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ICR View
2012年10月5日掲載

通信障害に新たな課題
−統合的なオペレーションが求められている−

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今年8月13日から15日にわたって、NTTドコモの国際ローミングサービスで通信障害となり利用しづらい状況が発生しました。これに対し、NTTドコモとNTTコミュニケーションズの両社は8月29日連名で、その原因と対策を発表しましたが、直接の原因はNTTコミュニケーションズが管理している国際共通線信号網の輻輳であり、根本的には同網内の通信設備に設計上の問題があってトラフィック疎通に偏りがあったため本来の処理能力が発揮できていなかったことによると判明しています。トラフィック疎通の管理こそ、通信事業者の本来果すべき第一の業務であるだけに、監督官庁はじめ通信関係者に大きな衝撃を与えました。

特に、国際ローミングサービスは、相手国内モバイル通信事業者へのアクセス、共通線信号網はじめ国際通信回線や各種のゲートウェイとの接続など制御信号及び通信経路設定のプロセスが複雑である一方、サービスの利用量の変動幅が大きく総トラフィック量の想定がとても難しいサービスです。この結果、サービス利用者数は大きくないのですが、設備量の設定やハード/ソフトの設計において慎重な対応が求められています。近年のスマートフォンやタブレット端末の普及と国際ローミングサービスの定額料金制導入(1日当り料金の上限設定)によって、動画による映像トラフィックなどその使用量が大幅に急増する傾向にあります。こうした流れの中では、結局のところ、トラフィック動向のモニターを詳細に続けて、早期に対応することが王道であり早道です。最近のように、大きな変化が予想されるタイミングや新技術・新料金の導入、各種イベントで人の動きや通信動向に変化が予想される際に回線、装置など早期に対応策を実施しておくことが必要となります(今回はロンドンオリンピックをはじめ、海外旅行シーズンでした。)。

今回の国際ローミングサービスの障害においては、サービス提供者であるNTTドコモはもちろん、回線設備の提供者であるNTTコミュニケーションズも、その不手際を認めています。これに対し、事業を監督する立場の川端総務大臣(当時)は8月31日の記者会見において、「このため今後は通信障害対策連絡会を開催してNTT以外の他事業者にも情報を提供し共有化を進めると同時に、NTTグループとして取り組みをどうするのか、NTT持株の立場でドコモ、コミュニケーションズと確認して対応することをNTT持株に要請することを事務方に指示した」との趣旨の発言をしています。つまり、事業会社2社だけではなく、親会社であるNTTに調整と課題解決の役割を果すよう注文をつけたということです。サービスに関する事業責任は事業会社2社にあるのが当然ですが、接続プロセスやサービス提供上の監視、障害対応など複雑な構成である以上、調整役の役割を必要とすることは実務上やむを得ないところです。

しかし、問題は今回の国際ローミングサービスにおけるオペレーション上の調整機能だけに限定されないのではないかと考えます。1985年の通信自由化(NTTの株式会社化と新規参入促進など)以降、特に1997年のNTT再編成によって、ネットワークの分割が図られると同時にネットワークの接続が多方面で繰り返されて、その構成が複雑化していることは否めません。その上、参入事業者が増加してますます接続が複雑となっていることに加えて、端末の高機能化が進み、かつ、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の普及によって、モバイルネットワークのトラフィック量は年率2倍のペースで増加する勢いにあるので、改めてネットワークサービスの構成上、オペレーション等のサービス運営面の統合的な取り組みが求められる事態となっています。確かに、サービス提供者がユーザーに対し、エンド・ツウ・エンドで責任を持ってサービスを提供するのが本旨ですが、ネットワーク構成は年々複雑となり、また、IP化が進んで膨大な情報量を有する動画トラフィックが多くを占める今日、ネットワーク管理の原点に立ち戻って、統合的なオペレーションを必要としているように思われてなりません。

もちろん、その一方でNTTドコモに対しては支配的事業者規制が「事前規制」として非対称な扱いで存在していて、サービス面では他の通信事業者との関係では非差別的取り扱いを義務づけられているので物事は単純ではありません。そこで、NTTグループの場合は持株会社の役割に期待するということになるのだと思います。NTTグループ体制の評価においては、資本分離を行い、完全分離すべしという議論があるなか、今回の国際ローミングサービスの障害事故は、改めて通信サービスの高度な刷り合わせの必要性を浮き彫りにしたのではないでしょうか。

NTT(持株会社と東西会社)の根拠法であるNTT法では、持株会社の事業は、東西会社の株式の保有、東西会社への助言等の援助、基盤的研究開発業務となっており、ユニバーサルサービスの確保とR&Dの推進とその成果の普及が責務と規定されていますが、他方、NTTドコモやNTTコミュニケーションズなどの子会社の運営と監督は商事的な(事業法ではなく)持株会社の機能に基づくものです。
複雑化するネットワーク構造、多様化するサービス、高度化する端末・デバイス、増加と変化が著しいトラフィックなどを念頭に置く限り、オペレーションの調整、統合機能の充実はどうしても必要となります。こうした傾向をダイナミックに把握して、複雑化しているネットワークやトラフィックを常時モニターして、柔軟に対応することによりサービスに支障をきたさない体制作りがオールIP化時代の構造的・制度的な課題ではないでしょうか。この流れから持株会社の機能に着目して、この種の体制作りの役割を果すことは新しい時代に見合ったものと言えます。

サービスの自由化、ネットワークのオープン化、そして事業運営の規制改革を進めると同時に、オペレーションやサービス管理・運営の統合的な取り組みもまた必要なことです。

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