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ICR View
2012年8月1日掲載

観光ICT立国のススメ

グローバル研究G
常務取締役 真崎 秀介
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ロンドンオリンピックが開幕

日本時間の7月28 日早朝にロンドンオリンピックの開会式が盛大に行われました。英国の過去、現在、将来をドラマチックに演出した感動的な開会式で、特に牧歌的なリアルな世界とエリザベス女王がパラシュートで飛び降りるというバーチャルな映像が組み合わされるという最先端のICT 技術が駆使された見事な演出でした。200 カ国以上の国々の選手や人々が参加した今回のオリンピックは英国のステータスを更に高めるとともに、英国に大きな経済波及効果をもたらすものと思われます。一方、日本では5月に営業開始した東京スカイツリ―の人気が高く、展望台に昇る予約をとるのが大変な状況となっており、スカイツリ―効果は3年間で100億円と試算されています。
 ロンドンオリンピックを契機に我が国の観光産業、特に「観光ICT 立国のススメ」ということで考えてみたいと思います。

外国人観光客数が震災前に回復

日本を訪れた外国人観光客の数は2010年に861万人まで達しましたが、2011年は東日本大震災、福島原発事故の影響で28 %減の622万人に落ち込みました。しかし、今年に入り中国人観光客など外国人観光客数が震災前の水準まで回復してきています。特に中国人観光客が利用する「銀聯カード」の4月の取扱高は100億円を超えており、その平均利用額は3万円で日本人のクレジットカード利用の3倍に昇ります。このため3月末の「銀聯カード」の国内加盟店数は8 万5000店と1年前に較べて倍増している状況です。

日本は北は北海道の流氷から沖縄のサンゴ礁という実に変化に富んだ自然を有し、しかも四季折々の自然が楽しめる豊富な「観光資源」を有する国です。「別府温泉の地獄巡り」はあまり知られていませんが世界でも類を見ないものです。しかし、日本はこれらの「観光資源」を有効に生かし切れていないというよりは日本人自身がこの貴重な資源に気がついていないのかもしれません。

アジア諸国の経済成長がこのまま続けば、訪日外国人旅行者は更に増える可能性があります。世界観光機構は日中韓を含む北東アジアの外国人観光客数を2030年までの20年間に2.6 倍の3億人に拡大すると予想しています。世界各国で行ってみたい国のなかには日本は必ずトップ3に入ると言われています。

観光産業のインパクト

2010年の統計で外国人旅行者受入数はフランスが1位で7680万人に対し、日本は861万人と1割程度で世界で30位にすぎません。北東アジアでも中国が3 位で5567万人、韓国の880万人にも及ばない位置です。観光産業の経済波及効果は予想以上に大きく、観光庁は2020年までに外国人旅行者の受入れ目標数を2500万人、経済波及効果は年10 兆円と試算しています。
この額は日本から中国への貿易輸出額に近い額であり、しかも設備投資等を考慮すると極めて利益率の高い産業であり、しかも多くの雇用を創出する産業と言えるのではないでしょうか。日本が直面する少子高齢化による内需縮小を考えると数少ない有望な国内成長産業だと思います。

しかし、観光庁の2012 年度の当初予算は100億円で、台湾の290億円や、シンガポールの119 億円より少ない額になっています。今後は観光産業への投資額を増やすとともに創意工夫を凝らした観光産業振興策を考える必要があります。日本の観光需要は市場規模23 兆円といわれていますが、そのうち国内の旅行者が95 %と特殊な市場になっています。今後、国内需要は頭打ちになることが予想されるだけに外需を取り込む必要があります。

観光産業とICT

海外からの観光客の誘致を目指した取り組みは、地方でも積極的に進めているところが出始めています。人気の高い北海道のニセコでは夏はゴルフ、乗馬など、冬はスキー客で過去最高の予約が入っています。日本人のスキーヤーが減少している長野県白馬村では冬季長野オリンピック開催を契機に外国語ウェブサイトでの情報発信、一人歩き用英文パンフレット&マップの作成など積極的な外人観光客受け入れ策を進めたところオーストラリア、韓国、中国人スキーヤーが増加しています。ICT の利活用では例えば静岡県では中国の人気ミニブログ「新浪微博」を活用しての情報発信をしており、埼玉県では旅行雑誌記者やブロガ―を県内に招待して、情報発信をする取り組みを始めているようです。

日本でもここ数年スマートフォンやタブレットの普及が進んでいますが、欧米アジアの国では日本以上に普及が進んでいる国が多くなっています。日本への海外からの旅行者も多くがこれらのスマートフォンやタブレットを携帯しています。日本への海外旅行者の増加のネックになっているものに「言葉」の問題がありますが、タブレット端末を活用した多言語の 観光案内、商品の紹介は利用が進み始めています。岩手県の平泉地区ではタクシーにiPadを配備し好評を得ており、京都では宿泊施設対象の電話通訳サービス開始し、5月から市バス、地下鉄の案内所にもサービス拡大される予定です。音声認識の技術革新も目覚ましく、音声認識による検索サービスが実用化されています。夢であった通訳フォンが登場し、海外からの観光客のアイテムになる のも時間の問題かもしれません。

今後はソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS )による観光日本をPR することも考えられます。海外を例に取ると、スイスの村の観光局では観光客がどのような行動をとるかを調べて 観光誘致に努めているようですが、これも「ビッグデータ」を活用した観光産業のマーケティングに活かせるでしょう。その他、海外からの新幹線ネット予約、カーナビの他言語化、業界横断的な情報共有など観光産業への取り組みのアイディアが生まれつつあります。ICT の発達で 旅行が減るという見方もありますが、世界旅行協会のマイケル・フレンツエル会長は「インターネットが発達するなかで、実際にそこに行き、見て、触れて、感動するという観光の価値はむしろ高まっている。Face to Faceの魅力は減らない。」と言われています。観光ICT はO2O (オンラインTOオフライン)ビジネスのモデルになる可能性があります。

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