トレンド情報-シリーズ[1998年]

[InfoCom Law Report] [第4回] 電子バンキングの発展と2000年問題

(1998.4)

 98年4月1日より改正外為法が施行され、金融ビッグバンがいよいよ本格化しつつある。そして我が国の銀行は、不良債権問題を初めとして多くの問題を抱えて満身創痍で、荒海に乗り出していかなくてはならなくなった。このような状況のもと、銀行の生き残りの一つの手段として電子バンキングが注目を集めつつある。

 しかしながら、電子バンキングが複雑なコンピュータシステムを用いる以上、当然のことながらいわゆる2000年問題を避けて通れなくなる。2000年問題とは、コンピュータシステムで西暦年号を2桁で扱っている場合に、発生する問題のことである。例えば利子の計算をすることを考えてみよう。1998年から1999年までお金を借りるとすれば99-98で1年間借りるということになるのでそれに見合った利子を計算することができる。では、1998年から2003年までお金を借りる場合はどうであろうか。03-98で-95年間お金を借りたということになり、正しく利子が計算できなくなる。

 このように2000年問題とは電子バンキングにとって重大な障害となり得るのであり、以下では電子バンキングの動向と2000年問題への対応を外国の状況にも触れつつ検討してみたい。

  1. 電子バンキングの発展
  2. 警告される危機
  3. 遅れる日本での対応 関連サイト

1.電子バンキングの発展
 まず、電子バンキングを「(インターネットを介したものか否かを問わず)ネットワークを通じて利用者が口座の残高・入出金照会や振り込みを行うことができるサービス」と定義しておこう。もちろん電子バンキングが登場する前より銀行ではオンラインシステムが導入されており、これとてコンピュータシステムであることには違いないのだから、2000年問題を抱えている可能性は高い。従って電子バンキングというのは「近年始められた銀行の利用者向けオンラインサービス」と言い換えてもよいかもしれない。いずれにせよ、この定義はさして重要ではなく、むしろ筆者の注目するところは、近時前記電子バンキングサービスの開始などにより、従来より銀行の自動化が進んでいる(従って2000年問題が発生する可能性が高い)という点である。

 98年1月15日に米国会計検査院は「電子バンキングを導入する銀行が年末までに全銀行の半数を越えるであろう」と予想する報告書を発表した。この報告書は、5月から6月にかけて全米の349の銀行に対してアンケート方式で行った調査の結果をまとめたものである。電子バンキングを利用する銀行は97年6月に7%だったものが今年末に47%(±15%)にまで達する見通しであるという。主な利用目的は口座管理であり、新規顧客の獲得のツールとしても用いられ、成果をあげているという。

  日本においても既に前述した定義にあてはまるサービスを提供する銀行(特に都市銀行)が増えて来ている。

2.警告される危機
のように、今後も急速に普及する電子バンキングであるが、米国会計検査院の報告書の中では早急に解決すべき問題として幾つかの問題が指摘されている。その中には顧客情報の漏洩、送金データなどの改竄、盗み見といった問題の他、コンピュータシステムのハードウェア、ソフトウェアのダウンによるサービスの停止に関する問題(2000年問題はこれに含まれる)が指摘されている。先進国である米国でも多くの銀行は十分な対策をとっていない。

 また米連邦準備制度理事会(FRB)も米国内外の銀行への対応要請を強めている。大手米銀は貸出先企業の2000年問題への対応が遅れることによって、在庫システムなどに混乱が生じ、不良債権が増加する可能性があると懸念している。大手米銀は自行のコンピューターシステムについては当然改良する予定だが、取引先のシステムの更新にも取り組む必要があり、その解決の見通しは極めて暗いものと言わざるをえない。

 FRBは3月に各銀行向けに出した文書で、対応の遅れている銀行に制裁や罰金を科す可能性を示したほか、各国金融当局との連携を強める方針だ。この問題が4月にワシントンで開かれる7カ国蔵相・中央銀行総裁会議(G7)の議題となる公算も大きい。

  3月17日にもFRBは、"Guidance Concerning Institution Due Diligence in Connection with Service Provider and Software Vendor Year 2000 Readiness"なる文書を配布して、金融機関で管理に当たる人々に向けて、2000年問題にどう取り組むべきか、警告を発した。

 そこでは、金融機関は、ソフトウェアハウス、メーカーと協力して、包括的で十分かつ持続的な2000年問題対策を行う必要があると指摘している。具体的な内容は次のとおり。

  • ソフトウェアハウス、メーカーなど外部から購入していて、絶対に停止しては困る製品・サービスを確定し、評価する。
  • 上記製品・サービスについて、対応に関するソフトウェアハウスなどとの責任分担を明確にする。
  • 可能な限り当該機関と同じ環境での製品・サービスの、2000年問題への対応度のテストを行う。
  • 上記製品・サービスの障害発生に対する緊急計画を策定する。
  • 外部のソフトウェアハウス・メーカーの2000年問題への取り組みを監視する手続きを確立する。
 国際決済銀行バーゼル委員会もIOSCO,IAISと連携して、97年11月18日に金融機関内部のみならず、各金融機関同士の取引システムにおける2000年問題にも早急に対応すべきだとの警告を発している。

 今後日本でも金融ビッグバンを迎え電子バンキングへの移行が急速に進むことが予想されるが、2000年問題への対応がますます重要になっていくものと思われる。

3.遅れる日本での対応
 日本でも資金力に劣る中小企業において取り組みが遅れているということは指摘されているが、資金力のある銀行においても対応は完璧ではない。オンラインシステム自体が複雑であるし、仮に自社のシステムが対策を施されていたとしても、ネットワークでつながる他の部分(他社のシステム:特に中小企業のもの)での対策が怠られていると結局のところ問題が発生してしまうことになる。

  日銀も97年9月19日に金融機関が対処方法を述べたチェックリストを公開しており、日銀ネットの対応を着々と進めている

 電子商取引において、決済機関としての金融機関の重要性は言うまでもない。2000年にこれらの機関が機能を停止すれば、電子商取引は壊滅的な打撃を受けかねない。速やかな対策が講じられることが求められよう。

4.関連サイト

(通信事業研究部 法・制度研究室 山神清和)
e-mail:yamagami@icr.co.jp

(入稿:1998.4)

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