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ICR View
2009年8月掲載

デジタルネイティブとケータイの進化

マーケティング・ソリューション研究グループ
グループリーダー 清水 博
 2006年10月にガートナーのリサーチ部門最高責任者Peter Sondergaad氏が1990年以降誕生の世代を「デジタルネイティブ」と定義し、2008年9月にはNHKで特集番組が放送され、デジタル機器に囲まれIT革命の中で成長してきた世代が注目されている。特集番組を出版化した「デジタルネイティブ―次代を変える若者たちの肖像」(三村忠史氏、倉又俊夫氏、NHK「デジタルネイティブ」取材班著、日本放送協会 2009年1月発行)、1977年から1997年の間にベビーブームの親達から生まれた世代を「NetGeneration(ネット世代)」と呼んだDon Tapscott氏の「Grown Up Digital : How the NetGeneration is Changing Your World」の翻訳書「デジタルネイティブが世界を変える」(栗原潔氏翻訳、翔泳社2009年5月発行)、日本における平成元(1989)年以降生まれの世代を紹介している「デジタルネイティブの時代」(木下晃伸氏著、東洋経済新報社2009年5月発行)など出版が相次いでいる。

 物心がつく小学生の頃からテレビを見て育ったテレビ世代の我々は、社会人になった後にワープロと呼ばれる文書作成専用のデジタル機器へ接触し、その後PC(パソコン)に出会いインターネットの世界へと移住したことからデジタルイミグラントとも呼ばれる。1980年前後に誕生したネット世代は学生時代からPCを使ってインターネットに触れ、多くが社会人としてグローバルなネットビジネス最前線で活躍している。特にバラク・オバマ米国大統領の誕生にも大きく貢献したと言われる米国のネット世代の影響力は非常に大きく、検索エンジンビジネスで一人勝ちの続くグーグルやiPhoneの好調な販売が続くアップル、さらに起死回生をかけて提携を発表したマイクロソフトとヤフーなど世界を席巻している企業を彼らの力が支えている。

 1990年以降誕生のデジタルネイティブは小学生時代から家庭でPCに触れて育ち、ここ2〜3年で大学を卒業した社会人が登場して働き始めるが、ネットビジネスを供給者の視点からではなく消費者の視点から初めて発想できる世代として大きな変革者になりうる。平成生まれの日本のデジタルネイティブは1999年2月にiモードのサービス開始に出会い、ケータイからインターネットに触れた最初の世代として日本独自の若者ケータイ文化を築いており、今後ケータイの進化に貢献し、世界の携帯電話機器市場で全く存在感を示せない日本企業の劣勢を挽回する上で大きな推進力となることが期待される。電話という音声コミュニケーションよりも、メールによる文字情報でのコミュニケーション手段としてケータイを使いこなし、情報入力手段として驚異的な機能を獲得した親指を介して人間とケータイを限りなく近づけてしまったことはテレビ世代の理解を超えている。ケータイは音楽、映画やゲームなどのエンターテインメント、クレジットカードや定期券などの生活の利便向上、情報収集分析や知見蓄積などの情報装備強化の面にとどまらず、あらゆる機能を飲み込み始めているように見える。注目を浴びつつあるクラウドコンピューティングとの融合によりさらに高度な情報処理機能と超大規模データベースへのアクセス手段としての役割も備え、大きな飛躍の期待されるバイオテクノロジー技術の革新とあいまって、計算や記憶といった範囲を超え思考や判断などより高度な脳機能を代替していく可能性もある。ケータイの進化において何が起こり、そこでデジタルネイティブがどのような役割を持つかは未知数であるが、デジタルイミグラントとしては強い関心を抱くところであり、IT革命真っただ中をくぐりぬけてきた経験とまだ若干は通用しそうな知恵を活かしながら、行く末を見極めて行きたい。

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