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家計における通信費の支出動向

(1998.8)


戦後最悪の不況といわれる中、通信産業は、1997年度には売上高で前年度比9.6%増の13兆3,048億円(郵政省発表による第一種電気通信事業者売上高)と大幅な増収を記録した。家計支出においても、1997年の通信費の支出額は、消費不況といわれる中で前年比9.7%増と同様に高い伸びを見せている。通信産業は、到来するマルチメディア社会に向けて、これからの日本経済のリーディング産業として、その存在感を高めつつある。 本稿では、家計調査(注1)をもとに家計における通信費の支出動向について解説してみる。
  1. 増加傾向を示す通信費の支出
  2. まとめ

1.増加傾向を示す通信費の支出

 家計消費支出の中で1963年以降の支出総額と通信費の動きを見てみよう。

fig1

通信費は基本的には支出総額と同様に増加傾向を示しているが、電話料金の大幅値上げが行われた翌年の1977年と、1995年以降に特徴的な動きが見られる。
 この特徴は、家計支出に占める通信費の割合を見るとさらに鮮明となる。

fig2

 以下、1977年までを第I期、1978年から1987年までを第II期、1988年から1994年までを第III期、1995年以降を第IV期と区分して、家計支出に占める通信費の割合の特徴を追ってみよう。

急速な電話の普及により急増した第I期
 1964年から1977年までの期間、家計支出に占める通信費の割合は年平均0.10ポイント増と高い伸びを示している。加入電話のいわゆる積滞解消が達成された1977年までは、電話が急速に普及した時期である。この間の住宅用電話の世帯普及率は年平均4.1ポイント増と、1978年以降の年平均1.6ポイント増と比べると約2.5倍の高い伸びを示している。
 従って第I期は、急速な電話の普及を背景に、通信費支出の急激な増加が起こり、それに伴って家計支出に占める通信費の割合も伸びた時期と考えられる。
 1973年〜1977年の特異な動きは、石油危機に伴う物価上昇、および電話料金の値上げの影響が主因と考えられる。そこで消費者物価指数
(注2)の動きを見てみよう。

fig3

 住宅用電話加入数の年平均10%を超える急速な拡張期は1975年まで続いており、その間、通信費の支出自体も高い伸びを示している。そうした中、1973年10月に第一次石油危機が発生し、物価水準が1973年から1976年にかけて年平均13.9%上昇と急騰した。この影響で家計の支出総額も急上昇した。ところが、通信費の物価水準はこの間、年平均3.8%上昇と相対的に安定していたため、家計支出に占める通信費の割合は結果的に横ばいとなった。
 その後、1977年には大幅値上げによる通信費の急騰が起こったため通信費の支出が急増し、家計支出に占める通信費の割合も急激に上昇した。

料金値下げの影響で停滞した第II期
 1978年から1987年までの10年間は、電話普及率が年々上昇しているにもかかわらず、家計支出に占める通信費の割合は、ほぼ横ばいで推移している。
 一方で、通信費の物価水準は料金値下げにより1979年をピークに、その後ほぼ一貫して下落している。当時の通信サービスは価格弾力性が低く、料金値下げを行っても需要増へ結び付かず、売上減すなわち家計支出の減少となった。第II期は、電話普及率の上昇というプラス要因と、通信費の値下げというマイナス要因がバランスした時期と考えられる。
 当時の電話市場は、規制により、国内通信キャリアは電電公社、国際通信キャリアはKDDの2社による独占体制であった。また、この時期は電話事業が成熟期に達し、電気通信の成長率が全産業の平均レベルとなった時期であり、電気通信事業がさらに発展するためには新たな成長サービスの必要性が見えてきた時期でもあった。

値下げ競争の激化により減少した第III期
 1988年から1994年にかけての6年間は、家計支出に占める通信費の割合が、年平均0.03ポイント減と、4期の中で唯一減少した時期である。この時期は規制緩和により、1985年にNTTが民営化され、1987年には長距離系NCC3社が、1988年以降には移動体各社が、さらに1989年には国際系NCC2社が電話事業に参入し、競争が激化してきた時期である。1990年から1994年にかけては、通信費の支出額自体が横ばいとなっている(上・グラフ1参照)。
 従って、第III期は、新規参入によって電気通信の料金が低下したものの、需要がそれほど伸びなかったため、電話普及率が引き続き上昇しているにもかかわらず、家計支出に占める通信費の割合が減少した時期と考えられる。通信サービスの価格弾力性の低さはここでも窺える。 一方で、第III期は、競争の激化により消費者の利便性が向上し、その後の携帯電話市場などが急拡大する下地が着々とつくられていた時期でもあった。

