トレンド情報-シリーズ[1999年]

インターネット接続の海外動向
[第1回]諸外国における電話回線によるインターネット接続通信料金

(1999.9)


 ここでは、次の2点について明らかにしたい。
  1. インターネットの普及率の高い諸国の市内通話料金は定額料金か?
    日本におけるインターネットの普及を高めるためには、米国のような定額制の料金体系にすることが必要である、との論議がある。すなわち、米国のように、インターネット通信料金を定額制にして、いつでも常時接続できるような社会が望ましいという。安価な料金で常時接続できるのは確かにのぞましいことではあるが、インターネットの普及率の高い国々のすべての市内通話料金が定額料金なのであろうか。

  2. 日本の市内通話料金は高いのか? 
     日本におけるインターネット普及について論じた文書を目にすると、必ずといっていいほど、日米の料金比較を例にして「日本の電話料金が高い」点をインターネット普及の壁としてあげている人が多い。本当に日本の通信料金は諸外国と比較しても高いのであろうか。ここでもインターネット普及率の高い国々と比較してみたい。

郵政省の『平成11年版通信白書』によれば、日本のインターネットの普及率(全人口に対するインターネット利用者比率)は、世界で13位である。日本よりも普及率の高い12ヶ国について、住宅用市内通話料金比較を試みる。ここでは、市内通話料金の水準を左右する制度(ユニバーサル・サービス基金や加入者アクセス・チャージなどの補償体系が整っているかどうか)の違いについては考慮せず、単純に料金比較を試みる。

1−1:インターネット普及率が高い諸国の市内通話料金体系
 下表は、インターネットの普及率が高い諸国の市内通話料金体系を示したものである。

インターネット普及率上位13ヶ国の普及率と市内通話料金体系

国名

普及率(1999年末)

料金体系

カナダ

55.0

月額定額
アイスランド

45.0

従量
フィンランド

35.0

従量
スウェーデン

33.0

従量
米国

30.0

従量/1通話毎定額/月額定額
オーストラリア

23.4

1通話毎定額
デンマーク

22.0

従量
英国

18.0

従量
スイス

16.2

従量
ベルギー

16.0

従量(但し10分超部分=30%引)
ニュージーランド

15.8

月額定額
ノルウェイ

13.6

従量
日本

13.4

従量

〔出所〕各国のインターネット普及率:平成11年版『通信白書』CD−ROM、郵政省
料金体系:Tarifica資料、OECD資料

 この表からわかるように、普及率が高い国の中には、米国やカナダやニュージーランドのように月額定額制、また、オーストラリアのように1通話あたり定額料金制を採用している国もあるが、その他の国の市内通話料金は日本と同じ従量料金である。
 インターネット普及率の上位12ヶ国のうち市内通話料金が従量制でない国は4ヶ国にすぎない。残りの国々は日本と同様に従量制であり、長時間接続すればするほど料金がかかる体系である。それで次に明らかにする点は、料金水準についてである。

1−2:インターネット普及率上位12ヶ国との市内通話料金比較
 市内通話サービスといっても、各国でサービスの質(区域の広さや保守その他の品質)に差があり、料金水準だけで比較することには無理があるが、あえて料金比較をしてみよう。
ほとんどの国が、ピーク時間帯(平日昼間:8:00〜17:00)とオフピーク時間帯(平日昼間以外と休日・祝日)の2時間帯である。オフピーク時間帯の通話料金は、ピーク時間帯に比較して格安の料金設定をしている。しかし、同じ従量制とはいえ、料金体系は一律ではない。たとえば、北欧諸国では、1分あたりの通話料金は極めて安いが、通話毎に通話料金とは別に一定のセットアップ料金がかかる。このセットアップ料金は、高い国で通話毎に5円〜11円である。また、ベルギーでは、10分以上通話分の料金は30%割引になる。(この他、アイルランドは普及率15位であるが、インターネット接続用の料金を特別に設けており、通話料金の高いピーク時間帯の料金を通常の約4割の料金にしている)。
 このように通話時間に応じた料金に加えて1通話毎にセットアップ料金を課す国や、通話時間が長くなると1分あたり通話料金が割り引かれる国もあり、単純に料金表を提示するだけでは明確な料金比較ができない。そのため、インターネットに15分間接続した場合の料金で比較してみたのが下図である1。日本の通話時間帯に従って、3つの時間帯で比較してみた。

1:あるISPのインターネット接続時間は平均約15分である。(Amir Atai, 'A Newchallenge', TELEPHONY, 1998.11.9. p46)

図表:インターネット15分間利用時の料金比較

(1)ピーク時間帯(平日昼間)

fig1

(2)オフピーク時間帯(平日夜間19:00〜23:00、土日・祝日昼間)

fig4

(3)オフピーク時間帯(深夜早朝23:00〜8:00)

fig3

注)OECD Analytical Databaseより1997年の数値で円換算した

3つの表を照らし合わせると明らかなように、日本のピーク時間帯での通信料金は平均並みであるが、オフピーク時間帯においては高い点が特徴である。日本ではオフピーク時間帯にかけ放題になるテレホーダイ・サービスが提供されているとはいえ、こうした割引サービスへの契約を考慮に入れない場合、インターネットの接続時間が長くなればなるほど、諸外国との格差は広がる。
 英国の通話料金は、ピーク時には日本と比較して高い。それにもかかわらず普及率が高い理由は、英国のインターネット・ユーザーの利用実態と照らし合わさなければはっきりと断言はできないが、休日の通話料金が極めて安く抑えられていることに一因があるように思われる。また、英国で普及率が伸びている背景には、英国では「無料インターネット」が普及していることがあげられるかもしれない。この「無料インターネット」とは、市内通話料金を支払うだけでインターネットの利用ができるサービスである。これは、英国だけでなく、フランスやドイツなど欧州諸国にも普及してきており、次回概説する。

