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戦略転換を迫られる通信事業者
―平成10年度中間決算の概要―

(1998.12)


 通信事業各社の中間決算が出揃った。NTTドコモなど移動体事業者が好調を持続した一方で、固定系の事業者の本業である電気通信事業は一部を除き、大幅な減収・減益となった。ここ数年加速化する規制緩和とともに規制に守られてきた通信業界にも本格的な競争の時代が到来し、この中で各社が生き残りをかけた戦略転換を迫られていることが明確になったと言えよう。

1.伸び悩む通信事業の売上

 主要な第一種電気通信事業者の1998年中間期の売上高の推計を図表1に示す。一種事業全体では5兆8,722億円と対前期比2.5%の伸びにとどまった。しかも、このわずかな伸びも14.1%と依然として好調な伸びを続けている移動体に支えられたものである。固定系だけを見ると国内が3.3%、国際が4.6%それぞれ減少し、固定系全体では4.4%と前期の0.9%を大幅に上回る減少を記録した。決算と同時に発表されたアクセス・チャージの見直しに伴うNTTの減収は通期で800億円を上回ると見込まれており、これを考慮すれば実質的な減少幅はさらに拡大することになる。長距離を中心とした料金の値下げをカバーする利用増、新規サービスの成長がなかったことを示すものである。これまで順調な成長を続けてきた通信業も曲がり角にさしかかったと言えよう。

図表1 電気通信事業売上高(中間期)(単位;百万円)
区別199619971998
国内固定系事業者3,361,7683,342,436(▲0.6)3,197,349(▲3.3)
国際事業者227,449224,449(▲5.2)216,911(▲4.6)
固定系事業者計3,601,7573,569,885(▲0.9)3,414,260(▲4.4)
移動系事業者1,8798,742,153,713 (14.6)2,457,965 (14.1)
合計5,469,1115,720,598 (4.4)5,872,225 ( 2.5)

1.()内は対前年比伸び率(%)
2.国内固定系はNTT、DDI、JT(1998年は国内分)、TWJおよびTTNetの5社の合計
3.国際はKDD、IDCおよびITJ(1998年はJTの国際分353億49百万円)3社の合計
4.移動系はNTTドコモグループおよびNTTパーソナルグループの売上高と契約数シェアからの推計

2.固定系から移動体への移行

 一種事業に占める、国内固定系事業者、国際系事業者、および移動体事業者の売上高の比率を図表2に示す。移動体事業者の比率が着実に上昇し、1998年中間期では42%と通信事業全体の5割に迫る勢いである。

図表2 電気通信事業売上高に占める移動体の比率

図表2

3.加入電話からISDN、移動体への移行

 上記2で見た売上高の推移の背景を分析するために加入電話、ISDNおよび携帯・自動車電話の契約者数を比較したのが図表3である。加入電話が対前期比160万2千回線(2.6%)減少したため152万4千回線(79.6%)と大きく伸びたISDNを合わせても固定系の加入者回線は7万8千回線減少したことになる。97年度末と98年9月末の比較では電話、ISDNを合わせるとわずかに増加しているが、先行きは不透明である。
 一方、移動系はPHSが減少を続けているものの、携帯・自動車電話が依然として好調な伸びを示し、移動系の契約者は4千2百万回線を超え、固定系に肩を並べる勢いである。一種事業者の契約数を見る限り、電話系からマルチメディアへというよりは、固定系から移動体へと言った方がいいような傾向を示している。

図表3 加入電話等の契約者数の推移(単位:千回線)
 1)97年
9月末
2)98年
3月末
3)98年
9月末
差(3-1)差(3-2)
加入電話61,24460,38059,642▲1,602(▲2.6)▲738( ▲1.2)
ISDN1,9142,6263,438 1,524 (79.6)812 (30.9)
 固定系計63,15963,00663,080 ▲78(▲0.1)74(0.1)
携帯・自動車電話26,08431,52636,54310,459 (40.1)5,017 (15.9)
PHS7,0676,7276,266▲801(▲11.3)▲461(▲6.9)
 移動系計33,15138,25342,8099,658 (29.1)4,556(11.9)
総合計96,310101,259105,8899,580 (9.9)4,630 (4.5)