移動体通信とインターネットの普及により急上昇した第IV期
 1995年以降の家計支出に占める通信費の割合は年平均0.17ポイント増と再び急激な伸びを示している。急増の要因として2点があげられる。
 一つは、移動体通信市場の爆発的な拡大である。1995年以降は、1994年4月の携帯電話の売り切り制解禁、1995年7月のPHSのサービス開始を契機に移動体通信市場の爆発的な拡大が始まった時期である。携帯電話とPHSの合計契約数は、1995年、1996年には連続して約2.5倍の伸びを示し、1998年6月には固定電話の加入数の約3分の2となる4,000万を超えた。
 もう一つは、インターネット市場の拡大である。1995年はインターネットブームに火がついた年である。インターネットの普及率は1995年末時点ではまだ2.1%(情総研推計値)であったが、その後、1996年末には5.8%(同)、1997年末には9.3%(同)と急激に増加している。
 このほか1995年には、特殊要因として阪神淡路大震災による通話量の増加が考えられる。大震災が発生したのは1月で、発生直後はネットワークにふくそうが発生するほど通話量が増加した。その後も数カ月にわたって影響が残ったと考えられる。
 こうしてみると1995年以降は、移動体通信市場、インターネット市場の拡大を原動力としたマルチメディア社会到来へ向けた新たな局面と考えられる。

2.まとめ

 ここまでを概略すると、家計支出に占める通信費の割合は、電話の急速な普及に伴って1977年まで急激に伸びた。その後、料金値下げの影響などにより1994年まで横ばいが続き、規制緩和の効果が表面化してきた1995年以降、主に移動体通信とインターネットの急速な普及を原動力に再び上昇に転じて現在に至っている。
 1997年の一世帯当たりの通信費は月額8,213円と家計支出全体の約2.5%を占めている。また、通信費の大半を占める電話通信料は、ほぼ一貫して増加しており、1997年には月額6,847円と、1987年から1997年までの10年間で約1.5倍に増加している。
現在、加入電話の世帯普及率はほぼ飽和水準に達した(1997年93.3%)と思われるが、携帯電話やインターネットの普及は当面高い伸びが期待できることから、家計支出に占める通信費の割合の上昇局面、ここで言う第IV期はもうしばらく続くであろう。
 日本において従来の通信サービス(主に固定電話)は、これまで価格弾力性が低い、つまり生活必需品的な色合いが濃いサービスであった。しかし、最近の報告によると、多くの若者は娯楽費を削って携帯電話やインターネットへの支出に充てている、ということから携帯電話やインターネットといった新しい通信サービスは娯楽の一部となりつつあるのかもしれない。
 規模的には成熟した日本経済において、従来のように家計収入の高い伸びを期待することは難しい。このような状況下では、通信事業者は、最終財としての通信と合わせて中間財としての通信需要の掘り起こしに力を入れることも重要となるであろう。

(注1)家計調査
家計調査とは、総務庁が全国の全世帯を対象に毎月行う家計収支の標本調査である。家計調査は、日本のGDPの約6割を占める個人消費の動きを捉える各種統計の中で、最も一般的でカバー率が高い統計として評価されている。 家計調査で定義されている通信費とは、現在、郵便料、電話通信料、運送料、通信機器の4項目である。ただし、その8〜9割は電話通信料が占めるため通信費と電話通信料の支出傾向は概ね一致すると見て差し支えないだろう。ちなみに通信費に占める電話通信料の割合は、直近の1997年では83.4%、20年前の1977年では90.4%となっている。

(注2)消費者物価指数
消費者物価指数における通信費の内訳は、1977年時点では郵便料、電報料、通話料の3項目、現在は、郵便料、通話料、運送料、電話機の4項目とされており基本的には家計調査の定義と同じである。1977年を品目別にみると、1976年12月の料金改訂の影響により、電報料(前年比84.7%増)および通話料(同59.4%増)が大きく上昇した。

参考(表)

(調査部 今別府 忍)
e-mail:imabepp@icr.co.jp

(入稿:1998.7)

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