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渋谷電子マネー実験の感想

(1998.8)


 情報化社会の一環として、電子マネーが実用化されてきた。7月16日より、渋谷では電子マネーカードVISA Cashの大規模な利用実験がスタートした。電子マネーを普及させるためには、実際に利用した多くの人々の意見が重要であると考えられる。このことから、以下にこの電子マネーカード(主に使いきり型)を実際に使ってみての感想および提案をレポートする。


●特徴

 7月16日の実験開始時から、下記のカード会社6社がリロード型、使いきり型の電子マネーを出している。9月7日には、銀行・信金(東京三菱、第一勧銀、富士、住友、東海、あさひ、さくら、大和、横浜、平成信金)も出してきた。
なお、下記の6社の連絡先一覧はVISAのモニター募集のページ(http://www.visa.co.jp/digital/monitor.htm)にある。

会社販売窓口使い切り型〔円)リロード型備考
5001,0003,0005,00010,000クレジット付クレジット無
住友クレジットサービスなし×××××クレジット付きは特典がある(注1)
クレディセゾン渋谷・池袋・有楽町のパルコや西武百貨店内のセゾンカウンター>(10:00〜20:30、土日祝も営業)××××××使いきり型を休日や夜遅くまで販売しているので便利
ディーシーカード DCカード渋谷サービスセンター
(9:00〜、土日祝休)
××使いきり型のデザイン(道玄坂、ハチ公、モアイ像)が良い。
日本信販日本信販渋谷支店(9:30〜17:30、土日祝休<)×
注2
使いきり型で高額(10,000円)カードがあるので使い勝手がよい。
ミリオンカードなし×××××クレジット付きは多くの特典がある(注3)/font>
ユーシーカードUCカード本社(お台場)
(9:00〜17:30、土日祝休)
××
注4
使いきり型を通販で入手可能なので便利。(電話注文、送料400円)

残高表示器はクレジット付きのカードを申し込むともらえる。単独での販売はしていない。

△ :
クレジットつきのカードの申し込み時またはアンケート回答時のプレゼントとして。非売品。
注1:
2万円以上利用で抽選でシティーホテル宿泊+ディナー券ペア、
または使い切り型VISAキャッシュ2,000円分
注2:
クレジット付きの電子マネーカードの「家族カード」として。単独では発行しない。
注3:
3ヶ月以内に15,000以上利用でもれなく1,500円のギフトカード
入会者の中から毎月抽選で330名にプレゼント(2万円または50度数テレカ)
利用者の中から抽選ですてきなプレゼント
注4:
3別のVISAクレジットカードで決済。


●感想:実際に使ってみて感じた点を以下に述べる。
使いきり型の電子マネーカードを買いづらい
使いきり型の電子マネーカードを購入できる場所は各カード会社の窓口等で、たいていは午前9:00から午後5:00まで、しかも土日祝日は休みである。
この実験は「若者の街、渋谷で」というふれこみだったが、このような時間帯では若者は購入しづらいのではないか。特に休日に購入できないという体制のままでは、多くの人に使ってもらうのにはかなり無理があるのではないか。

電子マネーカードの入手方法について宣伝不足
電子マネーカードを使うところは色々とマスコミ等で宣伝されたが、入手方法についての宣伝が不足している。使いきり型のカードについて言えば、カード会社の窓口で買えるという宣伝が充分でなく、またカード会社の所在も一般には知られていない。ニュースを見て自分も使ってみようとしても、入手方法がすぐにはわからない。これでは多くの人に参加してもらって実験するのは難しいだろう。
実際、お店の人に聞いたり、ホームページで検索したりしていろいろなカード会社の問い合わせ先を調べ、電話で問い合わせたことによって購入することができたが、ユーザーにかなりの負担を強いたことは確かである。  

消費者メリットがない
この電子マネーカードでは、「使う側にメリットがない」というのが最大の問題点だと思われる。VISAキャッシュのことが書かれているページでは、メリットとして「小銭を持ち歩かなくても良い」と説明している。全く持ち歩かなくてすむなら確かにメリットになるが、現実的にはその電子マネーカードだけで事足りるわけではないので、小銭入れは持ち歩くことになる。ということは、電子マネーカードの方が余計な荷物ということになる。
もう一つ述べられているメリットとして「支払の際にスピーディかつ簡単」といっているが、実は、使いきり型の電子マネーカードの「購入」の際には申し込み書を書かなければならず、しかもその後待たされる(10分程度)。そもそもわざわざ窓口まで買いに行かなければならない。(UCカードは通販もできるが、送料400円もかかる。)
リロード型でも、リロード機のところまで行ってリロードしなければならない。そもそもクレジットカード付きのは銀行口座の印鑑まで押して申込書を送らなければならない(しかも現状では発行まで約1ヶ月待ち)。
つまり、購入から支払までトータルに見ると、メリットとはならない。しかもその後の廃棄まで考えると、使いきり型は環境犯罪的とも考えられる。
また、割引やおまけ、もしくはマイレージのような特典がない。ICチップがあるなら、このカードを1ヶ月以内にいくら以上使ったらいくらかのバック(残金に+α)をするというのは可能だと思われるので、そのような消費者メリットが望まれる。  

