トレンド情報-シリーズ[1999年]

[経営とIT]
[第1回]デービスのMIS

(1999.7)


 これまでのIT業界レポートに続き、今回経営とITという題目で5回連載します。ITの歴史を考えるシリーズとして今回MISを、デービスを中心にレポートします。毎回テーマを決めてレポートしますが、最近の経営とITに関係することも同時にレポートしていきます。

 テーマに入る前に、気になることがあるのでレポートしておきます。最近ですが新聞の記事や業界雑誌に論調に変化が出てきています。日本経済新聞、日経ビジネス、週間ダイヤモンド、日経コンピュータなど、これまでの日本企業の破綻ぶりを嘆く論調から日本企業再生の論調に強く変わりつつあります。もう甘いことは言っていられない。再生に向かっての努力を始める強い意思が伝わってきます。日経コンピュータ、コンピュートピア、ネットワークコンピューティング各雑誌はソフトウェア工学的記事が増え、理論や手法にかなりの紙面を使うようになってきました。日本のソフトウェア開発の状況は世界的レベルから言えば決して高くない。世界に提唱するだけの理論や手法が出てこない状況を考えると日本のITのレベルを上げなければならないことは、これまでIT業界レポートでも強調してきました。今やっと経営もITも世界水準レベルの人間育成に目を向け始めました。理論や手法をしっかりと身につけ武装した現場経験豊富な人材の育成がこれからの企業には必要であり、現場重視の経験主義だけではとても追いつけない状況が理解されつつあります。ビジネスマンであると同時に経営やITの分野でも学術論文が書けるほどの人材が日本にどれだけいるのだろうかと考えてしまいます。世界的研究成果を理解し、経営やITの現場の知識として応用していける人材が今後必要とされています。欧米の新興企業の経営者達はほとんどと言っていいくらい研究者であり、現場でも有能な経営者です。
 日本企業の再生と日本人の再生はある意味で同じなのかもしれません。日本人の個人的スキルを世界水準に高める努力は始まっています。もはや日本社会に安易な平等などということはありえないでしょう。これまで守られてきた日本の企業や個人は世界的合理性という価値観で厳しくランク分けされます。企業も個人も厳しい選別の時代を乗り越えなければなりません。多くの悲劇(企業の倒産や自殺者の増加)がともないますが、世界競争力を持つ日本人の集団としての企業の再生とその競争力の発揮される日が近づいています。

 さて、今回のテーマであるMIS(Management Information System)ですが、ITの歴史を考えるとこれまでにMISやDSSというブームがありました。これらMISやDSSが現状のITの状況と比べたときに大きく違う点があります。それはMISやDSSというコンセプトはあっても、何がMISやDSSかということになると説明が難しい点です。具体的説得力に欠ける状況がありました。現在、ITの状況は大きく違います。ITの内容ははっきりしています。現在のITはERPであったりSCMであったりソリューションに具体的製品があります。ITを具体的製品で説明できることが大きな違いです。コンセプトがありそれを具体的に説明し実現できる製品が存在する。現在のITの特徴はまさにコンセプトと具体的実現方法としてのパッケージが対になっていることです。コンセプトとパッケージの対がコンセプトの理解を容易にし、実現の具体的方法をも提供することとなりました。

 今回テーマとするMISはパッケージといった具体的な実現方法がなくコンセプトだけで廃れてしまいました。ただ、これまでのITの歴史を理解しておく必要があると思い取り上げます。

 MISの最初の論者はギャラガー(James D.Gallagher)です。ギャラガーは1961年の著作でMISについて「効果的な経営情報システムの最終目標は、経営管理のあらゆる階層に影響を与える経営内のすべての活動を、それらの階層にたえず完全に知らせることである」と述べています。ギャラガーはコンピュータの存在を必要な条件とせず、また曖昧な定義といえます。チャーチル(Neil C.Churchill)は1965年に「MISとは、業務の効率的管理のために、データの収集、蓄積、検索、伝達および利用をもたらす人間とコンピュータ・ベースの資本的資源の組み合わせである」と論文でいっています。チャーチルはコンピュータの役割をはっきりさせています。さらにブルメンタール(Sherman C.Blumenthal)は1969年にMISについて「経営情報システム(MIS)とは、他のオペレーション機能の情報サブシステムとなるオペレーション機能である」と定義して組織とマネジメントを一体化させる結合剤と考えました。このように1960年代はトータルシステムを考えていましたが、1970年代になるとサブシステムの連合という形のMISへと考え方が変化していきました。1974年のデービス(Gordon B.Davis)の著作を中心にMISを考えてみたいと思います。
 デービスはMIS構成を物理的構成要素、管理活動、組織機能といったもので表現しています。
 物理的構成とはハードウェア、ソフトウェア、ファイル、手続書、要員などです。
 管理活動については、1965年のアンソニー(Robert N.Anthony)の3組織管理階層の考え方が有効です。3組織管理階層とは、戦略計画、マネジメント・コントロール、オペレーショナル・コントロールです。この考え方はMISの計画と開発のためにブルメンタールやスコットモートン(S. Scot Morton)によっても使用されました。
 組織機能については、組織機能ごとのサブシステムを連合させた「サブシステムの連合」という形でMISを考えました。この場合、サブシステムは独立していてもよく、緊密なサブシステムの連合という意味ではありません。これらサブシステムはさらに機能別サブシステムと管理活動サブシステムに分けられ、両者を組み合わせると図1のようになります。図1には3組織管理階層にトランザクション処理が追加されて4つの情報処理部分があります。

図1:機能別サブシステムと経営活動のマトリックス
fig

出所:Davis,G.B. and Olson,M.H.: Management Information Systems, Conceptual Foundations, Structure and Development, McGraw-Hill, 1985, p.41

 デービスのマトリックスを見るとこの段階で、現在のITの概要がすでに出来上がっています。デービスはマトリックスの他にデータ・ベース管理システムにも触れています。サブシステムだけのものと共用のものと分けてデータ・ベース管理を述べています。
 この時代の限界とも言えますが、経営情報システムはハードウェアの処理能力、メモリー容量の限界など、現在とは比べ物にならないほど大きな制約がありました。現在ERPが登場して、カスタムメイドのウォーターフォール型開発だけではなくなりましたが、まだこの時代の部門別、機能別システムを引きずっている企業は多くあります。データ・ベースも全社データとして統合管理されておらず、分析作業も容易でない場合もあります。欧米のITはデービスの時代からはるかに進歩したレベルにあります。日本でもITを企業が本格的に利用すべきですが、最新のITを活用している日本企業はまだごく一部にすぎません。ERP導入企業と言えども導入手法や開発手法は、まだ古い手法の場合があります。
 企業における情報部門は永い間EDP部門でありOA部門でした。決して戦略部門ではありませんでした。これからの時代は企業の情報部門は戦略部門でなければなりません。要求されたものを実現する御用聞き部門から、情報技術を活用した経営革新の提案推進部門へと情報部門は変貌しなければなりません。「ITが可能にする経営革新」がこれからの時代のキーワードとなるはずです。企業競争力や企業の存続を左右するパワーがITにはあります。企業情報部門のリードする新しい企業の時代が来つつあります。

中嶋 隆

(入稿:1999.7)

このページの最初へ

トップページ
(http://www.icr.co.jp/newsletter/)
トレンド情報-シリーズ[1999年]