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トレンド情報 -トピックス[1997年]
<国内情報>

JTとITJの合併の背景と意義

(1997.5)

 97年3月18日、日本テレコム(株)(JT)と日本国際通信(株)(ITJ)は、両社が今年10月1日に合併することについて正式に合意したと発表した。
 国際的にはグローバル・メガコンペティションが進み、国内的にも規制緩和の進行及びNTT再編問題について一定の結論が出たこの時期の合併劇は、電気通信業界における一層の競争と業界再編を示唆する象徴的な出来事である。
 以下では、この合併の背景、意義等について整理し、今後の電気通信業界の提携・再編の動向の着目点について述べる。
  1. 合併の背景
    1. グローバル・メガコンペティションの進行
    2. グ国内における競争促進政策の進行
    3. JTのかかえていた課題
    4. ITJのかかえていた課題
    5. JTとITJの組合せが結実した背景
  2. 合併の意義と影響
    1. 売上4000億円規模の国内・国際通信事業者の誕生
    2. 加速する再編
    3. 今後注目される動き

1.合併の背景

(1)グローバル・メガコンペティションの進行
 企業活動の国際化に伴う通信ニーズに応えるため、世界の主な通信事業者はその連係を強め、既に、「ワールドパートナーズ」(AT&T、KDD、ユニソース等)、「グローバルワン」(DT、FT、スプリント)、「コンサート」(BT、MCI)の3つの戦略的国際提携が成立していた。96年11月にはBT、MCI両社は合併合意に至り、「コンサート」として世界第4位のキャリアが誕生することとなった。
 提携・再編の進行は、グローバル・ワンストップ・ショッピングにより国際的な大口ユーザの囲込みの進行を意味する。日本の行政当局、通信事業者の間にも、国際競争力を持ったキャリアの形成、ワンストップ・ショッピング指向の強化の必要性が認識されるようになった。

(2)国内における競争促進政策の進行
 グローバル・メガコンペティションの進行、また、諸外国における通信市場の自由化に合わせ、日本においても競争促進策に向けた動きが次々と現われてきている。
 95年11月には規制緩和を強く求める事業者の求めに応える形で、行政当局から「事業区分は存在しない」旨の見解が出された。既に、この時点において、特別法の規制を受けるNTT、KDD両社以外の第一種電気通信事業者は、法律上は地域・長距離・国内・国際の別なくサービス提供が可能となる状態となった。
 その後、96年2月以降は第二次情報通信改革として規制緩和、NTT再編問題、相互接続の推進が一体的に政策課題として議論されるようになった。96年12月にNTTの再編問題及びKDDのあり方について一定の結論が出され、NTT長距離会社は国際通信市場へ、KDDは国内通信市場へ進出することを可能とする方向が打ち出された。この動きに合わせ、他の国内第一種事業者も国際通信への進出に前向きに検討を始めた。最初に国際進出を表明したJTは国外のキャリアとの提携、日本の国際3社との相互接続等による進出を検討し、DDIも国内外事業者との連係等様々な可能性を視野に入れて国際進出に向け前向きな姿勢を見せた。

(3)JTのかかえていた課題
 国内長距離系NCCは、長距離通信市場の伸び悩みという共通した課題を持っていた。長距離通信市場はNCC参入後競争進展により著しく料金低廉化が進んだ分野であるが、値下げに伴う市場拡大は結果的に大きく期待できず、さらに今後、国内公専公接続やインターネット電話等による格安な長距離通話サービスによる価格低下が見込まれ、収益の大幅な増加は困難な情勢にある。NCCはシームレスなサービス展開による顧客の囲込みや他分野への進出により、収益の確保・拡大を図る必要があった。
 DDIの場合には傘下にセルラー系の移動体通信事業者を持ち、急速な携帯電話の普及を背景に収益確保と市内足回り回線の確保を期待することができた。
 一方、有力な携帯電話事業者を持たぬJTの場合には市内回線の確保をCATV事業者との提携に求め、さらに国際通信も含めたワンストップ・ショッピングを強化させることを重視した。「重要なのは国内長距離企業としても、国際サービスを持っていなければ今後の競争についていけなくなるということだ。これからは国際通信を扱っていないと相手にされなくなる。」(97年2月25日坂田社長記者会見・産経新聞97年3月1日)との発言は、JTがシームレスなサービス展開を重視していることを示す。

