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1997年度決算に見る通信事業の構造変化

(1998.6)


 主要通信事業者の1997年度決算が明らかになった。NTTドコモ等移動体各社が引き続き順調な伸びを示す一方で、固定系通信各社が概ね減収・減益を記録し、伝統的な電話サービス(POTS, Plain Old Telephone Service)が衰退期に入ったことを示すものとなった。本稿では、各社の公表された財務数値を分析し、その意味するところを考察する。
  1. 殆どの事業者が減収・減益
  2. 固定系通信に対する移動体通信の比重の大幅な上昇
  3. 目立つ電話サービスの落ち込み
  4. おわりに

1.殆どの事業者が減収・減益

 事業者別の決算状況は図表1に示す通りである。固定系の事業者はITJと合併したJT、GC接続により市内電話サービスを拡大したTTNet、及び国際系のIDCを除き減収・減益を記録した。TWJは再び経常赤字に転落している。本業である電気通信事業をとっても、ほぼ同様である。ITJと合併したJTにしても経常利益、電気通信事業営業利益とも前年度を下回っており、実質的には減収・減益であったと言ってよい。また、GC接続による市内電話サービスの拡大で売上を大きく伸ばしたTTNetも経常利益、営業利益は大幅減益であり、サービスの拡大が必ずしも利益の拡大につながっていないことを示している。さらに、唯一、増収・増益となったIDCも電気通信事業営業利益は減益となっている。
  一方で、NTTドコモが引き続き大幅な増収・増益を達成していることは対照的である。こうした事実は、料金値下げによっても既存の電気通信事業者の利用は拡大せず、移動体、インターネット等新しいメディアとの市場競争に遅れをとっていることを示すものと推測される。

2.固定系通信に対する移動体通信の比重の大幅な上昇

 筆者の推計によれば、1997年度の主要通信事業者の売上1は、11兆4,350億円と前年度に比べ、9.3%の着実な伸びを示した。しかし、その内訳を見るとこの伸びは移動系の大きな伸びに支えられたものであり、第2節でも触れたように固定系は国内、國際とも前年度に比べて売上を減少させていることが分かる(図表2)
 この結果、通信事業売上高に占める移動系の比重は31%から38%に上昇している(図表3及び図表4)。今後、相互接続ルールの見直しや、ユニバーサル・サービスの検討に当たり、加入電話と携帯電話の代替性についての実証的な検証が求められる。

3.目立つ電話サービスの落ち込み

 サービス別の売上高を見た場合、伝統的な電話サービスの落ち込みが目立つ。NCC各社が会計方針を変更したため2電話のみの比較ができないので、ここではISDNを含めた比較を行った(図表5)。市内電話サービスを拡大したTTNetを除き、各社とも売上を落としていることが分かる。全体でも3.71%の減少となる。NTTの場合、電話が7.19%と大きく減少する一方で、ISDNは81.44%と大きく伸びていることを考えると、電話の減少幅は実質的にはもっと大きいものと推測される。これに対してインターネット需要にも支えられて専用線は大幅な伸びを示していることがわかる。既存の通信サービスの中でも伝統的な電話サービス(POTS)が衰退期に入ったものと言えよう。

 国際はITJが1997年秋にJTと合併したことから前年比較は困難である。ここでは敢えて、ITJの1977年度中間決算値を元に年間分を推計してみた(図表6)。ここから分かるのは、KDDの電気通信事業が対年度1.87%減となっていることであり、特に電話は4.98%と減少幅が大きい。IDCは小幅増となったが、KDDの落ち込みが響いて国際全体としてはほぼ横ばい、電話は2.53%の減少となった。

4.おわりに

 以上見てきたように、1997年度の決算からは電気通信事業は大きな構造変化の時代を迎えている。単に、既存の伝統的な市場の中でのシェア争いを続けていたのでは電気通信業界に未来はない。マルティメディアの時代と騒がれているが、その果実を収穫していくのは、他の業界からの参入者ということにもなりかねない。幸いにも、昨年の相互接続ルールの確立、さらには今年になってからの料金規制の大幅な緩和と事業展開の自由度は抜本的に改善されてきている。それだけに、海外のキャリアを含めて、新規参入による競争は日々激化してきている。既存の電話サービス(POTS)依存から脱皮し、これに変わる収益源をいかに、他に先駆けて開拓していくか、各社の戦略が問われている。

(経営研究部長 福家 秀紀)
e-mail:fuke@icr.co.jp

(入稿:1998.6)

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