば、インターネットは現在、第二段階、つまり「基礎作りと物珍しさの段階」の終わりに来ている。ウエブ技 術が93年までの「実験段階」を第二段階に転換したが、97年から第三の「実 用段階」の離陸に向かう。米国のインターネット市場は2000年に、インターネット技術市場(インターネット・サービス・プロバイダーISP、機器販売、ソフト供給、基本サービス、専門サービス)も、インターネット・アプリケー ション市場(証券取引、譲渡抵当権取引、情報サービス、商品売買、娯楽サー ビス)も、それぞれ150億ドルに達する。セキュリティ・電子認証技術の確立 に伴いイントラネット(企業内通信)やイントラネット(特定企業間通信)を含む 巨大なビジネス向けインターネット市場が急速に拡大するのである。

 インターネットは双方向性をもち、個々人のニーズに対応し、すべての人 が発信できるメディア。2000年には世界の接続ホスト数は1億台以上、ユーザ数は3億人以上などと言われると、パーソナルメディアの側面が強調され勝 ちだが、そうした特性がビジネスコミュニケーションを変えることに注目す べきである。双方向性メディアで、個々人のニーズに対応でき、通信能力が あると、企業はインターネットを使って顧客中心にビジネスを組み立てられるようになる。その点が重要なのだ。インターネットのインパクトは、インターネットであれができる、これができるではなく、「インターネットを使うとこれまでと違ったやり方ができること」にある。

 1992年のCCITT 国際専用線D1勧告改正により、企業通信網の自由が確立されたため、国際企業通信は従来からのキャリアーサービスのほかに好みのプラーベート網を構築でき、それにキャリアーのグローバル・シームレス・サービスやアウトソーシングが対応してきたが、インターネットが選択肢に加わったのである。すべての市場が生産者支配から消費者支配に転換し、経営が垂直・階層型から水平・参加型に変われば、企業通信におけるインターネット/イントラネット/エクストラネットの比重は大きいものとなろう。ところが欧州企業調査結果では、イントラネット構築の相談相手はほとんどコンサルタントや情報通信企業で、キャリアーは10%しか選ばれてない 1

キャリアーのインターネット戦略
 インターネットの台頭に当初懐疑的だった電気通信事業者は今、インターネットの爆発的成長に戦略的に対応しつつある。キャリアー戦略は大きく、[1]企業風土の葛藤を覚悟のうえ既存ISPを買収することと、[2]怪物と戦う危険 を冒し自身でインターネット網/技術開発に乗り出す、の二つに分かれる。97年5月に米国四大ISPの一つで由緒あるBBN PlanetをGTEが616百万ドルで買収したのは[1]の例、NTTが96年12月にOCNを始めたのは[2]の例である。どちらの戦略を選ぼうが、今米国で2000以上日本で2000近い数のISPとコモンキャリアーの未来戦略は接 近・交錯しつつある。

 BBN Planetを売ったポール・R・ギュドニス社長は、たんたんと「今のグ ローバル・ゲームを勝ち抜こうとしたら、莫大な資金とインフラ資産が必要。BT/MCI合併もワールドコムのUUNet Technologies Inc買収(MFS買収に含  まれて)も、自前構築に金と時間がかかることを考えた電話会社の選択だ。インターネット・ビジネスでは時間が最も大切。キャリアーはインターネット反対から自らISPになることに目標を変えたのだ」と言う。インターネット協 会のドン・ヒース会長は、「今後の目標は広くあまねくユニバーサルなコミュニケーション形態で、電話会社はそれを提供できよう。我々はインターネットと電話網を差別しない。電話会社はインターネットのゲームに参加する資 格がある。」 2

 インターネットにも規模の経済が働くならば、結局は大資本が生き残るわ けで、米国ではインターネットビジネスないしISPの淘汰・再編成が迫っている。問題はキャリアーの戦略で、提携か自前開発か、基幹網の構築か買収か、サービス品質にかけるかコンテンツ/マルチメディア/電子商取引などの付 加価値アプリケーション開発かの選択に直面している。目下キャリアーはすべてのオプションを試していて、結論を出す段階に来ていないが、インターネットがグローバル情報インフラを目指すならば、電話網なみの信頼性・遍在性を備える必要があるとの見方では一致している。

   インターネット電話対策も大きな論点である。PCによる低料金低品質通話 で伸びてきたインターネット電話は、ISPがゲートウエイ・インテリジェンスによるサービス向上、電話機間通話による拡充に乗り出すに及んで、キャリアーの課題となった。勿論このISP戦略には金と時間がかかり、当分「一般電 話は高品質・高信頼度、インターネット電話は安いが品質がまちまちで信頼性は低い」との対比が続こう。しかし、長期的に考えると、価格・品質・使い勝手のほか他のインターネット・アプリケーションとの連結可能性が浮かんで来る。一般/インターネット電話が同一規制下に置かれ、すべての条件が等しい時、この要因による高機能化がインターネットの優位性となろう 3

インターネットを巡る政策・規制問題
 インターネットの利用急増に伴いインターネット基幹網の高速・大容量化 が進行している。日米間の場合、IP(インターネット・プロトコル)伝送容量は96年末530M、97年4月650M、97年5月800Mと言う増加ぶりで、96年末250M、97年4月400Mの音声向け容量を超えている。電話網のコスト負担は半回線主義・国際計算料金制度によってきたが、従来インターネットは接続を求める方が接続点までの伝送コストを負担する原則なので、日米間の設備増はすべて日本側の負担である。日本のISPが2000近いと言っても、日本インターネット協会加盟は158社、NSPIXP(Network Service Provder Internet eX-change Project)に参加して伝送コストを負担しているISPは35社に過ぎない。

 WIDEプロジェクトの枠内で国際IXもなしできたのが、商用IX開始に伴い見直 しているところで、35社の負担を2次3次 ISPに転嫁する便法を改めるなどの課題が残っている。
 長期的な政策課題は何と言っても、安定化・信頼性向上とインターネット/電話網融合の将来像である。 DNS(ドメイン・ネーム.システム)の国際的責任体制はできたが、具体的施策は専門家任せになっており、米国での97年7 月17日事故など事件をきっかけに進んでいる。高機能化やインフラ構築に折り込んで推進されることが望ましい。将来像については、米国の政策はインターネットの非規制を貫き、上述のような大手ISPと電話会社のM&A戦略に依存している。EUは、公衆網・CATV/インフラ・放送網と積み上げてきたネットワーク政策・制度にインターネット電話を位置付けるため、新しい枠組みを検討中である。技術的には有線/無線、固定/移動の選択の方向、制度に関しては普遍的な相互接続やユニバーサルサービスの保証、経営的には資金調達、設備投資・回収メカニズムなどを明らかにしつつ、離陸段階の2〜3年の間に未来の姿が浮かんで来れば幸いである。

(関西大学総合情報学部教授 高橋洋文)

(入稿:1997.9)

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