(4)ITJのかかえていた課題
 国際系NCCであるITJ、IDCは参入直後は順調にシェアを拡大したものの、両社のシェアを合わせても94年度で31.3%、95年度で32.1%と伸び悩み、両社とも累損を抱えている。(96年3月期でITJは49億円、IDCは109億円の累損)しかも、コールバック、国際公専公接続(97年末迄に解禁が予定されている)、インターネット電話による格安国際通話の相次ぐ登場、さらには97年度中に予定されている外資系規制の撤廃による外資の参入により、今後もより厳しい競争にさらされることが予想されている。
 97年3月期における経常利益は、両社の売上はほぼ同額であるにもかかわらず、IDCの60億円に対しITJは3億円と見込まれており、ITJは厳しい財務状況にある。ITJの累損一掃も98年度解消の当初予定を2000年迄先送りせざるを得ない状況にあり、ITJは抜本的な対策を講ずる必要性が高い状態にあった。

(5)JTとITJの組合せが結実した背景
 以上のような、グローバルメガコンペティションの進行、NTT再編等により一層進行する国内の規制緩和、ワンストップショッピングを指向し、成長の行詰まりを打開しようとする各キャリアの意向を背景に、長距離通信事業者と国際通信事業者の提携・合併の可能性は、いつ、どの事業者が現実のものとしても不思議ではない状況にあった。
 その中でも特に、国際化に強い意欲を示したJTと、厳しい財務状況にあったITJは、株主構成が似ている点(両社には住友商事、三菱商事が出資している。また、強力なリーダーシップを特長とするDDI、累損を抱えるテレウェイ、外資の比重が比較的高いIDCは、今回合併した両社にとって、相対的に魅力的には見えなかったという見方もある)から相互に最善のパートナーと映ったものと考えられる。

2.合併の意義と影響

(1)売上4000億円規模の国内・国際通信事業者の誕生
 合併後の存続会社は日本テレコムで、合併比率はITJの株式12株に対しJT株式1株を割り当てる予定にある。96年3月期の両社売上単純合計は3800億円であるが、合併後には4000億円と予想されており、売上規模ではDDI(96年3月期の売上は4700億円)に次ぐ。合併により、JTは国際通信のインフラとノウハウを獲得でき、ITJも国内に基盤を確立できる。国内・国際通信を1社で行う事業者としては初めてとなる(他に、KDD法改正後のKDD、再編後のNTTがある)。

(2)加速する再編
 両社合併の背景を考えれば、両社以外の組合せも十分可能性があったと言える。実際、JTはKDDとの提携を、ITJはDDIとの提携を検討した経緯もあったとも伝えられている。両社以外でも、DDIとテレウェイの合併、IDCとNTTの提携が検討されたと伝えられている。また、JTはITJとの合併後も海外のキャリアとの提携、将来のKDDやTTNetとの合併についても意欲を示している。
 各事業者のサービスの品揃えの豊富化と生き残りをかけた再編に向けての胎動は、今回の合併劇を契機として一挙に加速することが予想される。

(3)今後注目される動き
  1. 国内通信への進出を図るKDD
    国内への進出を図る手段として、日本列島の周囲に大容量光ファイバーケーブルを敷設(JIH構想)し、TTNetなどの地域系NCCと接続し、99年から運用開始する計画にある。KDDと地域系NCCの提携が進行する可能性がある。
     また、JIH構想にはDDIがその回線容量の20%を購入する他、JT、テレウェイも参画する予定となっている。長距離系NCCにとって、JIHは国際回線との接続、国内回線のバックアップとして魅力があり、KDDと地域系NCC側からも長距離回線を持つ長距離系NCCは魅力がある。KDD+地域系NCCと、各長距離系NCCとの関係強化が進む可能性がある。

  2. 外資も視野に入れるDDI
     DDIは、ITJの合併後、DDIの提携について「日本の通信業界で残っているプレーヤーは多くはない。(中略)あらゆる相手を視野にいれながら早急に検討を進めていく」としながらも「外資が有力候補であるのは確かだ。」(奥山社長・日本経済新聞97年3月13日)とし、外資も含め提携の検討をしている。一部ではテレウェイ、IDCとの提携の可能性を予測する向きもある。

(通信事業研究部 桜井 康雄)
e-mail:sakurai@icr.co.jp
(入稿:1997.5)
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