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ISP(インターネットサービスプロバイダー)のサービス展開
個人向け接続サービスの今後

(1998.6)


  1. プロバイダーサービスの状況
  2. 以前のサービス
  3. 現在のサービス
  4. 今後の展望

1.プロバイダーサービスの状況

 長引く不況のせいか、「実はパソコンは誰にでも使いこなせるような代物ではなかった」ことがわかってしまったせいか、パソコンそのものがあまり売れなくなっているという話を聞くようになった。しかし、インターネットへのニーズは高まる一方のようである。一般消費者向けの商品_お菓子や飲料、化粧品などでも_の広告にすら、“http://www.…”とURLアドレスが登場することも珍しくなくなった。また、一般向けの新サービスを開始することにもっとも積極的ではない業種の一つといえる銀行ですら、いわゆるインターネットバンキングといった、インターネットを利用したサービスを打ち出し始めている。このような状況を見るにつけ、インターネットが一般にも浸透しつつあるということを実感する。
 インターネットへの接続サービスを提供する電気通信事業者を、インターネットサービスプロバイダー(以下ISP)と呼ぶ。このISPだが、郵政省の資料によれば、1998年3月では2,661社がサービスを行っている。94年2月では10社に過ぎなかったことを考えると、その拡大ぶりにはすごいものがある。

 ちなみに、インターネットの専門雑誌『Internet User』(ソフトバンク)1995年4月号の特集は、「ダイヤルアップIP接続の快楽 パーソナル・インターネット時代の幕開け」と題して、安価になりつつあるプロバイダーサービスを利用して個人でもインターネットを利用することを勧めている。上記のグラフを見ると、ほぼ同時期の95年5月では、ISPは53社である。当時は53社からプロバイダーを選べば良かったが、現状では2,661社から選択する時代になっているのである。
 本来ならば、各プロバイダーの経営状況やユーザー数、ネットワーク状況などから今後を展望するところであるが、ここでは、少し視点を変えて、一般の個人ユーザーに対するサービスから、今後のサービス展開を概観してみようと思う*1

[*1]ISPのサービスには、企業向けのインターネット接続および、それに伴う社内LANの構築といった業務がある。特に技術力のある大手プロバイダーにとっては、このようなサービスこそがドル箱になっていると思われるが、ここではあくまでもパーソナルユースの視点から話を進める。


2.以前のサービス

 ISPの提供するサービスは、言うまでもなく、インターネットへのアクセスを提供することである。仮にこのサービスを「本業」とする。数年前、ISPを選択する基準は、接続料金やホームページエリアが持てるかどうかなど、わずかしかなかった。極論してしまえば、
  • 従量制で料金は高いが、アクセスポイントが豊富で話中が少ない
  • 固定制で料金は安いが、アクセスポイントが少なく、しかも23:00以降は話中でなかなかつながらない
のどちらかを選んでいたとも言える。ユーザーにとっては、特に接続料金の問題が大きかったが、そのような中で、ダイヤルQ2を利用するプロバイダー*2や、ブラウザー画面と独立した画面に広告を表示させることにより、接続料金を無料にするプロバイダー*3が登場し、大きな注目を集めたことも記憶に新しい。
[*2]「interQ」が著名。
[*3]「アスキー・インターネット・フリーウェイ(AIF)」。既にサービスを停止している。


3.現在のサービス

 さて、上述のようにISPの数自体も少なく、提供するサービスにもそれほど違いのない場合は、プロバイダー選びも非常にシンプルであった。しかし、ISPの数も増え競争が激しくなっている現在では、インターネットへのアクセスに止まらず、数多のISPが多種多様なサービスを展開している。当然、プロバイダーの選択も、単に料金が高い・安いでは決められなくなってきている。
 ちなみに、筆者も一昨年に個人でプロバイダーに加入した。その時、選択にあたっては以下のようなことを考えた。

●安価なこと
会社では専用線接続の環境があるため、使う時間は夜や週末などに限定される。だから、できる限り安い方がいい。
●アクセスポイントが多いこと
仕事がら地方への出張が比較的多いため、アクセスポイントが全国展開していることが望ましい。できれば海外にもあるとなお良い。
●大手であること
自分の使っているプロバイダーがつぶれてしまっては悲しいので、経営的にも安定していそうな大手プロバイダーの方がなんとなく安心。
 このように、利用者の選択基準が多様化することは望ましい状況であるが、サービスを提供する側にとっては他社との差別化を常に考えなくてはならず、非常に厳しい状況になっているともいえる。

3-1 アクセスサービス(本業)
 まず、ISPの本業であるインターネット接続の提供サービスである。利用者にとっては、「単にインターネットにつなげるだけ」のサービスであり、しかも、「より速く・より安く」を要求されることから、なかなか独自色を打ち出しにくい部分でもあるが、次のような部分に特色が見られる。

(1)アクセス全般
 地域限定のプロバイダーを除くと、各社ともアクセスポイントの拡大には力を入れているようだ。利用者にとっては電話料金も大きな問題であり、同一市内料金にアクセスポイントがあるのとないのでは大違いである。あわせて、長距離系NCCが提供するサービスを利用して、全国共通アクセスポイントを設置する例もある*4。また、昨今のモバイルコンピューティング熱の高まりから、海外からでも同一アドレスでアクセスできる海外ローミングや、PHSによる高速アクセス(PIAFS)のポイントを増強するISPも少なくない。
 インターネットにアクセスするためには一般的にはパソコンを使うが、IPアドレスの設定や、メール・Webブラウザーなど各ソフトウエアの設定は必ずしも容易なものではない。そのため、各種の設定に困っているユーザーを助けるための、ユーザーサポートも重要なサービスになっている。特に、パソコン操作に自信のないユーザーにとっては、プロバイダー選択にあたって非常に大きな意味を持つかもしれないサービスである。中には、「年中無休・夜は22:00まで受け付け」という一昔前のコンビニエンスストア並みの対応をしてくれるものもある。

