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2013年2月4日掲載

電波監理政策の総合的な再構築を期待

(株)情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之
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モバイル・トラフィックの増大に伴い、電波、即ち、無線周波数に対する需要が大きくなっています。昨年10月に米国シカゴで開催された「4G World 2012」では、ベンダー各社からLTE/WiMaxの伝送容量を現在の1000倍に拡大する必要があると指摘されています。その取り組みの第一に無線周波数の確保があげられており、世界的に無線周波数の効率的活用が課題になっているところです。特に、モバイル通信事業者にとっては、増大する動画トラフィックに応ずるため、無線周波数の獲得は死活問題とさえ言えるものです。

一方、電波は資源として有限稀少であり、国民共有の財産として国民全体のために活用されるべきものであって、電波を効果的・効率的に利活用すること自体が必然的に公共的性質を帯びています。こうした共通理解に基づき、我が国の電波法は「無線局を開設しようとする者は、総務大臣の免許を受けなければならない」(第4条)と規定して、国による電波監理を求めるものとなっています。冒頭のように、無線周波数の逼迫が進むに伴い、従来、電波法の下、国が行ってきた電波監理政策(電波行政)に新たな複数の課題がつきつけられる事態となっていて、それらが相互に関連しているので、整合のとれた総合的な方策が必要となっていると考えています。

その課題とは、次の3点に集約できます。

  1. 電波免許(無線局免許)のあり方
  2. 免許人の地位承継のあり方
  3. 電波利用料制度との関係

第一は、無線局の免許手続は、申請、審査、付与の手順で行われており、郵政省以来、総務省において比較審査方式によって実施されてきたことについての課題です。近年、多くの国々でオークション方式が導入されていて、日本はオークション方式を取り入れていない数少ない国のひとつとなっているのが現状です。オークション方式の是非については、賛否両論さまざまな立場があり、政府の研究会・検討会において長期間検討されてきた経緯があります。ここでは、その利害得失を述べるつもりはありませんが、我が国が電波監理政策面で“ガラパゴス”化していて、国際的な基準や国際取引、ICT産業推進などにおいて不利な地位に陥ることを懸念しています。電波オークション制度の導入は、総務省から前国会に電波法改正案が提出(2012年3月)されましたが、結局、廃案となり見送られています。また、先日の総務大臣の記者会見で、オークション制度導入に関し、今国会での法案提出はないとの考えが示されました。メリット、デメリットをさらに検討していくとのことです。

この電波オークション制度導入の議論において、新しい課題提起となったのが、二番目の、免許人の地位承継のあり方との関係についてです。つまり、比較審査の結果、無線局免許を受けた免許人の地位は、当該法人が合併したり分割したり(事業の全部の譲渡を含めて)した場合には、総務大臣の許可を受けて承継できることとなっています。しかしながら、免許人の法人格が存続する買収の場合、例えば、完全子会社化の場合においては免許人の地位の承継とはならず、総務大臣の許可の条項は適用なしとされています。完全子会社化と合併との間には、実質的な効果には差がないにも拘らず、電波法上の取り扱いはまったく異なっているのです。昨年末に行われたソフトバンクによるイー・アクセスの買収(完全子会社化)は、電波使用の地位を買ったことになると言ってよいと考えます。その意味から、合併や分割の場合と実質的買収等の企業結合の場合との取り扱いの差異をなくしていく制度面の整備が望まれます。さらに、1月になって行われたソフトバンクによるイー・アクセス株の売却、即ち、議決権株3分の2の売却についてみると、無議決株99.3%と議決権株0.7%に分割した上で、極く小規模になった議決権株の3分の2をメーカー等11社に売却したもので、実質的に両社の支配関係に変化がみられるのかどうか、電波免許付与時の条件を実質満たすものかどうか、疑問が残ります。この面でも電波免許制度の是正が求められます。

第一の電波免許のあり方の整備においては、免許付与後の買収/企業統合がM&Aとして行われ得ることが現実化している以上、二項目の免許人の地位承継のあり方と一体となって検討・是正されることを期待するところです。この流れで考えると、免許審査における比較審査方式を改めてオークション方式に移行することで、前述の課題の多くが解決できるのではないかと思います。単に、適正価格の値付けや落札価格の国庫収入化という経済/財政上の理由のほか、前述のような免許人の地位の法的な取り扱いの不透明さを払拭できる利点があります。つまり、オークション条件の設計や設定にこそ、電波監理政策のポイントがあるので、予め公表して運用するというメリットがあるからです。電波免許付与や免許人地位の承継の際に、電気通信事業に係る競争政策上の評価とどう整合させるのか、オークション条件の設計・設定を十分研究しておくことが必要になります。電波オークション方式のさらなる検討にあたり、単純に入札価格が高騰することのないよう、また市場競争が促進されるよう制度設計が求められます。加えて、落札価格が国の収入になるのに際し、電波資源の開発や効率的な活用方法の研究などに配分することは成長戦略及び国際競争力強化につながるものと考えます。今後の検討を期待したい。

最後に、電波オークション方式と電波利用料制度との関係について考えてみます。電波利用料の予算規模は平成24年度(2012年度)で、歳入715.8億円、歳出679.0億円とかなりの大きさに達しています。さらに、歳入のうち72.3%は携帯電話事業者からであり、517億円が見込まれている一方で、歳出は45.0%が地上デジタル放送総合対策に充てられ305億円となっていて、納付事業者と歳出対象の事務分野のバランスを欠いた姿となっています。これは、急激に増加した携帯電話機に応じて納付金額が増大したのに対し、使途分野は電波の経済的価値の向上につながる事務に大きく片寄っているために生じたものです。電波法第103条の2第4項に定める「電波の適正な利用の確保に関し総務大臣が無線局全体の受益を直接の目的として行う事務の処理に資する費用」(電波利用共益費用)という定義からみて、現実の電波利用料の使途は、法の規定する範囲(限定列挙)とは言え、納付主体の受益とは大きく乖離しているのが実情です。電波の経済的価値の向上につながる事務という根拠で使途が拡がっていますが、既存の無線局免許人にどのような受益があるのかどうか、バランスがとれているのかどうか、予算規模が年々拡大しているだけに検証しておく必要がありそうです。

また、電波の経済的価値の向上の効果は端的には、電波オークションの結果として表れてくるものと考えられます。電波利用料制度の内訳には、制度当初から続く“手数料”的な性格と平成17年改正で加わった“使用料”的な性格が混在しており、後者の支出規模が拡大しています。後者は政策的な必要から加えられた使途ですが、問題は納付主体と直接的にリンクせずバランスを欠いていることです。電波(無線周波数)のもつ公共的性格に鑑みると、例えば、電波オークションで得られる収入からこの種の政策的経費を支出する方策を併せて検討すべきではないか。

世界的に電波(無線周波数)に対する需要が急拡大している現状を踏まえて、世界の実情に合致する形で電波監理政策を見直し、再構築しておく必要があります。変化の激しいICT分野なので、新しい無線デバイス(例えば、M2Mやセンサーなど)に現行の電波利用料の負担を等しく求めることは、今後のイノベーションにとって重荷になり得ます。電気通信事業全体の競争政策やICT産業のイノベーション促進に貢献する総合的な電波監理政策の構築を期待しています。

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