トレンド情報-シリーズ[1998年]

[InfoCom Law Report] [第6回] インターネット・プロバイダーのコンテンツ責任
〜サービス内容と法的責任〜

(1998.9)

 本稿は、1996年度から行っている「インターネット・プロバイダーのコンテンツ責任に関する調査研究」の97年度における検討結果をまとめたものである。今回は、特にプロバイダーの事業運営上影響の大きい法的責任に焦点をあて、プロバイダーが行う個別のサービスに関して法的リスクを分析した。
 まず、インターネットの大きな特徴であるボーダーレスの問題を考えるため、「1ネットワーク上の行為と現行法」において、インターネット上で行われる犯罪や不法行為に対してどの国の法律が適用されるかを検討している。次に、我が国の法的問題に焦点をあて「2日本法における犯罪」ではネットワーク上で犯罪行為が行われた場合に、「3日本法で民事責任を問われる行為」では会員による不法行為が行われた場合に、それぞれプロバイダーにどのような責任が問われる可能性があるか分析を行った。「4今後の展望」は、結びにかえて今後どのようなことが問題となるかを概括したものである。
 本稿が、プロバイダー事業のリスクヘッジと業界の発展に少しでも役立てば幸いである。

 ここでは、プロバイダーの責任について、図表を用いて簡単に説明してみたい。なお、本稿の全文については、InfoCom REVIEW Vol.15(1998)pp.16-30 を参照されたい。

  1. プロバイダー責任の分析
  2. 被害者なき犯罪
  3. 被害者のいる犯罪
  4. 不法行為とプロバイダーの責任

[プロバイダー責任の分析]
 プロバイダーの行っている業務は必ずしも全てを同列に論じられない。会員の行う情報発信に対して責任を問われる可能性は、その情報へのコミットメントが強いほど高くなっていく。具体的にはその情報をどの程度コントロールできるか、または実際にしているかといった点が、コミットメントの強さを考える上で基準となる。プロバイダーが提供している主なサービスを情報内容へのコミットメントが弱いものから強いものへと順番にならべると、図表1のようになる。

図表1

[被害者なき犯罪]
 わいせつ物公然陳列やネットワークを介した賭博は一般に、いわゆる被害者なき犯罪と考えられることが多いため、損害賠償請求が行われる可能性は低い。法で禁止されている取引もいわゆる被害者なき犯罪にあたることが多く、被害が生じる場合も皆無ではないが、損害賠償請求が行われる可能性は低いといえる。
 刑事責任については、知っていて放置すれば処罰される可能性がある。特に、領域提供よりも情報へのコミットメントの強いサービスに関しては、責任を問われる恐れが強い(図表2参照)。

図表2

[被害者のいる犯罪]
 名誉毀損、著作権侵害、詐欺等の行為については、被害を受ける者が存在するため、民事責任が問われる可能性がある。特にプロバイダーのコミットメントが強いと思われるサービスについては、当該情報の存在を知らなくとも重過失があると見なされ責任を問われる可能性がある。
 刑事責任については、名誉毀損等が行われていることを知っていて放置すれば、特に幇助犯として処罰される恐れがある。一般にこれらの犯罪についてはまず民事責任が問われる場合が多いが、悪質なものに対しては刑事告訴が行われることもある(図表3参照)。

図表3

[不法行為とプロバイダーの責任]
 不法行為が行われていることを知っていながら一定期間放置した場合に責任を問われる可能性がある。コミットメントの程度に応じて可能性は高くなる。会員情報のインデックスのように、情報へのコミットメントの強いサービスについては、当該情報の存在を知らなくても、重過失が認められれば責任を問われることも考えられる(図表4参照)。

図表4

NTTデータ通信株式会社 システム科学研究所主任研究員 刀川 眞

通信事業研究部 法・制度研究室主任研究員 小向太郎 / komukai@icr.co.jp

客員研究員・千葉工業大学工学部助教授 鈴木雄一 / suzuki-y@icr.co.jp

(入稿:1998.9)

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