トレンド情報-シリーズ[1999年]

[IT業界レポ]
[業務編−第4回]ERPと営業・マーケティング業務

(1999.02)


 IT業界レポートも第4回になり、今回は営業・マーケティング業務です。
 お話を始める前にERP業界にも異変が起き始めている事をお話しましょう。
ERPパッケージ業界に陰りが見え始めています。ある程度市場に普及して状況も落ち着いてきたというところでしょうか。SAP、Baan、SSA、JDE、Oracle、Peopleといった大手ERPベンダーも急激な成長期を過ぎて、安定期に入ったようです。業績もこれまでのように急激に利益拡大するのではなく、周辺業務システムに機能を拡張する方向で企業の更なる存続を狙う体制に移行しつつあります。SSAの業績悪化やJDE、SAPの業績不振、BaanのリストラとERP業界も世紀末の混乱による企業業績の不振による影響を大きく受けています。SCMのマニュジスティックスさえリストラを発表しました。

 これらERP業界の動きは考えてみれば当然の事です。世界で大企業と言われる約2万社が大手ERPベンダーソフトを導入しました。中堅・中小企業は世界で30万社ほどがERPユーザーです。日本でも大手ERPベンダーユーザーは約1000社、中堅・中小企業ERPユーザーは約4000社にもなります。ERPベンダーにも新たな事業展開が必要な時期になりました。昨年からレポートしているとおりERPベンダーの機能拡張は大きく進展しました。基幹業務だけでなくSFA、CTI、SCM、DWH、OLAPなど機能拡張による新たな顧客獲得競争が始まっています。また、ERPパッケージベンダーにはそろそろ問題も起き上がっています。ERPパッケージを補完するコンポーネントベースシステムとブリッジウェアの出現です。これらがERPをどう変えて行くか、ERPを滅ぼし代わって行くのか。これについては有料サービスページでレポートします。

 さて、今回の営業・マーケティング業務のお話ですが、ERPの基幹業務とは違ったSFA、CTI、SCM、OLAP、データマイニングというカテゴリーの業務システムがERPの補完ソフトや機能拡張という方向でERPに関係してきました。特にマーケティング業務はERPの集めた情報のDWHから様々な情報を取り出して分析するということであればERPがまず前提になる業務システムです。SCMもマーケット情報なしでは有効に機能しません。こうしてERPが企業の統合業務システムとして、企業内部の企業競争力の基本体質を強化する役割から、更に進んで他企業間物流や顧客対応といった企業外部の企業競争力関係要素も取り込み、企業体質をよりいっそう強化するシステム化の基盤となりました。企業の競争力の源泉は企業本来の競争力だけでなく、顧客や関係企業をも包括した効率性と整合性にあるというわけです。内部の統合から外部の統合へと企業は変化しているのです。エコロジーの考え方もいずれ企業活動の社会的影響コスト、企業廃棄物のコストとしてERPにとりこまれることでしょう。また、これまでの会計情報を中心に動いていた企業システムから知識ベースの企業システムの要請も見逃せません。いわゆるナレッジ・マネージメント・システムです。営業マンによる顧客情報、コールセンターの顧客情報、EC・EDI情報、関係企業の情報、市場の情報、制度改革情報、世界潮流としてのトレンド情報など、それぞれ別個に管理・分析されるのではなく、統合した管理・分析の必要性と新たな企業の価値創造の源泉としての企業情報管理が考えられています。イメージ情報、音声情報、文字情報など形式の違う統合データ・ベースにもこれからのERPは対応しなければならないでしょう。全体像を図にしてみましょう。企業内部の統合化と最適化から顧客関係性重視の価値創造戦略への転換です。

