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ICR View
2012年11月6日掲載

O2O;Online to Offline か Offline to Onlineか?

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10月末に、モバイル通信主要3社の2012年9月末の中間決算が出揃いました。業績面では、KDDIの意気込みが目立つとともに、NTTドコモの出遅れ感の強いものでした。中間決算発表後の株価の変化が端的にそれを示していました。さらに、ソフトバンクに関しては、まさに10月は激動の月であり、イー・アクセス、次いでスプリント・ネクステルと矢継ぎ早の買収発表は、日本国内だけではなく、世界中を驚かすものでした。中間期の事業動向ではiPhone効果が大きく貢献して業績を押し上げているので、今後のさらなる成長を狙っての今回の買収策と思われます。

今回の中間決算の発表などから、モバイル通信3社の事業戦略の方向性の違いが浮かび上がっていると感じます。KDDIは3M戦略に象徴されるとおり、マルチネットワーク、マルチデバイスなどをベースに魅力的なコンテンツを提供して競合との差別化を図り、事業領域の拡大を目指し成功を収めつつあります。その一方、NTTドコモは、総合ITサービス企業を標榜して複数の流通・サービス分野の企業買収を行っています。KDDIは、現在のところNTTグループに対しては厳しく事前規制されているモバイルと固定との相乗り・割引きサービスを強力に推進して、モバイル分野だけでなく光ファイバー分野においても成果を上げています。ソフトバンクの特徴は、海外進出を図って通信分野で規模の利益を追求して一層の成長を果そうとする意図と見えます。日本国内では規制色の強いキャリアビジネスから3社3様の方法で新しい領域に挑戦していることが見てとれます。

そこで今回の本欄では、流通・サービス領域で起こっている事象から今後の動向を考えてみたいと思います。モバイル通信会社のなかでは、主としてNTTドコモが目指している方向ですが、流通・サービス分野におけるオンラインとオフラインの組み合わせ・融合のあり方に関する問題です。

しばしばO2Oとして語られる問題ですが、近年現実の消費者の行動にはショールーミングなる現象があり、ネットで製品や価格、売れ筋などを調べた上で、複数の販売店で実物を検分して説明を聞いて確認した後、オンラインで購入するという消費行動が多くなっています。これは果して、通常言われているO2O、すなわちOnline to Offlineなのでしょうか。結局のところ、オンラインで購入しているのでむしろ、Offline to Onlineと言うべきではないかと思います。つまり、リアル店舗は検分して説明を聞いて確認するところで、購入行動はオンライン上で行われる傾向にあるのですから、この市場の競合者は、どうやってオンライン上の決済プラットフォームを構築し広く普及させられるかに精力を集中することになります。その場合、従来はパソコンがこうした決済プラットフォームの出入口のツールであり、商品・サービスを検索し発見することも多くはパソコン画面で行われていましたが、最近のスマートフォンの普及に伴い事態は変化しつつあるようです。これまでも、比較的簡単な検索は従来タイプの携帯、いわゆるフィーチャーフォンでも行われてきていましたが、スマートフォンの処理能力、インターネットの接続、アプリの豊富さが故に、オンラインによる商品・サービスの検索はスマートフォンに移行しつつあります。つまり、これまでのパソコンによる検索は家の中、屋内で行われてきましたが、スマートフォンの登場によって“いつでもどこでも”検索が可能となり、またGPS機能との組み合わせによってリアルな店舗への誘導も可能となってきたというのが最近よく言われていることです。

でも、実際はこれだけでは終わりません。スマートフォン上の検索情報を得て、リアルな店舗に立ち寄っても食事などのサービスのように品質と価格の判定が難しいものは、その場での消費となるのでオフラインで決済(つまり、その場での支払い)されるでしょうが、時間的に余裕があり価格が比較可能で商品が配送できるものは、その場での消費ではなく事後にオンラインで購入・決済することが多いと思います。その領域がOffline to OnlineのO2Oですが、スマートフォンはここにも新しい行動パターンを生み出しているようです。

そもそも、スマートフォンで情報を得て商品検索を行ったとしても、スマートフォンの画面の大きさ、おかれている周囲の環境から、すぐにスマートフォンで購入・決済されるもの(分野)は限られます。例えば、音楽、ゲーム、書籍などデジタル化になじむ、かつ、移動性が利便を生むサービスが主なものです。それ以外のもので、消費にまで時間的な余裕があり、品質と価格の比較が容易であり、規格化されていて理解しやすい商品は、リアルな店舗での検分の後、今度は自宅のパソコンで再度商品検索をしてオンライン上のEC市場で購入・決済することになるのが普通でしょう。つまり、オンライン(スマートフォン)→オフライン(店舗)→オンライン(パソコン)の流れで最後はオンライン・プラットフォーム=EC市場へと進んで行きます。問題は、O2Oの流れの最後に、オンライン・プラットフォームがきて、EC市場で決済されることにまた新たな競合の始まりがあることです。

結局、購買行動の最終段階で決済プラットフォームに、パソコンから固定回線(光ファイバー)で接続されるのか、新興のスマートフォンからモバイル回線でつながるのか、という新しいアカウントの競合関係が生まれることになります。消費者(利用者)にとっては、選択肢が拡がることが望ましく競合関係が生ずることに問題はありませんが、他方、通信産業内の競争政策上の規制からモバイル側と固定(光ファイバー)側とがIDを共有して利便性を高める工夫が、支配的事業者と位置づけられているNTTグループ各社には事前規制(非対称規制)されていて、利用者IDを活用したEC市場でのプラットフォーム活動の領域が著しく制約されてしまっていることに疑問を感じています。モバイル回線契約者と固定回線契約者のIDを統一化したり、情報連携する途をすべての通信事業者に認めて、EC市場や決済プラットフォームという新規分野への自由な参入が進められるよう条件整備が必要な時期です。

スマートフォンはEC市場への入口ツールであると同時に、個別のID付与が比較的容易なので、EC市場の出口に控える決済プラットフォームに最も適したツールといえます。情報通信と商品流通との融合形態であるO2Oにおいて、やはり本命は一般にいわれているのとは逆に、Offline to Onlineではないかというのが私の考えです。我が国では、まだまだリアルな現場、すなわちオフラインでの現金支払が圧倒的に多く、オンライン決済は少数派の段階ですし、その上、既に外資系の影響力が強く働いている状況です。

しかし、スマートフォンの普及に伴って、従来のパソコンを用いた検索から決済プラットフォームへの流れとは違った方法が作り出されることでしょう。スマートフォンが接続されているモバイル回線契約にリンクした利用者IDが他の契約(光ファイバー回線など)と共有化されて、消費者(利用者)のアカウントが形成されより利便性が向上することになります。こうなると、これまで通信産業政策のベースとなってきた支配的事業者に対する非対称規制の見直しや特に通信事業者だけに厳格に適用・運用されてきた通信の秘密保持義務についても、一般のEC市場や決済プラットフォームと共通した統一的取扱いが必要とされます。スマートフォンを新しいECプラットフォームの有効なツールとして活用することは、光ファイバーの普及・拡大にとって光電話、光テレビに続く第3のキラーツール(アプリ)となることでしょう。

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