トレンド情報-シリーズ[1997年]

[メガコンペティションは今?]
[第6回]BT/MCI合併の行方とその波紋

(1997.11)

 米国第4位の市外通信事業者ワールドコムと米国最大の市内電話会社GTEの買収提案で三者三つ巴になったBT/MCI合併の行方は、場合によってはBTの将来に限らず、他の2グループに影響する。
  1. 三者三つ巴の買収合戦の背景
  2. 買収提案者のプロフィール
  3. 合併組合せの評価と決着の見通し
  4. BT/MCI合併の行方と波紋

1.三者三つ巴の買収合戦の背景
 BT/MCI合併が発表された時(96年11月3日)は、通信の国際的戦略提携がアウトソーシングと提携形成から企業統合へ一歩進んだとの印象であったが、合併実施のこの10月に、米国第4位の市外通信事業者ワールドコムと米国最大の市内電話会社GTEのMCI買収が提案された。通信産業が普通の産業になったばかりか、マネーゲームの対象になったことが痛感される。
 BT/MCI合併の発端は93年6月2日の協定で、1)BTが43億ドルでMCI株式の20%を取得、2)BTとMCIで合弁事業コンサート (出資比率3:1)を設立する合意 であった。独禁規制を含む米国とEC委員会の承認のメドがたって、94年7月にコンサート・コミュニケーションズの運営が開始された。96年11月にBT/MCIの合併による新会社コンサート設立が合意され、MCI1株につきコンサート(現BT)0.45株と6ドルと言う合併条件は、BTの買収額時価約200億ドルと報道された。
 MCI株主は97年4月2日に合併計画を承認したが、MCIが97年7月10日に市内電話事業の赤字続き(97年の赤字予想8億ドル)と市外通信事業の成長伸び悩みを発表したため、BTは97年8月下旬に再交渉し、対MCI買収金額実質2割の切り下げを求め、買収額は時価約240億ドル(1株当たり37ドル)となった。
 そこにワールドコムは、97年10月1日に株式交換による300億ドルのMCI買収(1株当たり41.5ドル)を提案し、次いでGTEは97年10月15日に現金280億ドルの買収(1株当たり40ドル)を提案した。両社の負担額は推定45億ドルの債務肩代わりを含めるともっと多い。
 三つ巴の背景を要約すると、通信網のグローバル化、インターネットの衝撃そしてマネー・ゲームの三つである。

2.買収提案者のプロフィール
 ワールドコムは83年創業の異色通信事業者で、生まれはWATSサービス再販のLDDS(Long Distance Discount Services)社(84年売上高は100万ドル)。低料金競争と買収戦略で大きくなり、92年に長距離通信事業者第4位となり、LDDS Communicationsと改称した。94年に衛星通信事業者IDBCommunications Groupと合併し、95年にWilTelを買収後、グローバル化を指向してワールドコムと改称した。それでも、RHC、IBM、EDS等の買収目標と見られていた。しかし、世界最大のインターネットサービスプロバイダーUUNetを買収し欧州に進出したMFSコミュニケーションズを、96年8月に約140億ドルで買収して年間売上高約54億ドルとなった時から、見過ごせない存在となった。97年9月には、米国パソコン通信最大手のAOLの第2位コンピュサーブ買収に参加し、AOL傘下の企業向けネットワークサービス運営事業を取得することとなった。ワールドコムは株式交換による合併で大きくなってきたM&Aのベテランであり、現代の企業戦略“フォーカス&スピード”を地でいっている。今や市内・市外・国際・コンピュータ通信を提供する総合通信会社だが、移動通信はしていない。

 GTEは1918年創業の市内電話会社が、1935年に他社を統合して独立系No.1となり、1959年に電機メーカーが取得してベル系同様の垂直統合体となった。AT&T分割後の競争激化に対応するため、独立系第2位のユナイテッド・テレコミュニケーションズと長距離通信(GTEスプリント、USテレコム)・パケット交換(GTEスプリント、USテレコム・データコム)子会社を合併してUSスプリントを設立した。しかし、移動通信の立ち上げに集中するため、スプリントの持分を手放し、電機・通信機器製造部門(防衛システムを除く)も売却して、90年代を迎えた。GTEの96年業績は、29州の市内電話加入者約2,900万、全米の市外電話利用者約2,400万、移動通信加入者約500万、カナダのBCテレフォン始め海外の電話加入者約700万等からの売上高213億ドルによって利益28億ドルをあげた。今やGTEはRHC5社を上回る総合電気通信事業者として、ビジネス・ウイーク誌(97.7.7)の96年世界1000大企業時価総額ランキング表によれば、通信事業者の第7位(420億ドル)で、第11位のワールドコム(264億ドル)、第12位のMCI(262億ドル)より大規模である。最近企業向けインターネット・アクセス・プロバイダー(IAP)市場が体力競争の段階に進むなかで、GTEは97年5月にかつてARPANETを構築した老舗のIAPボルト・ベラネック・ニューマン(BBN))を買収してコンピュータ通信に乗り出した。