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 SCM(サプライチェーン・マネジメント)はERPに新たな局面を提供しました。ケイレツという企業間連携の最適化に大きな意味を見出しました。日本のような企業グループの系列ではない強者企業間提携の強力なサプライチェーンは企業競争力でも新たなコンセプトでした。ただ、現在ではSCMもその商品属性まで問題にしなかったところに限界があります。何でも良いからサプライチェーンだというのは少し無理があるのです。つまり企業の価値の実現という側面でSCMはカバーしきれていなかったわけです。
 企業が望む価値の実現は、顧客の購入で実現されます。企業が望む価値と顧客が判断する価値にギャップがあれば企業は期待する利益を実現できません。SCMはこの価値の実現というギャップについては対応できないのです。企業にとって最も重要なのは価値を実現する過程の顧客と企業の関係性と整合性です。価値実現の主体が顧客であることを認識し価値実現のギャップをなくす整合性の追求が現在言われているヴァリュー・チェーンの実現です。顧客と一体となった価値創造の連鎖の維持と顧客関係性と整合性がSCMを超えたヴァリューチェーンの本質と考えます。
 それではここで営業とマーケティングの個別のお話をしましょう。まず営業ですが面白い会社を例にしたいと思います。昨年店頭公開したある商社のお話です。半導体商社として成功したこの企業の営業スタイルは注目の価値があります。  まず、この企業の営業スタイルは従来の訪問営業ではありません。営業マンコストを考えると個別訪問営業はコストがかかりすぎると止めてしまいました。この企業は各メーカーごとに半導体に関係する10万人のエンジニア・データを一人ひとり時系列的に管理しています。26000人のエンジニアにシリコンバレーの情報をメール配信し、ニューズレターによるきめの細かいフォローをして、5000人のエンジニアに半導体を販売しています。問題点は総合的に検討してセミナーで集中して解決して行く営業スタイルです。バーチャル・ハイテックシティの構築によるメール配信サービスなど独自の営業体系を構築しています。こういう企業を見るとSFAのパッケージがオモチャに見えます。独創的なビジネスプロセスの構築、自社の営業形態を最大限にするためのシステム構築これらを見るとパッケージの限界が見えてきます。代表的企業のマネのベストプラクティスでどこまで企業の競争力が維持できるのか。模倣の世界で本当に競争に勝ち残れるのか。ERPという標準化された安心感は独創性の敵ではないと思います。世界標準の次に来る独創性の時代に日本企業は生き残れるのか。経営者の実力にかかっています。
 さて最後になりましたが、マーケティングのお話です。現在市場に対する企業の戦略としてマーケティングは最も重要な項目です。これまで日本企業は営業中心でやってきましたが、これからは戦術的営業の時代ではなく、戦略的マーケティングの時代です。勝利する状況を作り出し商品を投入して当然のごとく勝つ戦略は、戦術的営業の積み重ねの部分的勝利に一喜一憂する営業では到底達し得ないレベルにあります。ただ、日本企業に優れたマーケティング部門を持つ企業はまだまだ少なく、欧米企業のビジネスプロセス構築力やマーケティング力にはだいぶ見劣りしてしまいます。現在マーケティング部門の企業における役割は、参謀本部位に考えても良いと思います。日本の優れた単品管理システムと店舗運営システム、商圏管理システムを統合するとセブンイレブンのシステムになります。世界中の小売業が知りたいノウハウの固まりです。またヤマトの時間指定配送システムがなぜ従来の配送システムより効率的なのか欧米企業には分かりません。これらはすべて情報の統計分析やプロセス分析の結果です。競争力とは総力戦です。マーケティングに企業の持つすべての情報を集め管理し統合分析する必要があります。残念ながら日本企業にはまだ統計解析や数値解析の専門家でビジネス・プロセスにも知識がありコンピューターを十分に理解し使いこなすだけの人材があまりいません。
SAS、Analytica、SPSS、Mathimatica などの解析ツールやビジネスプロセス・モデリング・ツールあるいは地理情報システム(GIS)などの分析ツールを十分に利用できるマーケティング部門はそう多くはないのです。
 今後のマーケティング部門は製造、広報、営業、システム、数値分析など専門家集団の企業参謀本部の役割を担うべきだと考えています。顧客の望む商品とは何か。効果的な営業方法とは何か。どう生産するか。基盤となるシステムをどう構築するか。分析手法は何か。裏付けとなるデータは何か。欧米における製造や営業を統括するマーケティング部門の重要性は時代を先取りしていると思っています。ERPやSCMなどのパッケージが登場しても基本的には企業における人材の戦いになると考えた時、現在の日本企業に必要なのはリストラよりも企業内人材教育の充実です。いつの時代でも、どんな道具が出てきても、企業において最も強力な競争力の源泉は人間であるという根本的認識は重要と考えます。

 ERPの導入という世界標準=普通の企業というレベルにさえほど遠かった日本企業のありさまを考えると、早く普通の企業になってほしいと思います。ERPで生き残れるなんて誤解せずに、生き残りというよりまず標準=普通に到達してくれる事を願っています。

 

中嶋 隆

(入稿:1999.02)

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