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2013年7月19日掲載

電力改革と電電改革

(株)情報通信総合研究所 常務取締役
グローバル研究グループ部長
主席研究員 真崎 秀介

猛暑の節電対策

7月に入り、梅雨明けの猛暑とともに夏の節電対策が始まりました。今年の節電対策として政府からは数値設定は示されませんでしたが、できる限りの節電実施という要請がなされています。弊社においては昨年同様、平成22年度対比で20%以上の使用電力削減の方針を決めました。このため、電力使用ピーク時の電力使用を抑制するため、昼の休憩時間を1時間ずらし午後1時から昼休み休憩としました。個人的に一番つらいのは13時から17時までが電気ポットの使用禁止になったことです。昼食後の熱いコーヒーを楽しみにしていましたが、10月の節電期間終了まで我慢を強いられることになります。何故このような不便なことになったのか、電電公社の民営化の歴史を振り返りながら、国のインフラ事業である電力と通信における改革について考えてみたいと思います。

電力小売市場の自由化状況

福島原発事故を契機に電力改革の議論が開始されていますが、 「電力小売市場の自由化の状況」について経済産業省の報告によると平成23年度の新電力の販売電力量全体に占めるシェアは4%弱に留っています。 国の重要インフラとしての電力事業をどのような制度設計にすべきかしっかりした議論がなされるべきですが、 欧州連合(EU)では2003年にEU電力指令の改正が行われ、加盟国は2007年7月までに電力小売市場を全面自由化することなどが求められ、加盟各国は電力自由化の導入、発電・送電・配電各社の民営化や再編が行われています。国によって状況が異なるものの、現在、日本においても発電についての脱原発、再生可能エネルギーの導入についてはコンセンサスが出来上がりつつあると思いますので、発電におけるベストミックスの数値目標を含む、電力事業の在り方を早急に検討・ 実行に移すことが望まれます。

NTT初代社長真藤恒氏と電電改革

電力改革の参考として、通信における改革の経緯を改めて振り返ることも今日的意義があることだと思われます。今年、2013年1月でNTT初代社長真藤恒氏が亡くなられて10周忌になりますが、これを契機に真藤氏の 電電改革に向けた貢献を振り返る機会がありました。真藤氏の民営化における貢献を一言で語るとすれば、社員の徹底した意識改革と競争原理の導入に尽力したことと言えるでしょう。NTTの民営化は1985年(昭和60年)に行われましたが、それに先立つ4年前の1981年1月に真藤氏は石川島播磨重工業相談役から単身、電電公社総裁に就任しました。

電電公社総裁は歴代、内部からの登用が慣例でしたが、真藤氏は外部からの就任でした。この背景には1980年末に起こった近畿電気通信局の不正経理事件などがあり、電電公社が世間の厳しい目に晒された時期であり、政治的には行政改革の一環として三公社(国鉄、電電、専売)の民営化が検討された時期でした。また、日米貿易摩擦の波が電電公社にも押し寄せ、通信分野における国際調達が政治問題とも絡んで繰り広げられた激動の時期でした。

電力事業については原発事故を契機に「電力村」という言葉が引用されるようになりましたが、民営化当時は同様に「国鉄一家」「電電ファミリー」という言葉がありました。国際調達を巡っては「電電ファミリー」の大きな抵抗に遭いながらも、真藤総裁は積極的に海外から通信機器を購入するという決断を行いました。このことは日本の通信機器メーカーの海外進出を促すこととなり、国際競争力を得ていくという結果に繋がりました。

1985年の電電公社民営化の議論の過程において、真藤総裁は民営化の在り方そのものについては国会での議論にまかせるという姿勢を貫いたものの、民営化に伴い競争を導入すべきという点については、強いリーダーシップを発揮して競争環境を整え、その実現に尽力したことが高く評価されるべきだと思います。「競争を伴わない民営化」は大きな弊害をもたらすと考え、新規参入に向けた社内の環境を整え、積極的に新規参入を促したのは造船業界における競争を経験した民間の経営者でしかなしえなかった功績と言えるでしょう。真藤氏は当時を振り返り、新規参入事業者が本当に現れてくれるか心配していたが、稲盛氏が第二電電として無線を使って長距離通信事業に名乗りを挙げてくれたことに安堵したと述懐していました。その後、第二電電はKDDIとして成長し、ソフトバンクとともに良き競争相手として日本の通信市場をリードしています。

民営化にあたって新規参入を促すと同時に電電公社が有する経営資源を生かして新規分野への進出のため、真藤総裁が明確にその意義を説いたのが「投資の自由」を得ることでした。実際、民営化によって投資の自由を得たNTTは民営化と同時に矢継ぎ早に子会社を設立することになりました。子会社の設立は新規事業分野の開拓とともに、通信分野における競争に備え、通信事業本体の電話線にぶら下がる社員の数を減らしてコストダウンを図り、電話料の低減を実現するということで利用者にもメリットがもたらされました。

真藤氏の電電改革が問いかけるもの

国のインフラ事業としての電力、通信は共に民営化されたものの実質的な競争状況が実現されるかどうかでサービスや料金に大きな違いが出ています。
日本経済新聞(2013.3.11)によると「電力会社の値上げ申請の陰で、公共料金の全体の高止まりが目立っている。公共料金の中でも、通信料金は下がり続けており、固定電話の通話料は1998年から15年間で23%下落、携帯電話も2000年と比べ16%下がった。理由は電電公社の民営化に伴って通信分野が自由化され、新規事業者が相次ぎ参入した。海外と比べても日本の通信料は安い。」と報じています。

国のインフラ事業の料金は国民生活に直結するだけでなく、国の産業の国際競争力にも大きく影響する問題です。現実に電気料金が高いため製造拠点を海外に移転することによる産業の空洞化が懸念されています。

電力改革が焦眉の重要課題となるなか、真藤氏が 電電改革で発揮したリーダーシップと見識を振り返ることは今日的意義を持っているように思えます。

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