3.合併組合せの評価と決着の見通し
 ワールドコムの買収提案直後のアナリストの反応は、米国と英国で違った。米国では、BTの値引き要請に直ぐ反応したB. エバーズ会長が買収の達人と評価された。ワールドコムの買収は株式交換方式をとり、相手企業の業績や資産内容がおかしくなければ財務悪化のリスクがなく、株価の値上がりを待つだけである。自社株が値下がりすると問題だが、ワールドコムは1株41.5ドルの株式交換に「実行の20日前にワールドコム株価が34ドル以上の場合」との条件をつけた(10月24日の引け値で始めて33.3/4ドルになった)。英国では、もともとBT株主のMCI先行き不安から合併合意書の再交渉条項に該当しないにもかかわらず値下げ交渉に及んだ経緯から、BTは正しかった、これでMCIとの合併が破談になれば厄介払いができて良いと評価され、BT株価が上がった。グローバル企業ユーザは、ワールドコムが提供するサービスの品質や信頼性は評価できない、光ファイバケーブルの大部分はWilTel敷設で古い、ワールドコム被合併企業で従業員の士気が低下(UUNetは例外)との評価もみられた。

 CTEの買収提案が出てからは、市外通信事業第2位と第4位が合併し、IAP市場シェア50%を超えるワールドコム/MCI合併よりも、GTE/MCI合併の方が独禁規制上無難で、市内通信と市外通信の相互補完により競争力を増すとの評価が多かった。近年GTEとMCIは相互接続料金をめぐって対立し、訴訟を重ねてきたが、プロ同士の問題であり、相互に尊敬し合っていると言う。また、BTにとっては、世界市場で名前の通ったワールドコム/MCI組よりも、余り知られてないがGTE/MCI組と組み易いとの見方もある。
 当のMCIは、買収提案の対象となったためか、BT買収額切り下げ以降株価が23%も上昇したが、BT、ワールドコム、GTE3社との正式協議が始まる10月23日に発表した97年第3四半期のMCIの業績は、前期比、前年同期比とも芳しいものではなかった。
 既定の買収が危うくなったBTの強みは、今現にMCI株式の20%を保有していることであり、MCIの武器は複数の買収が競合した時に適用可能なデラウエア州会社法の手続き条項である。両者とも一種の拒否権として作用する。MCIが使える手続き条項は“毒薬(poison pill)”と呼ばれ、買収提案の選択は被買収企業の株主の決定によるが、買収企業の直接交渉を禁止し、その取締役会に買収企業の株主総会議案選択権を与えるものである。ワールドコムはこの条項を不法だとして提訴している。
 これまで米国とEUの独禁規制をクリアするのに1年程度かかっており、訴訟も含め三つ巴合併問題の決着がつくまでかなりの時間がかかると思われる。

4.BT/MCI合併の行方と波紋
 ワールドコムのエバーズ会長は、いかなる根拠によるものか、97年3月までにMCI買収を実現するとしているが、GTE/MCIにせよ、要するにBTがMCIを合併できなかったら代替え措置をどうするか。米国国内市場参入のためならRHCも考えられるが、全国的でない弱点がある。市外通信を米国市場への緒とするのなら、BT/AT&Tだってあり得るが、仮にそれが成立すると、AT&T=WPグループは崩壊する。グローバル・ワンのスプリントは既に買収対象企業と見られている。

 ピーター・ボンフィールドBT社長は、97年度第2四半期の業績発表の記者会見(10月30日)で、「電気通信は独占から完全競争へ移行中で、多数の市場機会があり、我々もその一部に与りたい」と国際分野から退くことは問題外とした。また「MCI合併条件の再交渉の時に、他社が飛び込んで来ることは明らかであった」と、ワールドコムやGTEの提案に虚を突かれたわけではないとした。「最終結果がどうなろうと、BTはコンサート・コミュニケーションズの支配株主である」とも述べた。
 MCI買収合戦の重要な副産物は、通信事業者の提携に対するユーザの信頼が蝕まれ、アウトソーシング戦略の見直しが始まったことである。

(関西大学総合情報学部教授 高橋洋文)

(入稿:1997.11)

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