ホーム > ICR View 2009 >
ICR View
2009年8月掲載

マニフェスト(政権公約)と情報通信産業・サービス

 8月30日の衆議院総選挙に向けて各政党のマニフェスト(政権公約)が出揃っています。今回の選挙では政権選択がポイントであり、そのため各政党はそれぞれ具体的な政策を発表して有権者の選択を求めています。そこで、発表された政策集も含めてマニフェストの内容から、主として情報通信産業やサービスに関連する部分に目を向けてみたいと思います。取り上げるマニフェストとしては、紙面の都合からここでは二大政党である自由民主党と民主党だけを取り上げます。両党の比較によって情報通信への取り組みの違いを明らかにしてみたい。

 先ず、自民党のマニフェストでは「経済成長政策」の項目の中に以下の2項目があります。

  1. 地上デジタル放送の推進、情報通信網の整備による地域間格差の解消
  2. IT利活用社会の実現

 これは、2010年度末までのブロードバンド・ゼロ地域の解消を明確にし、デジタル・デバイドを克服するとともに、IT(ICT)を利活用して地域及び経済を活性化しようというものです。
一方、民主党のマニフェストそれ自体には情報通信について直接の言及はありませんが、同党が同時に発表した政策集「INDEX 2009」には次の8項目が取り上げられています。

  1. 郵政事業の抜本的見直し
  2. NHKの改革
  3. 通信・放送委員会(日本版FCC)の設置
  4. 通信・放送行政の改革
  5. 電波の有効活用
  6. 情報格差の解消
  7. 地上デジタル放送への円滑な移行
  8. インターネットを用いたコンテンツの2次利用促進

 これらを見る限り、政策論争が行われて来た案件や産業的に先ず優先して取り組む課題とその方向性が示されていると言えます。

 両者を比較して言えることは、自民党が情報通信をマクロ経済的な視点から経済成長の柱と捉えており、その成果及び恩恵を地域や経済の活性化、豊かな生活として実現しようとしているのに対し、民主党はマクロ的視点からは触れずに個々の具体的な課題の解決を図ることにより、国民の理解と賛同を得ようとする帰納法的アプローチを取っているように見えます。こうした政策面での方法論の違いから、自民党では個別課題の解決策がブロードバンド・ゼロ地域解消など限られた項目しか提示されず、国民や産業界から提起されて来た個別の政策課題が取り上げられていないので、マクロ的な視点は納得できるものの、それでは各論はどうなるのだろうと疑問が残ります。他方、逆に民主党では、個別課題の判断は数多く示されており各論の是非はよく理解できますが、マクロ的な視点が語られていないのでICTそのものが将来的に政府において、例えば国の戦略上どう位置づけられるのかが見えないものとなっています。その意味で両党の立場・視点はマニフェスト上でも対称的に見えます。マクロ的観点から個別の政策を演繹的に策定していくのか、個別課題の積み上げから全体的な政策を帰納的に立案していくのか、アプローチは分かれますが、問題はICT産業についてのマクロ俯瞰力がどうなっているのかということです。ICTを経済成長・経済発展の礎と捉えて、いわゆるバラマキではなくファンダメンタルに投資していくことに前向きかどうかが重要と考えます。IT(ICT)の利活用の重要性の認識に関しては両党に違いはなく、例えば、国民全体へのID番号の導入が両党共に取り上げられている点は高く評価できます。但し、民主党が納税と社会保障給付に共通のものとしているのに対し、自民党では社会保障サービスを対象としている点に違いがあります。IT(ICT)の利活用の面からは広く共通的に利用出来る姿が望ましいところです。

 次いで、情報通信行政に関し民主党が、通信・放送委員会(日本版FCC)の設置を上げています。事業者の規制・監督と産業政策とを分離し行政運営の透明性を高め、事後規制への転換を図るものとしています。理念としては十分よく理解できる政策と言えます。ただ現実問題としては外国の事例を見ても、屋上屋の政策や二重規制のケースがあるようです。独立行政委員会の設置は先進各国における潮流となっていますが、その実際の運用は各国それぞれの姿となっていますので、具体的な組織権限のあり方、要員の配置などが更なる課題として残っています。

 また、目を引きにくい問題ですが、民主党の政策の中に「適当と認められる範囲内でオークション制度を導入することも含めた周波数割当制度の抜本的見直し」とありますが、これは限られた電波資源の有効活用の方法として、入口の割当方法で判定するのか(オークション方式)、それとも実際の利用状況から柔軟に判断を加えるのか(利用料方式)、議論が分かれるところです。私は、技術面、市場・需要面双方とも変化の大変激しい電波関係産業においては、オークションの果し得る役割は限定的であると考えています。

 なお、マスコミ的に関心の高いNTTの経営形態については、自民党も民主党も何も触れていないことを最後に付け加えておきたいと思います。

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。