使う必然性がない
電子マネーは小銭がない時でも使えるのがメリットだが、そのような場がない。今のところレジで使えるだけなので、結局電子マネーよりも現金の方が手間いらずである。レジ以外のところ、例えば自動販売機とかタクシーなどでも使えるようになれば、必然性は出てくるだろう。
また、レジで使うにしても、クレジットカードよりは待たされたりサインしたりの手間がないので、有利かもしれないが、デビットカードが出てきた場合、対抗できるのか、疑問である。  

余計な手間がかかるのに効果は同じ
既存の現金やクレジットカードよりも手間がかかり、プリペイドカードよりも購入しづらいのに、その効果が同じである。
使いきり型は「いろいろなお店で使えるプリペイドカード」の域を出ていないのではないか。それならそれで、プリペイドカードのように人のいない自販機(公衆電話やパチンコ台、駅の改札も含む)で使えるというメリットをもっと活かすべきではないだろうか。その点を中心にアピールするべきではないだろうか。(ちなみに、自販機はコカコーラだけで、9月以降順次設置とのこと。当初は合計わずか15台とのことだったが、9月の報道発表では約50台となった。)
リロード型は、リロードできるというメリットがあるとはいっても、それが使う側にとってはどのような意味を持つのか。結局クレジットカードと変わらない。それどころか、わざわざリロードの手間が余分にかかってしまう。  

詳細な購買履歴がわからない
ユーザーは、カードの残高表示機を使ってもその時の残高および一度に使った時の合計しかわからない。どのような商品を買ったかという詳細な購買履歴(これらをICカードに記録する方式にしてあれば、だが)がわからない。詳細な購買履歴が記録され、ユーザーが見ることができれば、家計簿代わりに使えるだろう。また、企業においても社員に電子マネーカードを渡し、その使用分のうち交通費や昼食代とかだけに対して補助をする、といったことが可能になるだろう。
また、今回の実験では、電子マネーカードで購入すると、レシートをもらえないということになっている(合計金額のみ記されたお客様控えだけはもらえる)。つまり、レジでの打ち間違い等があっても客は全くわからないし、チェックできないわけである。このような運営方法についても改善が望まれる。  

現金との併用はお店によってはできない
レジの機能の関係で、電子マネーだけでは足りない分を現金で払うことができないところもある。これは実験だから仕方ないと考えられるが、本番の時はこのような混乱の元は無いことが望まれる。


●提案:実際に使ってみて考えついたものを以下に示す。
提案1:消費者メリット(金銭的利益)
とりあえず、割引やおまけをつける必要があると思う。消費者が「わざわざ」使ったことに対して少しでもメリットがあるようにする。
また、使いきったカードを何円分か持っていくと、500円とかの販促用カードでもいいから交換してもらえる、というようにすると良いと思う。  

提案2:消費者メリット(利便性向上)
リロード型の電子マネーカードを使っている時は、レジで残金不足がわかったら、その場でリロードできるようにすると便利だろう(残金をクレジット決済するのではなく)。
こうすれば手間をかけずに何度も使えるので、一般のプリペイドカードよりも便利である。
また、この時何万円分か一度に補充されてそれ以降は小出しに使えるので、クレジットカードのように使うたびに待たされてサインしなくてもすむ。
このようにできれば、実質的に「小口の買い物でもまとめてクレジット払い」ということになるので、クレジット会社にとってもメリットは大きいと思われる。  

提案3:消費者メリット(負荷軽減)
ユーザーが自分のパソコンのフロッピードライブ等を使って電子マネーカードの購買履歴情報を見ることができると良いだろう。そうすれば家計管理の手間を軽減できる。なお、この読み取りソフトは、家計簿ソフトと連動していることが必要である。
また、買ったお店の電話番号や営業時間やホームページアドレスも記録されればもっと良い。この場合も、読み取りソフトはブラウザと連動していることが必要である。  

提案4:入手しやすさ
夜や土休祝日でも使いきりのカードが購入できることが望まれる。一番良いのは、自動販売機で使いきり型の電子マネーカードを販売することである。
また、その電子マネーカード自販機はリロード機が一緒になっていればなお良い。
または、24時間コンビニでも販売・リロード出来ることが望まれる。


●参考

 カード発行会社のホームページのいくつかは、フレーム表示をしているため、リンク先が必ずしも渋谷電子マネー実験のページになってはいない。以下は、それらのサイトにおける渋谷電子マネー実験のページそのもののURLである。ただし、フレーム表示を取り去っているので、表示が崩れている場合がある。また、戻る場合は、ブラウザの「戻る」ボタンで戻るしかない場合もあるので、注意されたい。

(システム応用研究部 藤生 崇則)
e-mail:fujiu@icr.co.jp

(入稿:1998.9)

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