[*4]「DREAM★NET(メディアバンク)」は、DDIマルチメディアアクセスラインを利用することにより、全国どこでも日中60秒で10円となる。

(2)料金体系
 以前の接続料金は、「月額***円固定制」や、「*分**円従量制」といったものが一般的であったが、最近ではいくつかの料金プランを設定し、ユーザーが自分にあったものを選ぶケースが多いようだ。また、期間限定のサービスとして、「入会金無料」「*か月利用料無料」などを打ち出すISPも少なくない*5。変わったものとしては、「So-net」がアカデミックコースとして、学生の接続料金を安価に設定している。教育におけるインターネット利用が叫ばれている現状、非常に意義のあるサービスだと思う。

[*5]実は筆者が今のプロバイダーに決めた理由は、最終的にはこれだったりする。

3-2 付加価値サービス(副業)
 上記のようなアクセスサービスだけではなく、付加価値サービスを導入し、ユーザーを引き付けようとする試みもなされている。ここではそのようなサービスを「副業」とする。

(1)コンテンツサービス
 オンラインサービスの王道ともいえるサービスである。Web技術によってカラー画像や動画なども提供できるようになり、提供する情報の幅も広がっている。このサービスでは、Webベースで各種のニュースやエンターテイメント情報を提供するものが基本形であり、「会員だけが閲覧可能」「会員であれば一般よりも安価に閲覧可能」といった形態で差別化が図られている。さらに、インターネットで動画を提供することも始められている。ただし、このような大きなデータをネットワークでやり取りするには、まだ速度的な問題が大きい。これを解決する技術の一つが「IPマルチキャスト」という、情報を効率的に配信する技術である。「IIJ4U」ではマルチキャスト受信機能を提供しており、マルチメディアコンテンツを比較的快適に受信することができるようだ。
 ネットワーク上のコンテンツといえば、パソコン通信事業者の保有する「フォーラム」や「掲示板」など、そこに醸成されるコミュニティや蓄積される情報が最も魅力あるコンテンツかもしれない。「NIFTY SERVE」などの大手パソコン通信事業者もインターネットサービスとの融合を図っており、ISPとしても魅力的な事業者であることは疑う余地がない*6
 直接的なコンテンツではないが、「So-net」が提供するメールクライアント、「PostPet」*7が大人気である。「So-net」ではPostPet関連のサービスとして、「会員制ホームページの会費無料」「PostPet用の専用アドレスが持てる」などの特典を用意している。PostPetを使いたい人にとっては魅力的なサービスとなるのだろう。

[*6]アクセスポイントが豊富な点も魅力である。反面、フォーラムなどの情報は、GUIベースのアプリケーションにはそぐわないという気もする。筆者もNIFTY SERVEのフォーラムは毎日のように閲覧しているが、「NIFTY Manager」のようなGUIベースのソフトウエアでは閲覧する気にならず、相変わらず昔から使っているCUIの通信ソフトとログブラウザーを愛用している。
[*7]「ピンクのクマがメールを運ぶ」メールソフト。楽しいらしい。

(2)その他会員制のサービス
 その他のサービスとして提供されているものとしては、まず、最近流行りの「インターネット電話」「インターネットFax」がある。どちらも既存の電話やファクシミリよりは大幅に安いので、今後の品質向上に伴って有為なサービスに転じるかもしれない。また、ショッピングサービスを提供するものもある。ISPに加入する際にクレジットカードの番号を連絡しているため、インターネットでクレジットカードの番号を流さなくても、カードで買い物できるようなシステム*8が可能である。
 globe、Every Little Thing、TRFなどの超人気アーティストを擁するavexが提供するプロバイダーサービス「avex network」では、アーティストの情報を提供するだけではなく、コンサートチケットの優先販売などの特典がある。各アーティストのファンであれば、加入に心が動かされるサービスであろう*9

[*8]「So-net」は「Smashサービス」というショッピングサービスを導入している。
[*9]筆者もその一人である。


4.今後の展望

 では、今後ISPは個人ユーザーを取り込むため、どのようなサービスを展開していくのだろうか。まず、「本業」であるが、「より速く・より安く」は永遠のテーマとなるのだろう。そのためには、ネットワークそのものの高速化やアクセスポイントの増強など、インフラ面での設備増強が大きな課題となる。その解答の一つが、「ベッコアメ・インターネット」が打ち出した、「インフラ事業の完全アウトソーシング」かもしれない。同社は、インフラ事業のすべてを日本高速通信の「シリウス」を利用してアウトソーシングすることを決定した。インフラ面では、第一種電気通信事業者の技術や設備が優位であることは明白であり、得意な部分にリソースを集中させた同社が打ち出す今後のサービス展開が楽しみである。また、その他の技術的な点では、最近話題になっている「迷惑メール」をサーバー側で防止する仕組みや、「絶対に個人情報をもらさない」というセキュリティ面を強く打ち出すISPがあってもいい。
 「副業」では、すでに優良コンテンツを保有するようなISP以外は魅力的なコンテンツサービスを展開することは難しいだろう。ただ、今後Web上で動画を見る機会は増加すると思われるので、マルチメディアコンテンツを快適に送信する仕組みを確立していくことはアドバンテージになっていくと思う。

(社会システム研究部 三浦 大典)
e-mail:miura@icr.co.jp

(入稿:1998.5)

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