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2010年4月9日掲載

重層的な全国ブロードバンド計画を。
―光の道と電波の道―

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 ブロードバンドサービスの普及・展開について、世界各国でデジタル化を含めて国家政策として進められています。昨年までに、英「デジタル・ブリテン」、仏「デジタル・フランス2012」、韓国「ニューIT政策」、そして先月、アメリカで「全米ブロードバンド計画(NBP)」が発表されています。日本でも、ブロードバンド回線の整備を光ファイバー建設で行う、いわゆるインフラ先行論として日本の4900万全世帯に光ファイバー回線を敷くことが目標とされています。

 その一方で、光ファイバー回線100%敷設をいち早く実現した地域が新潟県内や岡山県内にありますが、残念ながら光サービスの契約率は3割でしかないのが実状です。利用者をひきつけるブロードバンドサービスが求められて久しいが、現状ではまだ十分に開発されてはいません。国や地方の行政サービスでもほとんどブロードバンド回線は活用されていないだけでなく、その前提条件となる国民共通IDの取り組みすら進んでいません。

 ブロードバンドサービスの全国的普及を目指す場合、2つの方向性が可能です。一つは、総務省の示している4900万全世帯への普及計画です。これは、光ファイバー回線の全国的敷設を予定したものであり、主にPCとインターネットを念頭に置いたものと考えられます。

 また、一方で、ブロードバンドサービスの個人普及と移動性まで取り込むことを目標とすると、無線ブロードバンドの普及・拡大が絶対に必要です。ブロードバンドサービスを幅広く多角的に活用する場合、光ファイバー(固定)と電波(携帯)の重畳・融合が求められます。即ち、光の道に電波の道を加えることがポイントになると考えます。

 日本の携帯端末・サービスは国際競争力がなく、世界と異なるその独自性からガラパゴスと揶揄されて来ましたが、一方、無線インフラ面では世界的に見て3Gの普及・展開が進んでおり、さらに、3.9G=LTE のエリア展開はオーバーレイ型で3Gと重畳してサービスされる計画となっています。携帯端末は、個人契約(又は個人所有)をベースに既に対人口90%以上の普及になっていますし、ネットワークと端末の組み合わせから初期設定がほとんど無く、操作性の良さなどに特色がありPCより幅広い層に利用が拡がっています。光の道と電波の道を政策的に重畳して取り組んでこそ、豊富なサービスやコンテンツが可能となります。
問題なのは、ブロードバンド回線の議論となると光ファイバーのみに着目してしまうことです。さらに、これまでの光ファイバー敷設についての通信会社や電力会社・CATV会社間の設備競争の経過や実績を十分に評価しないまま、業界で指摘される、いわゆる「構造分離」がしばしば話題になります。こうした議論は、EUや米国における最近の通信政策策定の中で示された方向性とはかなり異なっていることに注目しておくべきです。

 EUでは、欧州委員会がかねて立案していた固定通信事業者の卸部門の分離義務づけをEU理事会と欧州議会が修正を加え、政治主導の下で同一事業体の中における機能分離にすら極めて厳しい制約を付して、例外的なケースとして是正策は正当化されることがあり得る(may be justified)という、従来とは異なる内容を決定しました。また、米国では、3月、FCCがブロードバンド(ここでは100Mbps)回線の利用できる「全米ブロードバンド計画(NBP)」を策定し議会に提出しました。これには光ファイバーのインフラ整備に加えて、クラウド・コンピューティングなどのIT分野で世界をリードしようとする米国の意図と同時に、携帯端末・通信分野でも同様に米国発を追及しようとする姿勢が見られます。そのためには、スマートフォン時代には大容量の無線通信インフラが不可欠であるとの認識を示しています。結局、無線周波数の確保が必要であり、国の周波数政策が急務となっているのです。そこで、放送局との周波数の再編成が求められ、米国では「放送はCATVなど有線で、通信は無線でまかなう」との見方も出ていると言われています。(日本経済新聞 2010年3月20日朝刊)

 残念ながら我が国では、政策当局の過去の経緯や通信各社の思惑が議論の中心となってしまい、世界の大きな流れや時代の動きに学び、新しい地平を切り拓く姿勢が十分に見られません。日本国内だけの議論では展望は持てませんし、単純な製品輸出振興だけではだめでしょう。光の道だけではなく、電波の道を加えた、固定と無線の重層化・融合化を進める戦略、インフラ先行ではないサービスとコンテンツの振興策、さらに世界、特にアジアの成長力を取り込むための情報のハブ化支援策(データセンターやクラウドコンピューティングのための誘致等)など、日本の競争力を高めるための税制や規制改革、国家的プロジェクト・地域活性化推進といった政策的な取り組みが今こそ、必要となっていると思います。

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