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ICR View
2009年4月掲載

ICTにおける緊急課題と長期戦略

 2009年度が始まりました。情報通信総合研究所の情報発信媒体としての、本ニューズレターも少し体裁を変え、より充実した情報発信を続けて参りたいと考えています。研究員からの詳しいレポートや特化したテーマをさらに数多く取り上げて行きます。

 さて、本ニューズレターの巻頭に、これから「ICR View」の題名の下、直近のさまざまな動きを取り上げ、議論の種(たね)を提起する試みを続けたいと思っています。決して、具体的な調査レポートではなく、新しい研究の成果発表でもありませんので、予めお断りしておきます。角度を変えた(=臍曲りな)複眼的な視点での提起を心掛けて参りますので、よろしくお願いいたします。

 今回は、情報通信分野での目の前に迫った2010年代前半の大変化への緊急課題とより長期的なディジタル化(ICT)国家戦略の策定の必要性の2点を取り上げます。

 まず短期的な課題ですが、(1)2011年7月のアナログTV放送の終了=TV映像のオール・ディジタル化、(2)その時までに液晶など高品質のディジタル薄型TV受像機の普及、(3)2009年度末までのNGN普及拡大=フレッツ光エリアカバー率100%、(4)2010年末にはワイヤレス・ブロードバンドの主流のLTE=3.9Gの商用開始、(5)2012年3月にドコモの2G、ムーバ・サービスの終了とその後の周波数の再配置、などさまざまな制度面の変化が予定されています。いよいよ固定・無線ブロードバンドの本格化、放送のディジタル化によるコンテンツ効用の向上、各種の融合などの大変化が近々3年の間に起こります。ディジタル化やブロードバンドの効果を最大限発揮することを目指し、政府のICT新戦略「3ヵ年緊急プラン」において、具体的に4項目(1.電子政府・自治体、2.医療分野、3.環境対応・知識集約型産業、4.IT人材育成)が取り上げられました。景気対策の色彩が強いことから、より詳細にICT投資の経済効果を検証する必要があるでしょう。当研究所においても、この面で研究と検証を続けて行きたいと考えています。

 次いで、長期的な国家戦略としてのディジタル化・ブロードバンドをどう扱うのか、新たな課題が浮上しています。米国オバマ政権が成立させた米国復興・再投資法の中でのインフラ・科学技術振興策、フランスのサルコジ大統領が主導した「ディジタル・フランス2012」、イギリスのブラウン政権がまとめた「ディジタル・ブリテン」、さらには、韓国李明博政権が新しいIT戦略を明らかにするなど、ICTに係る中長期的な国家戦略・経済政策の策定が盛んに行われています。もちろん、我が国では今日まで、固定・無線通信とも世界トップクラスのブロードバンド化が進められて、その普及は他国の目標となるレベルに既に達しています。問題はこの進展が政策的な活用、例えば経済構造の変革、医療や介護、少子化対策などの福祉の向上、行政サービスの生産性改善など具体的な経済政策に目標化されていないことです。今こそ、ブロードバンド化を越えたICTを活用する中長期的な目標設定が必要です。

 このためには、総務省の領域だけではなく、経産省、内閣府、さらに医療・福祉、運輸・交通、環境保全や省エネ分野など、地方自治体まで含めた多くの省庁にまたがるプロジェクトが必要です。企業組織では既に当り前になっていることですが、政府部内及び地方自治体、医療機関、学校など各種組織にもCIOを配置して事に当るべきです。その上で政治の強いリーダーシップを望みたいし、加えて、学界やメディアを含めた各界においても単なる利害調整ではなく、建設的意見の提起など付加価値を生み出す努力をすべきでしょう。日本では諸外国と比較すると、ブロードバンド化それ自体を目標とする状況を過ぎて、次のICTを活用する取り組みの段階となっています。供給者の立場でなく、顧客・利用者・受給者の視点に立った政策目標こそが新しい活力を生み出します。

 当研究所を含めて、シンクタンクに携わる者はこうした政策目標設定に対して積極的に情報発信及び提言を行って行かなければなりません。ICTこそ、日本が世界に誇れる分野であり続けたいと思います。

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