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2011年1月19日掲載

情報通信技術とロボット技術の融合によるICT活用の拡大を期待する

経営研究グループリーダー 市丸 博之
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 情報通信の発展の歴史は、設備の「共用」によるコスト削減と伝送容量拡大・高速化による情報の「共有」の拡大の歴史である。交換技術、周波数・時分割、データ圧縮などによる、回線の共用、さらにはやクラウドコンピューティングによる情報処理設備の共用により、情報1単位当たりのコストを廉価にし、また低廉化が、情報の大量流通を可能して人々の共有する情報量の拡大をもたらした。
 特にインターネットの出現は、個人の情報入手と発信の機会を容易にし共有される情報量を飛躍的に拡大した。さらにこの個人の「情報入手・発信の行動記録」自体がライフログやソーシャルグラフといった情報資産として蓄積され、そうした個々人の行動履歴を利用した、行動ターゲティング広告などネット広告ビジネスが隆盛を極めているのは周知のところである。
 しかし爆発的に拡大した情報流通においても、情報共有できても一般人にはそのままでは使えない情報がある。「専門知識・技能」である。情報が医学や電子技術など専門知識である場合は、入手した情報は一般人にはそのままで理解不能で役立たない、ましてや習熟動作を伴う専門技能ともなるとお手上げで、実践不可能である。

 そのままでは受け取っても意味がないという意味も含めて実質共有不可能な知識・技能を、共有可能にするのが、相手になりかわり当該作業を専門家自身あるいは専門プログラムが制御することである。その手段が「ロボット」である。
 自律動作する独立した装置という狭義の意味での「ロボット」は、軍事、産業面で導入が進んでいるが、その導入目的は、いわゆる3D(dangerous危険、dirtyきたない、dull単調)作業の代替である。一方、オフィスや一般家庭の生活を支援するサービスロボットの市場は、ニーズは高いといわれながらまだわずかである。その普及が進まない理由としては「安全基準」がないことや「費用対効果」に一般のコンセンサスが得られないことが挙げられている。

 「ロボット」をセンサー(感覚:情報収集)とプロセッサー(思考:情報処理)とエフェクター(行動:動作制御)の3要素からなるひとつのシステムと考えると、エフェクター部分のイメージが大きい独立して自律的に動作する機械という狭義の「ロボット」のほかに、家電などに搭載された「組み込みソフトウェア」や、3要素間を通信回線で接続して、センターにおかれたサーバーあるいは人間により、端末が遠隔制御される「エフェクター遠隔制御ネットワークシステム」も広義の「ロボット」と呼べるだろう。
 この「遠隔制御ネットワークシステム」の場合、狭義の「ロボット」は「遠隔制御端末」として位置づけられ、またシステムの目的も3D作業代替というより「専門技能の転移」と考えると、ロボット技術も含めたICTの活用の今後の方向性が見えてくる。

 画像認識や触感、GPSなど最近の各種センサー技術の発展は著しい。しかしセンサーを利用したネットワークサービスはまだ少なく、カーナビによる渋滞情報収集、業務用車両の運行状況把握や気象情報収集、カメラなどによる防犯モニターなど、情報収集と情報処理結果のフィードバックに留まるセンサーネットワークサービスが主流である。端末センサーによる情報収集に加え、端末エフェクターの遠隔制御を行うエフェクターネットワークサービスとなると、盗難工作機械の遠隔ロックやパソコンやルータなどの遠隔保守などわずかである。ちなみに日本の携帯電話事業におけるM2Mサービスの加入数に占める割合は、今だ4%弱で欧米の半分に留まる。(主要3携帯事業者の2010年9月末)

 急速に少子高齢化が進むなかで、ロボットの利活用が期待される分野は、介護、農業、インフラメンテナンスといわれる。一方ICT(特に通信)の活用が期待される分野として、環境、医療介護、教育、行政の分野があげられており、両者の期待される分野は重なりあう。
 スマートハウスやホームICT、自動栽培工場などにおいてセンサーネットワークによるモニターサービスを、遠隔支援(制御)サービス(家事や介護サポート、耕作支援など)に発展させるためには、ネットワーク端末動作器としてのロボットが不可欠である。
 例えば、医療の分野ではネットワークによる電子カルテなど医療情報の共有は進んでも、法的規制もあって、遠隔医療は、テレビ電話による遠隔医療診断レベルに留まっているのが現状である。しかし技術的には「エフェクターネットワークシステム」の構築により、元々は戦地での遠隔手術を想定して開発されたが、現在は手術室で使用される内視鏡手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」のような手術機器をネット接続して専門医による遠隔手術を行うことや、、無人注射端末機器などによる遠隔投薬や遠隔採血検査といった「遠隔治療」が可能になるのではないか。
 またロボット側にとっても、プロセッサー部分を共同運用センター化したりクラウド化すれば、ロボットの「コスト引き下げ」につながり、また例えば利用する人間の健康状態に応じて、人間による遠隔制御とロボット端末の自律制御の使い分けなどにより「安全性」の問題のハードルも低くできるのではないだろうか。

 日本はICT技術でもサービスロボット技術でも世界に先進しているといわれる。両者の技術を融合したエフェクター(遠隔制御)ネットワークシステムは、社会的課題の解決とICTの更なる利用促進に寄与すると期待し、またこうした遠隔制御や自律制御技術の利用を新たな前提とした各分野における各種規制の見直しと環境整備を望むものである。

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