1.加入電話、ISDNはNTT発表。ISDNはINSネット64換算。
2.移動系は郵政省発表による全事業者。
3.()内は伸び率:%

4.厳しさを増す固定系通信事業者の経営状況

 主要な一種事業者の経営数値を図表4に示す。大幅な増収・増益で親会社のNTTを営業利益、経常利益とも上回ったNTTドコモとは対照的に固定系各社は国内、国際を問わず営業利益、経常利益とも大幅な減益となった。日本経済新聞社の11月20日時点の集計によると、全上場企業の経常利益の減益率は23.7%であるが、固定系通信事業者の減益率はこれを大きく上回っている。

図表4 主要な一種事業者の経営数値(単位;百万円)
区分売上高営業利益経常利益
金額
(百万円)
対前年
伸び率
(%)
金額
(百万円)
対前年
伸び率(%)
金額
(百万円)
対前年
伸び率(%)
NTT3,029,568▲3.9140,094▲42.1123,142▲40.6
DDI293,6401210,984▲54.710,859▲56.1
JT190,290▲12.23,075▲101.02,077▲87.3
TWJ47,975▲13.1▲5,465▲424.5▲7,568▲96.4
TTNet54,23159.62,345▲54.6▲336▲112.0
KDD144089
▲ (142,075)
▲5.8
(▲7.1)
1003
(▲3,126)
▲80
(▲162.4)
5114
(▲2,999)
▲44.9
(▲67.7)
IDC40,7275.61,875▲42.61,256▲53.1
NTTドコモ1,462,80016.2306,90060233,10042.4

1.JTは前期の実績にITJ分の実績を加算して比較した。
2. KDDの()内は空中線設備、線路設備、海底線設備、建物、構築物の減価償却方法を定率法から定額法に変更した影響並びにノウハウ開示対価収入を営業外収益から営業収益に変更した影響を考慮した場合の数値である。
3. NTTドコモは連結の数値である。

 さらに、各社の本業である電気通信事業のみを比較したのが、図表5である。固定系事業者は各社とも苦戦していることがより明確になる。増収になっているのはGC(市内交換機)接続による「東京電話」が積極的な拡販により9月末現在で151万契約と大幅に計画を上回って電話収入が大きく伸びたTTNetと専用線の伸びの大きかったIDCのみである。そのTTNetもサービス拡大に伴う広告宣伝費や初期投資に伴う減価償却費等の費用負担が大きく営業利益は96.4%の大幅減益となっており、IDCも営業利益は42.6%の減益である。さらに、KDDは電気通信事業営業利益が4億61百万円の赤字に転落している。減価償却方法など会計処理の変更の影響を考慮すると実質的な電気通信事業の赤字は45億45百万円と大きな額になる。合併相手のTWJも営業損失を大きく拡大している。このように見てくると積極的営業展開、合併とも必ずしも利益につながっているとは言い難い状況である。
 マルチメディア時代と言いながら固定系通信事業者はその恩恵に浴しているとは言えず、今後の戦略の再構築を迫られている。新たな企業提携の模索、インターネット需要の取りこみとコンテンツを含めた上流分野への事業転換が迫られている。

図表5 通信事業者の経営推移(単位;百万円)
区分19971998伸び率
通信事業
売上高
通信事業
営業利益
通信事業
売上高
通信事業
営業利益
通信事業
売上高
通信事業
営業利益
NTT2,991,100242,1212,877,131147,447▲3.8▲39.1
DDI140,50715,051119,9051,629▲14.7▲89.2
JT180,38714,331156,808▲178▲13.1▲101.2
TWJ50,060▲1,23143,166▲5,652▲13.8▲359.1
TTNet17,3682,42335,68887105.5▲96.4
KDD151,8794,825140,835
(138,866)
▲461
(▲4.545)
▲7.3
(▲8.6)
▲109.6
(▲194.1)
IDC38,5843,26940,7271,8755.6▲42.6
NTTドコモ997,100195,3001,204,100302,00020.854.6

1.JTの1997年度の売上高にはITJ分を加算してある。
2. KDDの()内は空中線設備、線路設備、海底線設備、建物、構築物の減価償却方法を定率法から定額法に変更した影響並びにノウハウ開示対価収入を営業外収益から営業収益に変更した影響を考慮した場合の数値である。
3. NTTドコモは連結の数値である

(取締役経営研究部長 福家秀紀)
e-mail:fuke@icr.co.jp

(入稿:1998.12)

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