1−3:西欧諸国における月額定額料金導入の動向
 すでに示したように、欧州諸国では、市内通話料金は従量制であり、定額料金制の国はない。しかし、インターネットの普及に伴い、フランス、アイルランド、英国において、市内通話料金に定額制導入の動きがある。ただし、米国のような定額制(上限時間を設定しない完全な定額制)ではない点が特徴である。

[フランス]
  1. 市内定額料金プラン(1997年3月〜)
     フランス・テレコム(FT)は、1997年3月に「市内定額料金プラン」を導入した。これは、米国のような完全な定額制ではなく、利用時間帯を限定し、利用可能な時間に上限を設けたものである。これは、日本のNTTが提供しているテレジョーズと類似したコンセプトである。 
     具体的な料金は、月額30フラン(約600円)を支払えば、夜間・週末・祝日に約6時間の通話が可能になるというものである。この対象通話は、インターネット接続に制限されず、一般の市内通話も対象になる。
  2. インターネット定額料金(1999年8月〜)
     FTは、「インターネット定額料金」として、1998年秋に、無制限アクセスの定額料金プランを提案したが、電気通信規制機関ARTから反競争的であると却下された。
     その後、アクセス時間に上限を定めた定額料金プランを申請し、99年8月からサービスを開始している。具体的な料金は、月額100フラン(約2,000円)で20時間接続が可能である。これは、1時間あたり5フランに相当し、通常のピーク時間帯の同16.70フラン、オフピーク時間帯の同8.70フランに比較すると格段に安い料金設定である。対象通話は、インターネット接続のみに限定される。

[アイルランド]

 Financial Times Telecom Market(1999.2.25)に、アイルランドの既存通信事業者であるテレコム・アイレアンが、インターネットを利用する際の電話料金にかけ放題定額料金の導入を検討しているとの記事が掲載された。規制当局のODTRの認可を得ることが出来次第、サービスの提供を開始するというものであった。このプランも上限時間が100時間と設定されており、米国のような完全な定額料金でない点が特徴である。インターネットを100時間利用する際の電話料金として、月額20〜30アイルランド・ポンド(約3,500〜5,200円)を支払うことになる予定である。通常の1時間あたりの料金は、ピーク時で1.44ポンド、夕刻および週末には48ペンスであることから比較すると格段に安い料金設定になっていることがわかる。しかしながら、100時間というのは、平均的なユーザが毎月利用する時間をはるかに超えており、実際にはコスト削減にならない、との批判も寄せられていた。また、より低額の料金プランを設けるのか、契約時間いっぱい利用しなかった場合には翌月までその時間を持ち越すことができるのか、契約時間以上利用した場合の料金はいくらか、などの数々の点が明らかになっていない。その後の導入についての詳細は不明である。

[英国]
 同記事(Financial Times Telecom Market(1999.2.25))の中で、英国ではBTが、週末の定額料金サービスの提供を検討していたが、ネットワーク容量不足の懸念の問題を生じたため断念したものと思われるとの記事が掲載されていた。

市内通話料金が従量制の欧州諸国では、市内通話料金に完全定額制の導入は困難であるようだ。それに対して、ADSLやCATVなどその他のアクセスによる定額制の導入が行われそうである。最近、英国、フランス、ドイツでは、ADSLサービスの提供に関する報道が目立って増えている。例えば、フランス政府は、1999年11月からのフランス・テレコムのADSLサービス提供を認可したが、その通信速度は電話回線の約10倍で月額料金は265フラン(約5,300円)になる予定であると報じられており、米国の料金とほぼ同水準になる見込みである。これらに関しては、第3回目以降に取上げる予定である。

1−4: まとめ
先の2つの問題提起について、わかった点について簡単にまとめてみると、
  1. インターネットの普及率の高い諸国の市内通話料金は定額料金か?
     日本よりもインターネットの普及率が高い12ヶ国の料金体系をみると、月額定額料金あるいは1通話あたり定額料金を採用している国は4ヶ国にすぎず、その他8ヶ国は従量制である。なお、従量制料金の国の中には、インターネットの普及に伴い、市内通話料金に定額制を導入する動きもあるが、米国のように無制限にアクセスできる完全定額制ではなく、上限時間が設定されたものである。導入を試みている国々は料金設定に苦労しており、市内通話料金での完全定額制の導入は難しそうである。市内通話が従量制の国においては、ADSLやCATVなどのアクセスによる定額制導入の方が実現する可能性が大きいといえる。

  2. 日本の市内通話料金は高いのか?
    諸外国では市内通話料金は、平日昼間とそれ以外の2時間帯に分けられており、平日昼間以外の通話料金は安く抑えられているのに対して、日本は市内通話料金が安くなるのは深夜早朝(23:00〜8:00)だけである点が、大きな違いとしてあげられる。日本の通話料金は諸外国と比較して、ピーク時間帯(平日昼間)は平均並みであるにもかかわらず、平日夜間19:00〜23:00、土日・祝日昼間の通話料金は安いとはいえない。
(情報流通研究グループ/通信事業研究担当 横山邦江)
e-mail:yokoyama@icr.co.jp

(入稿:1999.9)

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