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アジアにおけるインターネット |
(1997.12) |
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1.爆発的な普及 アジア各国ではインターネットの利用が急速に伸びている。96〜97年のアジア地域のインターネットに接続されているホスト台数の増加は世界平均を大きく上回っており(図表1)、欧米に勝るとも劣らないスピードで成長している。特に、マレーシア(375%)、韓国(176%)、中国(127%)における成長はめざましい。また、ベトナムでは許認可制によるインターネット事業が解禁されたり、本年9月には、インドで商用ISPのゲートウェイ設置へむけた自由化案が発表されるなど、政府による規制の厳しい後発の途上国においても、通常の電気通信政策とは別枠で規制緩和を進める動きも見られる。カンボジアにも初のISPが誕生している。インターネット電話は、本年8月の日本での解禁に続き、韓国においても98年1月から自由化される予定である。また、悪評の高かったシンガポールのインターネット規制も、情報流入規制の中から政治関連が削除されるなど緩和の動きがある。米国で誕生したインターネットは、着実にアジア域内に広がっている。
このような爆発的な普及を支えているのは、情報化による産業振興の可能性をさぐるアジアの指導者たちの期待と、情報化競争の波に乗り遅れないようにする先進的なインターネット・コミュニティの人々の取組みがあげられる。 また、高成長の裏には、比較的高いアジア間の国際通信料金の回避策として、インターネットを利用した社内ネットワークを構築するアジア企業が出てきていることもあげられる。セキュリティの脆弱性を考慮しつつ、アジア域内ネットワークをインターネットで構築しようとする日系企業も出てきた(日経コミュニケーション97.7.7号参照)。米ヤンキー・グループでは、アジア企業の利用する国際データ通信トラヒックの約26%が今後2年以内にインターネットに回避する、と予測している。 |
2.米国集中型ネットワークからの脱却 しかし、アジアにおけるインターネット・インフラは、その爆発的な増加に追いついていない状態である。国内・国際間のバックボーン容量は、高速かつ大容量のアクセスに耐えうるものではなく、トラヒックの混雑による遅延をひんぱんに引き起こしている。同様に、ローカルアクセスは依然として遅く不安定で、ワイヤレス接続など分離したネットワークを検討するISPも出てきている。また、インターネットは米国で誕生し、ホスト・コンピュータの多くは米国に設置されていることから、米国集中型のネットワークになっている。そのため、アジア地域で発着信される情報も、米国を経由せざるを得ない場合もあり、データ転送に時間がかかると同時に、米国向け回線に負担をかけるなどの弊害も生まれてきた。こうした米国集中モデルからの脱却がアジアにおけるインターネット・インフラの大きな課題となっている。 こうした中で、日本のA-BoneとシンガポールのSTIXがアジア地域におけるバックボーン構築の担い手として、同地域のインターネットの交通整理と道路整備をおこなっている。 |
3.域内インフラ構築の旗手 アジア・インターネット・ホールディング(AIH)が提供する「A-Bone」は、96年から、アジア太平洋の主要地域を大容量・高速回線で結ぶネットワークを運用している。これまでに、香港(3Mbps)、シンガポール(6Mbps)、韓国(1.5Mbps)、台湾(1.5Mbps)、インドネシア(2Mbps)、マレーシア(2Mbps)、タイ(2Mbps)、米国(245Mbps IIJ経由)を結んでいる。また、A-Boneに接続しているISPを対象にしたインターネット・ローミングも提供しており、97年11月現在のサービス提供地域は、日本、 香港の他欧州にも広がっている。また本年8月にはNTTが資本参加し、AIHの現在の資本構成は図表2の通りである。 一方、STIXは、東南アジア域内の相互接続点(IX)として設立され、シンガポール・テレコムが運営にあたり、次々とそのバックボーンを拡大している。現在アジア地域を中心に15カ国と接続している(オーストラリア、香港、日本、マレーシア、台湾、ネパール、ニュー・カレドニア、フィリピン、カンボジア、ブルネイ、インドネシア、パキスタン、タイ、スリランカ、モナコ、中国、インド、韓国、バングラディッシュ、米国)。
その他、KDDや日本の大手ISP16社による共同出資会社、日本インターネット・エクスチェンジ(JPIX)が、来年1月から韓国の大手ISP、DACOMに相互接続サービスの提供を開始する。さらに今後アジア域内のISPとの接続を拡大していく予定であり、日本の情報ハブ化をめざしている。 ◇◆◇ |
4.課題と展望 これまで「アジア」 とひとまとめにして述べてきたが、経済発展と同様、インターネットの進展においても地域格差が非常に激しい。日本や韓国、香港、シンガポールなどの先頭集団。それらを猛攻撃するマレーシア、パソコン普及率の増加など急激な情報化成長をみせる中国やインド。さらに、バングラディッシュやパキスタンなど一般電気通信網ですら貧弱な国もある。インターネット・インフラの整備と域内インターネットの普及に向けて、A-BoneやSTIXへの期待は非常に大きい。また、人材不足と技術の普及という域内共通の課題について、日本の企業や政府の果たす役割は重要であると思われる。 さらに、インターネット・インフラの整備にはアジア独自のコンテンツの作成も欠かせない。慶応大学藤沢キャンパスに在籍する中国人留学生が中心となってい進めていたインターネット関連のベンチャー企業AIPは、中国、韓国、タイのISP7社と業務提携し、アジア地域を対象としたニュース配信や市場調査などのインターネット・ビジネスを本格的に開始する。業務提携をしているISPは、中国郵電部、北京ネット、香港のHKNet、韓国通信、Inet(韓国)、DACOM(韓国)、iNET(タイ)の7社である。 アジアの知恵を結集する推進力となる国こそ、通信ハブの第一候補といえるだろう。 |
(グローバルシステム研究部 原 美穂子) e-mail:hara@icr.co.jp (入稿:1997.12) |
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